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革命ガ始マリマシタ  作者: XICS
出会いと始まり
3/72

討伐部隊

 勇気と恵良が『ナンバーズ』と戦闘しているとき、三機のSWが東京に向かって飛行していた。左から順に、灰色の機体色に黒いラインがところどころ入っている《剱》に似たような形状の機体、同じく《剱》に似た、淡い緑色の機体、そして《蓮華》に似た、紺色の機体。この三機が並行して飛行している。

 通称『ナンバーズ討伐部隊』と呼ばれている特殊部隊の三機である。

「横須賀の奴ら、ほとんどやられたらしい。ったく、何やってんだか」

真ん中の淡い緑色の機体のパイロット、烏羽うば礼人らいとが毒づく。

『仕方がありませんよ。ナンバーズとまともにやりあったことがあるのは僕らだけなんですし。それに、負け続けている僕たちは横須賀の人たちを責められませんよ』

「るっせぇ。俺たちは本土に一歩も上陸させてねえだろうが」

 紺色の機体のパイロットの黒沢くろさわけんが礼人を窘めるが、彼は聞く耳を持たない様子だ。礼人が不機嫌そうな顔でSWを飛行させていると、三機に母艦から通信が入った。

「へい、こちら烏羽礼人、《キルスウィッチ》順調に飛行中」

「こちら黒沢賢、《ダーケスト》順調に目的地に向かってます」

「こちらほし雪次ゆきじ、《陰陽おんみょう》滞りなく飛行中」

『こちら本部、全員に繋がっているようだな。飛行は順調か。あと、烏羽、口が悪いぞ』

 通信機から、若い女性の凛とした声が聞こえてきた。声の主が礼人を窘めると、彼は、はいはい、と声の主に適当に返事をした。

『……まあいい。一刻も早く現場に向かってくれ。こっちはなにぶん航空艦なもんでな、どうしても遅れる』

「了解、隊長。首都の様子はどうなんで? 最初の情報が来てから十分も経ってる」

 礼人が隊長と呼んだ人に尋ねると、キーボードを叩く音が聞こえた後、少しの間を置いて隊長が答えた。

『……驚いた。あの化け物相手に食らいついている奴が二機いる。そいつらの援護をしてくれ』

 礼人、賢、雪次の三人は驚愕した。すぐさま礼人が大声を上げる。

「はあ? 冗談だろ。俺ら三人が最新鋭の機体を使っても食らいつけるどころか俺らが撤退に追い込まれてる有様だってのに、只の量産型二機で何ができるってんだ」

『まあ、悔しい気持ちもわかるが、早く行って援護してこい。言っておくが、お前たちの機体は既存のSWを改造しただけのものだ。最新鋭のワンオフじゃない』

 隊長と呼ばれた女性は、礼人に向かって冷たく返事をした。

「……ちっ。了解」

「……了解」

「なるほど。了解しました」

 ああ、それと、と、隊長が話を続ける。

『できれば、この二人をこの航空艦に誘導してくれないか。この二人が気になるんでな』

「……了解したよ。連れてくればいいんだろ?」

「了解しました。僕もこの二人、少し気になりますね」

「了解しました」

 礼人の不機嫌さを隠そうともしない返事、賢の何やら興味深そうにしている返事、雪次の冷静な返事が聞こえた後、討伐部隊の隊長らしき人からの通信が切れた。

 礼人は舌打ちをして悔しそうに唸り、賢は感心しているかのように笑みを浮かべ、雪次は無表情のままである。

「……っ! ちっくしょお!」

『まあまあ、そんなに悔しがらずに。早く行って援護してあげましょう』

 心底悔しがっている様子の礼人を、賢が通信で宥める。礼人はそれに応えるように、機体のスピードを上げる。他の二人も彼に追随して、機体の速度を上げた。



 最終防衛ライン上で、銀色の機体と純白の異形の機体、片腕を失っている銀色の機体と血赤色の異形の機体とが、それぞれ壮絶な戦いを繰り広げている。銀色の機体は両方とも異形の機体に押されており、その二機以外の機体は既に四肢を切断されているかメインカメラを潰されるかで戦闘不能になっていた。

 勇気の《燕》は純白の機体――ナンバーズの『2』――の常軌を逸した軌道に振り回され続け、ビームソードで相手のビームソードの一撃一撃を防ぐのに精一杯である。恵良が搭乗している片腕を失った《燕》は相手に一撃を与えたものの、その後は一方的に追い込まれている。相手の爪のような武器による猛攻を凌ぐことしかできていない。二機のエネルギー残量は底を尽きかけており、アラームが鳴り響いている。

 勇気は息を切らしながらレーダーを頼りにして相手の動きを追うのに集中力を使い、恵良は撃墜されないことだけを考えてエネルギー残量に注意しながら動き回っている。それほど二人は切羽詰まっているのである。

「どうすりゃいい、どうすりゃいいんだ!」

 アラームが鳴る中、勇気は憔悴しきっていた。かろうじて絞り出した声も、アラームにかき消されそうな声量である。ビームライフルを撃っても簡単に避けられ、ビームソードは最早敵の攻撃に耐える盾のようにしか使えていない。純白の機体は彼をあざ笑うように翻弄する。

 すると、突然無線から恵良の悲鳴が聞こえてきた。アラームがけたたましく鳴っている中でもはっきりとわかる悲鳴である。視線を恵良の《燕》に向けると、頭部の右半分を抉り取られており、着水しかけていた。勇気は慌ててブースタを吹かし、墜落しかけている機体のもとへ急加速、機体が水没しないようにその右腕部を掴み、Gに負けないようにブースタを目一杯吹かして引っ張り上げた。手に持っていたビームソードは水没してしまったが、機体は寸でのところで引っ張り上げられ、勢い余って宙に放られる。引っ張り上げられたときにかかった強烈なGで意識が無くなりそうになりながらも、恵良は宙に舞いながらなんとか機体の制御をして体勢を立て直すことができた。

「大丈夫ですか?」

 勇気が息を切らして問いかける。無線からは、恵良の荒い息遣いとほっとしたようなため息が聞こえた。

『……ありがとうございます――待ってください、あれを!』

 恵良の《燕》が、『2』を指さした。それは既に飛び立った白金重工業の社長が乗っているヘリコプターにビームライフルの照準を合わせていた。よく見ると、ビームライフルをチャージしている。遠くの標的に当てるので、威力を減衰させないようにしているのであろう。相手はチャージのために硬直している。

『そんなこと……、絶対にさせない!』

 恵良が満身創痍の《燕》を再び駆り出し、武器も持たずにブースタを全力で吹かして『2』に突進する。

 そこに『3』が立ち塞がった。『3』はまばたきするよりも速いスピードで恵良の《燕》の視界に現れると、左手で頭部を鷲掴みにして徐々に力を入れていく。飛び散る火花、走る電流、金属が潰れる不快な音。恵良は自身がじわじわと嬲られていく様を実感していた。身体は硬直し、呼吸はさらに早くなり、身体が段々と水に浸かっていくように恐怖心に沈んでいく――その様子が、機体を通じて勇気にも伝わってきた。

「やめろぉぉぉっ!」

 勇気が悲痛な叫び声をあげながら《燕》を『3』に向かって突進させる。しかし『3』は恵良を嬲る片手間に、ほとんど使い物にならなくなっている右手でアサルトライフルのような射撃武器をグリップ、そのまま彼の機体に向かって乱射した。勇気は機体のブースタを垂直方向に吹かし、ビーム弾の雨を回避、そのまま上昇した。なおもビーム弾は襲い掛かってくるが、彼は機体が壊れんばかりにブースタを吹かし続けそれらを回避し続ける。『3』の右腕部は恵良の《燕》のビームソードによる一撃で可動域が狭まっており、射撃の安定性がかなり落ちている。そのため、弾がかなりばらけているのだ。それを勇気は見抜いていた。

「そこだ」

 勇気の《燕》はブースタを吹かし、『3』の頭上まで降下する。その途中で、雄たけびをあげながらマウントしていたビームライフルを手に持ち二発照射した。一発は『3』が持っていた銃器に当たり、もう一発は見事に左肘関節部に直撃した。彼の機体は降下した途中でビーム弾に何発か当たってボロボロになったが、恵良を救い出すことができた。『3』の動きは止まったまま動かない。

 勇気は機体のブースタを水面すれすれで吹かし、そのまま『2』のところに突進する。後ろからは、メインカメラが使い物にならなくなりサブカメラに切り替えた恵良の《燕》が勇気に追随していた。

「よし、次だ」

 しかし、ここで深刻なことが起こった。

 勇気の《燕》のモニタに、機体出力低下の文字が出た。

 ブースタの出力がどんどん低下し、機体のスピードが落ちる。ビームライフルを構えようとするが、腕の動きも緩慢になり、いざ構えても照準を合わせるのも遅くなっている。勇気の全身からサッと血の気が引く。恵良が彼を抜き、一人で『2』に突進する。

 しかし、驚異的の速さで追いついた『3』によって回り込まれ、恵良は道を塞がれてしまった。『3』は何故か恵良の方に集中し、勇気の機体を無視している。しかし、動かなければいくら恵良が囮のようなものになっているとはいえ意味がない。

――動け、動けっ!

 勇気が必死にもがいているときに、『2』のビームライフルのチャージは終わっていた。ゆっくりと引き金が引かれ始める。

「……くそっ!」



 閃光。


 しかし、それは『2』から放たれたものではなく、逆にそれに向かっていく。謎の白光は、『2』が構えていたビームライフルを粉々に打ち砕いていた。

 二人が呆気にとられてその光景を見ていると、勇気がレーダにあるものを見つけた。三つの白い点が急速に自分たちの方に接近しているのが映っている。

「これは……」

『ひょっとして、討伐部隊じゃ……』

 恵良が無線越しにぽつりと言った。勇気が彼女の方を確認すると、『3』の姿が何故か消えていた。レーダを確認すると、一つの赤い点が二人のもとから尋常ではないスピードで離れているのが見えた。『3』はなぜか撤退したのだ。

『おらぁ、そこの航空艦! 何ボサッとしてんだ。とっととやられた奴ら助けに行け!』

 オープンチャンネルで、男の怒鳴り声が聞こえてきた。その声が聞こえた直後、航空艦が動き出し、輸送用のヘリが放出され、撃墜されたパイロットたちを回収していく。

『おい、てめえら、生きてるか』

 無線から、先ほどオープンチャンネルで怒鳴った口の悪い若そうな男の声が聞こえてきた。

『その様子だと、もうギリギリのようですね。あとは僕たちがやります』

 また無線から声が聞こえてきた。今度はさっきの男とは対照的に物腰が柔らかそうな男の声である。

『よく耐えてくれた。感謝する』

 そして、落ち着いた雰囲気の男の低い声が無線から聞こえてきた。勇気はただただ困惑しながら、『2』に突っ込んでいく三機のSWを見ていた。どの機体も、色から装備まで量産型のSWとは違う。

「あなたたちは……討伐部隊ですか?」

『ああ、そうだ。で、それがどうした』

 勇気の質問に、口の悪い男がつっけんどんな物言いで返す。彼は閉口した。

『とにかく、てめえらはここから離れろ。ここからは俺たちでやる』

「……分かりました」

『我々の母艦は、西側からきます。それに収容してもらってください。ここは一旦、僕たちに任せてください』

 物腰が柔らかそうな声の男が、勇気と恵良に航空艦の位置を知らせる。二人は礼を言い、西へと飛行していった。



 勇気と恵良は、討伐部隊に指示されたとおりに西へと飛行している。しかし、二人の《燕》はエネルギーが底をつきかけており、スピードが出ない。エネルギーが切れて墜落する恐れもある。墜落のことを気にしつつ、二人は討伐部隊が言及していた航空艦が飛行している西側へと徐々に進んでいく。

 すると、レーダーに大きな反応が現れた。勇気たちの方へどんどん近づいてくるそれは、大型の航空艦であった。国防軍に配備されているものより一回り大きく、全長は三百メートルはあるように見える。カラーリングも異なる――国防軍に配備されているものはグレーであるが、この航空艦は透き通るような水色である。

「あれか!」

「すごく、大きい」

 二人が目視できるくらいに航空艦が近づくと、艦底部の離発着口が開いた。二人は艦底部に潜り込むと、ブースタを微調整しながら航空艦の中に入っていく。航空艦の中の格納庫にたどり着いた時、二人はようやく安堵することができた。あの地獄から撃墜されないで残ったこと自体、奇跡であった。

 待機していた整備士に誘導されて《燕》を格納庫に停止させると、二人は装着していたヘルメットを取り、コクピットのハッチを開けた。冷たい空気が二人の汗まみれの顔を刺激する。ようやく、生きているという心地を実感した。恵良の顔には、笑みがこぼれていた。

 しかし、勇気は未だに茫然とした顔をしている。疲労困憊で、コクピットから出る気力もなくなっていた。初めて『ナンバーズ』と交戦し、機体はボロボロになったものの撃墜されずに動けることが未だに信じられずにいた。俯き姿勢のため、黒い長髪から汗がしたたり落ちる。

『来たか。今格納庫に向かう。待っててくれ』

 格納庫のスピーカーから聞こえたのは女性の凛とした声。その声で我に返った勇気はX字状のシートベルトを外し、《燕》を格納庫のエレベータを使って降りた。立っていると、未だに足がガクガクと震える。

 エレベータを降りると、青いパイロットスーツを着た一人の女性パイロットが後ろを向いて立っていた。

「あの――」

 勇気はその女性に声をかけた。パイロットスーツ姿の彼女が振り向く。

「その声――あなたが……灰田、勇気さん?」

「はい、そうですけど……、その声、白田さん、ですか?」

 女性は笑顔を見せて頷いた。彼女が、白田恵良である。肩までかかった髪、澄んだ黒い瞳と整った顔立ち。女性にしては高い身長――身長百八十センチを超える勇気の口元に額がぶつかる程度だ――、ピチピチのパイロットスーツのせいで映える細い体。その姿は、勇気には天使のように映った。恵良は勇気に向き直り、深々と礼をした。

「先程の戦いでは何度も助けてくれて、本当に感謝してます! ありがとうございます!」

「い、いや、俺は――」

 勇気は顔を赤くして首を何度も横に振る。顔が熱くなるのを感じる。こんなにも人に感謝されたことがなかったからだ。ただ彼の顔が熱くなったと感じたのは、照れくささだけではなかった。

「取り込み中失礼する。君たちが生き残りのパイロットか?」

 先程スピーカから聞こえてきた女性の凛とした声が、格納庫内に響き渡る。二人はそれに驚いてほぼ同時に声がした方へと体を向けた。

 そこに立っていたのは、ぶかぶかの白衣を着た女性だった。身長は低く、恵良の胸くらいの高さしかない。髪は腰に届くくらいに伸びている。傍目でみれば、子供と見間違うほどに童顔でもある。二人が正面を向き、姿勢を正して敬礼をする。

「日本国防軍横須賀基地SW操縦第3部隊隊員、灰田勇気であります」

「日本国防軍横須賀基地SW操縦第5部隊隊員、白田恵良であります」

 白衣を着た女性が腕組みをする。口元を見ると、口角が上がっていた。

「私は日本国防軍特殊活動部門所属『ナンバーズ』討伐部隊隊長、水城みずき雪音ゆきねだ。ようこそ、討伐部隊へ」



 

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