侮蔑の理由
勇気は雪音の指示に従って、指定されたポイントまで《ライオット》を飛ばしていた。彼の表情は硬い。恵良のように、自分も『ナンバーズ』のSWを倒そうと躍起になっている。
高度千メートルまで飛んだあと、勇気は雪音から止まるように指示された。彼は乗機をゆっくりと停止させ、その場でホバリングさせる。今のところ、《ライオット》のレーダに敵の反応は無い。しかし彼は、いつ敵が襲ってきてもいいように両手を武器にかけていた。
『ナンバーズ』のSWが向かってくる――勇気の心拍数はそれだけでも激増した。生唾を呑み込む音が、彼の耳に響く。
「来るなら……来い!」
勇気は自分を鼓舞するように強い言葉で呟く。彼の操縦桿を握る力が強くなり、目つきも鋭くなる。
そして、その時はきた。
《ライオット》のEセンサがけたたましく鳴り響いた。すぐに、雪音から通信が入る。
『三時の方向五〇〇〇メートルに、敵反応。物凄いスピードで向かってくる。応戦してくれ』
「分かりました!」
《ライオット》は右手にビームソードをグリップ、そのまま展開した。左腕には、折り畳み式のシールドが展開されている。勇気はすぐに指定の場所へと急行した。
勇気は機体を急加速させて、敵を迎え撃つ準備をしていた。それにより、五〇〇〇メートルという距離はあっという間に至近距離になった。
勇気が空を見上げる。そこには、豆粒ほどの大きさではあるが、敵の姿が確認できた。勇気はそれを睨みつけ、再びブースタを目一杯吹かして加速させる。
「やらせるか!」
《ライオット》が、グングン敵に近づいていく。ビームソードを構えながら、敵と正面衝突せんばかりに加速していく。
そして、敵がはっきりと見えた。鈍い銀色で、白いモノアイ、刺々しい見た目と今までの『ナンバーズ』のSWの条件を満たしていたが、左肩部に数字が書かれていなかった。その敵も、ビームソードらしき近接武器を構えていた。
しかし、はっきりと敵の姿を確認できたのは一瞬のみ。その直後、二機はビームソードでつばぜり合いを行っていた。電流が流れるような音が周りを包み込む。力は互角で、両者一歩も退かない。ついに二機は互いに弾き飛ばされた。
両者がジリジリと遠ざかりながら睨みあう。勇気は既に息を切らし、緊張のせいか汗が垂れていた。
自分が戦ったことがある『2』や『3』とは、明らかに何かが違う――勇気はそれを肌で感じ取っていた。彼はさらに、嫌な胸騒ぎを感じていた。今までに経験したことのない、気持ちの悪いものである。思わず、胸のあたりをギュッと握る。
すると、雪音から通信が飛んできた。勇気が急いで無線に出る。
「灰田勇気であります!」
『今お前のいる位置と敵機の形を確認した。どうやら新型のようだな……』
勇気は雪音から通信を貰ったことで、少しほっとしていた。胸に溜まっている気味の悪いものが、心なしか降りた気がした。
しかし彼とは対照的に、雪音は焦っていた。自身の予想が外れ、あろうことか新型が襲ってきたからである。
「はい。今までの奴とは少し違います」
『こいつ、今までの奴らとは比較にならないほどのパワーを持っているぞ。気を付け――』
そこで、ブツリという音とともに、雪音からの通信が途絶えた。勇気はそれに気づき急いでチャンネルを《オーシャン》に合わせるが、繋がらない。微かにテレビの砂嵐のような音がするのみで、彼はパニックになりかけた。
――誰かが、《ライオット》に無線を繋げたのか?
勇気はそう考えた後、レーダを見て周りに味方の機体がいるかどうかを確認した。しかし、そこにいるのは自分と『ナンバーズ』の新型機のみで、他にはいない。恵良や賢は既に艦の中でSWから繋げようがないし、他のSW部隊はいない。
そこで、彼は俄かには信じがたい結論にたどり着いた。
「この機体の中に……誰か……いるのか? 答えろ!」
震えた声で、勇気は『ナンバーズ』SWに問うた。しかし、声は聞こえない。コクピットの中で、彼の激しい息遣いだけが聞こえる。
しかし数秒後、喉の奥を鳴らすような男の笑い声が無線から聞こえてきた。勇気の背筋は瞬時に凍り付いた。目を見開き、一瞬だが呼吸が止まる。
「答えろ! 誰だ!?」
『……こんにちは。灰田勇気君』
勇気は彼の周りで、時が止まったような感じを受けていた。信じがたいことが、現実になってしまった。
確かに、無線から若い男の声が聞こえてきた。しかもパイロットの名前をフルネームで正確に言ってのけた。勇気の頭の中はいよいよパニックになった。
「お前は誰だ!?」
『おっと。この慌てようは、お前が灰田勇気だな?』
「お前は誰だと訊いてるんだ! 答えろっ!」
勇気は得体のしれない人物に向かって必死に叫ぶ。彼は過呼吸寸前になりながら銀色の敵を睨みつけようとするが、その視線は泳いでおり、恐怖で手の震えも出始めている。
『まま、そう焦んないで。そうだねぇ……俺も名乗らなきゃ失礼だな』
「能書きはいい!」
勇気は何故かこの男に、恐れに近い感情を抱いていた。その気持ちが彼を急かす。
『ああ、ごめんな。俺の名前は――』
勇気が生唾を呑み込む。
『咲宮雷鼓だ』
彼は、自分の名を言った。
勇気が息を呑み目を限界まで見開く。
それは勇気にとって聞き覚えのある苗字だった。
『咲宮』とは、勇気が本当の自分を知るきっかけになった男の子の苗字なのだから。
《オーシャン》の管制室で、雪音は半ば混乱しながらレーダを注視していた。いきなり勇気との通信が切れ――しかもそれは彼や自身が切ったのではなく、誰かに割り込まれての切断である――、何をやっても繋がらず、一旦通信を傍受するモードに切り替えると勇気以外の男の声が聞こえてきたのだから。
ついに『ナンバーズ』も生身の人間を出してきた――雪音にはその意図が全く掴めなかった。今までの戦いが無人機との戦いだっただけに、なおさらであった。
しかもその男は自分の名前を平然とばらし、さらに《ライオット》に搭乗しているパイロットの名前も言ってのけた。
「……今までの通信、全部傍受されていたか」
雪音は低い声で呟いた。日本軍の通信では味方同士の通信しか傍受できないが、『ナンバーズ』の通信機構は敵の通信も丸ごと傍受できるのだろうと、彼女は推測した。それが正しければ、今までの戦闘では自分たちの作戦や陣形、SWのパイロットの名前や航空艦の艦長やクルーの名前まで全て筒抜けだったことになる――彼女は敵の技術に改めて感心した。
しかし、感心しっぱなしの雪音ではない。彼女は何とかして勇気と無線を繋げようとレーダを見るのをやめ、せわしなくキーボードを叩き始めた。指示が出せなくなることは痛手である。
「待ってろよ、勇気」
すると、管制室のドアが開かれた。雪音が振り返ると、そこには汗だくの恵良と賢が立っていた。しかし、恵良は賢の肩を借りてやっと立っている状態である。
「来たか。今大変なことになっている」
いつになく焦っている表情の雪音を見て、二人の胸はざわついた。特に恵良は居ても立ってもいられず、フラフラと雪音の元まで歩いていった。彼女は雪音の前で膝を付き、ゼエゼエと息を荒げながら雪音を見上げる。
「勇気に……何かあったんですか? 無事なんですか?」
「落ち着け、恵良。この椅子に座っててくれ」
そう言って雪音は、恵良を自分がいつも座っている椅子に座らせた。恵良が礼を言って座ると、雪音は二人の方を見ず、画面を見たまま説明を始めた。
「まず、勇気との通信が繋がらなくなった。そして通信を傍受してみたところ、『ナンバーズ』と思しき男と勇気が話していた」
二人は雪音を驚愕した表情で見つめる。『ナンバーズ』の機体に人が載っているということ自体、二人にとって寝耳に水である。
「この中に……人が?」
恵良が信じられないという風に雪音に聞き返す。雪音は彼女の方を見ようともせずに頷く。
「それと、奴らは今までの我々の通信を全て盗んでいた。だから、どのSWに誰が乗っているのかがフルネームで分かっている」
二人は未だに茫然としながら雪音の話を聞いている。
さらに話は続く。
「そして、この銀色のSWに乗っている奴の名前が分かった。男で、サキミヤ・ライコと言うそうだ。これは奴自身が名乗り出た」
雪音は、《ライオット》と銀色のSWが写っている一枚の静止画の銀色の方を指して説明した。二人は彼女の言葉に頷く。
更に彼女の話は続く。
「ここからは私の推測だが、こいつは奴らの新型の試作型だろう。こいつには『ナンバーズ』にあるはずの数字が書かれていない。テストで乗っていると思われる」
雪音は言いたいことを全て話した後、無線を復活させるために再びキーボードを弄りまわし始めた。二人は黙って画面を見ているだけである。
「勇気……」
恵良が、誰にも聞こえないような声量で呟いた。彼女は勇気の無事を唯々祈ることしかできなかった。
『咲宮』という苗字を聞いて、勇気は先程感じた気持ちの悪さの正体を理解することができた。
自分の推測が正しければこいつは――勇気は恐る恐る口を開く。
「咲宮、っていったな。お前……もしかして、俺が十歳の時に、あの施設に――」
それに反応したのか、銀色のSW――《ペニーウェイト》がビームソードを構え始めた。それに気づいた勇気も、《ライオット》のビームソードを構え始める。
《ペニーウェイト》の中の咲宮は、『あの施設』という言葉に反応して静かに憤っていた。彼の感情を読み取ったかのように、《ペニーウェイト》はビームソードを構え始めた。彼のくすんだ瞳が憎しみで燃え上がり、眼前のSWを睨みつける。
「お前も……俺を見下すのか」
勇気は、咲宮の口調がガラリと変わったことに、そして『見下す』という言葉に困惑した。一体何が咲宮の心に触れたのかが分からず、彼は咲宮に言葉を投げかける。
「見下している? どういうことだ。俺はただ――」
瞬間、ビームソードが白い軌跡を描いた。《ライオット》はこれを寸でのところで後退して避ける。
並みのSWの剣筋ではなかった。討伐部隊の隊員以外であったら、脱出する間もなく、この瞬間コクピットが上下に分断されていただろう。銀色のSWは、『あの施設』という単語を聞いてから明らかに殺気立っている。
「どいつもこいつも……俺を『あの施設』出身ってだけで好き勝手やりやがる!」
咲宮はどす黒い感情を吐露した。
彼の目は血走っていた。明らかに憎悪のこもった目で《ライオット》を睨みつける。
「違う! 俺もあの施設の出だから……俺が話しかけて拒まれた奴の苗字が『咲宮』だから――」
勇気が必死に咲宮に話しかけると、咲宮はフッと勇気を侮蔑するような笑い声を漏らした。
「何が可笑しい!?」
『じゃあ、お前が今まで受けた苦痛を言ってみろ! てめえも『あの施設』出身なら、耐え難い苦痛を受けてきた筈だ』
勇気には、咲宮の言わんとしていることの意味が理解できなかった。何故『あの施設』を出ただけで苦痛を受けるのか、そして彼はどのような苦痛を受けてきたのか――勇気の頭の中は半ば混乱していた。
勇気が口を閉ざしていると、《ペニーウェイト》が動きだした。ブースタを吹かして前進し、素早くビームソードを振る。しかし、動きは単純で、左右への薙ぎしかしてこない。それゆえ、勇気は動きを簡単に読み、敵の攻撃を最小限の動きで躱し続ける。
『答えろっ。じゃなきゃお前を『あの施設』出身とは認めねえ!』
「言ってる意味が分からない! じゃあお前はどんな苦痛を受けてきたんだ?」
勇気は闇雲にビームソードを振り回している《ペニーウェイト》の攻撃を躱しながら、咲宮に問うた。
すると、敵の攻撃の激しさが増し始めた。無線から咲宮の雄叫びも聞こえてくる。しかし、彼の攻撃は勇気に易々と躱されるばかりである。
ビームソードを何十回も指揮棒のように振り回した後、《ペニーウェイト》とパイロットの咲宮は大人しくなった。無線からは、彼の激しい息遣いのみが聞こえてくる。
『話してやるよ』
咲宮の恐ろしく低い声が聞こえてきた。勇気は思わず身構える。
「俺は、一五で施設を出て、原発のメンテナンスをする会社に派遣として雇われた。そこで死に目に遭ったよ」
勇気は咲宮の話に耳を傾けている――敵であるのに、勇気は咲宮の話を聞かなければならないという義務感に駆られていた。
「寮でのいじめは当たり前。殴られたり蹴られたり、火のついた煙草を腹に押し付けられたり、水責めに遭ったり……とにかく動けなくなるまでやられた。俺へのイジメは上も黙認してた」
咲宮の話を聞いて、勇気は目を見開いた。対して、咲宮は一転して愉快に語り始める。
「盗み聞きした話だが、『あの施設』出身の奴は、社会の底辺でゴミなんだとさ。馬鹿にしてもいい、差別してもいい対象なんだと。それこそホームレスや犯罪者と同じ扱いさ」
咲宮はせせら笑う。
「それで俺は一六でそこを抜けだした。今まで稼いだわずかな金で食いつないだ。金がなくなったら、ゴミを漁った。身体も売った」
咲宮の話を聞いているうちに、勇気は拳を握り始めていた。その力が段々と強くなる。彼はようやく、咲宮が言わんとしていることの意味が理解できた。
「人生に絶望している時、あいつらに拾われた。それで今に至るってわけさ」
『あいつら』という単語に反応したのか、勇気は我に返った。
「その『あいつら』っていうのは誰だ? 『ナンバーズ』の他の奴らか?」
「俺が答えられるわけねえだろ? さあ、俺は受けた苦痛を言った。お前も言え」
勇気は口ごもるが、信じてもらうために自らの境遇を話し始めた。
「俺も一五で施設を出て、軍に入った。そこで……先輩たちにボコボコにされた。内容はさっきお前が話したのと似ている。もしかして……俺が『あの施設』出身だから――」
『そうかもな。ようやく分かったよ、お前が確かにあそこの出身ってな』
ようやく勇気は咲宮に信じてもらうことができた。そして、今まで受けてきた仕打ちや侮蔑の意味も理解することができた。
咲宮の話が正しければ、勇気はただ出来がよかったわけではなく――それも理由に含まれてはいるだろうが――あの施設の出身だから第3部隊にいじめを受けていたことになる。さらに、横田の彼に対する態度も、そのことで納得がいった。
彼は卑下されるべき存在――勇気の周りの人間はそう思っていたに違いない、と勇気は考えた。
――なんで……俺が施設の出身ってだけで……
勇気は、今まで自分が周りから卑下されて侮蔑されていることを初めて知った。彼が思い出したくもない記憶が瞬く間にフラッシュバックする――寮内で暴行を受けたこと、懇親会の後の横田が向けたあの目、そして模擬戦で横田に『ゴミ』と侮蔑的なことを言われたこと。
彼は今にも叫びそうになっていた。自分は日本のために『ナンバーズ』を討伐しようと努力しているのに、その努力を認めるどころか侮蔑して『ゴミ』だと切り捨てられていたことが分かったのだから。
「あ、ああ――」
勇気の目に、涙が浮かび始める。彼が叫び声を出そうとした時、咲宮からの通信が突如切れた。
勇気は泣きそうな顔になりながら、無線の方を見上げた。電波が不安定なのか、少しノイズが混じっている。
『勇気! 聞こえるか?』
「……隊長?」
『よかった。聞こえてるな』
雪音が安堵した声が聞こえてくると、勇気もまた安堵した。
しかし、気は抜くことができなかった。咲宮は勇気との通信が切れた途端、襲い掛かってきた。圧倒的な機動力で後ろに回り込むと、ビームソードを背部のブースタめがけて突き刺そうとした。勇気はすぐに戦闘に集中し、右にブースタを吹かして間一髪でそれを避けた。
勇気と雪音の通信は、途切れることなく続いている。
『お前と奴の話は、全て傍受させてもらった』
「隊長……自分は――」
『勇気、奴の話を真に受けるな。お前が辛かったことは、後で私がゆっくりと聞いてやる。今は戦いに集中しろ、分かったな?』
雪音に強い口調で言われ、勇気は目が覚めたような表情になる。そして今一度、《ペニーウェイト》と向かい合う。
「……分かりました。あいつを必ず倒します」
『その意気だ。無線はつけっぱなしにしておくから、私が指示を出す』
「分かりました!」
勇気に、先ほどまでの活気が戻りかけてきた。
彼は雄叫びを上げて、《ライオット》を敵に向けて突撃させた。
管制室の中で、雪音・恵良・賢の三人は勇気の話を聞いて茫然としていた。まさか勇気がこのような境遇で、このような辛い思いをしていたとは思っていなかったからだ。
実際、彼の話を聞いて雪音はショックを受けたような顔をした後、唇を噛み締めた。そして落ち着いてから、二人の無線に割り込む形で無線を繋いだ。賢も同様にショックを受け、勇気の話を聞いた後腕を組んで俯いてしまった。
特にショックを受けたのは恵良で、いつも討伐部隊の人たちが見ているような勇気のイメージを一気に覆されたような感触を覚えていた。彼の話を聞いた恵良は、目を見開き両手で口を覆い、思わず立ち上がっていた。喉の奥を鷲掴みにされたような圧迫感も感じている。
「……勇気の様子から察するに、受けていたいじめは本当らしいな」
雪音が振り向かずに、ポツリと呟いた。それに反応した恵良が、雪音の背中に詰め寄る。
「じゃあ……勇気は討伐部隊に入るまでひどいいじめを受けていたってことですか!?」
「それは本人に訊いてみるまで分からない。とにかく今は、あいつの無事と勝利を祈るだけだ」
雪音の返事を聞くと、恵良はその場でがっくりと膝を折った。そんな彼女を、賢が駆け寄って介抱する。彼が恵良を椅子に座らせると、恵良は悔しそうな表情でモニタを見つめる。
「どうして……どうして勇気がこんな目に遭わなきゃいけないんですか? 勇気は優しくて、軍の中の誰よりも強くて、人一倍頑張り屋さんなのに……。なんで生まれだけで差別されなきゃならないんですか!?」
恵良の心からの叫びは雪音に向けてのものであったが、同時にその場にいる人間の気持ちを代弁していた。特にそれを発した彼女は、今までの勇気を思い出してしまい、目に涙を浮かべていた。
恵良にとって、彼女を女性だからといって差別しない姿勢を示してくれたのは、勇気が初めてであった。疲れているときに手を差し伸べたり、積極的に励ましの言葉をかけてくれたり、彼女が初の『ナンバーズ』討伐者になった時には自分のことのように喜んで祝福してくれたのも彼であった。そのような彼が今まで虐げられてきたことを知って、彼女は困惑し憤った。
雪音はそんな恵良の叫びに振り向いたが、困惑した表情で彼女を見ていた。
「私に訊かれても分からん。私だって今知ったんだから。とにかく、お前が思っていることはここにいる全員が同じように思ってるから心配するな。尤も、無線は繋ぎっぱなしにしているが、今の勇気には聞こえてはいないがな」
モニタ上では、《ライオット》が《ペニーウェイト》と必死に争っている姿が映し出されていた。敵が繰り出してくる剣戟に、勇気が必死に堪えている。相手の剣戟は『5』が繰り出してきたそれよりも激しく手数も多い。
「勇気……。私、勇気を見てるから。見捨てないから……!」
そう呟くと、恵良は両手を組んで祈りの形を作り、ギュッと目をつぶった。ただ、勇気が敵を打倒して無事に帰ってこれることを想うばかりであった。