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革命ガ始マリマシタ  作者: XICS
戦いの始まり
19/72

二人のオリジナル

 勇気と恵良を含む五人の討伐部隊隊員は、雪音が『ナンバーズ』のSWの分析をしている時に訓練室で模擬戦を行っていた。この日も勇気と恵良は《剱》で先輩のSWたちに挑んでいた。模擬戦は本日も夕方まで行われ、勇気と恵良は相変わらず先輩たちにしごかれて負け続けたが、数をこなすことで実力が付いていることを身体で理解していた――今まで見切ることができなかった《陰陽》の剣戟を見切ることができるようになったり、レーダーなどをフル活用して《キルスウィッチ》の動きを追跡することができるようになったりと、成長している。

 その夕方食事を終えた五人は、ミーティングを始めると雪音に呼び出された。管制室に集合して整列している五人の前に、雪音が立つ。

「今日もミーティングだ。まあ、お前たちに話したいことがあってな」

 話したいこととは何だろうと五人が思う中、雪音は《オーシャン》のモニタにある写真をアップした。それは彼女が先程分析していた動画のスクリーンショットであり、彼女が最初に見つけた『ナンバーズ』の背面のブースタに映っている違和感の正体であった。管制室の空気が一気に緊迫する。

 そこで、勇気が不思議に思って口を開く。

「これは『ナンバーズ』の『2』の後ろ姿ですよね。この写真に何か変なものが映ってたんでしょうか?」

「ああ。映っていた。今からこれについて説明する」

 雪音が勇気の質問に答えると、彼女はその写真をズームアップした。スラスタ周辺の大気が、噴射炎が出ていないのにも拘らず歪んでいる。

「こいつらのSWの動力源が分かった。重力粒子というものだ」

 聞き慣れない単語に、五人は一様に疑問符を頭の中に浮かべた。しかし雪音は、五人が重力粒子のことが分からないという前提で話しているので彼らの表情は気にしていない。

「簡単に説明すると、この世界で重力を形成する粒子だ。自然界の原子や分子が衝突するとできる。こいつらがぶつかると、莫大なエネルギーを発することが分かっている。ここまではいいか?」

 雪音が話についていけているかどうかを五人に確認すると、全員が頷いた。

「よし、次に行くぞ。小難しい説明は省くが、おそらくこいつらは空気を吸い上げて重力粒子を作り出し、空気を加熱させて推進している。腕や足の動きは、衝突のエネルギーで作られた電気で動いているのだろう」

「なるほど……。つまり奴らの燃料は空気ということでしょうか? それも燃料電池のように液化して予め貯蔵しておいたものではなく、自然界に存在するやつを」

「それで概ねあっていると思う。とにかく、奴らの技術力は日本軍のそれの遥か上だ」

 賢の質問にも、雪音は淡々と答えた。勇気と恵良は少しだけ危機感を覚えた。今まで自分たちがそのような技術力を持った化け物と戦ったことが信じられなかったのである。

「それってさあ……、もしその技術がうちらにあるとして日本軍ではできねえの? その重力なんたらってやつをSWに使うことをさぁ」

「できるぞ。私がいるからな」

「……は?」

 礼人の質問に対しても雪音は淡々と答えたが、その答えに五人は目を丸くした。

「現に今でも使われているぞ。あのシミュレータに」

「……重力粒子が、ですか?」

「そうだ」

 恵良が恐る恐る質問すると、雪音はニッと笑って答えた。どこか誇らしげな彼女の表情には目もくれず、五人は驚きの声を上げた。

「すまんな。重力粒子を使うと上がうるさくてな。お前たちにだけは特別に教えようと思ったんだ」

「……Gを感じるのはそう言うことだったのか」

 雪次が一人で納得する。その横で、勇気は目をキラキラさせて雪音を見ていた。

「それなら早くSWにも搭載しましょうよ、その装置を! これであいつらに勝てるのなら――」

「落ち着け、勇気。さっきも言ったろ、こいつを使うと上がうるさくなるって。お上に重力粒子のSWへの転用を実質的に禁止されている状態なんだ、今は」

 雪音に諭された勇気は、そうですか、と肩を落とした。今度は恵良が雪音に質問する。

「隊長は、その粒子の研究をしていらっしゃったのですか?」

「ああ。勇気とお前には言っていなかったが、私は元々技術部の出身だ。まあ、技術部にいても重力粒子の研究は碌にさせてもらえなかったが」

 勇気と恵良の二人は二回頷く。

「私が重力粒子を研究していたのは大学時代だ。それが縁で日本軍に入隊したんだがな」

 二人は雪音の話を黙って聞いている。しかし彼女は、いったん軽く咳払いをした。

「――っと、話が逸れたな。もう一つ分かったことがある。このSWは無人機だ。どこかに基地があって遠隔操作されている可能性が高い」

「ってことは、こいつらを倒しても本体は別の所にいる、ってことか?」

「そういうことだ。もしかしたら、無人機を倒した後に本体が現れてくれるかもしれない。逆に無人機ばかりでてきて本体が現れない可能性もあるが」

 なんじゃそりゃ、と、礼人がげんなりとした表情で呟きながら肩を落とす。勇気には彼の気持ちが伝わっていた。本体を倒さない限り終わらないのなら、下手をすれば日本は長い期間『ナンバーズ』の脅威に曝され続けるということになる。礼人は面倒くさいと思っているが、勇気は危機感を覚えていた。

「まあ、どの道あいつらを倒さなければこの戦いは終わらない。ミーティングは以上だ。解散」

「最後に一つ質問させてください」

「なんだ、賢」

 手を挙げた賢に向かって、礼人は早く終わらせろと言わんばかりに目で訴える。

「今はどこを飛んでいるのでしょうか?」

「ちょっと待ってくれ」

 雪音はモニタの映像を元の画面に戻し、《オーシャン》の現在位置を確認した。

「今は北海道の稚内上空から南下して、ちょうど新潟あたりだな」

「ありがとうございます」

 少し時間が延びたが、ミーティングはこれにて終了となった。五人は敬礼をした後、管制室から退出した。



 ミーティングが終わり、勇気はシャワーを浴びた後バスローブ姿で自室のベッドに腰かけていた。

 ミーティングが終わりシャワーを浴びている最中でも、勇気は未だに厳しい表情をしていた。彼の頭の中では、初めて『ナンバーズ』と遭遇し戦闘した記憶が想起されていた。

 もし無人機で襲撃してきたのならば、首謀者は日本の中枢を画面を見ながら、当人は死ぬリスクを背負わずに壊滅させることができるのだ。勇気にはそれが腹立たしく思えた。

 そして彼は、その無人機に挑み見事に翻弄された。重力粒子の力による超機動、その超機動を持つ無人機を動かす確かな腕――技術面について詳しいことは分からないが、あれを易々と操ることのできる腕は今の勇気よりも上だと、彼は思っていた。

 すると、勇気はハッとしたような顔をした後、顔についた不快なものを払い落とすように首を横に振った。このまま考え込むとどんどん自分自身がネガティブになってしまう――彼は自分に否定的なことを考えないようにした。しかし、『ナンバーズ』の無人機を操っているパイロットの腕は自分よりも上だと、彼はそれだけは心に留めた。

――こんなこと考えてたって仕方がない。俺はできることをやらなきゃ……

 勇気はベッドにバタリと仰向けになる。そして大きく深呼吸をした。

「強くならなきゃ――」

 強くなる――それが自分にできる唯一のことだと、勇気は考えた。奴らに勝たなければ終わらない、日本を守ることなどできない。

 勇気はいつもよりも早く部屋の電気を消し、就寝した。



 翌日から勇気は、強くなりたいという一心で模擬戦に執心した。他の四人が休憩をとっている間でも、彼は四人よりも早く休憩を切り上げて訓練室に向かった。毎日シミュレータの中に籠っては、訓練の終わりにシミュレータから這い出て息も絶え絶えになりながら床に倒れこんでいた。その度に、他の四人から心配されていた。特に気にかけていたのは恵良で、床に倒れこんでいる彼を心配して手を差し伸べていた。その行動に勇気はいつも笑顔で応え、彼女を心配させまいと立ち上がった。

 勇気が訓練の虫になってから一週間が過ぎたころ、彼と恵良の二人は雪音に呼び出された。二人は練習が終わってひどく疲れた身体で管制室に入る。二人が雪音の前で整列すると、彼女は口角を上げた。その表情に少し驚いた二人であったが、隊長がそのような顔をしたということは何かしらの朗報があると察した。

「喜べ、お前ら。機体のデータが完成した。明日からお前らの機体をシミュレータで動かすことができるようになるぞ」

 二人は数秒の間キョトンとした顔をしていたが、すぐに顔がパッと明るくなった。

「で、では、自分だけの機体が完成したということでしょうか?」

 居ても立ってもいられず、勇気が質問する。その反応に、雪音は苦笑した。

「まあまあ、そう慌てるな。実物の完成はまだで、データとして流すのはあくまでも予定している外装フレームの設計図と私が組んだオペレーティングシステムだ。武装は完成してないから、《剱》のものを流用する。武装は猿ヶ森で最終調整を行う予定だからな」

「実物は、あとどれくらいで完成しますか?」

「猿ヶ森に着くまでには完成する。それまで待っていてくれ」

 雪音の答えに、二人は猿ヶ森にいつ着くかを考えずにワクワクしていた。明日になれば、先輩たちと同じように自分だけの機体を動かすことができる――そう考えただけで二人は笑みを絶やすことができなかった。今度は恵良が目をキラキラさせて雪音に尋ねる。

「あ、あのっ。よろしければ、その設計図を見せていただけないでしょうか?」

「……少し待ってくれ。私のパソコンを起動して、そこのモニタに映す。なにぶん機密事項なもんでな、展開の仕方が少々面倒だ」

 そう言いながら、雪音はパソコンを開いてキーボードを叩く。少し時間がかかったが、設計図が《オーシャン》のモニタに映し出された。それには、CGで精巧に描写された日の丸のように赤いSWの前面図・側面図・背面図があった。

「まずは勇気。お前の《ライオット》だ」

 雪音が《ライオット》と名付けた赤いSWを指した。勇気はそれに見惚れている。

 そのSWは《剱》をベースに四肢に機動の邪魔にならない程度に追加装甲が施されており、太い四肢とそれと比較して少し小さく見える胴体とのバランスがミスマッチに思える。しかし、背面図に示されているスラスタは《剱》のそれより一回り大きく、鈍重に見えるこの機体を軽々と動かすことができる出力を誇っている――出力については雪音が説明した――。更に、下腿の裏と両肩には追加装備のブースタがあり、機動力に関しては討伐部隊のSWの中でもトップクラスであることも、彼女は説明した。

 左右の腰部には、専用だと思われる大型のビームライフルとビームソードが装備されている。左腕に格納されている盾は量産型のそれよりも一回り大きく、展開方法も異なっている――普通のシールドは扇のように円形に展開されるが、《ライオット》のそれは薄く折りたたまれており、折りたたまれた折り紙を開くように展開することで前腕部全体にシールドが広がる。

「次に恵良。お前の《ウォリアー》だ」

 次に雪音は画面を切り替え、《ウォリアー》と名付けられた純白のSWの設計図を出した。《ライオット》の時と同じく、設計図にはCGで描かれたSWの前面図・側面図・背面図があった。

 《剱》をベースに設計された《ウォリアー》は、勇気のSWとは反対に装甲が薄くなっており、まるで女性の身体のようにすらっとした体躯である。背部に取り付けられているスラスタは《剱》のものとほとんど同じ大きさであるが、出力はその倍近いと雪音は説明した。更に、肩部にも追加のブースタが取り付けられている。

 武装は両腰に装備されている二本の細身のビームソードのみである。戦闘スタイルは雪次と同じく近距離戦闘主体の武装である。

「これって……、雪次さんと同じ戦い方をするんですか?」

「近距離主体なのは同じだが、少し違う。雪次は重量級の機体で真っ向からぶつかって押していく戦法、お前は軽量な機体と機動力を活かしてヒット・アンド・アウェイを心がけるんだ」

 機体のコンセプトを雪音に教えられた恵良は、はい、と返事をして頷いた。その直後、彼女は背部のスラスタの両横に取り付けられている筒のようなものに注目した。

「これは何でしょうか? スラスターには見えないんですが――」

「こいつは任意に着火することができる背部の追加ブースターだ。一気に距離を詰めたい時とかに使って相手の元まで加速する。ボタン一つでオンオフ可能だ」

 雪音の説明に恵良が頷く。

「そうそう。そのボタンは今までビームライフルの引き金を引いていたボタンだ。近接特化だから、ビームライフルは装備しないだろうと思ってな」

 ビームライフルの引き金を引くボタンと言うと、操縦桿を握るとちょうど人差し指の位置に来るボタンだ――恵良がまた頷くと、雪音はパソコンを弄り始めた。モニタから設計図が消え去り、いつもの監視用の画面に戻る――日本列島が中心に小さく配置され、西は中国全土までを、東は太平洋全域までを、南はソロモン諸島までをカバーしている。パソコンを弄り終った雪音は二人の方へ向き直った。

「これで特別ミーティングは終了だ。戻っていいぞ。解散」

 二人は彼女に敬礼をして管制室を出た。その直後、二人は顔を見合わせて笑みを浮かべた。翌日には自分だけの機体をシミュレータ内でのみだが動かせると思うと、二人の顔から笑みが漏れっぱなしになる。



 エレベータで二階に上がった二人は降りたところで別れた。シャワーは恵良が先に使うので、勇気は自室で待機することにした。

 勇気は部屋に戻ると、たまらずベッドに転がり込んで仰向けになった。この一週間、シミュレータに缶詰めになっては誰よりも早く休憩から復帰し、倒れるまで訓練を続けるという生活を繰り返してきたので、一日の終わりにはいつも勢いよくベッドに倒れこんでいた。そして彼の瞼はゆっくりと落ちていく。

 結局彼は、ベッドに転がり込んで数分も経たずに眠りに落ちてしまった。

 勇気が寝てしまって数十分後、恵良はバスローブを纏って彼の部屋の前まで来ていた。彼女は部屋のドアを三回ノックするが、勇気から返事はない。もう一度それを試みたが、やはり彼の返事はない。寝ているのだろうと恵良は察してその場から撤収しようとしたが、誤って開閉センサに触れてしまい、開けてしまった。そのことで彼女は狼狽えたが、同時に彼女の視界に爆睡している勇気の姿が入った。このままシャワーを浴びられないのも勇気が可哀想だと思ったので、恵良は彼を起こしに部屋へと入った。

「……失礼しまぁす」

 恵良はできるだけ足音を立てないように勇気の下へ近づく。ベッドの近くまで歩み寄ると、彼女は屈んで彼の顔を覗き込んだ。ひどく疲れているのか、死んだように眠っている。表情も安らかだ。彼女は暫く、彼の微笑ましい寝顔を覗き込んでいた。

 すると、勇気の瞼がピクピクと動き始めた。彼の寝顔を覗き込んでいた恵良の吐息が彼の頬に当たり続けていたので、それに違和感を覚えたのである。勇気が怠そうに目を開ける。

 勇気の眼前に飛び込んできた光景は、屈んでいた恵良のバスローブからチラチラと見える深めの『谷』だった。彼はすぐに目を見開き、上擦った悲鳴を上げてベッドの上を飛び跳ねた。その悲鳴に驚いた恵良も驚きの声を上げて尻餅をついた。顔を真っ赤にして、ゼェゼェと息を荒げてベッドの上に立ちながら、彼は尻をさすっている恵良を見下ろす。

「いたた……、ビックリしたぁ」

「そりゃ俺のセリフだよ! どうして恵良がここに――」

 恵良は尻をさすりながら立ち上がった。

「勝手に入ってごめんね。シャワー室空いたよ、って言いにきたんだ」

「あ、ありがとう……」

 落ち着いたのか、勇気はそのままベッドの端に腰を下ろした。しかし、未だに彼の顔は紅潮している。

 頬の紅潮が治まると、彼はシャワー室に向かうために部屋を出た。恵良も彼についていく。

 部屋を出てすぐ、勇気は急ぎ足でシャワー室に向かった。恵良の方はというと、部屋を出てから彼に少しついていった後立ち止まってしまった。

「勇気!」

 不意に、恵良が勇気を呼び止めた。彼は少しギョッとしながら振り返る。

「何、恵良?」

 勇気が振り返ると、心配そうな顔をして恵良が彼を見ていた。その顔に、勇気は声を出せずにただ見守ることしかできない。

「……無理、しないでね。最近の勇気、頑張りすぎだと思ったから」

 恵良の言葉に、勇気はドキリとした。彼女が自分のことを心配してくれていたのは分かっていたが、『無理をしないで』と言われるまで案じられているとは思っていなかったからである。

 確かに、『ナンバーズ』の存在に焦って無理をしていたのかもしれない――勇気はそう思うようになった。

「……ごめん、心配かけて。これからは心配かけないようにする」

 勇気は微笑んだ。それに呼応するように、恵良もホッとしたのか笑みを返した。彼女は、お休み、と彼に言い残して踵を返した。勇気は彼女の背中を見届けると、再びシャワー室へと向かった。

――力、抜いてもいいのか。もう恵良に心配かけないようにしなくちゃ。



 翌日、朝のミーティングが終了した後、勇気と恵良含む五人はいつものように訓練室へと向かった。その中で、勇気と恵良はいち早く訓練室に到着しシミュレータを起動させた。いつものように大海原がモニタに広がっている。

 勇気は試しにシミュレータのペダルを踏んだ。少し踏み込んだだけで、猛烈なGが彼を襲う。《燕》や《剱》よりも遥かに強い力で、身体がシートに押し付けられる。身体に溜まっている空気が一気に押し出されるような感覚に囚われ、彼は呻き声を上げながら顔を顰めた。なんとか操縦桿を動かして、暴れ馬のような機体を操っている。

――これが……俺のオリジナルの機体……。

 勇気は《ライオット》を、様々な方向に移動させてみた。垂直方向、左右、急降下、ジグザグ走行――どの移動も今までの機体よりも速く、大きく動くことができ、彼はその度に身体があちこちに叩きつけられるような感覚を味わっていた。

 勇気がペダルから足を離すと、Gから解放された身体が前につんのめった。彼の額からは汗が流れ、息が荒い。

「こいつが……新しい力か」

 息を整えた勇気は一人呟き、再びペダルに足をかけた。

 勇気とほぼ同じタイミングで、恵良もシミュレータのペダルを踏み込んでいた。以前乗ったSWよりも強い力を彼女は感じていた。彼女も勇気と同じように猛烈なGに襲われ、呻きながらシートに張り付いていた。

――すごい……!

 追加ブースタを点火していない状態でこれだ、点火したら一体どうなるのか――彼女は想像して身を震わせた。

 恵良は恐る恐る、握っている操縦桿についているスイッチを軽く押した。

 すると押した途端、彼女はシートにめり込んだような錯覚に囚われた。彼女から短い悲鳴が上がる。それくらいに、彼女は追加ブースタの加速でシートに押し付けられていた。身動きが、四肢を動かすこと以外にできない。頭ですら動かすことができなかった。

 彼女が慌ててボタンを離すと、身動きが取れなかった身体が一気に解放され前につんのめった。その拍子にペダルから足を離した彼女は、ゼェゼェと息をついた。まるで悪夢から目が覚めたように目を見開いている。

「これが……私の戦い方――」

 恵良が呟くと、彼女の機体のレーダに味方の反応が近づいてきた。それは今までの機体とは比べ物にならないほどの速さで移動している。彼女が反応が向かってくる方に機体を向けると、勇気の機体、《ライオット》が近づいてきた。大空に、日の丸のような赤が映える。

「恵良!」

 勇気が恵良に呼びかける。その顔は強烈なGに苦しんでいる顔ではなく、あたかも既に手懐けたかのような余裕の表情である。

 勇気のモニタには、恵良の乗機である《ウォリアー》が映っていた。すらりとした純白の体躯が、彼の視線を釘づけにする。

「凄い速度で動いてたけど……大丈夫?」

『速過ぎて……まだまだ慣れない。勇気は?』

「俺も……。まだまだ頑張らなくちゃなぁ」

 勇気がため息をつきながら言った直後、二人の機体のアラームが鳴り、レーダに一つの敵反応が映った。二人の機体が反応が近づいてくる方向を向く。向かってきた機体は、礼人の《キルスウィッチ》であった。

『何だぁお前ら、そのSWは? ひょっとして隊長が言ってたお前らのオリジナルの機体ってやつ?』

「はい! 自分の機体は、《ライオット》と言います。隊長が名付けてくださいました」

「自分の機体も、オリジナルの機体です! 隊長が《ウォリアー》と名付けてくださいました」

 二人の言葉に、礼人は適当に相槌を打つ。その直後、二人の無線から彼のため息が聞こえてきた。

『ったく、相変わらず隊長はネーミングセンスがねえな。英単語一つだけとか、安直じゃねえか』

「そ、そんなことないと思います。自分はこの名前を気に入っています! 自分は機体の愛称すら思いつかなかったんですが……」

 勇気が雪音のことを擁護する。しかし礼人は彼の言うことを、はいはい、と軽く受け流してしまった。

 すると、《キルスウィッチ》が両腰にぶら下がっている銃に手をかけた。二人はそれに気づき機体を後退させる。

「お前らの新しい機体で、俺と勝負だ。かかってこい」

 一瞬にして空気が張り詰める。礼人の口角は上がっていたが、殺気を纏っているかのような威圧感を二人に出している。勇気と恵良の間には先ほどまでお喋りをしていた空気は消え、完全に模擬戦の空気に変わっていた。

 自分の機体をどうやったら巧みに操ることができるか、二人は考えていた。勇気はそれに加えて、機体の性能が上がったのならば礼人の機体に易々とやられてはいけないと深く考えていた。恵良から言われた『無理をしないで』という心配は、彼は自身の頭の中には留めているつもりではあったが、いざ戦闘となると忘れがちになる――今の状況がまさにそれで、彼の頭の中に『加減』の二文字は浮かんでいない。

 二人が同時に、お願いします、と言うと、三機は距離を取って戦闘態勢に入った。

 二人のオリジナルの機体での模擬戦が、今始まった。




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