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革命ガ始マリマシタ  作者: XICS
戦いの始まり
18/72

重力とソラと

 討伐部隊の航空艦、《オーシャン》は無事に出航し、数時間後には自動運転に入った。その後、雪音は隊員の五人に訓練の許可を出した。

 五人が各自訓練室に向かう中、雪音は管制室に留まって《オーシャン》の調子を監視するがてら上層部から送られたある資料をノートパソコンに映し出して閲覧していた。『ナンバーズ』が本土を強襲した時に海上のレーダーの録画機構で撮影された、『2』と『3』を映し出した動画である。彼女はそれらを、パソコンのモニタに穴が空くほど見つめていた。ノートパソコンの隣には紙の資料が山積みにされており、今にもバランスを崩して音を立てながら落ちそうになっている――それらは雪音がSWの研究をしていたころから持っており、中身は英語の論文や日本語で書かれた軍の機密資料といったものである。

 結局、『3』の残骸は討伐部隊には接収されず、未だにデータすら開示されていない。雪音が何度も上層部に懇願してやっと手に入れた資料が、数種類のアングルから取られた動画である。シーンは二つあり、太平洋上での戦闘の様子と、台場に到着してからの戦闘場面である。なので彼女は、これらの動画と手元の紙の資料のみでこれらの機体を分析している。

 奴らは異常な機動力と攻撃力で日本のSWを蹂躙している、きっと日本のSWに使われていない何かが使われているに違いない――雪音は確信をもって分析に励んでいた。しかし、送られてきた動画は撮影アングルの種類が限られているので、分析は難航した。

――何かあるはずだ、何か……。

 しかし、一時間、二時間とパソコンの画面とにらめっこしていても、機体の分析は殆ど進まなかった。分かったことはせいぜい、中に人間が入っているとは思えないほどの超機動であることから――実際、人間を載せたままその場で一秒もかからず機体を一八〇度旋回させることは、中の人間が挽肉になりかねないのでできる筈がない――、これらは無人機である可能性が高いこと位しか分析することができなかった。

 雪音は一旦パソコンの画面から顔を離して分析をやめて、一冊の英語で書かれた古びた論文を手に取って読み始めた。彼女が愛読しているのか、ところどころに皺や手垢が付いている。タイトルには日本語で訳すとこのように書かれていた――『重力粒子の衝突とそれによって起こるエネルギーについて』。

 彼女はそれをパラパラとめくり読み始めた。



 重力粒子――地球において、重力を作り出す粒子であると言われている。発見されたのは一八年前で、勇気と恵良が生まれた年で雪音が一〇歳の時である。余談であるが、発見したのはアメリカの物理学者で、その学者は発見した年にノーベル賞を受賞している。

 原子や分子が衝突すると生成されると言われており、原子や分子の中に含まれている電子の数が多ければ多いほど、衝突した時に生成される重力粒子の数は多くなると言われている。さらに、原子や分子の衝突回数が多ければ多いほど、生成される重力粒子の数は多くなるとも言われている。

 また、重力粒子はそれ同士が衝突すると莫大なエネルギーを発生させる。このエネルギーは様々なものに応用が可能であり、中でもそれを利用した発電システムは既に確立されている。パイプ状のもので空気を吸い上げ、特殊な装置を内蔵したタンクの中に空気を貯蔵、そしてその特殊な装置で空気中の分子を衝突させて重力粒子を生成、生成された重力粒子は空気中の分子とともに加速し他の重力粒子と衝突、その際に生まれた莫大なエネルギーを利用して空気を加熱し、熱せられた空気でタービンを回して発電する、というものである。ちなみに、使われた空気は冷却されて大気中に排出される。

 この方法は、主な燃料が空気であることから、環境に優しい発電方法として注目されている。現にアメリカでは、重力粒子の発電所を試験的に稼働している。アメリカ政府は、現在ある原子力発電所をすべて重力粒子の発電所に置き換える計画を公式に発表している。



 このような重力粒子であるが、雪音はそれに造詣が深い。というのも、彼女は大学で重力粒子のエネルギー転換について専攻し研究していたからである。そのおかげで、彼女は日本軍のエンジニアになることができた。日本軍は重力粒子の可能性に注目し、その研究をしている者を優先的に入隊させたがっていた。

 しかし、今の日本軍では、雪音の知識は腐っていた。彼女が日本軍に入隊してから間もなく、白金重工業から重力粒子についての通達が届いたからである。白金は、重力粒子についての研究をSWの兵器開発にのみに限定したのだ。兵器についても厳しく規定されており、彼女が研究していたエネルギー関係、即ちジェネレータに関する言及はされていなかった。

 それでもなお、雪音は諦めなかった。彼女は討伐部隊の隊長になってからも極秘に重力粒子の研究を続けていた。そしてできたのが、重力粒子を利用したSWのシミュレータであった。シミュレータのジェネレータに重力粒子を生成する装置を導入し――その装置はジェネレータから電気を掠め取って動く――、機体にかかるGを作り出すことに成功した。なお、その装置は日本軍には届け出ていない。



 雪音は論文に目を通すと、再びノートパソコンの画面とのにらめっこを開始した。今度は様々なアングルからの機体を、一秒一秒止めながらチェックしていた。絶対に何かあるはずだと、彼女は血眼になって画面を見つめていた。

 すると、とあるアングルで雪音は違和感を覚えた。

 『ナンバーズ』の『2』が太平洋上を進軍しているところを背面から撮った映像であった。

 その映像の中の『2』のメインブースタの部分を、彼女は一時停止したのちズームインして見た。


 すると、噴射炎が出ていないのにも拘らず、周りの空気が陽炎のようにゆらゆらと揺れているのが見つけられた。雪音は先ほど読んだ論文の内容を思い出し、一人で確信した。と同時に、なぜ今まで気づかなかったのかと自分自身を軽蔑した。


「やっぱりな」

 間違いない、こいつらは重力粒子を使って動いている――雪音は確信した。どのようにして小型化したのかは分からないが、これだけは確信できる、と彼女は頭の中で考えた。と同時に、彼女は椅子の背もたれ一杯に凭れかかりため息をついた。


 小型化された重力粒子のジェネレータというフレーズで、彼女は昔からのパートナーのことを思い出してしまった。


「――あいつは、重力粒子のジェネレータを小型化する研究をやってたな。それで、重力粒子の発電所を作りたいって……」

 雪音は自らの記憶を反芻するようにパートナーのことを口に出した。そしてその言葉を出した直後、彼女は息を短く吐いて目をゆっくりと瞑った。

 そこから一筋の涙がこぼれ落ちる。その涙は、目の疲れからくるものではなかった。

 彼女はパートナーのことを回想し始める。


「――もう一度会いたいよぉ、ソラぁ……」




 ――雪音は中学二年の時に、『ソラ』と呼んだ人物と出会った。

 雪音は当時『神童』と呼ばれるほどの出来のいい中学生だった。勉強面では学校・塾問わずトップクラスの成績を誇り――と言っても、彼女は一位か二位しかとったことがなく、本物のトップだった――、運動面でも部活には入っておらず身体も小さいが常にトップの成績を叩きだしていた。容姿も申し分なく、小学生に見えるほどの可愛らしい顔で、髪は背中まで伸ばしていた。

 しかし、友達はほとんどおらず、クラスの仲良しグループの輪に入ることもなかった。そのせいか女子はおろか男子からも声をかけられることは少なかった。

 彼女は独りで読書をすることが好きだった――その楽しむ表情も表には出さない――。また、読書と言っても、大衆向けの小説や雑誌などではなく、物理学者の書き下ろした本やパソコンに関しての専門書を好んで読んでいた。

 そんな雪音に、ある日一人の男子が近寄ってきた。その日彼女はいつものように物理学の専門書を教室の隅で読んでいた。その男子は彼女に近づくと、机を軽く叩いた。それでも気付かないので、彼は彼女の肩を軽くつついた。漸く、彼女が目の前に立っている人間の存在に気付く。

「へえ、重力粒子についての本か」

 男子は縁無しの眼鏡をかけ、髪は短くまとまっている。端正な顔立ちで、女子からの人気は高そうな顔である。

 雪音は、そんな彼をぼうっとした目つきで見ていた。それを気にせず、彼は話し続ける。

「この人ってすごいよね。二〇年かけて発見して、その応用方法まで提唱しちゃうんだから」

「……誰?」

 男子が半ば興奮気味で話しているのとは対照的に、雪音は彼に対して冷たく一言で返した。それでも彼は笑いながら話を続けた。

「やだなあ。同じクラスの空哉だよ。七海ななみ空哉くうや。皆からは『くう』って字から『ソラ』って呼ばれてるんだ。一年の時も同じクラスだったけど、よろしくね、水城さん!」

「……よろしく」

 七海空哉――雪音と同じく、学校内でトップクラスの成績を誇る生徒である。雪音は彼といつもトップの座を競っていた。しかし彼女は彼のことを、そう言えばいたな、こんなやつ、という程度にしか思っていなかった。

 七海は雪音に対して自己紹介をした後、彼の友だちに呼ばれてその方へ駆け出してしまった。彼は彼女に去り際に、じゃあね、と声をかけたが、彼女は駆け出していく彼を一瞥もすることなく本に夢中になっていた。

 これが彼女と彼との初めての出会いであった。



 数日後、雪音は放課後の誰もいない教室の隅で、いつものように重力粒子についての本を読んでいた。夕日が彼女と本とを朱く染めていた。すると、突然教室のドアが音を立てて開いた。これには流石に彼女も反応して、音がした方を向く。

 そこには、遠慮がちに立って笑みを浮かべている七海の姿があった。

「ごめんね、音立てちゃって」

「……別に」

 雪音は素っ気なく返した。彼は謝りながらも、彼は教室に入り彼女の方に近づいていく。

「よかった……。あ、そうだ。僕もこの本が大好きで、是非話し相手が欲しいんだけど……いいかな? 他の友だちは誰もこれに興味を示さなくて……」

 唐突過ぎる提案にも拘らず、雪音は賛成した。一人で本を読んでいると、何か物足りないと感じていたのだ。彼女は、たまには人と話すのもいいだろうと思い、教室内でその本についての話を始めた。

 すると、話しているうちに、雪音のテンションが上がっていた――顔には出していないが――。声が大きくなり、口数が多くなり、体が熱くなるのを彼女は感じた。彼と話していると心が弾むとさえ思った。その話は学校を出た帰り道でも続き、二人は――特に七海は――話ができることを幸せに思っていた。雪音の帰り際、彼にそのことを指摘されると、彼女は身体中が火照っているのを感じた。心臓が大きく高鳴っている。

――何だろう、この気持ち……。

 雪音は理解しがたい気持ちを抱えながら、その日は床についた。



 その日を境に、雪音は七海としきりに話し始めた。重力粒子の話題は勿論、他の物理的現象や彼女が好きなパソコンの話題でも、彼女は快く彼と語り合った。次第に口数は多くなり、会う回数も増え、笑顔まで見せるようになった――尤も、彼の前だけでだが――。

 さらに、彼女らは携帯電話を持っていたので、SNSのアドレスを互いに交換して、夜まで語り合ったりメールを飛ばし合ったりした。彼女は、彼と一緒にいることが楽しいと感じるようになった。それに比例するかのように、彼に対する何とも形容しがたい気持ちも彼女の中で膨れ上がっていた。



 二人の関係に変化が訪れたのは、中学二年の冬であった。

 雪音は突然、七海にうちの近くの公園に来るように頼まれた。その日雪音は塾の冬期講習で、制服のまま自転車を漕いで目的地まで向かった――彼女は彼と交流するうちに家の場所を覚えたので、そこまでは行くことができる――。

 雪音が公園に着くと、そこには紺色の厚手のズボンを履いて黒のジャンパーを羽織り、青と白のチェックの模様のマフラーを巻いた七海が立っていた。自転車を降りた彼は、いつになくまじめな表情の彼を見て吹き出してしまった。

「どうしたの?」

「水城さんに……大事な話があるんだ」

 七海は真剣な表情で、真摯な眼差しで雪音を見つめた。彼女はそれに面食らい、真面目な表情になった。それから、一分近くの沈黙が流れた後、思い切ったような顔をした七海が切り出した。


「僕は――水城さんのことが好きだ。これからは、恋人として付き合って、くれないかな?」


 そう言うと、彼は頭を下げた。

 突然の告白に、雪音の頭はフリーズした。いきなりの愛の告白に、戸惑わないはずがなかった。

 しかし、少し経つと彼の言葉が全身に染みわたるように彼女の身体を熱くした。心臓の鼓動が速くなり、呼吸が苦しくなる。『好き』というフレーズで、彼女は初めて彼と重力粒子について語った時の夕暮れとその夜を思い出した。あの時の高揚感、あの理解しがたい気持ちはこういうことだったのか――彼女は確信を持った。

 すると途端に、彼女の視界がぼやけ始めた。


「私も……空哉のことが好き、大好き!」


 その言葉に、七海は頭を上げて歓喜した。すると彼は、あまりの嬉しさからか雪音を抱きしめた。

「ありがとう、本当にありがとう!」

 雪音は彼に抱きしめられた途端、涙を溢れさせて泣きじゃくった。この瞬間から、雪音と七海は恋人になった。



 二人の恋人の関係は、高校・大学・社会人と歳を重ねても続いていた。ちなみに、二人は同じ高校と大学に進んでいる。特に大学時代には、恋人同士という関係だけでなく同じ重力粒子のエネルギー転換についての研究者として切磋琢磨する間柄にもなっていた。

 さらに雪音は、七海と付き合ってから様々な『初めて』を経験した。初めての花火大会、初めての遊園地、初めてのキャンプ、初めての接吻キス、そして初めての『朝帰り』――彼女の両親は彼女を放任していたので、それに関しては特に何も言及してこなかった――。それらは彼女にとって大きな社会経験になった。

 しかし、大学時代、二人にまたも転機が訪れた。二人が大学四年生になって就職活動を済ませた頃である。

 二人の就職先が異なったのだ。雪音は日本軍のエンジニア部門に、七海は白金重工業の開発部門にそれぞれ就職が決まった。さらに、七海は沖縄に配属が決定した。二人の距離は離れることとなった。

 二人は大学の食堂でそのことについて話した。

「僕は白金の沖縄支部に行く。離れ離れになるけど……それでもいい?」

「うん。でも、ソラは私のこと忘れないでね。私もソラのこと忘れないから」

「ありがとう。僕は白金で、絶対に重力粒子を使った発電装置を小型化させる。そんでもって、この日本に重力粒子の発電所を作るんだ!」

 子供のように目を輝かせて発言する七海に、雪音は微笑んだ。こうして、二人の関係は社会人になったところを境目に遠距離恋愛に移行した。



 しかし、そんな雪音を悲劇が襲った。

 彼女が日本軍に入隊して間もない頃、白金重工業が保有している沖縄の地下実験場が爆発事故を起こしたのだ。この事故は、すぐに彼女にも知らされた。遺体が見つからず、警察の発表で犠牲者はゼロと判明したので、白金と日本軍の関係者は安堵した。

 しかし、雪音は嫌な胸騒ぎを覚えていた――七海は、白金の沖縄支部にいると自ら言った。

――ソラが事故に巻き込まれたのかもしれない。

 雪音は安否を確かめるため七海の携帯電話に電話をかけたが、何回かけても出ない。これ以上彼の安否を調べる方法は無いのかと彼女は苦しんだが、彼女はある決断をした。法に触れるがやるしかない、と、彼女はもはや七海のことしか考えることができなかった。

 ハッキングである。

 雪音は夜中の誰もいないSWの格納庫の中で、自分のノートパソコンを開き、白金のサーバに不正にアクセスした。流れるようにサクサクと侵入すると、早速沖縄支部についての機密情報を発見した。しかし、その情報は彼女には必要なく、彼女は沖縄の地下実験場に勤めている社員の名簿とその出勤記録をコピーして入手した。その後彼女は落ち着いてサーバにアクセスした痕跡を消すと、コピーしたデータを展開した。

 その情報に、雪音は愕然とした。


 『七海空哉』は、名簿の中に存在した。しかも彼は沖縄の地下実験場の責任者であり、事故が起こった日時にはしっかりと出勤していた。つまり彼は事故に巻き込まれたと、雪音は思い込んでしまった。


「そんな……うそでしょ……」

 犠牲が出る前に全員が、または七海だけでも逃げることができたかもしれない――そのような肯定的な考えを、今の彼女は思いつくことができなかった。犠牲者ゼロ・遺体は無い、ということは、遺体は全て爆発で吹き飛んでしまったという考えしか思いつかなかったのだ。

 雪音は画像を閉じ、ノートパソコンの電源を切った。その手は震えており、息と脈は乱れていた。その直後、彼女は涙をとめどなく溢れさせながら、一人ぼっちで声を殺しながら泣き始めた。

 ソラ、ソラ、と、彼の愛称をポツリポツリと呟きながらうずくまっていた。彼が遠くに行ってしまったと、彼女は感じ始めていた。



 それからの数か月、彼女は亡霊のような表情で日々の仕事をこなしていた。顔はげっそりと痩せ、言葉は殆ど発さず、能面のような表情で、他のエンジニアとの交流はほとんどせずに、暇を見つければただパソコンの画面を開いて七海の写真を見ながら物思いに耽る毎日を過ごしていた。

 彼女は自らの居場所を探していた――彼女の居場所は、いつも彼の心の中だと思っていて、それが失われたからである。しかし、居場所は見つからなかった。一時は、それで自殺の衝動に駆られたことすらあった。

 しかし、生ける屍のような雪音に光が差し始めた。

 彼女が自宅で書類を整理していた時、古びた書物の中によく見覚えのある表紙が見えた。彼女が思わず手に取ると、それは彼女が中学時代に愛読していた重力粒子についての本であった。それを見て、彼女は固まってしまった。中学時代の、二人の楽しい思い出が彼女の頭の中で走馬灯のように駆け巡った。

 あの時、自分は彼と一緒に笑っていた。楽しいことばかりであった。恋人になった時には、いつも元気な君が好きとまで言われた――雪音は様々な思い出に涙した。あの頃は二度と戻ってこないのだから。

 しかし、同時に彼女はあることに気付かされた――今の自分を見たら彼はどう思うのだろうか、元気を無くした自分を見てがっかりしてしまうのではないか。

 それならば、自分は普段通りに、いやそれ以上に研究に熱心になって彼を待とうと、雪音は決心した。七海の写真は『143』というフォルダに入れて、事故直後には否定的な考えしかできていなかった彼女が、今も彼はどこかにいると肯定的な考えをするようになった。そうすることで、自分の居場所はまだ彼の心の中にあると思うことができるようになった。

 そして、彼女は完全にとは言わないが復活したのだ――しかし、あの事故以降心から笑うことが難しくなっていた。



 気持ちを切り替えた雪音は、SWの研究の他に、上官をなんとか説得してSWの模擬戦に参加した。SWを模擬戦のシミュレータでもいいから動かした方が、SWの挙動などの特徴を掴むことができると思ったからである。そこでも雪音は才能を見せ、エンジニア出身なのにも拘らず一般兵や部隊の隊長相手に圧倒的な力を見せた。

 そこに目を付けた人物がいた。当時日本軍の空軍中将であった田の浦である。それが縁となり、雪音は彼に重用された。『ナンバーズ』が襲来した時に討伐部隊を創設する話が出てそれが実現したが、彼女はそれの隊長に抜擢された。

 今の自分があるのは、きっとソラのお蔭だ。雪音は自信を持って思っていた――



 自らの回想を終えた雪音は、再び我に返った。涙が少しだけ耳の辺りを伝っている。彼女はそれを着ていた白衣の袖で拭うと、少しだけ鼻をすすってパソコンとのにらめっこを再開した。まだまだ探せば何かあるかもしれないと、雪音は躍起になっていた。




雪音の回想シーンのイメージソング

アーティスト:Chasing Safety

曲名:"Far Away"

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