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革命ガ始マリマシタ  作者: XICS
船出と始まり
14/72

新しいコト

 勇気はまだ肩を落としている恵良をそっとしておこうと、礼人・賢・雪次の輪に入ろうとした。理由は分からないが、今の彼女には首を突っ込まない方がいいだろうと、彼は思ったのである。

 さらに、勇気は先程の雪音の話に疑問を感じていた。先輩たちなら何か知っているだろうと思い、先輩たちの輪に入ろうとする。

「あのぉ……」

 勇気は雪音が管制室から離れている合間に、先輩たちの会話に混ざろうとした。彼の声に、三人が注目する。

「ん、どうした?」

「礼人さん、賢さん、雪次さん。さっき隊長が、『日本自由の会』と『白金』に邪魔をされたみたいなことを言ってたんですが、自分にはなんで自分たちが邪魔されるのかが分かりません。どうしてだと思いますか?」

 その質問に、三人は首をひねった。三人が揃って悩む。

 無理もないことだ。『日本自由の会』は討伐部隊を組織するように提言した議員が所属している政党であり、日本国の国会の与党である。討伐部隊にも多額の予算を割り振っており、討伐部隊を全面的に支援している党である。更に『白金』――白金重工業の略で、普段はこうやって略して呼ぶ――はSWの製造元であり討伐部隊に対しても多くの支援をしている。それらが討伐部隊の『邪魔』をする筈がない、と、討伐部隊の雪音を除く誰もが思っていた――特に勇気と恵良は。

 勇気含む四人が考えていると、管制室のドアが開いた。五人が一斉にドアの方を向くと、雪音がプラスチック製のパックに入ったゼリーをチュウチュウと吸いながら管制室に入ってきた。男四人で固まっている光景を見て、雪音は訝しんだ。

「お前ら、何集まって話してるんだ?」

「……これが昼食?」

「そうだ、文句あるか? ちなみにミカン味だ」

 礼人のツッコミに、雪音はどうでもいい情報とともにぶっきらぼうに返す。

「最近こればっかだぜ? ぶっ倒れねえのかよ?」

「大丈夫だ。お前が心配しなくとも私はこれで十分だからな」

 またも雪音にぶっきらぼうに返され、礼人はため息をついて頭をボリボリと掻き毟る。

「そうそう。何かお前らから報告はないか?」

 雪音から報告を求められると、礼人が真っ先に手を挙げた。勇気は先輩たちの報告を先にさせようと配慮し――彼は報告というより質問を抱えていたが――手を挙げなかった。

「ついさっき模擬戦してたんだが、雪次が模擬戦中にシミュレータを一台少し止めて点検に出した。原因は恵良の操作らしい。まあ、異常は見当たらなかったんだが」

「……そうか。報告ありがとう。まさか恵良、それでビクビクしてるのか?」

「え、えっ?」

 恵良は上半身にバネが仕掛けられているかのように上半身を跳ねさせ雪音の方を見た。雪音の顔は怒っている風ではなく、むしろ少し口角が上がっている。

「そんなことで一々怯えるな。私が怖い人みたいじゃないか。まあ、無理はするなとだけ言っておこう」

「……すみませんでした」

 いや、怖い人だろ、と礼人が小さい声でツッコミを入れるのにも気づかず、雪音は他の人に報告を求める。すると、今度は雪次と賢が手を挙げた。先に雪次が報告する。

「そのことに関してですが、自分と恵良の一騎打ちになった時、恵良の《燕》が急加速した時にそいつのブースタが火を噴いて機体は墜落しました。自分はシミュレータ上では今まで見たことがないんですが、こういう事はあり得るんでしょうか?」

 雪音は顎に手をかざして、うーんと唸った。少しの間考える素振りを見せた後、雪音は恵良の方を向く。

「私の設計したシミュレータはSWのあらゆる挙動を再現できるようにできているが……、シミュレータ内でSWが故障するとはな。整備不良はあり得ないから、お前がシミュレータを無茶に動かしたのか?」

「……私の無茶な操作に《燕》が耐え切れなかったのは事実です」

「そのことに関してですが」

 恵良と雪音の会話に割って入るような形で、賢が報告をする。雪音は、今度は賢に注目する。

「僕は恵良さんが《燕》を無茶に動かしたのではなく、《燕》が恵良さんの腕について行けなくなったのではないかと思います。それにこのまま《燕》を使っているようでは、どの道『ナンバーズ』との闘いに耐えることができないのではと思います。そこで、恵良さんと勇気君に新しい機体を受領させるのはどうでしょうか?」

 唐突な話に、雪音も驚きの顔を隠せないでいる。勇気と恵良は緊張の面持ちで雪音をじっと見つめている。

「……私がお前たちの模擬戦のデータを確認するまで、この話は保留にしておいてくれ」

 少し困った顔で雪音が言った後、彼女は恵良の方をもう一度向いた。

「それに、お前の《燕》は大破しているから、シミュレータのデータ次第では《燕》より上のSWを受領するかもしれない。だが、私が討伐部隊の隊長だからと言って、上がホイホイとSWをくれるわけではないことを忘れないでくれ。その時はお前にしばらくSWがあたらないかもしれない」

「分かりました」

 恵良は大きく頷いた。雪音が辺りを見回す。

「報告はこれで終わりか?」

 すると、皆の報告が終わったのを見計らって勇気が手を挙げた。

「何だ、勇気。お前にも報告があるのか」

「報告ではなく質問なんですが……。伺ってもよろしいでしょうか?」

 勇気が背筋を正す。報告ではなく質問をしてくる彼に、雪音は少し訝しんだ。

「いいが……何だ?」

「単刀直入に申し上げます。どうして討伐部隊は『日本自由の会』と『白金』に邪魔をされているんでしょうか? 討伐部隊、いや、日本軍を全力で支援してくれていると思ったんですが……」

 すると、勇気が質問を終えるや否や雪音の表情がどんよりと曇った。まるで思いだしたくないトラウマを思い出したかのような顔で、彼を見つめている。彼含む五人の表情がひきつる。

――まずいこと、訊いちゃったかなぁ……。

 勇気は質問したことを後悔した。雪音と接してまだ日が浅いが、この顔は機嫌が悪い時の顔であると一瞬で確信した。雪音は暫く一言も発しない。

 すると、雪音はどんよりとした目つきのまま口角を上げた。不気味な彼女の表情に、五人が凍り付く。

「――本当に単刀直入だな。丁度いい。私もイライラしていたところだ。教えてやる」

 雪音が半ば呆れたような口調で言う。すると、彼女は管制室の椅子にどっかりと座った。

「結論から言えば、『白金』と『日本自由の会』、いや、現日本政府は密接につながっている。金の力でな」

 雪音は相当苛立っているのか、椅子を振り回すように動かしてキイキイと言わせながら五人に語り掛ける。勇気は彼女の話を聴くのに夢中になっているので気づいていないが、今度は恵良の表情が段々と暗くなっていく。

「政府の役人様は経済や軍事政策で『白金』に有利な環境を作り、他の企業が『白金』が独占している分野に入ってくるのを抑制している。独占できるものが増えれば、利益も上がる。とある『日本自由の会』の議員に聞いた話だが、政治家共の息子や娘が『白金』の役員や株主になっているらしい。まあ、株はお上も持っているだろうがな」

 ここまで話し終えた雪音は一回ため息をついて一息入れる。勇気の手が、少し震え始める。

「ここから先は私の推測だが、『日本自由の会』の議員は『白金』から違法な献金をもらっている。じゃなきゃこんなことはしない。私の知り合いの議員も、そんなことを仄めかしてはいたが」

 言い終わると、雪音は椅子から立ち上がった。

「以上だ。答えにはなっていたか?」

「……はい、ありがとうございます」

 勇気は雪音に礼を言い、頭を下げた。しかし、その下げた頭は簡単には戻らなかった。

 勇気は完全に意気消沈していた。自分が今まで日本のためにと戦ってきたのに――勇気は全く見返りを求めてはいないが――、日本の方は軍のことは気にも留めず金儲けに必死になっているという事実――憶測もコミではあるが――を突きつけられたのだから。闇に首を突っ込んだら身体ごと闇に引きずり込まれたのである。

 勇気は、三人の先輩たちからは勿論、同じく顔色の悪い恵良からも、心配するような視線で見られている。

「まあ当たり前だが、これらは他言無用だ。それとお前たちに言っておくが、お上のことはあまり信用するな」

 勇気以外の四人は、分かりました、と返事をした。すべてを出し切ったという感じを出している雪音は、疲れた、と呟いて管制室を出た。

 すっかり管制室に取り残された気分になった五人は、気まずい空気の中周囲を見回している――尤も、恵良はすっかり意気消沈して項垂うなだれている勇気の方ばかりを見つめているが。そこで、なんとか気を利かせようと礼人が彼の肩をポンと叩いた。勇気が身体をビクつかせながら泣きそうになっている顔を上げる。

「……まだ訓練するか?」

 礼人の言葉に、勇気は急に姿勢を正した。

「はい、お願いします。礼人さんとは模擬戦をしていなかったので、模擬戦をしたいです!」

 勇気は声を大きく張り上げた。隣にいた恵良が、勇気がいきなり大声を出したことで驚く。

 勇気は自分の心の中に渦巻いているものを吹き飛ばそうと、必死に足掻いていた。模擬戦をして、主目的である訓練のついでに気分を晴らそうと思っている。

「わ、私もお願いします!」

 恵良も負けじと声を出して礼人にお願いをする。礼人は二人に笑顔を見せた。

「よし。シミュレータを使わせてもらうから、俺が隊長に許可とってくるわ。お前らは先に訓練室に行ってろ」

「分かりました!」

 二人が声を揃えて返事をした後、礼人は雪音を探しに管制室を出た。それを確認すると、二人は駆け足で管制室を出て訓練室へと向かった。



 二人が訓練室に着いたおよそ五分後に、礼人が訓練室に入ってきた。

「隊長が言ってたんだけどよ、一時間ほどシミュレータは使うなってさ。さっきの模擬戦の結果の解析をしたいらしい」

 勇気と恵良が頷く。

「代わりと言っちゃなんだが、少しストレッチなり筋トレなりしといてくれ。今から準備する」

 二人は声を合わせて、分かりました、と返事をした。

 すると、礼人が二人に近づき、二人の肩を叩いた。勇気の肩が少しビクつく。

「いいか、さっきの話は話半分に聞いておけ。お前らが心配するような話じゃねえからな。まあ、もしかしたら首を突っ込むことになるだろうが。とにかく、今は頭の片隅に置いておくだけにしろ」

「……分かりました」

「分かりました」

 二人が返事をすると、礼人は、よし、と言ってトレーニングの器具を出すために訓練室の奥へと消えた。

 礼人が訓練室の奥に向かっている間、勇気はどうしても雪音の言ったことを考えてしまっていた。いざ訓練室に入り訓練をするという時になっても、まだ彼の心の中に渦巻いているものが晴れない。

 どうしても、話半分には聞くことができなかった。心の中に渦巻いているものが、いつまで経っても渦巻いたままになっている。勇気は少し俯いて心の中を整理しようとするが、中々晴れてはくれない。訊かなければよかったという後悔の念さえ、彼の頭の中に浮かび始めている。

「――勇気さん」

 恵良が勇気に声をかけた。彼は驚いた顔をして恵良の方を向く。

「……なんですか?」

「隊長の話のことを考えてたんですか?」

 勇気はこれに黙って頷いた。

「今は礼人さんの言う通り、頭の片隅に置いておいた方がいいですよ。勇気さんがどれだけ国のことを思って戦っているのかは私にはとても伝わります。でも、今は我慢しましょう」

「……はい。ありがとうございます」

 勇気は恵良に頭を下げた。自分がどのような思いをして戦っているのか、恵良が理解してくれているような言葉をもらったからだ。それに、彼女も当初は顔色が悪かったが、今は割り切ったような表情をしていた。自分も立ち直らなきゃいけない――彼は彼女の姿勢を見て、頭を下げたまま思っていた。

 そんな勇気に対して、恵良は少し動揺していた。申し訳なさそうな表情をして勇気を見ている。

「そ、そんな、私に頭なんて下げないでください。私は別に怒ったわけじゃ……」

 すると、準備を終えた礼人が戻ってきた。しかし、何か不思議そうな表情で二人を見つめている。それに気づいた恵良は礼人に話しかけた。

「礼人さん、どうしたんですか?」

「お前ら二人同期なのにさ……、なんで敬語で話してんの?」

 礼人は勇気・恵良の順に人差し指を向けた。二人はそんなことは考えてもいなかったので、互いに顔を見合わせたまま固まってしまった。

「いや、なんでって訊いてるんだけど」

「……そんなこと、考えてもいませんでした。ところで、なんで礼人さんは自分と恵良さんが同期だってご存じなんですか?」

「お前らが『入院』してるとき隊長に教えてもらったんだよ。てか、同期同士で敬語使うなよ、気持ち悪い」

 礼人は目を瞑り舌を出して吐くような素振りを見せた。すると、勇気が首を少し傾げて礼人に尋ねる。

「ですが、賢さんは皆に対して敬語ですよね。なんで注意しないんですか?」

「あいつは『敬語じゃないと気持ち悪いんです』とかぬかしやがっていつまで経っても変えないんだよ。んで、お前らもそういう性質たちか?」

「いや、そんなことは無いんですが……」

 隊長にタメ口を使う礼人先輩もどうかと思うと感じながら勇気がしどろもどろに答えて横を向くと、恵良が彼の方を向いていた。

「……どうします? 確かにここに入る前は同じ階級の人にはタメ口で話してましたけど……」

「え、いや――」

 恵良の話を聞いて、確かに自分も討伐部隊に入る前は同階級の人とはタメ口で話していたことを思い出した。しかし、なぜだか勇気は彼女と話すときには敬語で話してしまう。だが、賢と同様にタメ口に抵抗があるわけではない。それは恵良も同じであった。

「……お前ら、自分の名前を異性に呼び捨てで呼ばれて照れちゃうのか? それとも他人に呼び捨てで呼ばれるのは大丈夫で、お前ら同士で呼び合うと照れちゃうのか? あ。まさか、お前ら同士で何か意識しあってるとか――」

 ついに礼人がニヤニヤしながら変な想像――もしくは妄想と言うべきか――をし始めた。二人は顔を赤くしながらたまらず声を大にして、そんなことはありません、と同時に反論した。なお、声が被ったので叫んだあと二人は顔を見合わせ、顔を耳たぶまで赤くして俯いた。

「――っと、今のはジョークだ。どうする? タメ口で話すかそのまま敬語にするか。俺はタメ口にしてほしいが」

 にやけている礼人の言葉の中に圧力は見られない。だが、強制力がないからと言ってそのまま敬語でいるのも変な気がする、と勇気は思い始めていた。さらに、自分は恵良と知り合ってから一週間ほど経ったので、タメ口で話してもよいのではないかと彼の心は変わっていった――礼人ら先輩たちに変に思われたくないというのも心中に一抹かはあるが――。しかし、未だに彼女に対する照れと気恥ずかしさは残っていた。

 だが、勇気は思いきった。

「……タメ口で、話そうと思います。恵良さん、いいですか?」

 恵良は心底驚いたような表情で勇気を見ている。彼の顔つきは真面目だが、照れと気恥ずかしさで真っ赤になっている。

「――はい、そうしましょう、勇気さん」

 恵良も顔を真っ赤にして俯きながら了承した。二人は礼人の顔色を窺うために礼人の方を向いた。

「お前ら、まだ敬語だぞ」

 礼人からツッコミが入ると、二人の首は間代クローヌスが入っているような不自然な動きで互いの方を向いた。

「これからは……タメ口で、話……そうか、――恵良」

「……うん、――勇気」

 二人は恥ずかしさのあまり互いの顔を見ることができず、唯々顔を両手で覆うことしかできなかった。すると、礼人がパンと手を叩く。

「悪いな、俺のわがままに付き合わせちまって。まあ、これからはタメで話せや」

 二人はまだ赤みが収まっていない顔を礼人に向けて頷いた。

「少し時間を食っちまったが、それじゃ、訓練開始だ」

 二人は声を揃えて返事をした。勇気は、恵良との新しい関係が始まったと感じていた。




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