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第五十九話:繋がる2つ




 そこは、古びた洋館の一室。錆び汚れたその洋館で、その部屋は優しい色に包まれていた。

 桃色の壁紙は、白いウサギが点々といくつも描かれており、その部屋に2つと置かれたベビーベッドにはとても小さな命が2つ寝かされていた。




「この子たちは、産まれてすぐに離ればなれになるのか…」




 そんな2つの小さな命に、白いスーツを着た黒髪の男。男は、そっと2つの小さな命の頬に指先を触れさせる。



「あー…うー」


「……うー」




 そんな男に、目覚めた2つの小さな命は小さく笑みを浮かべる。無邪気に純真に、これから起きる事を知らずに彼女達は笑みを浮かべる。




「あなたのせいでは、ありません…」




 優しく男に声をかけた女性は、窓辺の木目調の椅子に腰をかける。それから、青く透き通る空を見上げる。雲1つない青空である。




「すまないな。俺がこんな組織などを作ったばかりに…」



「あなたは悪くない。この理不尽な世界に疑問を持つ事は罪じゃない。それを変えようと、あなたがやった事は…正しい事。私は、信じてる」




「アルテシア……」




「組織はあなたが思うより、深くなった。それだけ、あなたが望んだ物にならなかっただけ…あなたは悪くない。悪いのは、そんなあなたの気持ちを利用して組織を悪用した者たち……」




 アルテシアと呼ばれた女性はゆっくりと立ち上がると、2人の娘たちが寝かされるその前で佇む男の頬にそっと手を宛がう。それに男は自分の顔を寄せ、ゆっくりと目を瞑る。




(俺はただ世界の不条理を見過ごせなかっただけ…。俺はただそんな不条理に苛まれる人たちを助けたかっただけ…)




 男はゆっくりと瞑っていた目を開ける。そこに見えるのは、穏やかに笑う最愛の女性。自分とベッドに眠る2人の娘たちに微笑みを向ける最愛の妻。




(やっと、俺にも分かったよ。守るべきは目の前にある。何を守るべきかを見定めろ。貴方の言われた事が今になってやっと俺にも理解できる……)




 そんな男はその部屋を後にする。ベビーベッドに寝かされる2人の娘たちの内、1人を抱き抱え。ベビーベッドに寝かされる2人の娘たちの内、1人を部屋に置いていって…。父親である男はその部屋を後にする。



 自分の作った組織は、暴走し始めた。自分の思想とは違えた行動を取り出した。自分を除く、組織の幹部たち。彼らは世界に戦争を仕掛けるつもりだ。そして、その糧として組織のボスである自分の娘たちを利用するつもりだ。




 逃げなければならない。逃がさなければならない。どこか遠い土地へ。彼女たちが幸せに、何も知らず平凡な世界で暮らせる場所へ。1人は自分が、1人は妻が…。




「なぁ、お前はどこに行きたい?」




「あー…うー?」




 名も無い小さな娘は、ただひたすらに笑みを浮かべる。ただひたすらに、不甲斐ない父親である自分の顔を見て、笑みを浮かべるだけなのであった。







―――――――

―――――

―――

――







 夢を見ていた。黒ミリタリー男の自爆に気を失ってしまった空海柊は、目を覚ます。そして、ついさっきまで見ていた不思議な夢の事を思い出す。

 それは本当に不思議な夢。見たことのない男と、見たことのない女の夢。そして、隣に寝かされていたのは……



(……柚子?そうだ、柚子はどこです!?)




 そこで、柊は自分を爆発から守ってくれた柚子の事を思い出す。



(くっ、邪魔です…)



 柊は柚子を探そうと立ち上がろうとする。だが、彼女は立ち上がる事が出来ない。爆発の勢いで、商店街の一角は瓦礫がれきの山と化していて、柊の体はその真下に位置していた。幸い、上半身は潰されずに済んだが、足。柊の足には、重く固い商店のコンクリートがのし掛かっている。




 パチパチと燃える音が聞こえる。そして、暑い。どうやら、商店街は爆発の影響で燃えているようだ。




「……うぁ……っ」




 と、そんな柊にどこからか苦しそうな呻き声が聞こえる。




(柚子!?)




 柊は頭だけを振り、辺りを確認する。瓦礫の山の下では、光も中々に入ってこれず薄暗い。かろうじて、呼吸と這いずり回れるくらいの隙間はあるものの。やはり、体は思うようには動かせない。と、柊は自分が倒れる空間から、やや右斜めにあるクマのぬいぐるみを見つける。




(これは…柚子の方のぬいぐるみ…?)




 そのクマのぬいぐるみは、数日前のクリスマスにサンタから貰った自分と柚子お揃いのクマのぬいぐるみ。どうやら、自分のぬいぐるみはどこか別の場所に行ってしまったようだが、柚子のぬいぐるみの方は遠くに飛ばずに直ぐ近くに落ちたようだ。そんなぬいぐるみの片腕がもげている事に柊は気付く。



 そして、柊は片腕の取れたクマのぬいぐるみを見つけると同時に、それの隣で倒れている柚子を見つける。




(良かったです。早く、ここを抜け出して家に帰るです……)




 あぁ、良かった、助かった。2人とも無事に助かったのだ。柊は、数週間前の幸せだった時間を思い出す。あの時は、全然そんな風には感じなかったけれど、いまとなっては、あれが一番自分が望んでいた世界だったのかもしれない。柊は、のし掛かるコンクリートから足を抜こうと力を入れる。




「っ!?」




 抜けた足を引きずりながら、柊は狭苦しいガレキの隙間を移動する。ずさりずさりと這いずる柊に体の至るところから痛みが走る。どうやら、爆発で体を強く打ち付けたようだ。柊が少しの距離を移動するだけで体のそこら中に痛みが走る。




(……も少しです。も少しで柚子に手が届くです)




 だが、それでも柊は動きを止めない。ずっと、気になっていた。どうしてだろう。自分は柚子に言い様のない安心感を覚えている。何故だろう。自分にも分からないこの気持ち。柚子も同じ気持ちなのだろうか?




 柊はそんな事を考えながらずさりずさりと少しずつ柚子の倒れる場所へと向かう。と、そこで柊は気付く。柚子の周りの異変。詳しく言うなら、柚子が自分にやや背中を向けて倒れる地面にある異様。何やら色が、赤くないか?何か水みたいな物が地面に湿って、まるで雨で濡れたように、それでいてつんと鼻を貫く鉄の匂い……これは一体?




(……血だ)




 ぐちゃりと濡れるそれは血。時間が少し経過しているためか、柊が指先で触れるとネバリとそれは凝固しはじめていた。しかし、これは誰の?そこまで考えて柊に言い様のない寒気が背中を襲う。




(ゆ、ず……ゆず、柚子!?)




 言わずもがな、それは爆発から身を挺して柊を助けてくれた柚子のもの。彼女の背中は火傷を追い、さらには無数の傷痕が痛々しい程に残っていた。




「くっ!?」




 柊は頭痛のする頭でいまだ定かではない記憶の糸を辿る。爆発があったあの時。柚子は自分を衝撃から守るために覆い被さり、そして、風圧で飛ばされた後も爆発で飛んでくるいくつもの尖った瓦礫から自分を守ってくれていた。




(そんな、柚子?……は、早く、早くっ!!)




 柊は柚子の体をゆさゆさとゆする。息は、しているようだ。だが、息をする柚子の表情は、やはり苦しそうだ。早く助けなければ、傷を早く手当てしなければ。柊はガクガクと震える口元を一生懸命に食い縛る。

 怖かった。柊はとても怖かったのだ。柚子が血を流している。それも大量に、死にそうなくらいに。人が目の前で死を迎えようとしている。柊は普通ならばこんなあり得ない非日常な状態に恐怖感を覚える。




(死んじゃう……死んじゃうよ……柚子が、柚子が、柚子が……柚子が死んじゃうよ!?)




 涙が出てくる。鼻水が出てくる。止まらない嗚咽と震え。死なないで、死んでしまう、死なないで、死んでしまう?あまりの突然の状況で柊は何をしたらよいか分からない。ただ、ガチガチと止まらない口元の震えが舌を噛みそうだ。ただ、ガタガタと震える体が今にも吹き飛んでしまいそうだ。

 どうしよう?どうしよう?どうしよう!?どうしたらいい!?何も思い浮かばない。どうしたら良いのか考えられない。




「シバの部隊は、徹底的にこの街を潰していくつもりでしょうね」



「あぁ、どうやら、そのようだな…」




 と、そこへ瓦礫の向こうから人の声。1人は女性で、もう1人は男性。




(あぁ、神さま…)




 助かった。柊は偶然か奇跡の出会いに感謝した。人がいる。瓦礫を抜けた向こう側に助けを求められる人間がいる。




(待っていて柚子。私が、私が助けをいま呼んで来ますからね)




 柊はいまだ爆発の影響でズキズキと痛む体に鞭を打って瓦礫の山から這いずり出ようと体を動かす。




「ビシュヌ、もう良いだろう?行くぞ!?」



 だが、そんな柊の思いとは他所に2人は先を急ごうと歩き出す。



(待って!?私たちはここにいる!!助けて!?柚子が、妹が、怪我をして…)




 ビキビキと傷んだ体から所々に痙攣が走る。痛い!痛いけど、それどころじゃない。助けて!待って!柚子だけでも、彼女だけでもいいから…。柊は痛むからだを動かし必死に瓦礫の山から這い出る。




(待ってお願い、お願いだから、お願い、だから……)




 やっとの思いで瓦礫の山から這い出た柊は先ほどの2人の人物を探す。

どこだ?どこにいる?と、柊はすでに百メートルは離れてしまった3人の人影を見つける。一番前に白い服の男性。次に桃色の服の女性と最後にスーツを着た男性。彼らはいまだ瓦礫の山から這い出た柊には気付かない。立ち上がらなければ。柊は必死に力を入れて立ち上がろうとする。が、足に力が入らない。どうやら、爆発の影響で腰から下の体が思うように動かないようだ。

 しかし、そんなことをしている間に3人は遠くへと行ってしまう。立ち上がることが出来ないのなら、声を出すまで…。柊は地面に這いつくばったまま3人に助けを求める。助けてくれと声を出そうとする。




「……っ……あっ!?」




 だが、声が思うように出ない。助けてくれと言う一言が柊の口から出てこない。どうやら、ここにも爆発の影響があるようだ。喉がやられて柊の声が声にもならないかすれ声として商店街に響く。




「(……てっ……けてっ……たす……)」




 だが、届かない。無情にも一番後ろにいるスーツ姿の男性にさえ柊の声は届かない。もう駄目だ。3人とも自分が見える位置にいない。声が聞き取れたとして倒れる自分の体は瓦礫の山で見えない位置にある。




(……助けて、助けてよ……助けてよ、あにぃぃぃいっ!?)




 体が痛い。骨が折れているのかもしれない。ズキズキとわき腹に痛みが走る。信じられないほど足に感覚が感じられない。だけど、それがなんだ。頑張るべきはいまなんだ。柊は必死に立ち上がる。ビキビキとひきつる体に言うことを聞かせて、去り行く3人に助けを求めるために立ち上がる。




「(たす、けて…たす…けて)」




 聞こえてない。振り向かない。一番後ろにいる男性は全く振り向こうともしない。駄目だ。もう駄目だ。力が湧かない。立っていられない。声が、もう、出てこない。




「(ふぐぅ、ふえぇ、うえぇっ……)」




 助けての一言さえ言えないのに、出てくる鳴き声だけは一端だった。涙が止めどなく流れる。鼻水がだらだらと出てくる。悔しい、悔しい、悔しい!!こんな自分が悔しくて堪らない。柚子は自分を助けてくれた。身を挺して爆発から、飛び交う鋭い瓦礫から守ってくれた。なのに、なのに、自分はどうだ!?何も出来ない。傷付いた柚子を助けることも、助けを呼ぶことも自分は何1つ出来ない。




「(…たす…て…ねがい……おねがい…から……)」




 もう、駄目だ。もう、聞こえない。もう、気付いて貰えない。




「(…おねがい…らから…おねがいらから…)」



 自分はいいから、自分は助からなくていいから。助けて、おねがいだから。助けて、おねがいだから。柚子を、大切な妹を助けてよ!!おねがい、だから……






「たす…けて…」






 いままで1番大きな声だったであろう。かすれた声の中、柊が絞り出すように出した声。でも、届かない。結局1番後ろにいる男性に柊の声は届かなかった。ふらふらっと柊の体が揺れる。もう、立っていられない。声も出ない。もう、どうにも、ならない。




「あっ…」




 そんな消えそうで切ない声が聞こえた。それは自分の声じゃない。自分の声じゃない。では、それは誰の声?柊はふらふらっと力の入らない足で踏ん張り、顔をあげる。

 綺麗な女性。金色の髪を靡かせて、ゆっくりとゆっくりと近付いてくる女神さま。それは、先ほどの3人の内、真ん中にいた女性。




「いま、いま行きます。大丈夫ですか?怪我をしているのですね?大丈夫。もう大丈夫ですから…」




 その女性はそう言うとふらふらっと倒れる柊を抱き抱えようと手を伸ばす。




 良かった。柊の頭にそんな言葉が思い浮かぶ。役にたった。柚子を助けてあげられる。柚子のために助けを呼んであげられた。柊はゆっくりと自分を抱えようと手を伸ばした金色の女性に身を任せようと前へと倒れる。




(良かった、助かる。柚子は助かるんだ…)




 だが、そう思ったと同時に柊は目にする。信じられないものを目にしてしまう。先ほど金色の女神と一緒に歩いていた白いマントをした男。その男は腰にさした剣を取り出すと、思い切りに真上へと振りかざす。




(危ないっ!?)




 柊は金色の女性が狙われていると、彼女にそれを告げようと口を開く。だが、声が出ない。声が出せない。あぁ、どうして!?なんで!?柊はいま起きている状況が分からない。仲間であるはずの金色の女性に何故、白いマント服の男性は剣を向けるのか…。柊は必死で金色の女性に伝えようとする。声にならない声で、思うように動かない体で…。




 だが、それは金色の女性を狙ったものでは無かった。その振りかざされた剣は金色の女神を切り裂くものでは無かったのだ。禍々しくも振りかざされた白いマント服の男の剣。それは……




「!?」




 それは、いましがた助けを求めた自分。柊へと向けられた斬撃であった。




(……ゆ、ず)




 ざしゅっ!!と、斬られた柊の体がはね上がり、金色の女性が驚いた表情ではね上がった柊のその体を抱き抱える。




「ぶ、ぶらふま?…ブラフマー?…ブラフマァァァァアッ!?」




 金色の女神がそんな白いマント服の男に怒号をあげる。叫びともとれる怒号で男に怒りをぶつけている。そんな金色の女神の叫びを聞きながら柊はゆっくりとゆっくりと、真っ暗な闇へ意識を落としていくのであった。







―――――――

―――――

―――

――






「どういうつもりだ、飛鳥?」




 紺のスーツに身を纏ったやや厳つい顔の男が赤ん坊を抱えた白スーツの男に話かける。



「ですから、この娘を預かって頂きたいのです…」




「この子は、お前の娘なのだろう?」




「はい。アルテシアとの間に出来た双子の娘です」




 白スーツの男は紺のスーツの男に自分の娘を渡す。渡された男はやや困惑した表情を見せるが、ぱちくりとまん丸の目玉をさせた赤ん坊にその厳つい顔を緩めてしまう。




「飛鳥、お前。あの時、イレイサスでの戦いの後、俺たちの前からトムと一緒に消えちまった後に何があった?もしかして、いま世間を騒がしているテロ犯罪組織『crown』となんか関係あるんじゃないだろうな?」




「それは…」




「あるんだな?なら、教えろ。このテロ犯罪組織『crown』は、イレイサスで俺たちがぶっ潰した兵器開発機関となんか関係あるのか?いや、率直に聞く。こいつらはあの時と同じ奴らなのか!?」




 紺のスーツの男は、益々に顔を厳つくしかめて白スーツの男を睨み付ける。白スーツの男は何も語らない。ただじっと紺のスーツの男を見ている。




「お前が『crown』なのか?」



 それに対し紺のスーツの男は容赦なく質問を問いかける。だが、やはり白スーツの男は答えない。




「答えろ、飛鳥あすか ながれ!!お前がテロ犯罪組織『crown』なのかと聞いている!?」




 怒号をあげる紺のスーツを着た男。だが、それでも白スーツの男は答えない。




「……答えろ、流」




「流…か」




 白スーツの男は呼ばれた自分の名前にゆっくりと息を吐く。


「貴方だけでしたね?私の名前を下の名前で呼んでくれたのは…。他の人たちは、名字の飛鳥が私の名前だと思ってそちらばかりを呼んでいましたから…」



 白スーツの男はそう言うと紺スーツの男に背を向ける。




「待て、流!!話はまだ…」




「いずれ、また出会えます。その時は、テロ犯罪組織『crown』の飛鳥流として、貴方の敵として」




 男はゆっくりと歩き出す。振り返ることなくただ前を見て。




「娘を頼みます。私が頼れるのは貴方だけですから…。名前はまだありません。貴方が付けてあげて下さい。貴方が名付け親なら妻も喜びます」




「一体、何だってんだ…」




「次期に分かります。では、また会いましょう、玄治先輩」




 そうして、白スーツの男は消えていく。残されたのは紺のスーツを着た厳つい顔の男と、くりくりとまん丸目玉でその男の顔を凝視する小さな赤ん坊。




「ちっ、こっちにだって都合ってもんがあるんだぜ、なぁ、流よ〜?マリアの奴が居なくなっちまって、それで夏樹がぶっ壊れちまって、しまいには養子をお願いしてた施設から、女の子が家に来ちまって……」




 がりがりと男は頭を掻きむしる。全く、どうなってやがる。本当は飛鳥流にもっと話を聞きたかった。テロ犯罪組織『crown』について洗いざらい吐いて貰うつもりだった。赤ん坊の話を聞く前の自分はそれほど怒りに燃えていた。妻のマリアとイレイサス王国と組織『crown』。

 だが、それもこの表情いっぱいに笑う赤ん坊の前では消え失せてしまった。それほど、それほどの笑顔。そう、まるで、天から降りた天使のような…。




「あぅー…ぅー…」




「ふっ、夏樹もこの子に触れればぶっ壊れた心も治るかもな…」




 妻が自分たちの前から消えてしまった。それは、分かっていたことだった。想定していたことだった。ただ、母を無くした息子があれほどに心を壊すことになるとは、自分でも予想外であった。




「やっぱり、あいつの中にあるんだな。奴らが作った最も忌々しいモノが…」




 息子に背負わせた十字架。取り返しの付かない運命。あの時は良い方法だと思っていたのに、まさか、いまになって息子の方にその症状が表れるとは…。




「……ぅうー…あうー…」




「あー、よしよし、家に帰ろうな。これからお前は空海家の娘だぞ」




 男はゆっくりと歩き出す。後悔したところで始まらない。一度歩んだ道を振り向けど、戻ることは許されない。ならば、まだ見ぬ未来で取り返せば良いだけの話。だから、男は立ち止まらない。決して、歩みを止めようとはしない。真っ直ぐに、ただひたすら真っ直ぐに…。




「あぁ、そうだ。決めた…」




 男は手にある新たな家族を抱え天を仰ぐ。にっこりと笑う赤ん坊の笑顔の下に空海玄治は、その娘に名前を付ける。




「鬼をも退け、魔を祓う。幸せを運ぶクリスマスの日、必ず飾る幸福の象徴」




 娘はいまだくりくりまん丸の瞳を輝かせ、自分を天に掲げる男を凝視する。そんな娘に男はにこやかに笑い一言告げる。




「お前の名前は柊だ」




こんにちは。

お久しぶりのオオトリでございます。いままで散々言ってきたキーワード、お分かり頂けたでしょうか?つまり、月影とブラフマーが合い対峙した場所と柊柚子の修羅たちとの対峙の場所が同じ商店街の一角であり。それを繋げる物が八百屋・加賀の看板、であったという訳なのですが?

そして、ついでに言うとビシュヌがその時、助けたピンクのトレーナーを着た少女、それが…。





とりあえず、第五十九話目でございます。繋がる2つ。繋がったのは何も話だけではございません。その話に出てくる2人の人物。数奇な彼女たちの運命。そして最後にそんな彼女たちを待つ、驚きの波乱の予感。……あくまでも予感(笑)




あぁ、もうそろそろ大詰めだって感じなのに、また変な所で話が大きく…。本当にこれ終われるのでしょうか?途中で投げっぱになりそうなヘタレな自分が居ます(笑)。




しかし、ここまで読んで下さっている皆様の期待と自分の欲望の限り、この小説・心からを書いていきたいと思います。皆様、変わらぬ暖かい視線と応援のほどをよろしくお願い致します。(よろしければ、感想欄やメッセージにでも感想を書いて頂けると作者の意欲と力になりますのでそちらもよろしくお願い致します)




それでは、今回はこの辺りで失礼致します。ありがとうございました。




そして、残るは桜子の出生…。




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