表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/67

第五十六話:交錯する者たちの戦場(2)『柚子と柊と』




「……柚子?」




髪を逆上げした中国服の男は柚子の名前に不可思議な表情をする。



「あらあら、アドバンスのメンバーが自分で名前をつけるなんて…うふふ、いけない子」



それに和服の女がころころとにこやかに笑いながら中国服の男の腕に自分の体を抱き寄せる。




「うふふ、修羅様。もしかして、7号は、エクスネームを組織のどなたかに与えられたのかしら?」


「さて、我の方ではそのような事は聞いてはおらぬな。7号はエクスネームを得る前に組織から逃げ出したと聞いている」




修羅と呼ばれた中国服の男は己の腕に抱き付く和服の女を見てそう答える。




「そうなのですか?ふふっ、まぁ、柚子ちゃん?と貴女の事はそう呼びましょう。それじゃあ、行きましょうか?修羅様が直々に迎えに来るなんて本当はあり得ない事なのよ?うふふ…」




と、和服の女が柚子に手を差し伸べた。それに対して、社の腕に抱き抱えられていた柚子は地面に降り立ち、その腕を…と歩み出す。




「柚子?」




それに柊が声をあげる。



「…だめ…駄目です、柚子!!」




更に大声を上げ柚子を止めようと柊は柚子の前まで走り出す。行っては駄目だ!その手を取っては駄目だ!!柊は柚子にありったけの声で訴える。




「柚子は私の妹でしょ?柚子は姉の妹でしょ?柚子は兄の妹でしょ?柚子は私たちの家族でしょ?」




だが、それに柚子は答えない。じっとそれを見詰めているだけ。じっと柊が喚くのを見ているだけであった。



「……柚子ちゃん。君はその男の仲間なのか?」




さらに社が柚子に話かける。お前はその修羅という男の仲間なのか、っと…。




「うふふ、そうですの。柚子ちゃんは、私達『ユニファイ』のメンバーですわ」




黙して語らない柚子に、和服の女が代わりに答える。




「ユニファイ?……クラウンと違うのか?」



社がそう問うと、今度は髪を逆上げした中国服の男、修羅が答える。




「クラウンとは、似て非なる存在。我らは全ての総合であり、頂点である。『crown』つまり、『王冠』は、その意味であり。我らはそれを持つ者の集まり」




「……つまり、結局はお前たちもこの街を襲うテロ犯罪組織という事で良いのだな?」



「うふふ、違うわ〜。テロは過程であって目的では無いの〜。私達は、世界を再生させる為に仕方なくテロ行為をしているのよ〜?」




和服の女が、そう答える。社はそれに『なるほど』と、相づちを打ち…。




「腐っているな、犯罪者!!」




そして、びぎりと犬歯を立てて2人を睨み付けた。




「……うそです」




ぽつりと柊が言葉を漏らすように声をあげる。




「柚子は違います。柚子はテロリストじゃないです。そんな他人を…兄を…傷付けるような犯罪者じゃないです!!」




だって、そうでしょう?いまだ、黙して語らない柚子に柊はそう問いかける。

あんなに楽しそうに暮らしていたじゃないですか?あんなに楽しそうに笑っていたじゃないですか?兄は貴女を妹だと、大切な家族だと言いました。だから、私も貴女を妹のように思いました。そりゃ、最初は兄を取られるのではと心配もしました。でも、今は同じく兄を思う妹として、姉妹として貴女を大切な家族なんだって…。

なのに、テロリスト?

兄を傷付けて…父を奪った…犯罪者!?

違う。柚子は違う。今は違う。今は兄を思う。私と共に思う。大切な家族なんだ!!

そうでしょう、柚子?と柊が柚子にその小さな腕を差し伸べる。悲しく切なく、いまテロリストに戻ろうとする妹に行かないでっ、とその手を差し伸べる。



「……邪魔」




「!?」




だが、その差し伸べられた柊の小さな思いは、柚子によってびしりっと軽々しくも振り払われてしまう。

じんじんと熱を放つ差し伸べた右手。柊は左手でそれを胸に抱えながら柚子の行動に驚いた顔をする。




「……家族?……兄?……妹?……笑わせないで……」




そんな柊に柚子が、心底、滑稽だと失笑を浮かべる。

馬鹿じゃない?何が兄?何が妹?何が大切な家族!?




「馬鹿じゃないの?……私は今も昔も『ユニファイ』の殺し屋。一時を過ごしたのは空海夏樹を観察するため……家族?……はっ、笑わせないで…」




心底、詰まらなそうに柚子は目の前に立ちはだかる柊の体を強く押し退ける。グイッと押し退けられた柊は、柚子の言葉に柚子の今までに見たことのない表情に力が入らず、そのまま地面へと倒れ込んでしまった。




「……じゃあ」



もはや、表情は形を成さない。悔しくて、悲しく、やりきれなくて、柊は顔を地面に向けたままあげられない。だから、地面を見詰め、涙を必死にこらえ、柚子に聞いた。




「あれも、嘘だったですか?」




ゆっくりと、涙をこらえて、繰り返し出てくる嗚咽をこらえて、柊は柚子に聞いた。




「初めて出会った時、私と初対面で兄を取り合いましたよね?」




ふるふると地面に着いた両手が力を制しきれなく震えを生み出す。



「それからことあるごとにどちらが兄と仲良くするか競い合ってきましたよね?」




もはや、涙は瞳に留まっていてはくれない。きらきらと光るそれは柊の綺麗なその瞳から砂利の地面へと流れ落ちていく。




「クリスマスの時、サンタのお話を一生懸命に聞いていましたよね?姉の作ったケーキを嬉しそうに、兄と姉と私と一緒に食べましたよね?お正月は凧も上げました、コマも回しました、それ以外にも少しの時間だったけど楽しく、笑って過ごしていましたよね?」




思い出す思い出は短く少ない。でも、それでも、それは幸せで楽しい時間だった。幸せで楽しい毎日だった。よく笑った。よく遊んだ。よく一緒に…




「……あれも?」




過ごしたじゃないか!?それも、それも全て…




「あれも全て、嘘だったと言うですか?」




全て、嘘だったというのか?




否定して欲しかった。違うと言って欲しかった。テロリストの仲間に戻ろうとしたのは、自分たちにテロリストが危害を加えようとしない為に仕方なくと、柚子に笑って欲しかった…




「そう。全ては組織の為に。全ては統合する世界の『ユニファイ』の為に。私は貴女方を利用した。私はアドバンスチルドレン。組織『ユニファイ』によって造られた戦闘兵器…」




だが、答えは柊のそれを遥かに上回った現実。現実とも付かない非現実な現実。



戦闘兵器?誰が?柚子が?自分と変わらない歳なのに?同じく子どもと称される存在なのに…兵器?




沈黙は驚愕する柊に耳痛い、心臓の鼓動を打ち鳴らし。黙して、柚子は中国服の男と和風の女と共に柊から去っていく。

柊はもはや、言葉が出ない。決定的に別れを告げられたのだ。お前とは住む世界が違うのだと…




「くっ、待て!まだ、話は…」




それに、社が柚子を止めようと去り行く3人の前に立ちはだかる。




「うふふ、拾った命を大切に使うのよ、少年くん少女ちゃん。本当は、この街の住人は全て抹殺することになっているのだけど…」



だが、それを見て和風の女がにこやかに社を退ける。やんわりと体を押された社に次は…



「7号に免じ、貴様の命。いまだけは見逃してやろう…だが…」



「ぐっ!?」




修羅が社の首を掴み、信じられない力で締め付けてくる。ゆっくりと手を伸ばしたはずの修羅なのに社は避けられなかった。なにを思ったか、気付いたら首をその大きな腕で締め付けられていた。

ぐぐっと修羅が、社の目の前に顔を近づける。あまりにも鋭い眼光。本当にこの男は人なのだろうか?その姿はまるで鬼。




「いまさらに邪魔をするというのならば……いま、お前を殺す!!」




社は動けない。

修羅と呼ばれる男の気迫に押し負けた。

ぱっと離された首に安堵を覚え、座り込んでしまう。もはや、戦う意思はない。己を兵器と言う少女、テロリストの仲間だと言う少女。その少女を闇へと誘う鬼のような男。ただそれを見送るしか出来ない自分が情けなく、社は唇を噛み締める。広がる血の味が嫌に印象的で、あまりにも無力な自分に戒めさを感じさせられてしまう。




もう、誰も止めない。誰も止められない。柚子を止める者は誰1人として居なくなった。柚子の決定的な別れの言葉によってその思いを砕かれてしまった柊。修羅のあまりにも鋭い眼光と恐ろしい姿に戦う意思を根こそぎ削がれてしまった社。黒いミリタリー服の男の襲撃によってその身を焦がしてしまったカルロス。

もう誰もいない。もう誰も去り行く水色の少女を止めることは出来ない。

こうして、幸せを求めた少女は結局、平等という世界によってはめられた足枷に、再び闇へと体を堕としていく。もう、少女の瞳には幸せという希望さえ見えなくなっていた。












「っがぁあああああああああーーっ!!」




瞬間、終わりを告げて静けさを保っていた商店街にそれらをぶち壊して男の叫び声が上がる。




「うつ…み…うつみ…うつみうつみうつみ……うつみをころせぇぇえーっ!!」




そこに現れたのは、黒いミリタリー服を着た男。体には数えきれないくらいの手榴弾を巻き付け、片手には黒く光る不気味な刃のナイフを携え、叫び声を上げる、その男。

ズダボロに破れた黒い服は何者かに鋭い刃で斬られ、ぼろぼろに崩れた暗視ゴーグルの傍らからは赤く染まった瞳を血走らせている。



この男、先ほどから仕切りに『うつみを、うつみを…』と叫んでいる事から先ほど襲ってきた黒ミリタリー服の男に間違いない。

だが、一体、いままで何をしていたのか。カルロスに馬鹿げた程に大きい銃を向け放った後、土煙で目標を見失っていたのだろか。

とにもかくにも、黒ミリタリー服の男はいま再び。いま再び、柊たちの前にと姿を現した。





こんにちは。

迷走中のオオトリです。



えぇ、また組織です。またかよ、て感じですが。この組織の存在は前から書いてあったもの…。組織『ユニファイ』に修羅たち『アドバンス?』。

まぁ、ちょっと、また突拍子もない設定が出てくる前兆であります(笑)。




さて、とにかく、第五十六話目です。

柚子は柊たちと離れる事を決意しました。止めたくても止められない柊と何を思うか去り行く柚子。

そこへ再び、黒ミリタリー!?(いい加減、この呼び名は使いにくいです(笑))

この後、一体!?




では、今回はこの辺りで失礼致します。ありがとうございました。




次は、突拍子もない設定的にぼろぼろな感じな話になると思います。ですが、それでもどうかもうしばらく私めにお付き合い頂ければ幸いです…。変わらぬご愛読と応援の程をよろしくお願い致します。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ