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第五十五話:交錯する者たちの戦場





それは組織にて野望を叶えんとする為に作られた兵器。幾重にも重ねられた科学技術によりて、作られたその兵器はまるで現実を破壊するかの如き力を持つ。近代科学とはまるで一世代も二世代も飛び越えた、その科学はまさに魔術。

そう、我らはその魔術によりて造られた怪物。兵器を扱う者こそ兵器と化せよと造られた怪物。幾重に渡り、開始された訓練は拷問で、幾重に渡り繰り返された実験は地獄であった。だが、我らは耐えた。いつか訪れる我らの野望の実現の為に、我ら野望の礎にならん為に。日常を忘れ、家族を忘れ、もはや己が誰であるかも忘れた我ら。なぜ、戦うのか。なぜ、生きるのか。忘れた我らに分かりは出来ぬ。だが、いま我らが存在する理由。我らが生きる理由。我らが野望の為に。




『なんだ、失敗をしたのか?5人もいて、民間人1人始末出来なかったのか?』




我らは、組織が造りし兵器。




『まぁ、いい。俺はこれからビシュヌを始末しにいく。それから、俺直々に空海夏樹を始末すればいい話だ。月影が死んだいま、邪魔者はあの平和ボケしたお嬢様のビシュヌと数合わせで入れてやったシバ様の身代わりのあの男。あとは、このブラフマーが真の主を迎えにいけば、今回の任務は終了だ』




我らは、戦う。組織の野望のために…




『あん?なんだ、まだそこに居たのか?ったく、使えない道具はさっさと……死ねぇ!!』



ナーバ、トラリア、アルセド、リロイ。我らはなんの為に生きてきた?なんの為に任務をこなしてきた?




『っと、なんだぁ?ガルシュから連絡が来やがった。あぁん、ビシュヌが空海夏樹と接触?ちっ、次から次へと問題を起こしやがって。おい、死に損ない。ここに居ろよ。次に俺が帰って来たときがお前の最期だ。部下の後始末くらいは、出来ないと示しがつかねぇからなぁ……』




我らは何のために戦ってきた?我らは誰だ?何の為に生きている。我らはどこで産まれた?我らの故郷はどこだ?何故、我らの記憶は無くなっている。疑問に思わないのか?同胞よ、疑問は沸かないのか?任務につく我らの仲間よ?



思い出したい。我は答えを知りたい。我は誰で、我はどこで産まれて、我はなぜ記憶を失ったのか…。生きなくてはならない。殺されてはならない。




「……私達にはやるべき事があるです。兄である空海夏樹を探すです。だから、まだ避難なんて出来ません」



「……夏樹知る?知らない?」





我とは一体、何者なのだ!?




「空海、夏樹?」




まだだ!まだ、我は死ねぬ!!我はなぜ記憶を失った?我はどこで産まれてどこの誰でなぜ組織で戦っている?我は生きなくてはならない。我は殺されてはならない。




「くっくくく、貴様ら空海夏樹の関係者か?くはっ、くははは、運がいい。俺は運がいいぞ。あのバケモノを取り逃した責任でブラフマー様に殺される所だったが…くくく、貴様らを殺せば、俺の命は助かりそうだなぁ?」




我は己の存在を知りえるまで、死にはしない!















「あっ、あぁ〜……オゥケェ〜。あんたが、まず、組織の戦闘部隊だってのは理解できる」




金髪の男、カルロスは両手を肩まであげて、やれやれと首を振る。この目の前の男は危険だ。カルロスのいままでの経験と生まれ持った勘が、この組織の戦闘部隊の黒ミリタリーの男を危険だと判断した。だから、カルロスはとりあえず、お得意の口上でこの場をやり過ごそうと話しかけた。




「……敵、夏樹危ない……殺す!!」




「んな、物騒な!?ブルーリトル!?」




だが、そんな組織の戦闘部隊の黒ミリタリーの男に穏やかにカルロスが話をしようとした、瞬間。水色の髪をした少女、柚子が男に向かい銃を撃ち放つ。




バキィンと放たれた弾丸は男の顔面にヒットする。硝煙が辺りに立ち込め、苦い匂いが全員の鼻を燻る。




「くくく、たかだか、9ミリの弾丸が我に効くとでも…?」




その場にいた皆が目を疑う。効いていない。確かに弾丸は柚子のそれを飛び出し男に当たった。だが、その放たれた弾丸は弾かれてしまったのだ。まるで、鋼鉄の盾に弾かれたが如く、弾丸は地面へと落ちてしまう。



それから、男が不気味な笑い声をあげながら柚子へと黒く光るナイフを投げつける。




「くくけ、くケケケケっ!?」



「!?」



柚子は動けない。

男が放つ黒いナイフを目視するものの、己の弾丸を顔面に受けても尚生きている敵に驚き、逃げる動作が遅れてしまう。

(……くる……でも、避けられない…)




柚子は真っ直ぐに飛んでくるナイフを見詰めて考える。頭に当たるのだけは避けなければ、せめて致命傷な場所に当たるのだけは避けなければ…。




瞬間、ぐわっと柚子の体が斜め真上に上がる。えっ?と柚子がそちらの方向を見るとカルロスが自分の体を掴み、そちらの方向に引っ張っていた。

しゅん!と風切り音と共に柚子の逃げ遅れた前髪がナイフによってチラリと切断される。間一髪。まさに、柚子の頭とナイフが接触するまでギリギリの距離であった。




「はっ、笑えねぇ?笑えねぇよ、あんた!バケモンを相手に勝てる道理も無いってねぇ!?」




カルロスは投げられたナイフから柚子を自分の方向に引っ張り守ると、黒ミリタリーの男に向かいそう叫ぶ。




「おかしいと思ったんだわ?いくら、組織の部隊だからといって、その装備は無いわと思ったんだわ?」




「なにが言いたいんだ、カルロス?」




急に饒舌に喋り出したカルロスに社は稀有な表情を送る。




「おう、社!逃げるぞ!?ヤバい、コイツはヤバい!!」




「だから、何がヤバいと…」




カルロスはそう言うと、柚子を片腕に抱えると社に柊を連れて逃げるよう告げる。

カルロスは己の中にある、とある妄想に否定の言葉を投げ掛ける。違う、違うって、あれは噂の中の話だっただろうが…!?

カルロスは知っていた。黒ミリタリーの男を。カルロスは知っていたのだ。その男が装備がどのような意味を指しているのかを。




『名も無き死霊たち』




かつて、そのような名前の部隊を組織で聞いたことがあった。それはある実験の為に失敗した被験者たちだけで作られた暗殺集団だとか、薬を射たれ自我を失い死をも恐れぬアンデッド集団だとか…。とにかく、奴らの持つ装備は全てが普通の人間が使うには不適格で、異常な破壊力を持つ物だと聞かされた。そう、彼らはその為だけに作られた集団だとも噂されていた。




組織が作った幾つかの武器の中には、あまりにも人間が使うには危険過ぎると判断され、処分された物がある。それが組織でのルールであり掟だった。組織での前ボスである、とある男が定めたルール。それは後世のボスである月影にも受け継がれた。だが、ある日、組織のある科学者が言った言葉にそれは覆されてしまう。その科学者は言った。己の最高傑作の兵器が処分される様を見て言い放った。



『なら、兵器を使う兵器を作ればいいじゃないか…』




兵器を使う兵器。それはロボットなどではない。生きた人間を使い、兵器を使う兵器に変えるという計画。優等な殺し屋を使い薬浸けにし、無痛無感情無慈悲に造りしソレは人ではなく兵器。戦場にて、ただひたすらに戦果をあげる無情な兵器。己が傷付くことも、他人が傷付くことも恐れない。




いや、それは噂に過ぎなかった。組織にて作戦任務を完遂させる為に作られた都市伝説のような物だと思ってきた。だが、カルロスは寒気を覚える。ならこれは?なら、その噂と符号するこの男は何者なのか?




「……を…うつみを……我……俺……知るために……せ…うつみを…せ…うつみを……殺せぇぇぇえーっ!!」




「!?」



その男のかすれた生気の無いその言葉に、それでいて無情にも叫ぶその男に、その場にいた誰もが背筋に寒気を走らせる。

社も、柊も、柚子も、カルロスのいうヤバいと言う言葉が理解出来た。この男はなにか危険だ。この男はただの人間なんかではない。

カルロスは片腕に柚子を抱え、社が柊を片腕に抱え走り出す。2人とも、商店街の一本道を黒ミリタリーの男から逃げようと走り出す。




「にげるな……にげるな……逃げる、なぁぁああああーっ!!」




だが、それを黒ミリタリー男が許さない。叫びをあげる男は、その背中から黒光りした鉄塊を取り出した。今度は、それを見たカルロスがその場で叫び声をあげる。




「げぇえっ!?ありゃ、ヴィーダルシューズの銃!?弾が20ミリのバケモノじゃねぇかっ!?はっ、当たれば頭蓋がぶっ飛ぶどころじゃ済まされねぇぞ!?はっ、街中に大砲なんて…持ってきてんじゃねぇぞ、バッキャロォーーッ!?」




だが、カルロスのその叫びも虚しく、黒ミリタリーの男がゴツく黒光りする鉄塊を構える。カルロスの感覚がチリチリと熱を放つ。



(狙われているのは…俺か!!)




瞬間、大砲のような爆音が鳴り、シュゴォォォオっというあまりにもあり得ない弾丸が飛ぶ音が辺りに響いた。



「やしろぉっ!!おらーっ、ブルーリトルを受けとれぇーっ!!」



黒ミリタリーの男に狙われていると理解したカルロスは柚子を社の方を目掛けて投げ渡す。


「ひぃぅ!?」




宙に舞った柚子が可愛らしく、叫びをあげる。それを社が上手く柊を持ち抱える反対の方向で受け止めると、次の瞬間。




「ぐっ!カルロス?お前!?」




「おらぁっ、来いぃっ!たとえ頭蓋が割れたとて、俺の刃は弾丸をも切り裂くぜぇっ!?」



カルロスが腰に差した刃渡り30センチの黒光りしたナイフを取り出し、そして、その刃で目の前に迫る小石(大)の大きさの弾丸を切り裂こうと一直線に振り下ろした。




ドンッ!!




腹の奥に心底響くような鈍い音が辺りに響き渡る。パラパラと大砲のような銃によって破壊された商店街の一角が崩れさっていく。




「カルロス!?」




社が弾丸の衝撃で舞った土煙に視界を細め、カルロスを呼ぶ。




「………」




応答は無い。

くそっ!?社はカルロスの生死を確認する間もなく、2人の少女を両脇に抱え走り出す。ここを離れなければ。一刻も早く、あの危険な男から逃げ出さなければ!?

社が満身の力を込めて地面を蹴り上げる。いまだ、土煙の立つ商店街を抜け出してしまおうと、足を走り出させる。




「うふふ、駄目ですよ。逃げて貰ったらぁ…」




「!?」




だが、それは突如現れた1人の髪の長い女に阻まれてしまう。桃色の絹の着物を着たその女。にこやかに社を見詰めるとゆっくりとその場から退く。と、その影にもう1人の人物。背は高く、中国調の服を着て、逆立てた髪は鬼を想像させられる男が立っていた。




「……何者!?」




社に言い知れぬ濁る汗が流れる。何だ、これは?一体、何が起きている?




「久し振りだな……」



中国風の男がゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。久しぶり?言われて社は頭を探る。しかし、この中国の男に見覚えがない。この男は何を言っているのだろうか?




「久し振りと言われるほど、貴方とは親しくなかったと思うが…?」




この桃色の和服を着た女と中国服を着た男。何者なのか?社は、何故、このタイミングで、こうも次々と厄介な事が起きるのかと心の中で舌打ちをする。後ろには、信じられないくらい馬鹿デカイ拳銃をぶっ放す危険な男。前には得体の知れない、和服と中国服の女と男。

敵なのか?テロ犯罪組織の仲間なのか?だとしたら、最悪だ。前門の虎に後門の狼。カルロスが居たならば、軽く何か考えるはずだが…頭の固い自分では!?社は信じられないくらいに爆音を上げる心臓に動揺を隠せない。くそ、くそくそくそっと、額からおびただしい程の脂汗が流れる。




「……7号。組織から逃げて、何処にいるかと思えば、ここにいたのか」




すると、中国服の男が社に話かけてきた。やはり、親しげである。隣にいる和服の女もにこやかに笑い、こちらを見てきている。

やはり、知り合いだったのだろうか?いや、しかし…




「7号?」




この言葉が社には引っ掛かった。7号なんて、そんな番号で呼ばれた記憶など自分にはない。学校の出席番号だとしても、この2人がそんな平和な学校の関係者だとは考えられない。では、一体、この男たちは何者か?




「さぁ、行くぞ。我らの世界はいま確実に近づいている。貴様はその新たな世界の住人となるために生まれたのだ」




「俺は7号なんて名前じゃない、それにあんたとは…」



そこで社は何らかの違和感を感じる。この男、自分を見て喋っていない。顔は確実に自分に向いているが…。視線は僅かにズレている。横?そう横だ!この中国風の男は自分の右横を見て喋っている。と、社はその右横に抱えられた少女を見下ろす。見下ろされた少女は沈黙を保っている。じっと喋りかけてきた中国服の男を見つめている。そして、ゆっくりと閉ざしていた口を開けた。




「……7号違う……柚子!!」




そう答えたのは社の右腕に抱き抱えられた水色髪の少女、柚子であった。



お久しぶりです!

迷走、瞑想、めそめそのオオトリです。はい、もう話が飛んで飛んで収拾がつかなくめそめそ泣いおります。




そんな訳で、久しぶりの第五十五話目です!!本当にもうお待たせ致しました。(……待っている方がいらっしゃるのでしょうか?不安ですね(笑))



えぇ、まずはこんな自己満足のようなぼろぼろの小説をここまで見捨てずに呼んで下さっている読者さまにお詫びと感謝の念を深くお礼申し上げたいと思います。本当にありがとうございます。




さて、この小説、収拾がつかなくなって、はや五十五話目まで来てしまった訳なのですが。

柚子です。最初、七号と呼ばれていたんですね。覚えていらっしゃいますか?(いまは数字で7号になってますけど)

この設定、生きてたんですね。私自身、書いていてびっくりしました。あんた、7号じゃん!?って…。

はい、柚子を7号と呼ぶ、中国服の男。あいつです。しかも、なんか新しいキャラで和服の女性を侍らせてます。


何はともあれ、交錯する者たちの戦場。

黒ミリタリー男が、中国服の男と和服の女が、そして、我らが水色の少女・柚子が…。



それでは、長々と喋らせて頂いたのですが、ここら辺りで失礼したいと思います。ありがとうございました。



ここまで熟読なさって下さった読者さま。どうか、こんなぼろぼろの小説でございますが、今後ともご愛読のほどをよろしくお願い致します。



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