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第四十九話:トライアッド(三者関係)




 平和な国がある。

 その昔、戦争を起こし敗北した国だ。悲惨であった。負ける事など考えもしなかったのだろう。その国は戦った、何を求めて戦ったのか…。初めは、勝てると考えていた政府も国民も、戦争が佳境に入った辺りには気づいていた。この戦争は負ける、もはや、勝ち目はない、と。それでも、その国は戦った。そして、悲劇が起きる。



 誰が作ったのか。いや、誰が好き好んで作ろうか!?それは、研究者達にとって予想外の結果となった。作ろうとしたのは、笑顔。しかし、その研究は苦しくも笑顔を奪う兵器を作る事になってしまった。



『原子力核爆弾』



 いや、正式名称はもっと別の名前であるのだが。しかし、その名前が落とされた国としてよく耳にする言葉であった。原爆と略されたその兵器は二度、二度もその国に落とされた。国が崩壊するのには十分過ぎる破壊力だ。あまりにも突然の出来事で国は負けた事に気付かなかった。国民が死んだ事に気付かなかった。




「そして、再びその国にぶつかる。まぁ、今度のは原爆とまではいかんが、な」




 警察署の奥深く。桜台大間警察署には『特牢室』という牢屋ろうやがある。犯罪がはびこるこの時代。犯罪を解決するには警察だけの力では不可能であった。その為に作られた『特牢室』。その牢屋には国をも脅かす最重要人物達が投獄されていた。そして、その投獄された最重要人物の1人が警察署内を歩いている。




「シバ様、こちらです」




 その警察署は先ほどから銃撃音や人々の怒号、叫び声が飛び交っていた。警察署襲撃。テロ犯罪組織である『crown』が30分ほど前から警察署であるこの場所を襲撃しているのだ。




「おや、そこにいるのは松居警部では…?」



 理由は実に単純明解でシバと呼ばれるこの長身の男を助けだすためだ。




「く、シバ!?てめえ、脱獄する気か!?」



「えぇ、3年もこの警察署奥の牢獄に閉じ込められていたのですからね。ちょっと、散歩でもしようかと?ちなみに、目的地は『新世界』!!ですよ?」




 桜台大間警察署の警部である松居は決して出してはならない最重要人物・シバを目の前にして傷ついた体を立ち上がらせる。




「あぁ、松居警部〜。そんな体で、傷に障りますよ?」




「うるせぇよ、てめえを逃がす訳にはいかねぇんだよ!!3年前の旧・エントランスビルの時みたいにてめえに好き勝手させる訳に、はっ!?」




 松居がシバ目掛け走り出そうとした瞬間、シバの真横にいたはずの黒ミリタリー服の男が松居の顔面を殴り飛ばす。ガゴンと松居の巨体が崩れ落ちる。




「まぁ、貴方では無理ですね」




 シバと名乗る男は乾いた笑いで地面に這いつくばる松居を見下ろす。




「空海玄治が出てくれば、別ですが…。1人間の貴方に私は止められない。ははは、いや、熊みたいな体して何を猫みたいに踞って、お笑いですよ松居警部。結局の所、3年前の作戦は再び動き出した訳で、この国の南側は破壊される、とねぇ?」




 3年前にあったビル爆発事件。それは空海玄治によって阻止された。そして、その時、最重要人物として捕まえたのがこのシバと名乗る長身の男。歳は40代後半。真っ黒な髪は東洋人を思わせる。だが、それとは違う西洋を思わせる高い鼻と緑色の瞳。体はすらりと高く、どう見ても東洋人の基準値を超えている。優しさを感じられる目尻の下がった穏やかな目は聖職者を思わせる。



 ただ、この男、決定的に足りない。優しさと親しみ、何者をも包み込む心が必要な聖職者にしては、このシバという男にはその心が足りないのだ。



「あぁ、叫び声が聞こえますねぇ。血に踊り、痛みを歌い、死を奏でるメロディー。あぁ、この警察署は戦場なんですねぇ…あは、あは、あははははひはっひひひひひひひひっ…」




 いまもそこで罪のない人々が死んでいるというのに。シバはそれを嬉しそうに叫び笑う。ぐにゃりと口元と瞳を曲げて、ひたすらに笑う。




「ひはひはひはひはひひひひひひひひひひひひーぃはははははひ」



「ひゃはははははは!?ひゃはーはーっ!!ひぃはー、ヒャハハハ、ヒャハハハ、ヒャハハハハーーッ!!」




 と、その場にいた誰もが驚く。叫び笑うシバの隣に更に笑う1人の男。シバはその男の突然の登場に笑いをやめる。




「誰だ、貴様?」




「ひゃはー?…あん?なんだよ、笑う所じゃなかったのか?」




 茶髪を逆上げした囚人服の男。ヘビを連想させる顔で、厳つい顔。チンピラと呼べば、そうだと思うし、殺人鬼だと呼べばそうなのだろうと思わせる顔だ。彼は両手に拳銃を持ち、その傍らに1人の女性を米袋を脇で持つよな感じで抱えていた。




「コラァー、離せぇ!!日陰さんは米袋じゃねぇぞ、バカヤロー!!大体、黒田先輩を置いてきぼりにしてどうする、バカヤロ〜!!」




 傍らの米袋…じゃなく、女性はそのヘビ顔の男に罵倒を浴びせる。バタバタと体を動かすが男の力が強いのか一向に男の脇から脱け出せる気配はない。




「んあ?良かねぇか?黒田は高橋とすぐ来ると思うし、ここらのザコは俺様が瞬殺したし…ひゃは、てか、助けてくれた恩人をバカヤロー呼ばわりはどうよ、嬢ちゃん?」




「えぇい、私を嬢ちゃんと呼ぶ、イシュて名前の奴は全てバカヤローだ!!」




「ひゃははは、俺様限定じゃん、それ?」





 そこに居たのは、みかん色の髪をした桜台大間警察署の警官・木下日陰とニュー・エントランスビル事件での犯人の1人・イシュ=グラーナであった。2人は何やらバタバタと漫才のような会話をして、隣にいるシバを全くの無視をしていた。



「き、木下!?それに、お前はイシュ=グラーナ!?な、なんでお前たちが一緒に!?」



「お、松居警部だ。松居警部、松居警部、松居警部〜!!聞いて下さいよ〜、イシュったら玉子焼きを知らないんですよ〜?馬鹿ですよ、馬鹿。玉子焼きほどお弁当に入ってる確率80パーセントの食べ物は無いってのにぃ〜」




「ひゃは、だから、食文化の違いを棚にあげんなよ。てか、80パーセントて微妙な数値だろ、それ?これだから、嬢ちゃんは数字を出せば頭が良いと思って、お・こ・ちゃ・ん〜、だぜぇー、ひゃはははー!?」




 『何をコノー』と日陰がイシュの腰辺りをビシッとチョップした所で。




「きさまらぁっ!!話をきけぇーっ!!テメェら、私を破壊の神・シバ=サンスクリットと知っての狼藉かっ!?」




 怒号がなる。ギリギリと先ほどまで涼しい顔をしていたシバとは打って変わって恐ろしいほどに怒りを露にした顔だ。ビクビクと彼の米噛みが動き、ひくひくと口元が痙攣している。




「はん、嬢ちゃん、なんかこの場所ではこのオッサンの講演を聞かないとイカンらしいぞ?」




「えぇ?ヤですよ〜、講演なんかつまらんですよ〜?講演てアレでしょ?国家議員のオッサン達がチマチマ小言を言うあれでしょ?しかも、公約しましょうとか景気の良い事言って結局は金だけとってな〜んもしないやつぅ。ヤですよ〜、金取られるのぉ〜」




「ひゃは、同感だねぇ。払うマニーがあったら酒買うわ俺様〜」




「全く、オッサンは、全くです」




 ビギリという音が松居の耳には確かに聞こえた。日陰とイシュの会話に怒りを露にしていたシバが更には喋る2人にぶちギレたのだ。




「殺すぞ、死ねよ、ぶち死ねよ。俺の話を聞かねぇクソは死を持って死ね」




 ぶつぶつとシバは鬱のように呟く。さらには彼の手に真っ黒のナイフが隣の黒ミリタリー服の男から渡される。




「ぶち殺す!!」




 シュン!!と振り落とされたナイフは横のコンクリートの壁を紙のように裂きながらイシュたちを狙う。が、バキンという音と共にナイフが飛ぶ。




「ひゃは、甘いね、あんた。そのナイフは切れ味が抜群だが、持つつかを弾かれたら、終わりさ。まぁ、大抵の刀系はそうだが。そんな事は神業な訳さ。でも、ひゃは、そんな事が出来るのが俺様!!どうだ、見直したか、嬢ちゃん!?」



「いや、私の事を嬢ちゃんと呼ぶ限り、お前は『バカヤロー』だバカヤロー」



 『そりゃ、ねぇよ、嬢ちゃ〜ん』とイシュは発砲して熱を帯びた拳銃で日陰がヤケドをしないように彼女を下に降ろす。と、下に降ろされた日陰はタタタッと地面に倒れる松居の所へと近寄る。




「大丈夫ですか、松居警部?もう、歳なんですから無理をしたら駄目ですよー?」




 日陰はポケットから可愛らしい猫柄のハンカチを取り出す。そして、傷付いた松居の顔から血を拭う。




「木下、あいつは何で?イシュ=グラーナはそこの組織『crown』の殺し屋だろ?何でお前たち…俺たち警察を助ける!?」




 松居は理解出来ない。組織『crown』は他の者たちなど気にせず、『新世界』などという訳の分からない事を口ばしり平気で悪行の限りを尽くす野蛮な奴らが集まるものとばかり思っていた。しかし、イシュはそんな松居の思いに反して組織を裏切り、敵であるはずの日陰たちを助けていた。一体、何が起きているのか?松居は真っ直ぐにイシュの方向を見る。




「はぁ、知りません。あのバカヤローは何か勝手に私達を助けてくれるらしいです?まぁ、バカヤローですから、いつ、寝返るか知りませんけど?とりあえず、聞いてみましょうか?」




 と、日陰は振り返りイシュに話しかける。



「おい、バカヤロー、なんで私達を助けてくれるですか〜?」




 おちゃらけた様に日陰はイシュに話かける。だが、イシュからは返答の言葉がない。何だろうと向こうを見ているイシュの顔を覗き込もうとした瞬間、イシュが目線の先のシバに話しかけた。




「よう、あんた破壊の神・シバって言ったな?」




「いかにも、私は破壊の神・シバ=サンスクリットだ」



 イシュはシバのその言葉に暫し考え、そして『は〜ん』と言い、顔を覗いてこようとする日陰の頭をくしゃくしゃにするとガチャリとシバに拳銃を向けた。



「はん、シバか?なるほどな、シバねぇ?」



「あむぅ、せっかくセットした髪がくしゃくしゃにぃ〜」




 くしゃくしゃになった髪を直しながら日陰は、ぷくっと頬を膨らませる。イシュはそんな日陰を見ながら、さらにシバに向かい話しかける。




「確かに、シバってのは『crown』に最高幹部として存在する。存在するが、だ…」




 日陰の不機嫌そうな顔を見て、イシュは苦笑いをし、再びシバに顔を向ける。苦笑いの顔ではなく、今まさに人間を殺す殺人鬼のような顔で真っ直ぐシバを睨み付ける。






「で、お前は誰だ!?」





 こんにちは。

 なんというか、デタラメな設定や話で読者さんを置いてきぼりにしてないか不安です…。




 では、第四十九話目です。イシュさん、アンタ、一体?何やら、日陰と仲良しなイシュさん。いや、エントランスビルでのイシュさんが嘘のよう?




 さて、謎の男・シバ=サンスクリット登場。私たちの知っているあのシバとは違うよう?…はっ!?また、伏線と謎を増やしてしまった!?



 それでは、今回はこの辺りで失礼致します。ありがとうございました。




 松居警部。本名、松居忠義まつい ただよし。熊のような体格。大学時代は柔道部。既婚者。空海玄治とは昔馴染み。熊だけど普通の人。実は子煩悩(笑)いっつも、空海家の子ども達を心配している。



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