第四十八話:戦場でのストラグル(苦闘)
緊急召集!!
いつもなら、爆睡しているはずの時間帯。いや、残業などがある時もある。だが、夜中の11時過ぎというのは、木下日陰にとって爆睡の時間帯なのである。
「く、何なんだコイツらは!?ここは、警察署だぞっ!?」
無造作ヘアーと言うのかボサボサの黒髪に流行りの足長スーツとブランド物の革靴を履いた、黒田秋人は拳銃片手に煙草に火を着ける。
モァ〜とたちまちに白い煙りとほろ苦い匂いが辺りに立ち込める。ここは、桜台大間市にある警察署。しかし、そこは秩序と法律で護られた正義のある場所とは程遠く。そこは、戦場であった。
「黒い武装集団だと〜っ!?ふざけんな、ふざけるな、映画じゃねぇんだよ、世の中ってのはっ!!」
突如、警察署に武装をして攻撃をしてきた黒武装集団。暗視ゴーグルに黒マスク。顔がはっきりと確認出来ない。いままで捕まえてきた犯罪者たちが一斉に警察に対して復讐を兼ねて攻撃を仕掛けてきたのかと考える黒田。しかし、それにしては、突入10分足らずで警察署の1階を占拠するなんて手際が良すぎる。まるで、それを目的として訓練された軍人のようである。黒田はガリガリと頭を掻きむしりながら半分も吸わない煙草をそこらにポイッと投げ捨てる。
「ふぁ〜ん!?何なの、何なの、何なんですか〜!?ふぁ〜ん、誰か助けてぇ〜っ!!」
「えぇい、うるさいぞ、きのしたぁ〜っ!!俺だって助けて欲しいぜ、この状況!!」
更に、『うぇ〜ん』と大声をあげながら泣き叫ぶ、日陰。みかん色の髪の毛をパチンパチンとクマの髪止めで可愛らしく止め、マシュマロの様なほっぺは赤く桃のように染まっている。彼女はおっとりとした目じりから大粒の涙を流す。突如始まった、戦争さながらの銃撃戦に戸惑いながら彼女はその手に持つ、リボルバー式拳銃M‐25を黒集団目掛けてぶっ放す。
乾いた音と共に日陰の持つ銃から弾丸が飛び出す。
「ダァホがっ!?そんな緩い照準じゃ当たる物も当たらないだろぉがーっ!!」
「ひぃ〜ん、私、私〜ぃ、銃なんて使った事が無いんですぅ〜っ!!」
日陰が撃った弾丸は四方八方に飛び散り、黒武装集団には全く当たりはしない。それどころか、日陰たちの前で戦っている他の警察官の側を横ぎっていく。
「お前、確かこの前ゲーセンで射撃の自慢してなかったか、おい!?」
「それはゲームの話ですよ〜!!ハイスコアは取れても、実際は下手っぴなんですよ〜!!」
2人がそんな会話をしている間に、黒武装集団は着実に近づいてきていた。彼らの通った後の惨状。血まみれの制服警官たち、がたいの良いヤクザ専門の警官でさえ、太刀打ち出来ずその命を散らしていく。黒武装集団の爆撃により片腕がぶっ飛んでしまいのた打ち回る者、両足を切断され動けなくなった所に弾丸を至近距離で放たれる者。もはや、そこに常識などはない。異常と異様が混ざり合い。血生臭い、戦場となっている。
(クソッ、何で、どうして、こうなった!?)
黒田はその惨劇に体の底から震え上がる。30分前までは日常であったはずの警察署。なのに、今は死が飛び交う戦場になってしまっている。黒田は銃を敵に向け、弾丸を容赦なく放ちながら考える。
(一体、この国で何が起こっている!?何故、政府はこの惨劇を容認している!?応援は来ないのか!?奴らの目的は一体何なんだ!?)
だが、いくら考えた所で答えが出るはずもなく。黒田は撃ち尽くした、リボルバーを開き弾丸を詰め込んでいく。カチャカチャと手際の良い黒田。ガシャンとリボルバーを戻し、再び敵に狙いを定めようと顔を上げた。
瞬間。黒田には一体何が起きたのか理解が出来なかった。前に顔を向けたはずなのに見えているのは警察署の天井。
「黒田さん!?」
日陰の声が耳に響くが、次の瞬間、頭を強く打ち付けられる。ガガンと小刻みにバウンドを繰り返し、黒田の頭は地面と『何者かの足』によって挟まれる。
「ぐがぁぁあっ!?」
黒田の頭を地面に踏みつける黒武装集団の1人。その力は普通ではない。ギリギリと黒田の頭に乗り掛かってくる重圧が増えていく。
「やめてぇーっ!!黒田さんを離せ、離せよ、バカヤロー!!」
日陰が黒田の頭を踏みつける黒武装集団の男に叫びのような怒鳴り声をあげる。
「く、馬鹿、木下、逃げっ…ろ」
黒武装集団の男はカチャリと銃を日陰に向ける。その凶悪な程にゴツゴツとした銃。弾丸は重く硬く、放たれれば女性など一溜まりもない。
「ぐぅ、やめろぉぉおっ!!」
黒田の叫びが辺りに響く。日陰はググッと力一杯に瞳を閉じて、体を強張らせる。
しかし、日陰の思いと反して一向に銃撃音は鳴らない。彼女はソロリと目を開ける。と、そこには1人の男が黒武装集団の男に拳銃を向けていた。
「ひぃ〜ひゃはははははははは!!んだぁ、コラァ!?人が牢獄で大人しくしている内に面白い事になってやがるじゃねぇか〜ぁっ、あぁあん!?」
茶髪を逆上げにした、囚人服の男。ニュー・エントランスビルにて夏樹と死闘を演じた男。
「お前は、イシュ=グラーナ!?8号館に幽閉されてたはずじゃっ!?」
黒田は突然に現れた、イシュに驚く。マズイ状況だ。いまは外からの敵に手一杯。そんな中、脱獄してきた囚人たちにも攻撃をされたら…!?黒田の額に汗が滲む。絶体絶命である。
「ぐぐ、イシュよ、我は貴様の仲間だ。何故に我に銃を向けた?」
確かにイシュは、黒武装集団の男に銃口を向けている。これは一体どういう事だろうか。黒田は押し付けられていた力から解放されたため、立ち上がる。
「どう、いう事だ、イシュ?何で敵である俺たちを助ける!?」
「あぁん?タコッ!!誰がテメェなんざ助けるよ!?気に喰わねぇんだよ、コイツら!!コイツらが使っていやがる武器と防具はなぁ。組織でも危険性が高いと月影隊長が封印したはずのものなんだよぉおっ!!…なぁ?なんでだぁ!?その封印したはずのものを何で使っちまってるんだお前ら?あぁぁあん!?」
と、次の瞬間!!イシュは躊躇いも無く仲間であろう黒ミリタリー服男に銃撃を加える。ズドンと一発響き、崩れ落ちる黒ミリタリー服男。その倒れた男の頭からおびただしい程の血が流れ、床に溢れていく。
「ひゃは、ひゃーはははははっ!!良いね!?良いね、良いね、良いねぇ〜っ!?これさ、これこそが俺様だ!!ひゃーはーっ!!」
狂気。ニュー・エントランスビル事件の時もそうだった。イシュ=グラーナという男。ビルの44階で夏樹と戦った時も彼を支配していたのは狂気であった。腐敗した俗世に狂わされた男。彼は頬に飛び散った血に舌舐めずりをする。
「こ、この化け物ーっ!!く、黒田さんは殺らせないぞ!?わ、わわわ、私が相手だ、コノヤローッ!!」
そんな狂気に満ちたイシュを見て危険性を感じたのか日陰がイシュの前に立ち銃口を彼に向ける。ガタガタと手を震わせ、ギリリと歯を食い縛らせている。
「あぁん、何だよ、お嬢ちゃん?俺様は忙しいんだ、お子ちゃんは家で飯食って糞して寝れば?」
「にゃ!?お、おお、お子ちゃん〜っ!?しっ、失敬な、てか、女の子に向かって糞とはなんですか、糞とは!?私はゲームセンターでは、ちょっと名の知れたゲーマーだぞぉう!?射ちゲーの戦竜姫こと木下日陰様とは私の事だーっ!!」
イシュの言葉にプンスカと怒る日陰。もはや、恐怖という概念が無くなったのか日陰はイシュに対して物凄い勢いで睨み付けていた。
「…あん、日陰?…あぁん?あぁぁぁぁあん!?日陰だとぉおっ!!」
「にゃあー!?ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、いやー、たびないでぇ〜…」
日陰は物凄いイカツイ顔でイシュが近づいて来たので、頭を抱え縮こまってしまう。一方、イシュはイシュで何やら日陰の名前を聞いておびただしい程の汗を全身にかいていた。
「(ひゃ?まて、待てよ?日陰?日陰だと?をい、をい!?まさか、こんな所にいたのかよ!マズイぞ、おい!?久々の戦場で楽しんでる場合じゃ無くなったぞ、おいぃっ!?)」
そんな小言を言いながら、イシュは両手で頭を抱える。ポタポタと暑くもないのに体全身から汗が流れ出してくるのだ。
ズガガガガガーン!!とけたたましい音が鳴り響く。どうやら、武装した敵が援軍を連れて、日陰たちのいるフロアにやって来たようだ。ダシュ、ダシュ、ダシュとかなりの数の黒ミリタリー服の男達。
「ちぃ、まじぃ、木下ぁ!!縮こまってねぇで、逃げるぞ!?あの数相手じゃ歯がたたねぇ!!」
黒田が叫びをあげ、床に座る日陰を無理矢理立ち上がらせる。しかし、敵はもう目の前。たった2人では逃げる事なんて不可能である。
「ふぇ〜ん、四面楚歌だよ〜、四面楚歌〜っ!!」
立ち上がる日陰は何が何だか分からない。いきなり、増えた得体の知れない敵。このまま行けば待っているのは死である。戦うにも、戦力不足。もう、どうする事も出来ない。日陰は心がキュ〜と締め付けられる。苦しい、逃げ出したい。誰か助けて、誰か、誰か、誰かっ!!
「たく、しょうがねぇなぁ〜!?ひゃはっ!?参ったぜ、こんな時に出会っちまったんだからよぉ〜!!」
そう言い、黒ミリタリー集団に攻撃を仕掛けるのは、テロ犯罪組織『crown』の殺し屋であるイシュ=グラーナだ。彼は、日陰の持つ拳銃を奪うと二丁拳銃にして次々に敵を撃ち倒していく。
「な、どうして?どうして、私たちを助けてくれるの?」
日陰は戦うイシュの背中に語りかける。敵であるはずのイシュ。しかし、彼はその敵である警察官の自分たちを倒さずに仲間である黒ミリタリー集団を倒していく。日陰はイシュが何故そんな事をするのか分からない。だから、聞いた。だから、イシュに聞いたのだ。
「ヒャアハ!?さぁてねぇ、それは、自分の事について考えてみるんだなー?ヒャハハハハハーッ!!」
ズドドドドッ!!とイシュと黒田は凄まじい勢いで黒ミリタリー集団を倒し、血路を作り出していく。バシュン、バシュンと敵の弾丸に皮膚を切られてもイシュは立ち止まらない。
一体、何が彼をそこまでさせるのか?相手は仲間である組織の人間達。普通ならば、助けに来たと考え、一緒になって警察官である日陰達を攻撃するはずなのだが。しかし、彼は戦う。仲間であるはずの組織『crown』の兵隊達に銃口を向ける。まるで、そう、まるで、木下日陰を護るかのように…。
いま、世界が交差する。別々に進んでいた話が交差し始めていく。そして、1つの大きな分岐点へと姿を変える!!
こんにちは。
久々に登場(?)黒田先輩と日陰嬢!!更には、ニュー・エントランスビル44階で夏樹と戦ったあの狂気の男。イシュ=グラーナも再登場!!…覚えてます?(笑)
さて、第四十八話目。イシュです。はい、月影の片腕的存在の人です。ニュー・エントランスビル事件の時、国会議員の兼元を殺そうとしました。覚えてます?私より、笑う奴です。
しかし、その狂気の男がなんと日陰たちを助けてしまいました。一体、どういう事だよ?更には、日陰に何やら秘密まで出てきて…?あぁ、何が何やら???
それでは今回はこの辺りで失礼致します。ありがとうございました。
…実は、あらすじと最近の内容が微妙に違う事に内心ビクビク!?しかも、今後の展開次第では更にビクビクになる可能性が…?