第四十六話:混沌来たりて…
空気が透き通って心地の良い夜。ただ、風は冷たく、厚着をしておかないと風邪を引きそうだ。その心地の良い夜、空海家では兄・夏樹の行方が知れなくなったと騒ぎが起こっていた。
兄である夏樹は、日用品が無くなったと昼間に買い物へと出掛けたのだ。だが、それっきり夏樹は帰って来ない。最初は家族である妹達も怠け者の兄の事だどこかでくつろいでいるのだろうと心配をしていなかった。しかし、夜になり、晩御飯の時間になり、就寝の時間になっても帰って来ない夏樹。そうなると話が変わってくる。
桜子は兄の行方を探し、兄の友達で職場の同僚である氷川凛に連絡をする。
『居なくなった?それは本当か!?帰って来ないのだな!?っ、また、アイツは何も言わないでっ!?』
どうやら、凛も兄の行方を知らないようで彼女は兄を探すために街中に出てみると言い電話を切った。
「兄は、まだ帰って来ないですか?どうしたのですか?何で帰って来ないですか?探しに行かないですか?ねぇ…姉ぇ、何か言って下さいですぅ…」
「みゅ〜…」
空海家の次女はその瞳に涙を目一杯に溜め、姉である桜子に詰め寄る。しかし、桜子は何も話さない。ただ、じっと目を瞑り、両手を握りしめ祈っていた。
部屋ではテレビがピカピカと明かりを放っている。テレビのニュース。そのニュースではキャスターが何やら叫びをあげて報道をしている。
『皆さん、早く逃げて下さい!!先ほど、政府が緊急の会見を開き驚きの発表をしました。この国に、桜台大間市に原爆を積んだ船が衝突するんです!!皆さん、早く家族と荷物を持って出来るだけ遠くへ、逃げて下さい!!繰り返します、この桜台大間市に原爆船が衝突します!!皆さん、早く遠くへ避難して下さい!!』
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国会議事堂、その豪華絢爛の一部屋。
「原爆船!?」
「あぁ、クラウンという犯罪組織が我々に犯行声明をしてきた。8時間後に桜台大間市の港に原爆を積んだ船をぶつけると、な…」
緑のスーツを着たやせ形の男。アゴヒゲを剃る事をしない主義なのか、パリッとしたスーツに似つかわしくない程にヒゲが伸びている。
「クラウンだと!?あのエントランスビルの時のアイツらか!?」
黒ぶちの眼鏡の男が驚きと忌々しさを露にする。クソッと吸っていた煙草を灰皿に押し当てる。
「何が目的なのだね、彼らは…?」
と、奥の大きな椅子に腰かけていた小太りの男性が2人に話しかける。
名前を風間 成光と言い、この国の総理大臣という役職に就いている男である。
「はぁ、それが目的は無いようなのです。これは制裁である。悪しき醜き者達よ、己の罪を特と悔やむがよい!!との事でして…」
緑スーツの男は総理を目の前にしてやや緊張気味なのか、額に汗をかきながら説明をする。
「えぇと、この国の悪しき所業は知っている。他国への武器密売、麻薬取引、人身売買、または臓器売買、その他諸々による斡旋の数々…。金を欲するあまりに人とは思えない邪なる行い、我々が貴様ら悪魔を罰する…と彼らの犯行声明には書いてあります」
残り8時間。8時間後、原爆を積んだ船が空海家の存在する桜台大間市に激突をする。この国会議事堂での話し合いの1時間後、組織『crown』の犯行声明は全世界のネットワークを使い、世界へと報道された。
世界が濁り、淀んでいく。世界が闇に引きずられていく。世界が、混沌へと引きずり込まれていくのだった。
こんにちは。
混沌来たりて。なんというか遂に、大事に?
第四十六話目。帰って来ない空海家の長男。寒空の下、一体どうなっているのやら…。さて、この国の政府機関が表に出てきました。不透明であった空海家の住む、国組織。その姿が徐々に露に…。
では、今回はこの辺りで失礼致します。ありがとうございました。
『crown』のいう原爆船。もし、そんな物が国にぶつかれば、そこは…地獄絵図。