第四十ニ話:元旦にコタツに電話…
「うぃ、あけましておめでとうございます」
「みゅ、あけましておめでとうございます?」
「明けましておめでとうございます」
正月である。元旦である。明けましておめでとうございますである。と、いう訳で俺達は我が家の和室で元旦のお祝いをしている最中である。
「はい、明けましておめでとうございます」
コタツの温度をMAXにして置かないと寒い元旦の朝。俺達は元旦の挨拶を済ませる。その後、コタツに入り、おせち料理を食べる。もちろん、餅も忘れない。我が空海家では、雑煮ではなくお汁粉を食べるのだがこれがまた中々に美味いのだ。朝一から食べるお汁粉…。いや、これが正月と感じるのは我が家だけかもしれんがね。
「コラァ、僕を忘れるなぁーっ!!何で起こしてくれないんだよ!?おはようございます、あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願い致しますってんだぁーーーっ!!」
「あぁ、明けましておめでとうございます、太郎。……ちなみに、俺はお前を起こしに行ったぞ。後、五分と言って一時間以上も起きて来なかったのはお前だ」
何やら元旦から叫び声をあげる太郎。不満爆発な顔をしているが、俺は怒られるような事をしていない。むしろ、怒るべきは元旦の朝に寝坊したお前では太郎?
「さて、我が可愛い妹達よ。お楽しみイベントだ。んと、お年玉の袋はっと…」
俺は未だプンスカと怒る太郎を放っておいてコタツから足を出さない様にちょっと遠くに置いたお年玉を取る。
「えぇと、まずは柊からな。去年は学校が中々良い成績だったな。しかし、その反面、1人で突っ走って問題を起こす事が多々あったね。君は皆をもっと頼りなさい。皆、良い人ばかりだよ?」
「うぃ、すいません」
「いやいや、責めてる訳じゃないから。と、はい、お年玉」
俺はコタツの右側に入っている柊にネコ柄のお年玉袋を渡す。中身は…
「うん、次は柚子ね。んと、柚子は今年初めて家の正月を迎える訳だけども…て、聞いてる?コラ、お餅と格闘しない!!もう、じゃ、怪我や病気をしないように、君も柊同様に皆に頼ること…。はい、お年玉。…まだ、食べるんだね」
『ふみゅ?』っと柚子は俺の方を見るが、やはり、ひたすらにお汁粉を食べるのだった。
「さて、桜子。あら、桜子?ほら、早く、早く。よし、えっと、桜子はもっと自分の事を優先しなさい。君はずっと家の事をしていていつも自分の事を後回しにする事が多い…。だから、たまには家の事を忘れて…ね?」
桜子は本当によく働いてくれる。本当なら友達と遊びたい盛りなのに彼女はいつも俺や妹達の為に働いている。家事は交代制の空海家に置いて、上手く回っているのはひとえに桜子のフォローの賜物。彼女がいなければ、空海家はこんな暖かな家にはならなかっただろう。だから、だからこそ、俺は桜子に楽をして貰いたい。彼女の人生は彼女自身の物だから…。
「ん、何だその手は太郎?」
「え、お年…玉?」
肩までコタツに入っている太郎。彼は俺に片手を差し出す。
「お前、今年でいくつだ?」
「みっちゅ…」
「ダァホ!!俺と同い年だろうが!!」
俺はバブバブと奇妙な声をあげる太郎にすかさずチョップを喰らわせるのだった。
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昼過ぎに雪がチラホラと降り始めた。積もる程ではないが強く吹雪く。ビュービューと冷たい風が服をなびかせる。
いや、全く寒い。本当なら今頃はくだらない正月番組を見て、コタツでゴロゴロとしているはずなのに…。はずなのに俺はいま外にいる。何故、外にいるかというと話は昼前の時間に戻るのだが。
『兄、電話です』
『ん、ありがとう。たく、新年早々に電話をしてくるのは何処の誰だ?…もしも〜し、夏樹ですけど……!!………!?………!!!』
と、いう訳だ。あはははははっ、分からない?だよな、分かる訳がない。まぁ、つまり、俺が何故に寒空の下にいるかというと先程の回想の通り電話で呼び出されたからだ。
相手は…。まぁ、旧友?1日友達、みたいな?そんな奴だ。
「オー、ソンナ誤解デェス!!ワタシ、痴漢トチガウ。貴女ノ魅力ガワタシヲ惹キ付ケタノデェース!?」
……気になるか?あの片言外人?いや、俺もさっきから気にはなっていたのだが。ただ、関わったら面倒な事になる気がする。……うん、とりあえず、この場は離れ…
「オォ、助ケテ。貴方カラ、ワタシガ痴漢チガウ言ッテク〜ダサ〜イ!?」
うぉっ、やばっ!!向こうから話しかけて来やがった!?どわっ、何か相手の女性も俺の方に注目してる!?いやいやいや、そんな俺みたいな部外者に仲裁しろってか?いやいやいや、別に俺じゃなくても他に『どうしたんですか?』みたいな感じで警察官が仲裁を…あっ、俺!?仲裁者、俺!?俺が警察じゃん!?
「ん、あ〜…うん。偶然ではあるが俺は警察官な訳で…。痴漢を捕まえるのも仕事な訳で…」
はぁ、我ながら歯切れの悪い。しかし、仲裁しない訳にもいかないし…。
「いきなりなんです!!この外国人、道を聞くフリをしていきなり私のお尻を触って来たんです!!」
なるほど、典型的な痴漢だな。
「オォ、チガウチガーウ。ワタシ本当道聞キタカッタデェス。タダ、女性ノ貴女ノ魅力ガワタシノ手ヲ惑ワセタデェース」
耳障りだな、この片言…。
「て、触ってんじゃん!?アンタ、彼女のお尻触ってんじゃんか!?十分に痴漢だよアンタ!!」
片言の外国人は『オォ』と大袈裟に倒れ込む。何か可哀想だが、犯罪だしな…。
「痴漢デスカ?犯罪ナノデスネ?スイマセン、ソンナツモリデハナカッタノデス。……申シ訳ナイデス、貴女ノ様ナ女性ヲ傷ツケテシマッタナンテ。アァ、ナンテ事ナノデショウ。神ヨ、コノ愚カナワタクシメニ罰ヲ、オ与エ下サイ。イクラ、コノ国デ、コンナニモ美シイ女神ニ出会ッタカラトイッテ、犯罪ヲ犯シテシマウナンテ…。アァ、女神ヨ、オ許シヲ…」
くわっ!?マジ、耳障り!!聞いてると何か気分が滅入ってしまうぞ、コレは…?
「えっと、あの私…。もう、いいですから…。さ、さよなら!!」
「オォ、女神!!ワタシヲ許シテクレルトイウノデスネ!?」
いや、多分、片言が耳障りだったんだな…。
女性は苦笑いと共に人込みの中に消えていく。残った外国人は両手を合わせ消えて行った女性の方を見ている。何か分からんが、解決したようだ。ふぅ、面倒な事にならず良かった。
「はぁ、助かった。まさか、痴漢と呼ばれようとは…。今度は上手くやらなければ」
……はっ?
「しかし、片言の外国人作戦は女性に易々と話しかけれるがナンパには不向きだな。しょうがない、今度はちゃんとルックスで勝負しよう、うん…」
コイツ、わざとか?片言しか喋れない訳じゃなくて片言しか喋らなかったのか!?ナンパをする為に…?
「うん、ときに夏樹君。この国の女性はどんなタイプの男性が好みかな?…映画俳優的な感じはどう?」
コイツは全然、反省してない!?てか、ナンパ外人!?イタリアの人かよ!?たく、なぁにが映画俳優的な感じはどう、夏樹く…
「…お前、何で俺の名前を知っている!?」
「知っているとも、空海玄治と空海マリアの息子。右眼の事だってね、空海夏樹君…?」
男は片手を目元に当て、ニコリと笑う。不敵に不気味にニコリと笑う。
「…まさか、クラウン?」
ニュー・エントランスビルを襲った、テロ犯罪組織『crown』。月影が言っていた。組織は世界に戦争を仕掛けると。その為に邪魔になる俺を、俺の家族を排除すると…。あの時はまだ組織の人間がいた。まさか、そいつらが俺に気付いて!?
「君の心が見えるね。クラウンか…。ニュー・エントランスビルで組織を退けたというのは本当だったか…」
「っ、だったら何だ!?俺を殺しにきたか…」
俺は男から間合いをとる。得体の知れない外国の男。警戒しない訳にはいかない。
「いや、チガウチガーウ」
うぇっ!?何だ、いきなり!?戦う覚悟をしていた俺は、男の言葉にズルッと滑る。
「電話を受けたでしょう?僕は君の友達の友達さ」
「信じ…ろ、と?」
「別にいいさ。僕は君にコレを届けにきただけだからね」
そう言い男は俺に紙を渡す。これは、船のチケット!?
「君の思っている通り、組織クラウンは君を殺すため動いている。君はこの国に居ては良くない。家族の為にもね。その為のチケットさ…」
…逃げろってのか?全てを捨てて!?
「ふふ、迷いは君を殺すよ?まぁ、死なない程度に考えるがいいよ。船が出るのはまだまだ先の話だ。事が、終わってからさ…」
また、逃げなければならないのか?あの時と同じに?今度は全てを捨てて?チケットは、俺の分1枚…
「(じゃ、僕は行くよ。……夏樹、死ぬなよ)」
いつの間にか外人の男は消えていた。後を追う事も出来た。しかし、俺は街を歩く人混みを見て呆けている事しか出来ない。クラウンと言う組織とはそれほどに強大なのだろうか?昔の友は俺の窮地を知り、文字通り助け船を用意した。しかし、彼が言うには『代金は俺の全て』だと言うのだ。…呆けずにはいられない。
「俺は、どうすりゃいい!?どうすりゃいいんだ!!……なぁ、親父?」
こんにちは。
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。
さて、第四十ニ話目です。元旦でコタツでおせちでお年玉な訳で…。幸せな家族団らんは、1つの電話によって終わりを告げます。夏樹を呼び出した旧友。ここでは、名前も姿も出ません。ただ、代わりに出てきた外人の男。組織『crown』とは無関係ではなさそう…。
では、今回はこの辺りで失礼致します。ありがとうございました。
…ニ幕のシリアス編は戦いまでの話が長い!?




