第四十一話:女神・ビシュヌ
太陽は東。まだ、陽射しは全ての大地に降り注いでいない。薄暗い闇を残す、街の一角。その一角の一軒の家。さらに、その家の一室。
「…やい、ガルシュ。どう言う事だ、コレは!?」
まだ、幼さの残る一人の少女。彼女の手にはドロドロの物体が乗った皿がある。 彼女はその皿を目の前を歩く男に差し向ける。
「いや、玉子焼きですが?」
「コレでは玉子焼きではなく、玉子やけくそだっ!!」
少女はそう言い、手の中にある皿を男に投げつける。びしゃっと男にドロドロの物体、もとい、玉子焼きが当たる。
「あちゃあああああっ!?あちゃあちゃあちゃあちゃ〜っ!?」
あまりの熱さにドタッバタッと男は転げ廻る。そこへ、ガラッと和室の襖が開き一人の女性が二人のいるダイニングキッチンへと入ってきた。
「…何をしているのですか、ガルシュ?」
その女性は聖女の様に美しかった。流れる様な金色の髪。透き通る様に白い肌。彼女から、彼女の周りからは身震いがする程の神々しいオーラが放ち出されている。
「あちち、ちょっと聞いて下さいよ、ビシュヌ様〜っ。ランが私に熱々の玉子焼きを投げつけたんです〜ぅ!!全く、誰の為に朝ごはんを作っていると…」
「うっさい、ガルシュ!!ちがうね、全体ちがうね!!アレは玉子焼きじゃないね、悪意ある玉子黒焦げだったね!!コンチクショ、てめえ、目玉焼きは半熟に出来ない、玉子焼きは黒焦げのドロドロッ!!一体、次は何だコラッ!?」
ぐぎゃあっとランと言う少女は両手を挙げ、バタリと机にうつ伏す。
「…はぁ、あなた達は全く」
聖女ビシュヌは、二人を見て深いため息をつく。全く、この二人は昔からこうだ。月影がいた時には、彼が二人を止めていたが…。
「あ、ビシュヌ様?何か朝食でも作りましょうか?」
ガルシュは、ニコリと笑いフライパンをくるくると回す。
「うわっ、危なっ!?てめえ、フライパンをくるくる回すなっ、フライパンについたドロドロ玉子焼きの残骸が飛ぶだろっ!?」
「ぎゃあ、ド、ドロップキックは無いんじゃないかなっ、ラン?てか、いま玉子焼きって認めた!?」
ガルシュにその小さな体でおもっいきり飛び上がりドロップキックを喰らわせる、ラン。ガルシュはドロップキックが当たった腰辺りをサスサスとさする。成人男性として、まぁまぁに体の大きいガルシュ。彼にとって、ミニサイズのランの攻撃はさほどダメージにならない。だが、だからこそ、ランの攻撃は厳しい。彼女のガルシュに対してのツッコミ攻撃は常に力一杯なのだ。
「ラン、女の子がそんな、はしたない事をしてはいけません」
ビシュヌは、片膝を付き立ち上がるランを注意する。『はぁい』とランは返事をするのだが、その目はガルシュを睨み付けている。
「はぁ、ガルシュ。良ければ料理の手解きをして差し上げますが…?」
ビシュヌは片手をオデコに当て、ガルシュに問い掛ける。ビシュヌは、こう見えて料理が上手である。主に作るのは洋食であるが、とある事情により和食も少なからず作れるのだ。
「ええええぇっ!!?」
そう叫びを上げたのは、ランだ。『何で何で!?ビシュヌ様がガルシュに料理を教えるなんて…』と頭をフルフルと横に振り、叫ぶ。
「ビシュヌ様、ビシュヌ様、ビシュヌ様〜っ!!ガルシュに教えるくらいなら、私に教えて下さい!!私、お料理大好きです!!」
「(……ウソばっかり、ランはいつも面倒くさぁって言って、私に料理を押し付けているくせに…)」
ランのお料理大好き発言に、ぼそりとツッコミを入れるガルシュ。
「うっさい、ガルシュ!!てか、私が料理を押し付けて、何年も料理をしてきたくせにドロドロの玉子焼きしか作れない男に言われたくない!!私が習った方が百倍良いもん!!下手くそガルシュ!!創作意欲0料理〜ぃっ!!」
「下手!?ヒドッ!?創作意欲は有りますよぉ〜っ!?」
はぁ、全くこの二人ときたら…。ビシュヌはため息をつき、再びギャアギャアと騒ぎ始める二人の間に割って入るのだった。
太陽は東。いまだ、陽射しは全ての大地に降り注いではいない。その陽射しを浴びぬ大地。そこは東洋の更に東の島国。その大地に世界の維持を司る神・ビシュヌは居た。
こんにちは。
キャラが増えて大変です。上手に使わなくては…。
第四十一話目。ビシュヌ、覚えているでしょうか?いつか崖の上の古城にて、話し合っていた組織『crown』の幹部3人の内の1人。何やら楽しげな雰囲気ですが、彼女達は間違いなく夏樹を殺しにきています。そして、前話の刺客・修羅。夏樹は一体どうなってしまうのでしょう…。
では、今回はこの辺りで失礼致します。ありがとうございました。
組織が本格的に動き出した今、月影は…!?