第三十七話:空海家のクリスマス・パーティー
クリスマス・イブだぜ、バッキャロォ!?俺はクリスマスツリーに飾り付けをする。キンキラの装飾品と電飾がツリーを彩る。最後にはツリーの頭に星を付けて出来上がり。
「うむ、上出来だな」
俺は一般家庭にしてはやや大きめのツリーを見て、満足げに微笑む。
「夏樹さぁ、パーティー前にツリーを飾り付けって…。前もってやって置けば良かったじゃん?」
そんな俺の横で太郎がクリスマスパーティーのご馳走を片手に持ちながらツリーの飾り付けの遅さに何やら意見を言う。
「我が家では、皆で飾り付けってのが主流なのだ。そうなると、集まるパーティー前が飾り付けに丁度良い」
俺はそんな太郎の意見に反論をする。今日は、クリスマス・イブ。我が空海家では、クリスマス・イブにクリスマスパーティーをする。なので、イブの今日はクリスマスパーティーだ。家の中にはパーティーに呼んだ友人達や家族である妹達が楽しげにクリスマスを祝っていた。
「うぃ、ちっこい悪魔…」
「んだよ、空海、まだ言ってんのか?しょうがねぇだろう、ああいうのは直ぐ消えちまうってのが、映画やドラマでもセオリーだぜ?きっと、何かの精霊にでもなったんじゃねぇの?」
テレビ前のソファーでは、柊と近所の子供・市ヶ谷甘夏が何やらメルヘンな話をしている。
「おーー、ほっほっほっほっ!!我がローズアリアのケーキよ、有り難く頂戴致しなさい!?」
「うっわぁー!!スッゲェ、美味いよ?なにコレ!?最高に美味いよ、この…、桜子ちゃんの作ったクリスマスケーキィ!!」
「て、ちょっとぉぉおっ!?そっちぃ!?確かに、桜子ちゃんの作ったケーキ、美味しいけど。…まぁ!?何かしら、隠し味がされてるわぁ?きゃああ!?ちょ、桜子ちゃん!?貴女、私のお店で働かない!?」
「えっ!?いや、でも私…。し、素人料理ですから。む、無理ですよー、ローズアリアのケーキには敵いませんよー」
豪華に料理が並べられているダイニングでは、よし子と太郎が桜子の作ったケーキについて語っている。よし子は、桜子のケーキがかなり気に入ったらしく、執拗に桜子をローズアリアで働かないかと誘っていた。
「みゅ、もぐもぐ…みゅんぐ。…もぐ、もぐもぐもぐ、みゅ」
「こらこら、柚子。君は、ちゃんと一個ずつ食べないか?はしたないぞ?ほら、頬っぺたにお弁当をくっつけて…」
そう言い、凛は柚子の頬っぺたについている、ケーキの生クリームをひょいと指で拭い、それを口に運ぶ。まるで、仲の良い親子みたいだ。
「わっはっはっはっはっはっはっ!!飲めや歌えや、今日はクリスマスじゃあ、清この夜じゃあー!!」
そう言い、桜台大間市の南側に位置する教会。聖アマント教会の老神父・真鍋雲外は酒を一升ビンごと口に運ぶ。なかなかに酒豪なパワフルジジイである。
「……て、違う!!何でだ?何で、アマント教会の雲外ジジイが家にいる!?テメェは呼んでねぇぞ!?」
「まぁ、良いではないか、夏樹よ。いたいけな老人がクリスマスに一人は寂しいじゃろう?わしもパーチィーに交ぜてくれや…」
「うぃ、おじじは私が呼びました。すいません、でも、パーティーは沢山いた方が楽しいです?…駄目ですか?」
そう言い、柊は上目遣いで俺を見てくる。
「だ、駄目じゃないさぁー…」
俺は、柊のあの上目遣いに弱い。いや、マジで。マジで可愛いだから、あの上目遣いはっ!!
「だぁーはっはっはっはっ!!飲みまくれぇー、高橋、飲みまくるんだぁー。空海の金で飲む酒はマジで格別だぁぁあっ!!」
「ちょ、黒田先輩!?まだ、始まったばかりなのにもう酔ってるんですか?て、わぁぁあっ!?な、何をズボン脱いでるんですかぁあーっ!?」
『ぎゃははー、俺のは、大砲だー』と訳の分からない事を叫び走り回る酔っ払い、もとい、黒田さん。それを、高橋君が『まずいですよー、ここには小さな子達もいるんですよー!?黒田先輩ーぃ』と黒田さんを追い回していた。
「うふふ、ふん。なーべーわー、お肉からー。特・特・特上お肉だよー。美味しい、高い、お肉からー」
「日陰よぉ、肉ばかり入れてないで、ちっとは野菜も入れてくれねぇか?俺は、白菜が食いてぇんだがよぉー?」
鍋が置いてあるテーブルでは、何やら肉ばかりを鍋に丁寧に放ってる日陰と、野菜が食べたいらしく、日陰の隙を付いて鍋に野菜を入れようとしているヤクザ顔の上司・松居警部がいた。
「…なんちゅうか、乗り遅れた気分だ」
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パーティーが始まって二時間が経過した。子供達はさすがに騒ぎすぎたのか眠そうだ。
「う…ぃ。ねむ…ね…むです…」
「ふあぁぁ、確かにねみぃ…」
「ふみゅう〜…ふみゅう〜…ふみゅう〜…」
「ふあっ、柚子ちゃん、こんな所で寝ちゃったら風邪引くよ?さぁ、部屋で寝ようね。柊も甘夏君も部屋に行くわよー…ふぁぁあっ」
桜子の言葉に子供達は二階の寝室へと向かっていく。うむ、さすが桜子だ。自分も眠いはずなのに一生懸命に皆の世話をしてるよ。…本当に良い子だよなぁ。
「うりゃぁあっ!!夏樹ぃ〜、おまぁ、どこを見てるらぁ〜?私はここらぞぉ〜〜!?」
突然の大音量の大声と、かなり強い衝撃。痛てぇ、と俺はそのばにうずくまる。後頭部、いきなり、後ろから何か固い物で後頭部を叩かれた。クソッ、誰だこんな無茶苦茶な事をするのは?馬鹿太郎か?オカマよし子か?ナルシスト黒田かっ!?
「てぇーなぁぁあっ!?いきなり、何をしやがんだっ!?テメェ、おふざけにも限度っても、ん、が…、はっ!?」
あまりの痛みに心底頭にきた俺は、ガバッと立ち上がって後ろの犯人に怒鳴った。怒鳴ったのだが、最後の部分は言えてなかった。それもそのはずだ。何と俺の後頭部を強打した犯人は…
「り、凛さん?…えっと、何故にビールビンでわたくしめ後頭部を強打されたのでしょう?」
そう、あろう事か俺の後頭部を強打したのは、凛だったのだ。いつも冷静沈着で、頭も良く。とても強く、教養と知性に溢れる女性。それが、凛だ。氷川凛のはずだ。
だが、いま俺の目の前にいる彼女にはそのどれも当てはまらない。いや、とても強いって所は当てはまるかも。めっちゃ、叩かれた後頭部が痛ぇ…。
「うにゃあぁぁあっ!!夏樹は、私の心配を何だと思ってるのらぁぁあ!?おみゃ、おまぁ、お前はいつもいつも私の知らない所で無茶をしてぇー」
何やら、凛の目が据わってらっしゃるんだけど…。うわっ?な、何だ、凛の奴、酒くせぇー!?
「うぃっぷ…。あはははははははははははははははっ!?にゃつきは、私の事をどう思ってりゅんだ!?私は〜、わたりわ〜…ひっく」
な、ななな、何だこの展開は!?えっ、え、えぇえ!?うわっ、ちょっ、凛が抱きついて…はわわわ〜っ!?やべぇ、やべぇよ。体が密着して、凛の凛の至る所が俺の体に当たって。うひゃっ!?ちょ、ち、ちょ、胸!!胸がめちゃくちゃ当たってますですよぉぉーっ!?
「(うわ〜、ちょ、よし子、見てみなよ。凄い事になってるよ?)」
「(凛は素直じゃない娘だからねぇ。お酒の力を借りて、やっとって所かしら?さぁ、どうするのかしら、夏樹の奴?まさか、逃げわしないわよねぇ)」
ぐわぁぁあっ!?テメェら、何をテーブルの影に隠れてヒソヒソと話をしとるかっ!?まさか、これはお前達の仕業じゃねぇだろうなぁぁあーっ!?
「にゃつきぃい!?どこを見てりゅのらぁぁあっ!?ちゃんと、わたりを見ないと、わたりを見ないと…うぇ〜ん。にゃつきの馬鹿ぁーっ、にゃつきの馬鹿ぁーっ!?うわぁぁあん!?……ひっく、ひっく、ふぁぁぁあん!?」
「ひゃぁぁあ、泣くな!!泣くなよ、お前〜。て、抱きつくのはもっと駄目だぁぁぁああっ!!」
やべぇ、やべぇぞ。これは、人生で最大のピンチかもしれん…。
「うっと、凛さん?ほら、あの、えっと。…くっ、あのな、泣くなよ。困るよ。お前に泣かれると…。お前に泣かれると、俺が困るんだよ…」
「ひっく、ひっく…どして?」
「えっ?」
「どうして、私に泣かれると、夏樹が困るの?…どして?」
「いや、そのだな…」
くあああっ、やべぇぞ?勢いでとんでもない事を言ってしまったぞ?どして?どうしてだと?そんなの…そんなの決まってるじゃねぇかっ!?
「(ふわわ〜、これは佳境に入って来ましたねぇ〜。これは告白するのでしょうか?夏樹は、いつも閉ざしていた心を解放するのでしょうか?どうなんですかねぇ、解説のよし子さん!?)」
「(んん〜、どうなんでしょうねぇ、太郎さん?夏樹はあれで中々に奥手ですからねぇ。分からないわぁ〜。…でもねぇ、夏樹さ〜ん。ここで、ちゃんと答えないと貴方は男じゃないわぁ〜。ここは男らしく、ちゃんと凛の思いに答えないと駄目よ〜?)」
くわ〜っ、好き勝手に言いやがってぇ〜!!…くっ、そ。………わあった、分かったよ。答えるよ、答えれば良いんだろ?そうだよ、そうなんだよ、俺は、俺は…
「俺は、凛!!お前の事がっ!!」
「く〜…く〜…く〜…むにゃむにゃ…」
…………………………………………………………………はっ!?
こんにちは。
とりあえず、宣言通りに掲載。散々、引っ張ってきたクリスマスパーティーのお話。
第三十七話目。今まで出てきたキャラクター達(一部を除く)がパーティーに参加です。何やら愉快なパーティーになっていますね。さて、最後の部分。凛と夏樹の何やら不穏な空気。一体、どうなる事やら…。
では、今回はこの辺りで失礼致します。ありがとうございました。
今日はクリスマス・イブ。皆様にとって良いクリスマスでありますように…。