第三十五話:イブ前日に
「それじゃあ、お使いお願いね?」
そう言い空海桜子は、目の前の少女にお金を渡す。少女の小さな手は、ぎゅっと渡したお金を握り、その顔は『任せて下さいませ』といった感じで目を輝かせている。
「だ、大丈夫?ちゃんと買って来れるかな?」
何やら、桜子に言い様のない不安が込み上げる。お使いを頼む、少女。名前を柚子という。空海家の兄がとある事件にて保護をし、家族の一員として向かい入れた少女だ。
「まみゅん!!大丈夫、大丈夫。牛乳、たまご…買って、くる!!」
フンフンと鼻息を荒立て柚子はお金を握り締め、右手をあげる。そして、ドタドタと玄関へと走って行く。桜子も柚子を追い、玄関へと向かう。いやはや、不安である。柚子は元気一杯でやる気も全快なのだが…。
「……商店街、どっち?」
くにゃりと頭を傾げて、家の前で佇む、柚子。不安である…。
「商店街はあっちね」
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何やら面倒な事になっている。
「夏樹は、夏樹は、いつもそうやって誤魔化して!!凛ちゃんの事だってそうだ!!なんで、君はそうやって自分の心を閉ざすんだ!?馬鹿っぱぁあっ!!」
「ぶぁっ!?り、凛は今、関係ねぇだろうがっ!?てか、馬鹿っぱって何だよ、馬鹿っぱって!?」
空海家の兄、夏樹とその友達の佐久間只太郎が珍しくケンカをしていたのだ。二人はぎゃあぎゃあと騒ぎ、ソファーの周りをぐるぐる回っていた。
(全く、子供みたいだ、二人共…)
桜子は呆れた様な顔をして、キッチンへと戻る。まぁ、何だかんだで仲の良い二人だ。放って置いても直ぐに仲直りするだろう。そんな適当な事を考える桜子。すると、桜子の考えが的中したのか暫くすると二人は静かになる。ただ、ダイニングキッチンから見る限り、二人の周りには何やら不穏な空気が漂っている。
「うぃ〜、ただいまですぅ!!」
夏樹と太郎の騒ぎを放って置いてキッチンで洗い物をしていた桜子。すると、玄関から元気な声が聞こえてきた。空海家の次女、柊である。
「姉、兄と太郎が何やら変なのですが?何かあったのですか?」
と柊がいまだに不穏な空気を漂らせている夏樹と太郎について聞いてくる。
「さぁ?まぁ、でも放って置いて良いわよ。適当な所で仲直りするだろうから…」
桜子のその言葉に『うぃ、そうですか』と柊は言い、自分の部屋に向かって行った。
(…何だろう、柊がそわそわしてるような?)
桜子はいそいそと自室に向かう柊を見て不思議に思う。
(大抵、あの娘があんな感じだと隠し事をしてる時なのよねぇ。…何か壊したのかしら?馬鹿兄のプラモデルとか…)
もしそうなら、それはそれで面白そうだなと桜子は心の中で笑う。先日も、野良の猫に大事なロボットプラモデルを壊された兄は物凄い顔で、壊れたプラモデルの破片を握り、膝をついて落胆していた。あの時の状況を思い出すだけで爆笑ものだ。
そんな事を思い、『クククッ』と笑いをこらえて桜子は再びキッチンへと向かう。とりあえず、準備をしなければならない。明日はクリスマス・イブ。空海家ではクリスマスパーティーをイブにする。そして、クリスマスの朝、起きたら枕元にプレゼントが置いてある。サンタが居るか居ないかは置いておくが、クリスマスは楽しみだ。
「うぃ〜、行ってきますですぅ!!」
柊の元気な声。どうやら、彼女は再び遊びに出掛けたようだ。桜子はルンルンと鼻歌を歌いながら、ケーキを作る準備をする。パーティーには、音薔薇財閥の社長、よし子が経営するケーキ屋のクリスマスケーキも来るのだが。やはり、我が家でもケーキを用意したい。だから、前日である今日ケーキを作って置こうと思ったのだが…。
「柚子ちゃん、帰って来ないなぁ…。道に迷ったのかしら?」
と、桜子は家の前に出てみる。すると、玄関前に袋が置いてあった。何だろうと桜子は袋をあける。そこには、牛乳とたまごがワンパック。柚子に頼んだ買い物だ。
「もしかして、あの娘。玄関で柊にばったり会っちゃって、そのまま着いて行っちゃった?」
まさかね、と桜子は買い物袋を持ち、家へと入る。しかし、桜子の推理は的中していた。三時間後、柚子は柊と共に帰って来たのだった。
こんにちは。
サンタ編の桜子編です。なかなか出番のないキャラクターですが、桜子目線だと他キャラが扱い易かったりします。
さて、第三十五話目。所々、前回等と繋がっています。お使いに行った柚子が柊と帰って来た理由は前話にありますし、兄と太郎の事も前話で書いてありますしね。桜子と柚子の絡みについては、何やら仲良しの姉妹といった感じです。この組み合わせは、機会があったらまた書いてみたいと思っています。
それでは、今回はこの辺りで失礼致します。ありがとうございました。
サンタ編、まだまだ続きます。…クリスマスまでに間に合え!!