第三十三話:柊ちゃんと柚子ちゃんとちっこい悪魔
「右目は見えているのかい?」
白い白い白衣を纏った男。佐久間只太郎は、お茶請けの煎餅をバリッと食べながら目の前の男に話し掛ける。
「な、ななな、何の事かな?」
目の前の男。空海夏樹は両手をバタバタと上げ下げする。何やら動揺しているようだ。
「ふっ…。それだけで充分だよ、夏樹。君の右目は見えていない。いや、微妙かな?視力の問題ではない。見えたり、見えなかったり…かな!?」
「……何の、事かな?太郎、俺は至って健康体だ。何なら視力検査でもするか?」
静まり、鎮まる。この場を沈黙と無音が支配する。太郎と夏樹は言葉を交わすことをしない。ただじっと、お互いを見ているだけであった。眼光が眼光を睨む。威圧的な雰囲気が徐々に溢れ…
「うぃ〜、ただいまですぅ!!」
どうやら空海家の次女が帰って来たようだ。彼女の言葉にリビングを支配していた雰囲気が消える。
「う?どうしたのですか、兄?太郎も?」
「うんにゃ、夏樹が歯医者怖いって言うから、僕が歯の治療をしてあげようかって話してた所〜」
「は、は、はっ。太郎に任せるくらいなら自分で抜くよって、お兄ちゃんが言った所だよ?」
「あはは、夏樹が自分で抜いたら神経死んじゃうって言った所だよ?」
「あはははははっ。てめえに任せたら、命が死ぬわっ!!て、言った所だ」
「「あははははははははははぁーっ!?」」
「……うぃ?」
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「ギギ?」
「ふむ、似合いますね。サンタさんの服ですよ?分かりますか?家から取って来たのです」
悪魔はサンタの服を着た自分を見る。心なしか嬉しそうである。
「うぃ、兄達にはまだ知らせない方がよいですね。悪魔なんて知ったら卒倒してしまいますよ、特に兄とか、兄とか……兄とか?」
「みゅ、にぃは悪魔を…知らない?」
「いや、そういう訳ではなくてです。大抵は悪魔って聞くと、良い顔をしないって…おぉぉおっ!?」
いつの間にかそこには淡い水色の髪をした少女がいた。彼女の名前は柚子。最近、空海家の一員になった少女である。
「何故いるのですか?柚子は買い物に行ったのでは?はっ!?貴様、偽者ですね?」
「みゅっ?柊は…馬鹿?」
「馬鹿とは何ですか、馬鹿とは?うぃ、この感じは本物の柚子ですね。……え、えぇ〜と、あっあ〜ぁ…そんな事は良いのですよ。あははのは〜、です……さぁて、公園に行こうです」
「みゅう、分かった。公園…行く」
「お前は呼んでないです〜!?」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ、空海家の少女達。時間はもう夕方である。肌寒い風が吹き、太陽は意地悪なのか物凄い速さで地面へ消えようとしていた。
「みゅ、小さな悪魔…………可愛…い?」
「何故に疑問形ですか?可愛いですよ、可愛いではないですか?この八重歯とか…」
「…悪魔…歯、全部八重歯…」
確かに、ちっこい悪魔のギザギザの歯は口いっぱいに八重歯だ。むむむっと柊は柚子を睨む。全く、この柚子ときたら、あー言えばこー言うのだから…と。
「お、いたいた。お〜い、空海〜ぃっ!!」
柊と柚子が夕日の公園で遊んで(?)いると、向こうから白いニット帽をかぶった少年がやって来た。
「む、甘夏です。嫌な奴が来ました。…アイツにはちっこい悪魔は見せません」
「みゅう、分かった。甘夏、嫌な奴……倒す」
その言葉に一瞬『えっ?』という顔をする柊。だが、柊が見た方向には柚子はいない。なんと既に、遥かに先の甘夏が走ってくる方向にダッシュしていたのだ。しかも、もの凄い速さで…。
「お〜い、空海〜ぃっ。お〜い?……て、うおぉぉお?な、何だ?ものスゲェ速さで女が近づいて来る!?て、ぎゃあああ!?な、何故に飛び膝蹴りぃぃぃぃいっ!?」
ガスンと柚子の膝が甘夏のアゴに当たる。まさに、会心の一撃だ。スローモーションの様に甘夏が後方へと倒れていく。一方、柚子は見事に着地を決める。
「みゅう、ミッション………コンプリート?」
「うぃ、不幸な…奴です」
市ヶ谷 甘夏。彼はただ、クラスメートの空海柊を怒らせてしまったと思い。お詫びに彼女を近所の教会のクリスマス・プレゼント会に誘いに来ただけだったのだが…。辛くも初対面の柚子によって阻止されてしまうのだった。
こんにちは。
兄と太郎の何やらシリアスなケンカ…?太郎が言いたい事とは一体?まぁ、本編ではない、サンタ編には関係ない訳で…。
さて、第三十三話目。柚子が加わりました。柊と柚子の絡み、何か犬猿的な感じ?ただ、本当は仲が良いのです、この二人。
それでは、今回はこの辺りで失礼致します。ありがとうございました。
市ヶ谷甘夏。柊のクラスメート。不幸な小学生(笑)。特技・サッカー。思い人(好きな人)有り。素直の様なそうじゃない様な性格。