第三十ニ話:柊ちゃんとちっこい悪魔
ジングルベ〜ル、ジングルベ〜ル、す〜ず〜がぁ〜なる〜…。
街の至る所からクリスマスによる定番の音楽が流れている。そのクリスマスの音楽が流れる街角に数人の少年少女達が仲良く歩いていた。
「しっかし、浮かれきってんなぁ〜」
白いニット帽をかぶった少年。彼は紐付きサッカーボールをけぃんけぃんと蹴りながら街のクリスマスムードに呆れたような声を上げる。
「うっ、良いではないか?クリスマスだぞ?サンタクロースだぞ、馬鹿者!?」
その言葉に対し黒髪というより、藍色に近い髪色をした少女がムスッとした顔で反論をする。
「はっ、サンタクロース?お前は馬鹿か、サンタなんている訳ないじゃん。か・く・う、架空人物だよあのじいちゃんは…」
白ニット帽の少年は更にそう言う。サンタクロースは存在しない。誰も見た事ない存在。それは、無いのと同じ。サンタクロースはいないと彼は言う。
「甘夏、甘夏」
そこへ、黒ニット帽の少年が白ニット帽改めて、甘夏という少年に声をかける。
「んだよ、ヒトシ?」
「いや、柊ちゃんが…」
その言葉に甘夏は柊という少女を見る。
「…………」
明らかに不機嫌だ。彼女は明らかに不機嫌であった。空海柊は、ジロ〜ッと甘夏を睨み付けたまま一言も話さない。
(な、ななな、何だよ。めっちゃ、空海の奴、俺を凝視してくるんですけど?)
甘夏は彼女のその威圧感にたじろぐ。冷や汗が首筋を通り流れ行くのが分かる。何と言うか、マジやばい…。
「……クソがっ!!です」
その柊の言葉に『ひぃっ!?』と情けない声を上げてしまう甘夏なのであった。
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(サンタはいます。いるのです。私は知っているのです…)
空海柊はムカムカと街中を歩く。サンタクロースはいる。必ずいるのだ。柊はズンズンと大地に足を突きながら歩いて行く。
「うぃ、甘夏は馬鹿ですから。そうです、馬鹿な奴ですから。サンタさんはアイツの家には来ないです。…うん、そうに決まってます」
柊は『はふん』と公園のベンチに腰を下ろす。時間は昼過ぎだが、公園には人気がない。いつもならば、低学年の子供達が砂場やシーソー、ジャングルジムなどで遊ぶ姿が見られる公園なのだが。今は柊以外、誰もいなかった。
「ギギィ…」
「うぃ?何ですか、この声は?…ん、声ですかねコレ?」
柊は妙な音のする方向を見る。スベリ台が1つ。青色の手すりに黄色のスベリ台。それ以外に妙な所などは無いように…。
「ギギィ、ギギ…」
やはり、妙な音がする。何だろうか、スベリ台の下の安全の為の砂場がモッコリと盛り上がっている。とりあえず、パサパサと砂を叩く。徐々に姿を表していく何か。それは…。
「うぃ、人形さんです…」
ちっこい悪魔の人形。尖った耳に丸い顔。ギザギザの歯が横いっぱいに広がった口からはみ出していた。
「ギギ…」
「うわっ、動いたです!?目が見開いたです!?…綺麗な目ですね」
つり目の悪魔。瞳はブルーアイズ。ニタリと笑う姿が不気味だが。何やら可愛い感じがする。
「うぃ、捨て猫ですか?…いや、この場合は猫ではなく、悪魔?悪魔っているんですね〜。うぃ、まぁ、サンタさんがいるなら悪魔も…」
意味の分からない脳内変換である。しかし、柊はそれを心から信じているようであった。
と、そんな事を考えていた柊。ぐ〜、という音がちっこい悪魔のお腹から鳴った。
「うぃ、お腹がへっているのですか?…チョコ食べますか?」
柊はちっこい悪魔にチョコを差し出す。
途端にちっこい悪魔は柊の手に噛みつく。
「ギギ、ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ〜…」
「うぃ、器用な奴です。私の手に噛みついてるくせにチョコだけ噛んでます。てか、手を離しなさい。チョコだけ口に入れなさい。ヨダレは垂れ流しですか?私の手はヨダレでベタベタではないですか?て、ペロペロ舐めない!?」
ちっこい悪魔は、柊の手を傷つける事なくチョコレートを食べ尽くす。一方、柊はそれを見ながら何やら考え込んでいるようだ。
「うぃ、決めました。アナタは私が飼って上げます。兄に言って飼って貰います。うっ、しかし、姉が問題です。う〜、姉を説得しなければ。どう、説得しましょう…」
「ギギ…?」
困ったような顔をする柊。彼女が一体何故に困った顔をしているのか、ちっこい悪魔には分からない。しかし、ちっこい悪魔は考える。人間は嫌な事があってもそれ以上の幸せが有れば、前の嫌な事を忘れる。きっと、この少女だって同じに違いない。ちっこい悪魔は手を天にかざす。そして、何処からともなくいくつもの光る物を取り出した。
「うわっ、何ですか、いきなり?うぃ?何ですかコレは?キラキラ光ってます。ガラス?ビー玉?うぃ、金ぴかの板もあります。どこから、こんなに出したんですか?この、ガラクタ達は?」
「ギギッ!?」
当然、小さな少女は知らない。このガラクタ。ちっこい悪魔が何処からともなく差し出したガラクタ。これは一般に宝石という。
正しく、ダイヤモンドカットをされたガラスはダイヤモンドであり。ビー玉の様にまるっこい緑、青、紫の石達はサファイアやルビー等の高級品である。金ぴかの板はもちろん金である。
しかし、少女は知らない。いや、俗世間に毒されていない。彼女にとってそれは必要のない物だから。彼女にとって幸せはそんな物ではないから。
「うぃ、駄目ですよ?公園は皆のものですから。ゴミはゴミ箱へ…」
いや、決して彼女が宝石の価値を知らない訳ではない。知らない訳ではないのだが…。
「はい、ザザザーです」
「ギギッ!?」
そう言い彼女は金銀財宝をゴミ箱へと流し込む。ゴミにまみれた宝石達。もはや、その輝きは光る事を許されなかった。空き缶と比べられた金と銀。ガラスにさえ、その威厳を示せないダイヤモンド。これらを見て人は言うだろう、ガラクタ。
いや、決して柊が宝石の価値を知らない訳ではない。ただ、ちょぴり貧乏な空海家の財政。その家で彼女は宝石というものを見た事がないのだ。テレビで見た事があっても実物を見た事がないのだ。
いや、だからと言って決して安月給の空海家の長男が悪い訳でも……。
こんにちは。
SFです。空想科学ストーリーです。ちっこい悪魔です。クリスマスストーリー…?
さて、第三十ニ話目です。柊が主人公の話ですね。ちっこい悪魔が登場。エスエフの世界になっています、が、本編には関係ありません。前回言った『ここらで一発、クリスマスな話』という訳でして、まぁ、番外編に似た様なモノ。とりあえず、続きます。
では、今回はこの辺りで失礼致します。ありがとうございました。
『あわてん坊のサンタクロース』って知っています?クリスマス前にやって来たり、煙突から落っこちたり…。歌、なんですけどね。