第ニ十八話:闇
そこは崖に建った古城。古びたレンガの色彩がより古城を歴史的に魅せている。その古城の一室。大広間というべき部屋であろう。そこには、三人の人影が見える。
「いとおしさ故に破壊を」
「限りなく無へと帰した世界を」
「より深みのある創成へと導かん」
三人が三人共に別々の言葉を放つ。それは、まるで暗号のように…。
「ふん、いつまで祈りを捧げているつもりだ、ビシュヌ?」
三人の内、黒マントを羽織り大鎌を手に持つ男が左側の女性に文句を言う。
「シバ、やめなさい。ビシュヌは我々より信仰を強く持っているのです」
シバという黒マントの男をもう一人の男が諌める。諌めた男の姿は白いマントを羽織り左腰に剣を差している。
「良いのですよ、ブラフマー。シバの言う通り、祈りを早急に済ませて今回の議題に移りましょう」
そう言いビシュヌという彼女はそっと瞑っていた目を開ける。彼女は水色のマントを羽織り木製の杖を膝の上に置いている。
「議題ね、はっ!!東洋の島国にて存在する第三者による妨害…」
シバは不敵に笑い、テーブルに置いてあるブドウ酒を飲む。それを見たブラフマーは『はぁ』とため息をつき言う。
「さて、どうしたものか…島国とは言え。我々組織の邪魔をする者が現れました」
組織名『crown』
世界に徹底的な交戦を求める彼ら。破壊を繰り返し、世界を限りなく無にした後、より平和のある世界を創成するというのが彼らの組織的目的である。だが、その壮大なる計画を前にそれを妨害する者が現れた。そのために、各地にて作戦を展開中だった彼ら三人はこの古城へと集う事となったのだ。
「あぁ、そういやぁ…。『インビジブル・ブレード』が行方不明らしいなぁ。なぁ、ビシュヌ?くはっ、お前のお気に入りじゃなかったか、おい!?」
シバは『カカカッ』と卑しく笑う。それを笑う事も怒りを表す事もなくビシュヌは答える。
「確かに、『月影』は残念な事をしました。しかし、悔やんでも前に進まなければなりません。後悔よりも前を見据えるのが先です」
どこを見ているのかビシュヌはただ真っ直ぐに顔を向けている。彼女の表情は全くの無表情であるが、その姿からは悲しみが色濃く見て取れる。
「シバ、いい加減にしないか」
その様子を見ていたブラフマーがシバを再び諌める。黄金の髪に微光を放つ瞳。その全てがシバに対し怒りを向ける。
「…かっ、恐ろしいねぇ。創造を司る神には到底見えない。お前、俺より破壊神の素質があるんじゃなぇの?」
ブラフマーの睨みを受け流し、シバは皮肉る。
「しかし、一体どのような者なのでしょうか?『月影』を打ち倒し、我々を退ける程の力を持った第三者とは…」
ビシュヌは自分が可愛いがっていた部下を打ち倒した第三者について論じる。
「さぁな、『インビジブル・ブレード』がどれだけの力を持っていたかによるだろ?まぁ、あの黒猫がちょこざかったのは覚えているが…」
「ははっ、シバよ。その黒猫に痛手を負わされたのは何処の誰だったかな?」
ブラフマーがシバに対し復讐の皮肉を浴びせる。『あぁっ!?』とシバが立ち上がりブラフマーへと大鎌を向ける。
「はははっ、大鎌を仕舞いなさい、シバ。しかし、三年前の事を思い返すと第三者を見くびっては痛い目に合うのは確実でしょう?」
ブラフマーがそう言うと大広間は静まりかえる。三年前。このフレーズにシバもビシュヌも黙り込んでしまう。
「カカカッ、三年前な。確かに、この国にはお世話になったなぁ」
シバは大鎌をブラフマーから離す。そして、部屋の隅に置いてある銅像を切りつける。ズバンと真っ二つになる銅像。
「魔神・空海玄治」
ガシュン、ガシュンとシバは大鎌を振る。
「そう、三年前の作戦にて立ちはだかった男。魔神は死んだが、その力はまだ衰えていない」
その言葉に世界を破壊する神・シバも、世界の維持を司どる神・ビシュヌも息を飲む。それを見て彼は言う。世界の創造を司どる神・ブラフマーは続けて言う。
「今回、我々の作戦を阻止した第三者とは『魔神の息子』なのですよ」
闇を蠢き、光を進む。彼らは誰にも止められない。そして、誰にも止められない『システム』が動き出した。その『システム』を邪魔する者を彼らは排除する。目標は東、東洋の更なる東の島国。
世界は激動に流れていく。そう、神さえも置き去りにして…。
こんにちは。
遂に組織の幹部がその姿を露にしました。彼らの名が意味する事とは…?
東洋の更なる東の国。そこにいる第三者『魔神の息子』。彼の正体は言わずもがな…。
では、今回はこの辺りで失礼致します。ありがとうございました。
『インビジブル・ブレード(見えない刃)』=『月影』=『黒猫(笑)』