第ニ十七話:三階での出来事
こんにちは。
珍しく前置きを書いております。それというのも今回の話、なんと話を語ってくれるストーリーテラー(語り部)がいない話なのです!!大抵は夏樹がストーリーテラーを買って出てくれるのですが…。今回は社がメインなので。彼、あまり喋らないし(笑)
という理由で今回のストーリーテラー(語り部)は作者である私『オオトリページ』が勤めさせて頂きます!!…て事でどうでしょう?
それでは本編へ、どうぞ!!
光となりて闇夜を照らす月。影となりて辺りを支配する闇。
『シマダ第2営業所』のビル3階。天城社はひんやりとした静かな通路を進む。このビルは何年も使われていなかった為かゴミが辺りに散乱し、汚れがあちらこちらを占領していた。
奥へ進むに連れて通路の冷たさが増すような錯覚に社は襲われる。言い様のない寒気。通路の奥のそのまた奥。壁は先ほど述べた様に汚れが目立っている。目立っているのにその扉はちっとも汚れていない。それどころか、清潔感が溢れんばかりだ。
カチャリと社は扉を開ける。
「おや、お客さんかな?」
そこにいたのは金髪をオールバックに決めている男。黒の皮ジャンと今流行りのダメージジーンズを着た外国のマフィア風の男である。
「あーは〜ん…リトルボーイ…少年、か。まさか、エントランスビル作戦を妨害したのが少年じゃあるまいし。ガナンめっ、相手の特徴ぐらい見極めておけってのっ!!」
男は持っていた缶ビールをベコッとへこませ、床へ投げ捨てる。
「たく、エントランスビル作戦をおじゃんにした奴を誘き寄せる作戦だったんだが…。ちと、リトルボーイ過ぎた作戦だったかな?…まさか、本物のリトルボーイ…少年が出てくるとはな」
エントランスビル。社はその言葉に聞き覚えがあった。最近あった立て籠り事件の現場。そして、その事件は2・3週間前からニュースでうんざりする程に報道されている事件だ。さらに言うとニュースは現在進行形で報道されているのだが…。事件は警察の活躍によって解決されたと聞いた。それでは、この男は一体?
社は考えを張り巡らせる。十中八九、この男が小・中学生やウサギ達を傷つけた犯人である事に間違いはない。たが、エントランスビル事件。なにやら、危険な匂いがしてきた。社はゴクッと喉を鳴らす。
「しかし、少年も運が無かったな?俺の姿を見られた以上、死んでもらう。二階のガキ共と同じくな」
そう言い男は右腰に備え付けていた革製のナイフカバーから真っ黒なナイフを取り出す。一体どんな材質なのか、ナイフは本当に真っ黒である。不気味に黒光るナイフ。いや、不気味なのはむしろ金髪の男。へらへらとしているが、その殺気は隠しきれていない。
汗が社の頬を伝う。息が粗くなり、動悸が激しくなる。苦しい。社は中学生である。いくら戦闘センスがあって、ナイフ捌きがプロ並だとしても中学生なのだ。この、目の前の殺し屋には敵うまい。
気が遠くなる程の沈黙。金髪男が動く。一瞬にして社の間合いを潰し、攻撃を仕掛けてくる。
ガギィンと金髪男と社のナイフがぶつかり合う。キィンキィン、キィンと何度も何度もナイフがぶつかり音をたてる。端から見れば社は金髪の殺し屋と対等に戦っている様に見える。が、なんて事のない。社はただ金髪の殺し屋が放つ攻撃を受けているだけ。そう、防御に徹することで精一杯なだけなのだ。
「へいッ、カモン!!お〜らおら、おらぁぁっ!!ははーっ、どうした少年!?ただただディフェンスしてるだけじゃ俺は倒せねぇぜぇ!?」
しゅびっ、しゅびっと防御しそこねた攻撃が社の皮膚を切り裂いていく。タラーと頬から汗ではない液体が流れる。金髪の殺し屋の攻撃は回を増すごとに早くなり、その威力も強力になっていく。防ぎきれない。社は『うぅ』と後ろへと下がる。そして、
「はい、ジ・エーンド!!」
言葉と同時に社が倒れる。彼に、もはや意識はない。完全に負けた。社はドタッと倒れたままピクリとも動かない。本当に意識を失ってしまったのだ。
「少年よ、残念だったな。筋は良かったんだが、俺の方が腕は上だった。…くっ、くくくははははーはっ!!つまり、君はここで死ぬ」
クールな印象があった金髪の殺し屋。だが、今はグニャリと顔を崩して笑う。人を切り刻む。この金髪の殺し屋にとってそれはこの上ない幸せだった。今の組織には自分より格上のナイフ使いがいた。その為にナイフで人を切るのは久しぶりなのだ。だから、金髪の殺し屋はグニャリと笑う。
「ナイフを使う格上のライバルと対等に渡り合うには、それ意外の方法をとるしかないからなぁ…」
普段はフェザータッチにした銃を使う金髪の殺し屋。だが、今回の作戦は好んでナイフを用いた。それというのもライバルであった格上のナイフ使いが先達ての作戦にて行方を眩ましたからだ。その為に事実上、彼が組織の中で最強のナイフ使いという事になったのだ。
全くもってラッキーであった。目の上のコブであった黒服の男。その男が消えたのだ。悦ばずにはいられない。金髪の男は、ニヤニヤといやらしい笑顔を浮かべ倒れている社に近づいていく。
ギラッと黒く光るナイフ。金髪の殺し屋はそのナイフを垂直に立て社へと刃先を向ける。もはや、誰にも止められない。一階にいる大病院の若・佐久間只太郎にも、二階にいるエントランスビル事件にて活躍を見せた刑事・空海夏樹にも誰にも止められない。
「クハハハハハハハハッ、シネェェェエッ!!」
金髪の殺し屋からナイフが振り降ろされる。そして、ナイフが社の胸にグサリと刺さる。終わった。彼は死んだ。材質は不明だが、固い印象のある黒光りするナイフが胸に刺さったのだ。彼は死んだに違いない。
「…っ!!なんだぁ、こりゃあっ!?」
金髪の殺し屋は驚く。目をむき出しにして己のナイフを見る。そう、『部屋の端に落ちているナイフの刃先』を…。
「有り得ねぇ、有り得ねぇえ、有り得ねぇだろぉぉこれはぁぁーっ!?ワーーッツ!?ナイフの刃先を切るだと?有り得ねぇ、このナイフは組織が創ったチタネス甲合金製のナイフだぞ!?そいつをブッ壊すなんて、どこの機動戦士ロボットの合金製の武器だってんだぁぁっ、ああぁん!?」
刃先の無くなったナイフ。これではナイフはナイフの意味を持たない。つまりは、社に刺さったナイフは刃先の無くなったナイフという事。彼の胸には傷一つついていない。彼は生きているのだ。
だが、金髪の殺し屋にとって社が生きている事など問題では無かった。組織が創った最強の筈のナイフ。鋼鉄の盾だろうと鍛え上げた鉄刀だろうと、全てを両断する筈のチタネス甲合金製ナイフ。だが、支給されて一週間と経たずそれは破壊された。
「あぁあっ!?テメェはっ…!?」
金髪の殺し屋は部屋の入り口を見る。そこにいた者。そこに存在した男。金髪の殺し屋は驚愕する。まるで、幽霊を見るかのような表情で驚愕する。
黒服の男であった。上から下まで黒一色で統一した男。黒髪を長く伸ばし、切れ長の目をさらに鋭くした男。肌は白く、それがより黒を強調している。一般にはこの男を美形というのであろう。その姿を見て金髪の殺し屋は男の名を言う。忌々しく、吐き捨てる様に…。
「月影ェ…」
この後に二階の少年達を逮捕した夏樹が、この部屋に駆けつけてくるのだが…。この金髪の殺し屋と黒服の殺し屋が消え失せていたのは言うまでもない事であった。
こんにちは。
前書きに書いた通りにストーリーテラー(語り部)を勤めさせて頂きました。まぁ、なんて事のない普通の小説構成なのですが(笑)上手く書けていたでしょうか?
さて、第ニ十七話目です。今回の話は前話の補足的な話ですね。夏樹が三階に駆けつけてくる前に社の身に何があったか…。それを書いたものです。
はて?何やら面白い事になっていませんか?社を助けた黒服の殺し屋。この後の展開が私自身、気になりますが…。
今回はこの辺りで失礼致します。ありがとうございました。
直ぐ終わるとか言っておいて結局話を長くしてしまう私。…頑張ります!!