第二十六話:事件、一応の解決!?
『シマダ第2営業所』町外れにある電気会社の三階建てのビルである。電気会社であるシマダは三年前の暮れに倒産した。そのためか、人が出入りしなくなったこの廃ビルに行き場を無くした少年達がたむろすようになったという事らしいのだが。
「…じゃ、僕は一階。夏樹が二階で、社君が三階を調べるんだね?」
さほど大きい訳ではない『シマダ第2営業所』だが、俺達は各階に分かれてビルを調べる事にした。犯人は年端もいかない少年達である。並みの戦闘力でない社君一人でも大丈夫であろう。それよりも、ここまで来て犯人である少年達に逃げられては釈である。そのための分散。まぁ、大抵はビルの半ばである二階に潜伏しているのがセオリー。なので犯人である少年達と出会うのは俺であろう。
二階の階段付近。一階から上がった所に書かれてある文字。『XXX WE ALL DETH』どういう意味なのだろか。もしかしたら、深い意味など無いのかもしれない…。たが、俺はその文字に何かを考えさせられてしまう。
「私達は、全てが死…?」
英語が得意で無い俺は、そう訳してしまう。別の意味かもしれないが少なくとも俺はそう感じた。
他に壁に沿って色々とスプレーで絵や文字が書いてある。奥に行けば行く程のその度合いが酷くなっていくが、中々に上手な絵である。画かれている物は天使や太陽、月や女性をモチーフにしている様に見える。
「…これは、何らかの宗教だろうか?」
もしそうだとしたら厄介である。暇や力を持て余した少年達ならば、まだ説教のしようがあるが…。何らかの宗教なのならば話は別だ。彼らは彼ら独自の世界観を築き上げ、彼らの築き上げた世界に乗っ取り考え、行動をする。地下鉄に毒ガスを散布したり、高層ビルに爆発物又は飛行機をぶつけて爆破したり。そう、まるで、テロリストが如く…。
「まさか、な」
通路には空き缶や空のペットボトルが散乱している。俺は歩き難いと思いながらも奥へと進む。月明かりが未だに明々と窓から通路を照らす。不気味な程に静かなビルの通路。ホラー映画ならばここらで一発、お化けやポルターガイスト等が出て来たり起こったりするのだが…。
「話し声?」
通路をさらに奥へと進んだビル二階の一室。何やら笑い声や話し声が聞こえてくる。やはり、セオリー通りに俺が犯人である少年達と出会う羽目になったようだ。
俺はカチャリとドアを開ける。躊躇い等の類いは無い。
「誰よ、アンタ?」
5人組の少年達である。茶髪の少年が2人。1人は赤いジャケットを着ている。もう2人は金髪とドレッドヘアーの少年達である。そして、部屋の奥のソファーに座り、俺を睨み付ける少年。彼がこのグループのリーダーであろう。
「あー、少年。俺は今世間で騒がれているナイフ殺傷事件の犯人を探している。…てか、未成年がこんな夜中に町外れの廃ビルにたむろしてるのでお前ら逮捕」
言うが早いか俺は5人の内2人を捕まえ手錠で動けなくする。
「ヤロォォッ!!ぶっ殺す!!」
金髪とドレッドヘアーを捕まえると赤ジャケットの茶髪が俺に勢い良く殴りかかってきた。何て事のない不良少年の打撃。俺はヒョイと横に避けて赤ジャケ茶髪の足を引っ掛けてやる。
「うわぁぁあっ!?」
勢いのついた赤ジャケ茶髪はガラゴロガラと前に倒れ転がっていく。
「なろぉっ!!」
次に普通の茶髪が俺に向かってくる。手には何処で手に入れたのか三段ロッドを持っている。それを振りかぶり勢いに任せて振り降ろしてくる普通茶髪。何とも易しい攻撃である。俺は三段ロッドを避け、普通茶髪の顔面等に2・3発のパンチを喰らわせる。それ程、力を入れていないのに拘わらず普通茶髪はぐらりと崩れ落ちる。何と呆気ない。5人いた少年達は、1人を残して戦意喪失である。
「さて、少年。後は君1人だ…」
『さぁ、どうする?』と俺はグループのリーダーである少年に体を向ける。
「あぁ、1つ聞いておく事がある。今回の事件の犯人は君達か…?」
俺は思い出したかの様にリーダーに尋ねる。社君の話が真実ならば彼らが今回の犯人に間違いはない。だから、確証を得る為に俺は聞く。犯人はお前達なのか、と。
「だったら?何アンタ、警察?」
「刑事だ」
俺は、リーダーの問に即答をする。しかし、『あっ、そう』とリーダーは別段に驚く事ではないという感じで、ゆっくりとソファーから立ち上がる。なるほど、リーダーらしく中々に落ち着きがある。すると、リーダーはポケットからナイフを取り出す。やはり、犯人は彼ら…いや、彼であろう。
バタフライナイフを右手に持ち、前に構えるリーダー。左手を横に軽く添えている所からナイフの扱いに慣れている様に思える。社君とどちらが上かな?
「よそ事考えてんなよっ、と!?」
鋭い!!彼のナイフが俺の頬の皮を捉える。つぅーと血が流れ出る。他の事を考えていた俺は目の前の少年に集中する事にした。右、左、下…。
リーダーのナイフ捌きは中々のものだ。もし、彼に社君の様に師がいたならばヤバそうだが…。はっ、月影相手ならばこれだけでアウトだったな。俺はニヤニヤとしまりのない笑顔を抑えきれずにいた。
「ちっ、笑ってんなぁぁぁぁっ!!」
リーダーが怒りに任せ左から切りつけてくる。しかし、遅すぎる。あまりにも遅すぎる斬撃。俺は彼が腕を右に振り切る前に彼の顔面を強打する。
ズドッとその場に座り込むリーダー。彼は何が起きたのか分からないでいる。
「さて、あとは社君と太郎を回収して事件解決っと…」
パンパンと手をはたき俺は一息をつく。何とも呆気ない幕切れだ。まぁ、しかし、これで柊も桜子も安心して…
「余裕だな、アンタ?言っとくが、三階には俺より強い奴がいるんだぜ!?俺程度で余裕かましてる様じゃ、あの人には勝てねぇぜ!?なんたって俺にナイフを教えてくれた人だからなぁ!!」
俺は驚く。リーダーは彼ではない?そして『ナイフを教えてくれたあの人』その言葉が差す意味。マズイ、三階には社君がいる。この少年のナイフ捌きはまだまた未熟であるが、その師となるならば話は別だ。少年のナイフ捌きから容易に想像できる、その男は強い。たぶん、社君では刃がたたない程に…。
ちぃっと俺は元来た道を戻り急いで三階へと駆け上がる。社君、無事でいてくれよ!!
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ビル三階の奥の部屋。ドアが半開きになっていたため俺は直ぐに社君がその部屋にいる事が分かった。バンとドアを開け、部屋を見渡す。部屋の真ん中に倒れている何か。言うまでもない、社君だ。
「社君!?」
倒れている彼に近づき、彼を起こす。目立った外傷はないように思われるが…。彼は目を瞑っている。ユサユサと体を揺するが反応がない。マズイ、マズイぞ!?
「おい、社君?社君、社君?…やしろぉぉおっ!!」
何て事だ。何がセオリーだ。二階に犯人がいる?馬鹿な、そんな甘い考えだから社君を…。やり場のない怒りが立ち込める。また、また俺は人を…
「ごほっ、ごほっ…。生きてますよ、ごほっ」
「社君!?」
はは、ははははっ。良かった、本当に良かった。どうやら、社君は気絶をしていただけのようだ。俺は焦り過ぎて冷静に判断が出来ないでいたのだ。しかし、本当に良かった。真犯人には逃げられたが、社君が無事なだけマシであろう。それに、とりあえず、二階の少年達が事細かに事件の詳細を喋ってくれるはずだ。
俺は立ち上がれない社君を背負い、一階の太郎のもとへと向かう。事件を解決出来ない事は心残りだが、このまま突っ走っても無駄な気がする。とりあえずは、病院を退院してからだ。
そうして、連絡したパトカーが来るのを見届けた俺は、そのまま病院へと帰えっていく事にしたのだった。
こんにちは。
はい、まさしく事件、一応の解決!?です。話を無理矢理にまとめ終わらせてしまいました。良い案が浮かばず。まぁ、うだうだと話をこねくり返しては、ぶち壊し。また、こねては壊すの繰り返し。そして、最終的にこういう事に…。今回、本当に力不足を痛感する事となりました。ん〜、大丈夫かなぁ?
さて、第二十六話です。毎度の如く、展開が急ですが…、気にしない方向で(笑)
兄が、兄ではなく『夏樹』としての話が多くなってきました。まさに、設定に溺れまくっております(笑)
まぁ、それはそれで良いのですが…。シリアス編を書くにあたって兄の知らない所で起きている事件を書くにはストーリーテラーをどうするべきか迷っています。事の当事者に語らせるか、また、別の手法でいくか…。
…まぁ、とりあえず、事件は一応の解決です。
それでは、今回はこの辺りで失礼致します。ありがとうございました。
この小説は兄と2人の妹の話…の筈です。とりあえず、確認!!まぁ、着実にズレていってますが(笑)