第二十五.五話:事件、佳境前にて
黒少年、本名を天城社と言う彼は、俺と太郎が通っていた聖城中学の後輩であるらしい。
彼は聖城中学に入学して間もなく、ウサギ達の世話をする飼育係になり毎日のようにウサギ達の世話をしていたという。しかし、ある日ウサギ達の異変に気付く。昨日は無かったウサギ達の傷…。彼も最初は学校内の人間の仕業だと思い、疑わしい生徒や教師を徹底的に調べた。が、該当者はいなく捜査に行き詰まった所で夜中に学校に侵入をする怪しい人物がいると情報が入り昨日から張り込みをしていたらしい。
「あのさ、1つ聞いて良いかな?」
俺は前を歩く黒少年・天城社君に話し掛ける。言葉は少ないが彼の話で彼の身元はわかった。しかし、俺には分からない事が1つある。
それは、彼の手馴れたナイフ捌きである。中学生徒にしてはあまりにも卓越している様にみえるのだ。そう、彼の手馴れたナイフ捌きはまるで…あの、ニュー・エントランスビルで戦った黒服の男の様なのだ。
「君は、そのナイフの使い方…誰に習ったの?まさか、独学じゃないよね?」
俺の問いかけに社君はチラリと俺の方を見て答える。
「…3年前に、とある人物から習いました。…当時、自分は虐められていたので…」
3年前…。彼のその言葉にピクリと俺は眉をひそめる。3年前と言えば旧・エントランスビル事件があった年だ。そして、あの黒服の男もその事件に関係しており3年前にこの町にいた事を俺は知っている。もし、俺の推測が正しければ…
「その、とある人物って、もしかして黒い服を着ていなかった?」
再び、社君に問いかける。確信があったのだ。彼の卓越したナイフ捌き。3年前に習ったという、とある人物。そして、何より似ている。社君の姿があの黒服の男・月影にあまりにも似ているのだ。
「…確かに…黒服を着ていましたね、あの人は…」
俺は何を期待しているのだろう。彼が月影と会ったのは3年前。何より、彼と月影が今でも会っている筈なんてないというのに…。しかし、それでも…それでも俺は聞いてしまう。何を?決まっている。
「君は…、今でもその男と会っているのかい?もしくは、連絡を取り合っているとか…?」
有り得ない話だ。今でも会っている?連絡を取り合っている?…有り得ない。
だって、奴は…。月影は俺が殺してしまったのだ。あの、目が眩むほどの高いビルから落としたのだ。生きているはずがない。では、何故俺は社君に聞いたのか…。月影に生きていて欲しかったから?
………違うな。
認めたくないのだ。信じたくないのだ。俺が殺してしまったという現実を、俺が犯してしまった罪を…。だから、聞いたのか。だから、聞いたのだ。だから、聞いてしまったのだ。
「いえ、あの人と自分は知り合いという訳ではないので…」
当然の答え。期待をしている方がおかしい、有り得ない。やはり奴は死んだ、いや、俺が殺した。もう、この世には存在しない人物なのだ。
「疑問、なのですが…」
何かを期待していた哀れな俺に社君は眉を八の字にし問いかけてくる。
「何故あの人を知っているのですか?…察するに俺のナイフ捌きとこの黒姿から推測したと考えますが…。たぶん、同じ人物を言っていると思います。しかし、あの人はこの国に知り合いはいないと言っていました。貴方はあの人とどういった知り合いなのですか?」
言えない。分からない。彼に何と言えば良いのだろう。…君のナイフの先生を俺が殺した?ははっ、悪い冗談だ。まだ、海外のブラックコメデイドラマの方が笑える。
「…まぁ、良いです。着きました。あのビルが犯人のいる場所です」
そう、言い社君は町外れにある忘れ去られた廃ビルを指差す。ここが、この事件の終着点。ここに、ウサギ達と中学生、小学生をナイフで傷付けた犯人がいるのだ。
「…詳しい話は後程…」
「分かった、とりあえず犯人を取っ捕まえよう」
そうして、俺達は幾つかのしこりを残してビルへと入っていくのだった。
こんにちは。
はい、番外ではありません。これも、一応の本編でございます。しかし、補足みたいな物なので第二十五.五話という事になりました。でも、黒少年・社君と黒服男・月影の関係を知る為にはこの第二十五.五話は意外と重要な所。
さて、大分長くなりつつ在ります。あと2、3話で終わるなんて言ったのは何処のどいつなのでしょう(笑)
とりあえず、社君が意外な者と戦います。
では、今回はこの辺りで失礼致します。ありがとうございました。
あっ、ドクター(太郎)の事、スッカリ忘れてた…。