第二十三話:兄と太郎の事件簿
「はーやく、退院しないかなぁー?病院はー、退屈だぁーい…」
訳の分からぬ歌を口ずさみ、病院の廊下をスキップする俺。それもその筈、あと少しで俺は退院できる。その事を思うだけで心が踊るのだ…。
「帰ったらぁー。なぁに、しよっかなー?」
帰った時に何をするか、考えるだけでワクワクする。入院中は強制的な禁欲が続いた。正直…、辛かった。だって、だって、男の子なんだもん…、てへっ?
「あぁ…。酒が…、酒が飲みたいなぁーと…。マッカラン?…ナポレオンでも良いなぁー?あ、日本酒も忘れずにぃーと、えへへぇ」
別段、酒好きという訳ではない。しかし、一度味を覚えた美味しいもの…、飲みたくなるのが人間の性。飲まずには、いられまい…?
「あっはっはーん!?今なら、バッカスにさえ勝てる気がするぜぇい…」
ギリシア神話にて、お酒の神・バッカス…。世界に名立たる酒豪と聞く。きっと、何ガロンも高い酒を飲み干すのだろう…。しかし、しかしだ。今の俺も負けない!!スポンジの様に全ての酒を飲み干してくれよう!!
「がっはっはっ!!バッカス、又の名をディオニュソス!!負けねぇぜっ!?」
何者にも、俺を止められやしない。それ程の禁欲生活…。ストレスとは、こういう所から来るものなんだな?俺は、改めて自由の素晴らしさに気付く。退院が、本当に待ち遠しい…。
「近くの中学校で、殺傷事件があったらしいわよ?」
「知ってる、知ってる。学校で飼ってるウサギとかも傷付けられたんだってねぇ?…最近、物騒ねぇ…」
廊下を歩いているとナースステーションに差し掛かる。そこで、何やら看護師の女性達が噂話をしているようだ。…殺傷事件?通り魔だろうか?いや、ウサギを傷付けた?…犯人は、中学生の可能性が濃い。
学校というのは、あれで中々侵入しにくい。広い運動場は目立つ様な所に設置してあるし、校門なども威圧というためか立派な門を大抵の学校が構える。いや、見栄もあるが…。さらには、最近物騒な事もあって昔以上に先生方の目が光っている…。その中で、中学校の一角にせよ、侵入するという事は…、余程、出入りに慣れているのだろう。
「………。中学校か…。まぁ、どちらにも害は無さそうだけど…」
桜子は、高校生になったばかりだし。柊は、まだ小学4年生…。一応、大丈夫ではある…、一応は。
「でも、確か、下校中の小学生も傷付けられたって話だよ?」
何?小学生が!?あわ?あわわわわっ!?まずい!!まずいじゃないか?柊が、柊が危険だっ!?わっ、わわわわ…わん?にゃ、にゃにゃーっ!!
「最近は、鋭いナイフがインターネットで手に入るからねぇ…。凶器はどこからでも…」
鋭いナイフ!?あっ、ああ?柊が、柊がナイフで…?いや…なにゃ?ふにゃ、ふざけるにゃぁぁあっ!?
「うーん。夏樹の顔が面白い様に変わるなぁ…。あははははっ!!夏樹をからかうと笑えるー」
笑えん!!断じて笑えん!!これは、由々しき事態だぞ!?柊が安心して登校できない!!いや、柊だけではない、桜子だって、途中まで同じ通学路なんだ…。むっ、むむむむ!!柊と桜子のために、これは、俺が行くしかない!?そうだ、そうなんだ!!柊と桜子も俺を待っているんだ!!うぉぉぉっ、今、お兄ちゃんが行くぞぉぉぉっ!!
「あぁー…。夏樹の奴、走って行っちゃったよ。あははっ、ほーんと。夏樹は面白いなぁ…」
「佐久間せんせーい、学会のお時間ですよー?早くしないと、教授の皆様が…って、先生?ちょ、どこ。何処に行くんですか?海外のエライ教授の方もいるんですよ?佐久間先生が出席しないと国際問題に発展するかもしれないんですよーーっ!?」
「かーんけいなぁい…!!てか、そんな、ただの嫌な爺達が集まって金の話をする学会よりも…。夏樹の方が面白そうだから、行ってきまぁーーっ!!」
こうして、俺と太郎の珍妙な事件が幕を開けたのだった…。
こんにちは。
ドクター(太郎)が居候するという話でしたが…、その前に中学校で起きた事件のお話です。兄とドクターの珍妙コンビ。たぶん、事件は迷宮入りですね(笑)
さて、どうなる事やら…。
では、今回はこの辺りで失礼致します。ありがとうございました。
ドクター、意外と国際的?…でも、逃亡(笑)