第十二話:44階にて死闘
手が痛い。俺の腕は無理矢理に縄抜けをしたため皮が剥げ血がにじんでいた。
ゲーム開始から20分程度のロス。爆発まで残り3時間…。さて、屋上に行くまでどれくらいかかるかな?
相手はテロリストだ。そう簡単にいかないだろう…。
「てか、何階?」
とりあえずはエレベーターで…。
しかし、デケェなぁ、このビル。65階建てねぇ…どこにそんな金があるんだ?
廊下に出て辺りを調べる。人が一人もいない。まぁ、当たり前か…テロリストがいるビルをウロウロしてる奴なんて俺ぐらいだろうからな。
30階か…。エレベーターホールにて階を確認する。このエレベーターホールには大理石がこれでもかっ…という位に使われ、逆に下品な物になっている。どうやらこのビルのオーナーは金にものを言わせるタイプらしい。…何かな。
「あれ?動かねぇじゃん?マジかよ、階段で行くの?35階も上なんだよ?」
しょっぱなから、ダルッ!!
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黒くて固くて筒状の物ってなぁーんだ?…第二のヒント!!それは、小さいけど人を殺すには充分の威力があります。
…正解!!拳銃です。そして、今まさに俺はその拳銃で狙われてます。あはははっー。
「ひゃあはははっ!!逃げねぇと死んじまうぜぇ!?」
エレベーターが使えず、階段で44階まで登って来た所。この気狂いが待ち伏せしており、いきなり発砲してきやがった。こっちといえば武器は無いし、度胸も無いので立ち向かう事も出来ません…。
ちくしょー!!こんな奴なんか放っておいて直ぐに上の階に行けば良かった。
律儀な俺は、わざわざ階段からフロアに入り奴と対決する事にしたのだ。今思えば本当、さっさと行けば…。
「そこかぁ!!ぎゃあーはははははははははははっ!!ひゃあっ!!」
だあっ!?クソがぁ、二挺拳銃で乱射して来やがった…。クソ、あんなメチャクチャな撃ち方なのに何でこんなに正確に弾丸が跳んでくるんだ?月影といいコイツといい、何だってこんな強ぇんだよ!!
逃げて逃げて、逃げまくる俺。
「テメェ、逃げまくってんじゃねぇ!!臆病もんがあっ!!さっさと、俺に殺されなぁっ!!」
うるせぇぇぇえっ!!人の気も知らねぇで、なに吐かしてやがる!!こっちとら、武器一つねぇんだぞ!?
「と、何だ?鉄パイプ?…あぁ、改装中だったのかこの階は…」
どうやら、このビルはオフィスだけでなく店舗としても貸し出ししているらしい。改装中のためか至る所に工事現場で良く見掛ける鉄パイプが見当たる。どうやら鉄パイプで作った土台等も、沢山あるようだ。
「…使えるか?」
奴がこっちに来ない間に仕掛けを作ろう。えーと、ロープ、ロープっと。
「…よし。こんな所か?…後は運次第だな」
あぁ、神様。信じちゃおらんけど…助けて!!
「ひゃあっ!?どこだぁ?早く諦めて俺に殺されなぁっ!!」
来た!!
「おおおおおぉっ!!」
鉄パイプを持ち、気狂いの男に立ち向かう。奴はそんな俺に気が付き銃を向ける。だが、遅い!!ガギィィイン、と奴の持つ銃を鉄パイプで跳ね上げる。
「しゃあああああっ!!」
「ぐあっ!?」
駄目だ…。銃を一つ弾いた所で、奴にはもう一つの銃がある。
ドンッ、ドンッ、ドンッ!!
鉛玉が俺の体をいくつも貫通していく。最早、痛いなどでは済まされない。苦しい、悶絶が止まらない。
「ガアアアアアッ!!」
無様…。悲痛に叫びをあげ、バタバタとのたうち回る。死ぬ、死ぬ、死ぬ…?
「ひやぁぁぁっ!!」
ドンッ…!!
一回…。銃撃音が鳴り、辺りは静まり返る。
「ひゃっ?…ひゃはははっ!!びっ、びびりったぜぇ。テメェ、これが狙いだったのか?」
鉄パイプで銃を跳ね上げたのも、黙って銃撃されたのも、無様にのたうち回ってみせたのも…全てこのため。
この最初に弾き跳ばした銃を使い奴を倒すためだ!!
「ひゃっひゃっひゃっ。だぁがぁ、失敗に終わったなぁ…。やっぱ、こんなチンケな国の警官じゃあ、射撃の腕も知れた事だぁなぁー?」
言葉を返す気力も無い。ダルい、血が足らんよ。
「あーぁ。んだぁ?お前、もぉ、死ぬのか?ぎゃはははははっ!!何で隊長は、こんな下らねぇゲームを始めたんだぁ?なぁ?」
知るかい。俺が聞きてぇよ。…自分を組織に認めさせるため。冷静に考えれば、この作戦を成功させれば事足りる筈…。じゃあ、何だってこんな付加価値を付ける?
「はぁ、聞けよ、ボンクラ。俺たちゃ、後はこのビルのオーナーで国会議員の兼元を殺しゃ、作戦終了だった筈なのに何だぁ?隊長はいきなり、テメェと取引をしたと来たもんだ…。テメェ、何者?」
兼元?国会議員の?確か、他国の外交と国内の治安維持なんかをやってる大物だったな。でも、実は裏で何やらいかがわしい事をやってるって噂があったけど…。
確かに、こんな金をかけてそうなビルのオーナーだっていうなら、何か悪い事やってそうだな。
「でよぉ、兼元って奴ぁ。仕舞にゃ、金で命乞いしてきやがった。笑ったね、テメェがどんだけ悪ぃ事してきたか理解してねぇでやんの。武器の密売に薬の横流し…他国への裏金操作。けっ、俗ブタ野郎が…テメェのせいで、どれだけの罪の無い人間が苦しんだ事か…」
何だ?コイツら只のテロリストじゃ、無い?やってる事は犯罪だけど、言ってる事はまるで聖職者並じゃないか。
「戦争をしたく無いガキ達は沢山いる。でも、それをしなきゃ生きてはいけない。…悲しいねぇ、同じガキでもこの国のガキはっ…不登校だのニートだの、あれだろ?直ぐ、何もかも捨てちまうんだろお前ら?贅沢だぁねぇー。ウチの国は食うに困ってる奴らが、ごまんといるってぇのに…なぁっ!?」
ドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッ…。
股下、脇の間、顔を弾丸が掠める。怒り、なのだろう。物も金も欲望も、全てにおいて飽和した国への、何もかもが無い国からの怒り…。
傷口からドクドクと血が流れるが、そんなものより胸の痛みが俺を襲う。
悲しいな、何で俺はコイツの気持ちが解らないんだろう。一体、どんな人生なんだろうか。生まれた時から戦争をする世界。食べ物さえ無く飢えに苦しむ者達。
無関心…。一番に悔やむべき所だ。
この国の人間は、ニュースや新聞などでチラッと聞いた事はあっても『自分とは関係の無い世界』と決めつけて彼等が同じ世界の人間である事を知ろうともしない。
『戦争をしていないから良いだろう?』そんな甘い考えが彼等からしてみれば、一番に頭に来る事なのだろう。だから、怒り、叫び、この様なテロ行為を行う。
もし俺が、同じ立場ならどうだろうか?
あの歴史的戦争が尾を引き、未だに戦火の巻きおこる国だとしたら…未だに飢えと不幸に苛まれているとしたら。
「あっ?」
涙が頬を濡らす。一筋だけ、つぅーと流れる。
「ひやぁははははははははははっ!?んだぁ?死のがそんなに怖いかぁ?安心しなぁ、俺ん所じゃ死は神様からの最高の贈り物さぁっ!!」
銃口が俺に向けられる。今度は本気で殺す気だ。股下でも脇の間でも顔の横でも無い…眉間。わかる、奴は今、俺の眉間を正確に狙い定めている。
ドッ…、ドドドドドドドドドドドドドド!!
耳か痛くなる程の大音量での騒音。…だが、銃撃音では無い。
「ひやぁ?ぎゃああああああああああああああああっ!?」
気狂い男の悲鳴。奴の後ろから大量の工事作業道具が流れ落ちてきたのだ。鉄パイプから、それで作った土台。セメントにその他諸々…。
先程の仕掛けはコレである。ロープで色々な物を括り付けて置いたのだ。そして、銃を奪い、奴をその下まで誘き寄せて弾丸でロープを断ち切る…。
ロープが切れれば、後は御覧の通り…。言ったろ?俺の銃の腕は県警で1・2を争うって…。まぁ、なかなかロープが切れずにヒヤヒヤしたがね。
あっ!!という間に奴は、下敷となり見えなくなる。
「…わりぃ。お前の悲しみがわからない訳じゃ無い。いや、全部理解できる訳じゃねぇけど…。でも、不幸を知らない訳じゃないから…少しは、わかる」
それでも、それでも俺は。大切な人達を守りたいから。お前達がそうしている様に…俺は俺の世界を守りたいから!!
「さぁて、血が足りないからなぁ。さっさと、片付けねぇと」
弾丸が体を突抜ている。右足、右脇腹、左腕…
「痛ぅ!?クソッ、背中からも撃たれたらしいな…貫通してねぇて事は体ん中って事か…」
まずいな。早く鉛を取り出さないと…。
フラフラである。きつい、ダルい、熱がある。人間こんだけ撃たれて、まだ生きているなんて…不思議だ。呆れるくらい、俺は生に執着しているらしい。
死にたくは無い。死にたくは、無いが…。大切な人達が苦しむ姿を見るくらいならっ!!
…あっ!?まずい、力んだら目眩が…。い、意識が遠くなる。あふぁ?
…あぁ、今日はこれで何回…め?
こんにちは。
シリアス編、まだまだ続きます。
何と言うか…コメデイが消えて無くなってしまいそうです。なのでシリアス編に少しでもコメデイをっ、と今回入れてみたのですが…どうなんでしょう?(笑)
さて、十二話目ですね。とりあえず、テロリストは、こんな不満もあるんじゃないかな?と新キャラを出しました。まぁ、戦わせるためのキャラが必要だっただけですが…。笑う笑う、何でそんなに笑うのか?私もよく(笑)とか使っていますが、それ以上…まさに、気狂い。
しかし、組織のくせに出番のある人数はコロッケ少女を入れて三人。少な過ぎやしないだろうか?…いや、でも、あんまり出すと話的に…
では、今回はこの辺りで失礼致します。ありがとうございました。
残り21階。兄の残りHPも…そのくらいだったり!?