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第十一話:エントランスビル事件



 静けさが木霊する商店街の裏路地…。

 生暖かい風が俺の体にまとわりつく。日中にて30℃前後…嫌な汗が頬を伝い流れる。


「どうしました?あぁ、弾切れですか?」



 余裕をかます、黒服の男。狙いを定めて撃っているのに、男に一向に弾丸が当たる気配がない…。



 俺の射撃の腕は悪くない。いや、悪くない所か県警じゃ1、2を争う腕前だ。だが、当たらない。



 有り得ない。いや、本当に有り得ない事なのだが…奴は弾丸を目測して避けてやがる。



 この男を止めると宣言して約30分弱。弾も連射している内に、残り5発…。マズイ、非常にマズイ状況だ。


 弾が無くなった所で、さっきみたいに格闘戦に持ち込めば良いと考えていたのだが。



「さて、あなたの弾数が減った所で…このナイフで四肢を分断させて頂きましょうか」



 そう。奴にはナイフがある。正直、二度もあのナイフから逃げられるとは思えない。怒りに任せてなどと、毎度毎度は上手くはいかない。


 このままでは、間違いなく殺られる。しかし、だからといって逃げ出し背を向けた所で、また、同じ結果であろう。



 日中にて、30℃前後。嫌な汗が頬を伝い流れる…。



 じりじりと奴と俺の間合いが狭まっていく。最初に攻撃を仕掛けたのは…俺!!


 先手あるのみ!!  高く足を上げ、こめかみ辺りにハイキックを繰り出す。



 しかし、ガシッ、と奴は俺の足を受け止め。



「いけませんねぇ。不用意に攻撃を仕掛けて…はぁっ!!」



 奴は俺の足を跳ね上げ体制を崩す。俺が慌てて体制を立て直そうと立ち上がった瞬間。



 まさに、一閃!!



「がぁぁあ!?」



 左肩を切られた。俺自慢の一張羅の黒スーツは、横一閃にスパッと切れ。切れ口からドバドバと大量の血液が流れ出る。俺は痛さのあまりに、叫びをあげて左肩を反対の手で押さえる。



「くそっ、止めてみせるって言ったんだ…っ!!」



 痛みで額に脂汗がにじむ。何だか目の前が歪む?…また、奴お得意の催眠術だろうか?足がフラフラで意識が朦朧とする…。




「気絶して…しまいましたか。失礼、このナイフには痺れ薬が塗られていてまして。一度でも切られると…ご覧のとおり。と言ってももう意識がありませんか?」





―――――――

―――――

―――

――







 倒れて、どれ位時間が経過したんだろうか。場所がわからない。商店街に居たはずだが、ここは何処だ?



「…両手が縛られてる。足も…同じか…」


 見た所、よくあるビルのオフィスの様だが。人が一人も居ない。それ以前に電気すら付いていない。




  カチッ、カチッ、カチッ、カチッ…。



 何やら一定で機会的な音が何処から聞こえてくる。


 電気がついていない上、夜になっているのかオフィスは真っ暗闇だ。しかし、俺の目は既に暗闇に慣れており、辺りを確かめるくらいには見えている。




 音のなる方向を縛られているため、体全体で向き確認する。



「!?」



 時計。デジタルの時計がそこには10…いや、20個、床に置いてあった。




 オフィスなのだから時計があってもおかしくはないのだか、20は異常だ。カチッ、カチッ、カチッ、と20もの時計が不気味に音を奏でる。



「デジタル時計なのに…なんで音が鳴ってるんだ?」



 不気味。まさに、文字通りである。デジタルである筈の時計からアナログ特有であろうカチッカチッという音が鳴っているのだ。不気味に思わないはずが無い…。


「雰囲気…ですかね」

「うぉっ!?」



 誰も居ないと思っていた所に不意に声をかられ俺は体をビクッと強張らせた。


「ふふっ、失礼」



 暗闇に紛れ一人の男が窓側の部長席である椅子に座っていた。



「黒服…」



 そう奴だ。先程、商店街の裏路地で死闘を演じた相手…黒服の男。



「月影…」



「あっ?」



「名前ですよ、名前。私の名前は、月の光にできる影…月影」



 本名だろうか、いや、違うだろう。月影…漢字だ。確に、男はこの国の人種の様な感じだが。初めにコイツは、俺に対し『異国の民』と発言した。つまりは、別の国の人種。


 だから、漢字の名前は有り得ないのだ。



「貴方は?」



 そんな事を考え黙っていると月影と名乗る男は俺の名前を聞いてきた。


「…空海、夏樹」



 暫く考えていたが俺は名前を教える事にした。別段、匿名にする理由もないし、ここで偽名にする意味がわからないので…そうした。



「空海…」



 俺の名前を聞いた月影は、ぽつりと『空海』と言い黙りこんだ。


「それは、実名ですか?」


「ぶっ殺すぞ?何でここで偽名を使わにゃならん?本名だ!!」



 たく、何だ?俺が空海って名前じゃイカンと言うのか?ふざけんな!!そりゃ、俺だってもっと普通の名前が良かったよ。田中とか佐藤とか…いや、地味過ぎかな?…あっ!!全国の田中&佐藤さん、ごめんなさい。別に悪気は無いから…許してっ!!



「そうですか。…あぁ、何故にデジタル時計なのに音が鳴るか、でしたね」



 なんか無理矢理、話の流れを変えられた感が…。



「一言に、雰囲気です。ほら、時限爆弾という物はカチカチと言う物でしょう?」




 何それ。馬鹿?何がカチカチと言う物だぁ?アホか!?テロリストが雰囲気とか言ってんじゃ…



「爆弾?」

「えぇ、爆弾です」



 ドッカンのバッカン?赤と青の配線とか、水銀式のあれとか?



「言ったでしょう。ビルを爆破したと…次のターゲットはここ。この、ニュー・エントランスビル…3年前に爆破された旧エントランスビル跡地に建て直された65階建ての高層ビルですよ」


 …ざけんな!!なんで、何で



「何でここなんだ!?何でお前らはこのビルに執着する!?何でこの国をテロの標的に選ぶ?もっと別の…あの、あの年がら年中戦争をやってる大国とかがあるじゃねぇか?何でだ!?」




 一気に不満が吹き出した。刑事である前に俺は人間だ。完璧ではない。このビルをまた爆破する。それを聞いただけで胸が苦しくなるのを感じた…。



「やはり、貴方は…3年前、自分の命を引き換えに事件を解決した英雄。空海玄治のご子息でしたか…」



 刑事として十何年もの先輩にあたる親父。常に、正義の心を忘れず優しさと強さを兼ね備えた男だった。


 俺にとってはただのウザイ親父だったが妹二人は常にベッタリで良くなついていた。 親父もそんな妹達が可愛いかったらしく、いつも妹達に笑顔を与え幸せを与え続けていた。



 唯一、俺が親父を尊敬した場所。それが、妹達二人を幸せにしていたという所。昔の…いや、今の俺にだって出来ない事をやっていた親父。



 3年前…親父は、ビル爆破を阻止するために単独でテロリストが何十人もいるビルに突入していった。驚く事に親父は何十人ものテロリスト相手に圧勝、そして、主犯格の男を追い詰めたのだ。



 これは逐一、無線で当時、相棒だったヤクザ顔の上司・松居さんと親父が連絡を取り合っていたためにわかった事だ。



 主犯格の男を追い詰めた親父。説得を試みるが男は承諾せず周りのビルを爆破し始めた。親父は、それを止めるため主犯格の男と取っ組み合いになり…そして、時限式だった爆弾が爆破。ビルは、向かい側の海に崩れ落ち…親父と主犯格の男も一緒に。




 勘違いしないで貰いたいのだが。…別に俺は、親父のために胸を痛めている訳ではない。



 親父が死んで、一番悲しんだのは妹達だ。ベッタリとなついていた親父は、もう居ない。あんなにも哀しい二人はもう二度と見たくなかった。



 だが、旧エントランスビルを取り壊すニュースを見た時もニュー・エントランスビルが再建されたニュースを見た時も、二人は親父の事を思い出したのか再び、あの日の様に哀しげになっていた。



 悔しかった。俺には彼女達を慰める手段を持ち合わせていなかったのだ。



 それなりに兄として、やってきていたつもりだったのだが…。昔から俺は他人と心を通わせる事が極端に苦手で周りから良く外れていた。つまりは、どことなく暗く、他人に対し壁を作るタイプだったのだ。



 だが、どうにかして彼女達に笑って欲しかった。悲しみを越えられる幸せを与えられないかもしれない…だけど、笑顔だけは与えたかった。だから、俺は道化を演じた。それまでのどこか暗かった物を棄て、ピエロの如く。…せめて、彼女達が刹那にでも悲しみを忘れてくれるよう…精一杯、馬鹿をやってみたのだ。



 時間はそうかからなかった。馬鹿をやる事で会話を産みだし、さらに、輪をかけてみせる事で悲しみを呆れに代えさせた。次第に笑顔も増え親父の事も『尊敬出来る英雄』として話題に上がる様にもなった。



 だが、しかし、どうだろう?再び、このビルが爆破されたら彼女達はどう思うだろう?



 悲しみは、俺への呆れに代わっただけ…。再び、あの思いが甦り彼女達はまた、あの悲しみを…



「殺す。…俺は、お前を、絶対にっ、殺す!!」



 ギチギチッと縛られた両腕から嫌な音が聞こえる。だが、関係ない。皮が剥げようが、肉が削げ落ちようが…腕を自由に足を自由に、奴を殺す!!



「…貴方がどのようなお気持ちかは、存じません。…が、わかりました。ゲームをしましょう」



 ゲーム、だとぉ!?




「ふふふっ、睨まないで下さい。別に、テロ行為がゲームとは言っていません。…私達的にもゲームでは、困るんですがね!!」



 鋭く睨む俺を、さらに、鋭く睨む月影。そして、黒く鈍い眼光を放ち一つの提案をしてきた。




「既に、一つビルを爆破し商店街に微弱の毒ガスをばら撒いている私達ですが。目的は、このビルの爆破です。そして、この旨は警察にもマスメディアを使い知らせてあります。」


 月影は、『ほら、ビルの下にあんなにもパトカーが…』と窓の外を指差し言った。


 確に、ビルの下には何十という数の赤い光が辺りを照らしており、そして、ババババッとヘリがビルを迂回しながら飛び、有像無像の人混みが所狭しとひしめきあっていた。



「この国の公的機関では我々を止められはしない」



 他人の為出かした不祥事より、自分達で為出した不祥事を始末するので手一杯なこの国の公的機関…確に、月影という男を、そして奴、率いる組織を止められないだろう。



「そこで、貴方です。私は、この腐敗した国で反比例して光る。貴方とゲームがしたい。」



 嘲笑う月影。但し、目が笑っていない。真剣な眼差し…一体、何だというのだ?



 目的がニュー・エントランスビルの爆破だというのなら、俺などに構わず目的を果たしてしまえば良いのに…。



 まぁ、俺としては爆破が遅れて助かるけどな。コイツが余裕ぶっこいてる間に、どうにかして爆破を阻止してやる。



「ゲームって、何をするんだ?」



「そうですね。…爆破阻止、でもやって貰いましょうか?」



 な!?マジで何考えてんだコイツ。



「私はこれから屋上に行き、ヘリでこのビルから脱出します。つまり、私をヘリに乗る前に捕まえたら貴方の勝ち。…その場合、ただちに爆破を中止いたしましょう」



「………」



「どうかしましたか?」



「何故だ。さっさと爆破すればいいじゃねぇか…。なんで、わざわざこんな意味のない事をしようとする」



 少なくとも、このテロは世界に向けた警告及び制裁のはず。なら何故、月影はこんな作戦を不利な方向にするゲームを持ちかける?コイツの意図が読めない。



「ふふっ、深く考えないで下さい。至極、当然の事ですよ…。3年前の事件、あれは我が師にあたる方が行った事。その師を超えるための儀式…と、いった所でしょうか。師が死に私は組織の長と成りました。しかし、それは本当の意味での長ではない…。だから、師を倒した『空海の者』を倒す事で大成しよう…と、いう事ですよ」



「成程な…周りに自分は、幸運で長に成ったんじゃない、実力で成ったんだ…そう認めさせるためのゲームか…」



「ええ、今の組織は、私が弟子であったための優遇された長と認識している者達がいるのでね。彼等を黙らせる為…空海夏樹、貴方を倒したい。そういった理由ですよ」



 運命?因縁?どちらにせよ、俺は運が良い。すぐ弱気になる俺だが、これには武者振いがする。だってそうだろう?


 刑事としてテロを止められる。それどころか、あの時のやり直しが出来るなだから。歓喜せずにいられない。



「いいぜぇ、受けてやる。後悔しやがれ…!!」



「ふふっ、では、私は屋上に参るとしますか。貴方も、どうにか縄を解き、早くこちらに向かわないと…爆破に巻きこまれて、死にますよ。では、ご武運を…」



 …え?縄は解いて行けよ。あら?おい、おーい…行っちゃった。




 あぁ…拝啓、親父さま。あんたと違って俺、いきなりピンチなんですけど?


 こんにちは。

 今回は、一番長いです。話を適当な所で切れず、まとめて書いてしまいました。しかも、本当だったらもっと長くなる筈でした。


 ただ、補足を書くと話自体がまとまらなくなるのでカットさせて頂きました。まぁ、そのせいで展開が有り得ないほど急ですが。気にしない方向で(笑)



 さて、第十一話目です。親父、出てきました。宿敵出てきました。



 シリアスにするため無理矢理に出しました。月影ですが、コイツは至る所に出て来る予定です。目指せレギュラー?いずれは主役!?…まぁ、そんなキャラです(笑)


 内容的には、今現在、現実にあるテロリズムと、とある者達の人類への不満がテーマですね。



 月影達の組織は、テロをする事で人類全体に人類の愚かさを警告し、制裁を行うという物です。彼等は、たぶん戦争や地球汚染を駄目だとわかっているのに止めない人類に並々ならぬ不満を持っているのです。ですから、テロをする事で何かしら見い出そうとしているのでしょう。



 ちなみに、この組織…最終的に色々な所に関わってきます。



 では、今回はこの辺で失礼致します。ありがとうございました。



 空海玄治、最強のオヤジの予定…。死んじゃてるけど(笑)

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