ロスト・メモリー《後》
第九十五話 ロスト・メモリー《後》
アリサとバルカ。
二人が共に共存し、家族として生きていくと誓ったあの時から――――――――数年の月日が過ぎた。
『ねぇ、どうかな? この子が私たちの子供なんだけど!』
神にとって、その短い時の中。
まるで近所付き合いかのように何度もシクアの元にやって来るアリサがそう言って、いつの日かまだ言葉も話せない自分の子供を連れてくる事があった。
髪型は父であるバルカに似て、そして目元はアリサにそっくりな赤子。
その赤子の名前は、ルーサー。
モンスターと人、互いに違う種族同士が交わり合い、そして、生まれたその少年こそが、この世界においての初めての『混ざり人』だった。
『……そう』
『むー! 反応が薄い! せっかくシクアを驚かせようと思って来たのにーっ!』
シクアの反応にガックリと肩を落とすアリサ。
数年の月日が過ぎ、立派な女性へと成長した彼女はそう言って、むくれたように頬を膨らませる。
だが、その一方で昔に比べ随分と大人びた印象が強くなった男性、バルカは大きな溜め息を漏らしていた。
『バルカも何なの! その溜め息はーっ!』
反応してくれない上、旦那にも溜め息をつかれ、ぎゃあぎゃあ、と騒ぐアリサ。
赤子であるルーサーはそんな騒がしい中でも、すやすやと眠っており、これではどっちが大人かすらわからない状態だった。
だが、そんな二人の他愛もない姿を見つめる神シクアにとって、彼女達の存在は決して邪魔なものではなかった。
何故なら、いつしかそんな彼女にほだされたように、
『……貴女たちは変わらないわね』
そう言ってシクアは、頬を緩ませながら――――――優しげな笑みを浮かべる事が出来るようになっていたのだから……。
アリサとバルカ。そんな二人との記憶は、これから先ずっと生きていく神にとっては一時の想い出でしかないものだった。
しかし、その一時の想い出こそが、シクアにとって何よりも幸せな時間だった。
そして…………彼女達が生きてる間だけでもいい。
シクアは、そんな幸せな時間が決められた終わりが来るまでの間……ずっと続いてくれる……ことを願っていた。
そう神である彼女が願っていた。
だが、時は―――――――――――突然と終わりを迎えたのだ。
それからまた数年の月日が経った中、シクアが住む精霊都市エターナル・グラウンド。
神であるシクアはいつものように、その都市の中央に建つ塔の頂上から地上に住む人々をひっそりと見守っていた。
だが、そんな時間が――――――――――。
「ッ!?!?!?!?」
何の予兆もなく――――――突然に終わりを迎えた。
それはまるで体の内側が消し飛ばされたかのようにシクアは叫ぶことも出来ず、その場に倒れ、意識を失ったのである。
そして、暗闇となった視界の中、それからどれくらい時間が過ぎたのかはわからなかった。
だが、そんな中でシクアはようやく目を覚ますことが出来た。
「あっ、シクア!」
目を開いた、そこは塔の中にある一室だった。
そして、床にひかれた布の上で目を覚ましたシクアは、
「……あ、アリサ?」
傍らに座り込む人間である彼女―――――――不安げな表情を浮かばせるアリサの姿を目にしたのであった。
意識が未だ朦朧する中、アリサから話によるとシクアが倒れてから既に十日ほどの時間が過ぎたらしい。
そして、アリサ自身はこの精霊都市に住まう精霊たちの声を聞き、この場所にやって来たのだと言う。
「……シクア、一体何があったの?」
「………分からない」
何故あの時、自分が倒れたのか?
神であるシクアですら、その理由が全く理解出来なかった。
だが、この現状が単なる偶然に起きたとはどうしても考えにくかった。
(……何か嫌な予感がする)
シクアが思う。
いや、それ以上に、この世界において予想外の事態が起きているのではないか、と。
シクアには、そんな不安に満ちた感覚があったのだ。
だから、シクアは、
「…アリサ。すみませんが……私を塔の上まで、連れて行ってはくれませんか?」
「………うん、わかった」
彼女の願いを聞き入れ、アリサはシクアを背負い塔の上へと向かった。
そして、いつものようにシクアがその場所から、地上を眺めた時―――――――――――、
「―――――――――――――」
そこで、シクアは………遅すぎた事態を知ってしまったのだ。
それは、彼女が倒れて十日という時間が過ぎた中で起きた悲劇。
「………………そんな…っ」
「…シクア?」
シクアが見守ってきた、この世界。
その地上に住むモンスターや人類………いや、その他全ての生き物たちの命が。
――――――数百も残らずして、絶命した事を。
――――同時刻。
シクアの様子を鑑みて、地上の様子を見にやって来ていたバルカは、そこでその異様な光景に驚愕して言葉を無くしていた。
「…………………」
バルカが訪れたその場所は、この世界においても数本の内に入るもっとも人口の多い大都市だった。
観光に訪れる者が後を絶たず、大通りなどは毎日のように人々で溢れかえり、賑やかな声で包まれる。
そんな活気ある平穏な街だった。
―――――――その、はずだった。
「…………」
だが、バルカがその街にやってきた時。
そこには――――――――――無数の人々がその場に横たわり、死に絶えていた。
「…………」
彼らの体に、モンスターに襲われたような傷があったわけではない。
まして、その表情からは苦しんで死んだ様子も見られない。
それは、まるで一瞬のうちに魂を抜かれたかのように…………皆安らかに眠るようにして死んでいたのだ。
「……どうなってんだよ…一体ッ!!」
死んだ理由が全く理解出来ない。
目の前に広がる惨状に困惑するバルカは、歯を噛みしめ動揺する心を落ち着かせる。そして、何か手がかりがないか、辺りを見渡した。
だが―――――そんな時。
「?」
バルカの視界に、ひらりと一つの花びらが宙を舞っているのが見えた。
それは、何ら変哲もない――――――黒一色で染められた花びらだった。
しかし、その花を見た。
次の瞬間。
「ッツ!?」
バルカの全身に直後、悪寒が走った。
この花に触れては駄目だ。いや、それ以前に、この場所にいては駄目だ。
そう頭でない、体が叫んだのである。
「―――――――――――ッ!!」
バルカはその判断に沿うように竜の翼を羽ばたかせ、その場から一気に空へと退避した。
しかし、黒い花がその後に何かを起こす様子は見られなかった。
だが。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁッ!!」
上空を飛ぶバルカの全身からは滝のように汗が流れ落ちていた。
更には手足は小刻みに震えている。
それはまるで今まさに死線をかいくぐったかのような状態だった。
(……っ、あの……花なのかッ……?)
そして、バルカはその瞬間に悟ったのである。
どういう原理で人々が死んだかはわからない。
だが、あの黒い花、あれこそがこの惨状を引き起こした原因であると、そうバルカは感じ
「―――――――――――――――っ!?」
た。
その時だった。
宙を飛ぶバルカは――――――その時まで気づくことができなかった。
それは大都市の直ぐ側。
そこに突然と姿を現わした、巨大な存在。
「―――――お前は、何なんだ……?」
その存在は、この世界に君臨するしたバルカ。
いや、武装神龍エンヴァスタードラゴンである彼ですら知らない未知のモンスターだった。
そして、
『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!』
まるで、バルカを嘲笑うかのように咆吼を上げる―――――――――全身に黒い花をさせた巨大な黒龍がバルカの目の前に姿を現わしたのだった……。
――――――――そして、その存在によって。
世界は――――――――終わりへと近づいった……。
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
次回、アリサとバルカ編は完結する…………予定です!!




