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異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫  作者: GORO
第三章 [交差する思い] memories is cross – 運命を覆せし者達
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告げられる真意



第八十九話 告げられる真意



精神だけの帰還を果たした美野里。

元いた場所とは違う異世界へと落とされたルーサー。

そして、美野里=シクアを元に戻そうとするべく、異世界からやって来たラトゥルによる奇襲。

それらの問題が解決しないまま、指で数えるほどでしかない数日が経った、ある日の夜。


「うーん……」


町早美野里の妹、町早美咲は溜め息まじりの唸り声を漏らしていた。

今、彼女がいるのは私室であり、視線の先には、学校の課題をやってますよ? という姿勢を保ちつつ、空いたノートのページにイラストを描くという作業を行う。

つまりは、サボっているのだ。

数字前、ラトゥルと一時的な接触をしてしまった彼女だが、ルーサーや美野里の機転のかいもあってか、夢を見ていたと認識したらしく結果、今までと変わりない生活を続けていた。

そして、そんな彼女はといえば、


「うーん……中々思いつかなぃー……」


現在、美咲はアイデンティティのスランプに陥っていた。

彼女が趣味はイラストを描く事だ。暇さえあればノート一面を絵で埋めることなど造作もない。

だが、イラストを描くその一方で、美咲には一つの悩みがあった。

それは自身が描き続けたイラストに対して。

そのどの作品もが、―――――――――似たり寄ったりとした点が多く見られるのだ。


(イラストの勉強はしてるつもり……なんだけどなぁ…)


スランプとは、一度自覚してしまうと、これがまた底なし沼のように全部がそう見えてしまう。

音楽を聴いたりなどして気分を切り換えようとするも、中々と上手くいかない。


(何か…そう、脳天を貫くような衝撃さえあればっ!!)


次第には、そんな事を考え始めていた。

と、そんな時。


「美咲―? ご飯、出来たわよー」


一階のリビングから、姉である町早美野里の声が聞こえて来た。

美咲は軽い返事を返しながら、小さく溜め息をつく。

ページを閉じ、両腕を上げ、体を伸ばしながらリビングへと降りていく。

階段を降りる途中から匂ってくる美味しそうな香りに鼻をクンクンさせながら、今日は何だろう? 魚かな? それとも肉かな? とそんな淡い幻想を抱いていた。


「お姉ちゃ―ん、今日のご飯はなー」


そして、いつものように何の緊張もなくリビングの入り口を通った美咲。

だが、そんな彼女を待っていたのは、テーブル上の皿にのせられた品々。


「にー……」



黒く、そして、また色々の骨格が見え隠れした食材で作られた品――――――バッタ、カマキリといった昆虫を揚げた、天ぷら揚げ。







「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」






脳天を貫くような衝撃が欲しい。

結果として……彼女が望んでいた通りになった。




そして、翌朝。

ガクブルガクブルッ!! と見るからに怯えながら階段を降りてきた美咲は昨日と打って変わって、緊張感MAXで恐る恐るリビングに顔を、そ〜、と出した。

昨日はあまりの衝撃のせいもあって絶叫して逃げてしまい、結果として晩ご飯にもありつけなかった。

夜通し腹の虫が鳴きまくり、結局は食欲に負けて朝食目当てに降りて来てしまったのだが、


「………」


それでも、どうしようもなく不安は取れない。


(ぅぅ、また…昨日みたな料理がでたりしたら…っ)


おはよう…、と言いながら、テーブル前の椅子に座った美咲。

いつも通りに朝食を作る姉の後ろ姿を見つめる中、やがて数分もしない内にで美野里の料理が出来てしまった。

ガチャと音をたて、目の前に出されてしまった料理。一度は反射的に目を閉じてしまった美咲だったが、


「…って、あれ?」


ゆっくりと開いたその視線の先には―――――――――サラダと目玉焼きの盛り合わせ。そして、焼き目のついた食パンという、普段と変わりない朝食の品々がテーブル上に出されていた。

美咲が驚いた表情を浮かべていると、


「えっと……昨日はごめんね。ちょっと昨日は色々と考え事しちゃってたみたいで…」


美野里はそう言って申し訳なさそうに苦笑いを浮かべている。

流石に昨日はやり過ぎたと思ったのだろうか。

反省した姉の反応に対し、一瞬戸惑った表情を浮かべる美咲だったが、


「あっ、はは……そ、そうなんだ。それだったら………仕方がないよね…」


内心で、仕方がないわけないだろう!! と突っ込みたかった。

だが、姉の反省した仕草も含め、ここで怒るのは大人気ないと思い美咲もまた苦笑いを浮かべながら、


「いやー、本当に昨日みたいなのが出なくてよかったよー」


そんな安堵の声を漏らした。

そして、テレビのニュース番組を眺めながら、朝食に手を始める美咲。

ふと手に取ったパンを見つめ、蜂蜜が欲しいと思い、


「あ、お姉ちゃん。蜂蜜ある?」

「え、あー……ちょっと切らしてるかも」


冷蔵庫の中を見ながら、そう言う美野里。

そうか…、と美咲は呟きながら、


「それじゃあ、仕方」

「あ、ちょっと待ってて、今から取ってくるから」

「がないよね。………………って、え?」


一瞬、素通りしかけたその言葉に眉をひそめる美咲。

美野里は包丁を手に持ちつつ、着けていたエプロンを椅子にかけ、そこから廊下へと出て行こうとしている。


「え、ちょっ、お姉ちゃん!?」

「ん?」

「ど、どこ行くの? ってか、なんで包丁なんて持って」

「いや、だから蜂蜜取りに行こうと思って」


取りにって、蜂蜜を? とそう言いかけようとした美咲。

だが、その言葉を瞬殺するかのように、姉である美野里は平然とした口調でこう言ったのだ。




「田んぼとかにいるでしょ? カエル」




ガチャン!

その瞬間、美咲の表情は未だ見せたことのない衝撃に染められ、手に持っていた箸は止まることなく音をたて床に落ちていくのだった。









そして、現在。

空き教室へと話は戻り、


「って事があったんです。……そして、私は逃げました。全速力で。それこそ持久走で一位を勝ち取るぐらいに」

「………………」


遠い目をしながら語り出した美咲に、剣道主将の結納香月はなんとも言えない表情を浮かべる。

剣道部で主に監督役を任されている結納は、後輩にきつい素振り練習をさせ、自分だけちょっと部活をサボるつもりでいたこの空き教室に訪れていた。

だが、そんな彼の元に泣き顔で美咲が入ってきた。

その時は、流石の結納も一体何があったのか、と真剣に焦ってしまったのだが、………いや、今の話を聞いた上で言えば、これもまた真剣に冷や汗ものに匹敵する話なのだろうが、


「そ、それで? なんで、そこで彼の名前が」

「お姉ちゃんがおかしくなったのは、どう考えてもルーサーのせいだからですよ!! だって、この前までは山ほどに料理作りまくって無茶苦茶浮かれまくってたですよっ!?」


あの時の大量の料理には流石に苦労した。

昼食の弁当に詰めたり、学校のクラスメートに分け合ったり、と別の意味で色々と大変だったのだ。


「それで! 先輩はルーサーを見かけませんでした!!」

「え、あー……いや、見てないけど」

「もしあれだったら金の力で見つけてください。そして、私の前に連行してください。そしたら、先輩のお願い、何でも一つ聞いてあげますから」


と、彼女自身、自覚がないだろう凄いことを言い出してきた。

一瞬、固まる結納。

だが、美咲にとっては、


「……………え、それ本当?」

「はい。それぐらいしないと…………私、家出しなくちゃならない、かもなので」


顔がマジだった。

冗談を言える余裕など、今の彼女にはなかったのだ。


「…………ああ、ま、まぁ、こっちも色々あたって探しておくよ」

「ありがとうございます。……待ってなさい、ルーサー。貴方を見つけて、お姉ちゃんの前で土下座させてやるっ!!」


そうして、美咲は険しい表情を浮かべたまま、のしのしとその場を去って行くのだった。

嵐が過ぎ去った後の静けさが残る空き教室。

茫然と立つ結納は、大きく溜め息を吐きながら、ゆっくりと顔を動かし、


「って事なんだけど? 実際、なんでそんな料理を作る事になったんだい、ルーサー君?」


彼が視線を向けた先にある、本棚の影。

そこに隠れていた人物。


「…………」


この世界の服に着替えた少年。

ルーサーは、冷や汗を浮かべながらゲンナリした顔を浮かべていた。


「…アイツ、昔に作ったから」


そして、ルーサーは結納の質問に答えていく。


「それは、アレかい。昆虫の炒め物とか」

「……ああ、何か結構イけるって本人は言ってたけど、店に出した次の日には、即メニューから消えてたけど」

「それじゃあ、蜂蜜の件は?」

「……俺たちの世界だと、黒い蜜が出るモンスターがいたんだよ。多分、それがそのカエルっていうのと似てたんだと…思う」


何とも、罰ゲームを受ける羽目になった美咲に対し、申し訳なさそうに語るルーサー。

結納もまたそんな話を危機ながら、深く溜め息を漏らし、




「全く、君たちの世界は本当にこことは違う、異世界だったみたいだね」




と、そう言葉を漏らすのだった。

もっとも関係ないと思われた結納香月。

そんな彼が何故、ルーサーたちが元いた世界であるアースプリアスについて知っているのか。

それは二日前の夜に遡る。




◆ ◆



ルトォワから逃げおおせた美野里たち。

そんな彼女たちの元に結納香月が現われた事が、ことの始まりだった。


マリンキャップを被る少女、羽嶋刀火。

そんな彼女の親戚に当たる結納は、その彼女からの突然の電話を受け、潰れた廃工場に呼び出されていた。

家が金持ちという事もあって、付き人でもある外人執事ローカゥ・マリーセに車を走らせ、やってきたのだが…。


「…………」


そこに着く前の車内で、結納は数分前に貰った電話の内容に対し、呆れた表情を浮かべていた。

というのも『化け物のみたいなのに、襲われた』という馬鹿げた電話を貰ったからだ。


普通なら、寝言は寝て言え、と言って結納も電話を切っていただろう。

だが、親戚の関係上。結納は、羽嶋刀火が少し特殊な経験をしている事を知っていた。そして、その件もあった話をそう簡単に無視することもできず、結果渋々とその場所へと向かうとことにしたのだ。


そして、もし仮に嘘だったらならば。

きついお仕置きもといい、嫌がらせをしてやると、決めていた。


しかし、彼がその場についた時。


「…………っ」


結納は、あの夜の、あの場所で、見てしまった。

月光もない、その場所で、長く伸びた髪を純白のような輝きで光らせる少女を。

町早美咲の姉であるはずの、涙を流す―――――――――町早美野里の姿を。




◆ ◆



「まぁ、あれを見てしまっては、ほっとくわけにもいかないし、それに結果として君を引き取る形にもなってしまったからね」

「………」


ルーサーに対し、嫌味を言う結納。

というのも、今ルーサーが滞在している場所というのが、町早家ではない、大きな敷地を含めた結納の家なのだ。


あの時、ルーサーの傷は完全に治っていた。

だが、それでも失った体力や精神はそうすぐには回復しない。とはいえ、病院など戸籍自体が存在しない彼にとっては連れて行けるわけもなかった。


だから、美野里は結納香月に対し、頭を下げ『どうか彼が回復するまで、貴方の家で住まわせてあげてくれないか』と言葉を発したのだった。

その代わりとして、自分が出来る事なら何でもする、とも告げた。


「……いや、ちょっと待ってくれ」


結納自身、ルーサー以前にその直ぐ側で倒れる少女。

町早美咲の方が心配で仕方がなかったのだが、


「うーん、もぅ、食べられないよぉー、お姉ちゃん」

「…………………」


こんな状況の中、そんな寝言を言っていられるだけ、とくに異常というものないようだ。

結納は困った表情を浮かべつつ、もう一度美野里に視線を向けた。

その顔は酷くやつれており、いつ泣き出しておかしくない程に弱々しい顔をしていた。


「結…」


親戚である羽嶋もまた、呼び慣れた名前を口にしつつ、こちらに視線を向けてくる始末だ。

結納は、大きく溜め息を吐きながら、


「わかりました。でも、その代わり貴方にはこちらからも要求をさせてもらいます」


彼が美野里に出した要求。

それは現状の把握するための説明。

ルーサーや美野里、彼らが抱えている問題について、答えてもらう、というものだった。




結納は美野里から少しばかりと異世界の事について話を聞き終えていた。

だが、まだ全部聞けたわけではない。

ルーサーが目を覚ましてから、再び場を設け、話を聞く。

その手はずだったのだが、


「それで? 治って早々にいなくなった君が、今更僕に何の用なのかな?」


昨日の夜。

意識を取り戻したルーサーが、やっと目を覚ました。

だが、それもつかの間、家にやって来てくれた医師が少し目を離したその隙をつくように、彼は忽然とその姿をくらましたのだった。

そして、今日。

ルーサーは、結納の前に再び姿を現わしたのだ。


「観てくれたことには、感謝してる」

「はぁ、それは目を覚ました時に言ってほしかったんだけど」

「……そんなお前に、一つ頼みがある」

「頼み?」


ルーサーはゆっくりと近づきながら、その手に持っていた物を結納に見せる。

それは、何の変哲もない。

剣道で使用する竹刀。


「お前は、刀の使い方を知っているんだろう?」

「?」


そして、ルーサーはそれを床におきながら、膝を落とした。

その姿は、まるで剣道でいう正座からの礼をするかのように、



「頼む、俺に刀の使い方を教えてくれ」



ルーサーは結納香月に教えを請うため、頭を深く下げるのだった。






その一方で、飲食チェーン店にて。

町早美野里にスタッフの一人が近づき、声を掛けてきた。


「えっと。町早さん、ちょっと休憩しておいで」

「……え? まだ休憩時間じゃ」

「大丈夫、大丈夫。俺からも店長には言っておくから、あ、もしあれだったらスタッフとしてじゃなく、客としてここで食事をしてきなよ。スタッフの声も少しは聞いておきたいって、店長も言ってたから」

「……は、はぁ…そうですか。わかりました」


そう言われ、頭を下げる美野里はトボトボと店内衣装を直すべく、ロッカールームへと去って行く。

美野里に声を掛けたスタッフの一人が、大きく息を吐く中。群れるように離れた場所から様子を伺っていた従業員たちが集まってくる。


「町早さん、今日は凄いもんね」

「ああ、皿も無茶苦茶割ってるし、顔なんて憔悴仕切ってるもんな」

「店長から、休ませろって指示もらったけど。あの感じだと、休ませたら余計気を落とさせそうだし」

「白木も今日は休みだからな、仕方がないよな」

「とりあえず、町早が戻ってくるまでに割れた皿とか掃除とかやるぞーっ!!」

「「「おーっ!!!」」」


その日は偶然か。

美野里の知らぬ所で、スタッフ一同のチームワークがワンランクアップする日になるのだった。





仕事着の上に、半袖の上着を着た美野里は言われたとおり客として空いていたテーブル席に腰を下ろし、そこに置かれているメニューを茫然と眺めていた。

すると、そんな彼女の元に、


「あ、美野里さん!」


客としてやってきた少女。

羽嶋刀火がこちらに手を振って近づいて来た。


「あ、羽嶋さん」

「もう、他人行儀な感じにしなくていいですよ? 私の方が歳下なんですから」


あ、一緒にご馳走になってもいいですか? と尋ね、美野里の許可を貰い同じ席につく羽嶋。そして、暗い美野里とはうって変わり、メニューを一緒に見ながら元気な声でスタッフに声を掛けていた。

それはまるで、美野里を元気づけるかのようだった。





頼んだ料理が来て、しばらくした頃。

頃合いを見た羽嶋は美野里に、忽然と姿を消したルーサーの事について、話し始めた。


「そう…ルーサーが」

「あ、でもさっき結から電話があって、彼が姿を見せて来たらしいですよ。何でも刀の使い方を教えてくれって言ってきたみたいで」

「…………………」


その内容についてかは、分からない。

だが、羽嶋が見つめる中で、美野里はどこか悲しげな表情を浮かばせていた。


「……美野里さん、彼に、顔。合わせにいかないんですか?」

「………」

「心配だったんですよな。だったら、尚更」


そう言葉を続ける羽嶋。

だが、美野里は首を振りながら、


「今は、まだ会えないよ。本当なら、会えるはずないもの」

「……なんで」

「だって私は……色々と問題を抱えこんじゃってるから。…自分自身に対しても……」

「…………」

「それに、私はルーサーの…………大切なものを…」


そう、美野里の口から、その次の言葉が出ようとした。

その時だった。



「お、やっと見つけた」



その声を同時に、美野里たちの正面。

彼女たちのいるテーブル席。それの空いた片方の席に、突然と見知らぬ男性が腰を下ろしたのだ。


「ちょっと、何し」


羽嶋が声を荒げようとした。

だが、その言葉を押し殺すように、男はその直後に口を開いた。




「数日ぶりだな、シンクロアーツ」

「「っ!?」」




男の言葉に、目を見開く美野里たち。

咄嗟の反応で美野里の瞳が光を灯し出すが、


「こんな所でいいのか? 目、光ってるぜ?」

「ッ………」


的を撃つように指摘され、美野里は顔を曇らせ力を抑える。

不適な笑みを浮かべる男。

羽嶋は動揺を隠しながら、抑えた声を出し、


「貴方は一体…」

「一度面識はあるんだけどなぁ。まぁ、あれだよ。そこのシンクロ……いや、美野里とやりあった侍だ。まぁ、このご時世に合わせて口調や容姿も変えてみたんだけどな」

「…………」


あの時、死闘を繰り広げた侍だと語る男。

姿や言葉使いなど全く合致しないが、それでも美野里がシンクロアーツと呼ばれていた事を知っている点を含めても十分に警戒するに当たる人物だ。

険しい表情を浮かべ、美野里と羽嶋が嫌な汗を額から垂らす。

だが、対する男はメニューから勝手に注文をスタッフに出し、しばらくしてやってきたビールを一口飲みながら、


「それにしても、あの嬢ちゃんには、ほとほど困ったもんだ」

「……嬢ちゃんって、……ラトゥルのこと?」

「ああ、一応は俺の長だからな。頼まれれば何でも聞くつもりだが、それでもあの嬢ちゃんは色々としでかすもんだから、こっちも苦労してるわけさ」

「…………………」

「よく、あんなのを妹にしてたよな?」


『妹』

その言葉に驚いた表情を浮かべる羽嶋。

だが、対する美野里はとくに動揺した様子もなく、真っ直ぐに男を睨みつけながら、その口を開き、



「それで、どうして私たちの前に姿を見せたの?」



男が現われた、その真意を問う。

だが、


「何、ただの世間話さ」


そう言って男は更に注文を頼んでいく。

肉料理の内、一つを指さし。離れて行くスタッフに愛想のいい笑みを浮かばせる男。

全くもって、男の考えが読めない。

美野里は眉間を潜め、更に言葉をぶつけようとした。

その時だ。



「それにしても、えらく小さくなったもんだ」



突然と、男がそう言葉を漏らした。

それは誰に対してなのか。

そんなもの、言わなくてもわかる。何故なら、男はどこか懐かしげな表情で一人の少女。いや、一人の女性である彼女。





「昔のアンタは………どの女よりも美しい、絶世の美女だったのにな」




町早美野里を、見つめていたのだから。





突然の言葉に、羽嶋だけでなく美野里も言葉をなくしてしまう。

そんな中で、男は窓際から見える数キロ離れた場所にある山へと視線を向ける。


「…覚えてるか? アンタが昔いた場所は、あの山の大樹の下だった」

「!?」

「あの時代はそりゃあ、酷いもんだった。多くの侍が死に、また敵や味方。無関係な民も殺される、最悪の時代だったよ。今に思い出すだけでも憎くなる時代だった」

「…………な………なに、いって」

「でも、そんな中でもアンタはそこで一度として動くこともなかった。目の前で、民や侍、敵が死のうとも、アンタの瞳には何も映っていなかった。そう、ずっと……泣き続けていたよな」


それは一体、いつの時代の話なのか。その答えを知るものは、語り手であるこの男にしかわからない。

だが、この世界に美野里がやって来た時。

いや、そこに落とされた時。

場所だけは、合致していた。


間違いない。


男が言った通りだった。


山の中。

もっとも大きい大樹の下、だった。



「俺はあの場所で、死んだ。そして、死ぬ直前に俺はやっとアンタの姿を見ることが出来たんだ」

「……っ」

「アンタには見えていなかった。だけど、俺はあの時から、アンタの顔が死んでも頭から離れなかった」


その思いは、一目惚れ、というものかもしれない。

はたまた、それ以外の負の感情、なのかもしれない。

だが、それでも、


「……アンタがどうして、そんな子供の姿になったかまではわからない。だが、それでも俺はアンタの姿に目を奪われちまったのさ」

「…………………」

「だから」


それは前触れもなく、なめらかな動きだった。

そっと、美野里の頬に、男の手が差しのべられ、


「っ!?」


そして、男の顔が。

美野里の至近距離、その淡い唇へと、




「おっと」




その次の瞬間。

振り下ろされた羽嶋の手を察知して、男は寸前の差で顔を引っ込め直撃を避けた。


だが、その光景は彼女たち以外にも影響を及ぼす。

何故なら、話は理解されずとも、男が今まさに少女にキスをしようとしていたのだ。

一部始終を見ていたスタッフたちに加え、料理を食べに来ていた客たちもまたそんな彼女たちから視線を外せずにいた。


「あぶねぇ嬢ちゃんだ。全く」

「女の唇を無理やり奪おうとする人に、言われたくないです」

「ふっ、そうかよ、全く邪魔な嬢ちゃんだ」


羽嶋の行動によって、行為を阻まれてしまった男は大きく溜め息を漏らす。

そして、美野里もまた未だ理解が追いつかず、言葉も発せずにいる。

そんな美野里の様子に満足がいったのか、男は唇を緩ませながら席を立ち、


「まぁ、俺は基本、争い事は嫌いなたちなんだ。だからここで刀を出そうとは思ってない、ただ、これだけは言っておく。時期にあの嬢ちゃんは動く。だから十分に気をつけることだな」


そう言って、その場を立ち去ろうとする。

だが、その一歩手前で男は美野里に振り返りながら、


「後、もう一つだけ言っておく」


茫然とする美野里に対し、男は言った。




「美野里。俺は、お前の全てが欲しい」

「…っ」

「あんなガキなんざに渡すぐらいなら、俺が強引だろうが鬼畜だろうが、全部奪い尽くしてやるさ」




それは、まさに告白と言ってもおかしくない言葉だった。

男は美野里の様子を見つめ、再び笑いながら、周囲の視線を気にとめることなく店から出て行った。



そして、残された美野里は全身にかいた汗。

頬に籠った熱。

止めようのない、心臓の音を感じながら……。



ただじっとしている事しか、できなかった。








店を出て、そのまま足を進める男。

だが、そんな彼に、


「待ちなさいよっ!」


羽嶋は制止の声を放つ。

その耳障りな声に男はしかめ面を浮かばせながら、振り返り、


「あ? まだ何かあるのか?」


男は、苛ついた表情で目を細める。

対して羽嶋は一瞬、声を詰まらせるも、そこで退くことなく言葉を続ける。


「貴方は争い事が嫌いなんでしょ? だったら貴方からあの子に言って」

「無理だな」


即答でその言葉を切った、男。


「アレが俺たちの言う事を聞くことは絶対にない。だから、もう争いは止められねぇよ」

「っ」

「そして、美野里が俺の所に来ない以上、俺もまた嫌々でも戦には参加するぜ? そして、全てを奪う」


現実はそう甘くない。

全てが言葉で解決出来るわけがない。

羽嶋刀火に対して、男は今、そう断言するように告げているのだ。

そして、だからこその忠告。


「っ、そんなの…」

「言葉で何でも解決できると思っているアマちゃんには悪いが、諦めな。そして、何も覚悟もねぇなら、俺たちの戦に入ってくるな」


冷酷な言葉を告げ、何も言ってこなくなった少女。

男は再び溜め息を漏らし、再び姿勢を戻す。

そして、もう振り返ることはせず、その場を去ろうと――――――――――――





「死人が、いっぱしに口開いてるんじゃねえよ」





した、その直後だった。


「っ!?」


それは全くの気配もない場所から発せられたドス黒い殺気。

男が再び振り返った先で、立つ少女。

いや、羽嶋刀火―――――――――――――――ではない、何かがその唇を借り、言葉を吐き出す。



「戦だって? ハン……上等だ。お前らがそうくるっていうならこっちも乗ってやるさ。ただ覚悟しろよ」

「……」

「お前が奪うっていうなら、それで結構だ。だが、こっちの姫を傷つけるっていうなら、俺はお前の全てを無に帰してやるさぁ」



それは、一瞬と垣間見れたものだったのだろう。

その言葉を残し、再び何者かは羽嶋刀火に戻る。



男は小さく笑みを作り、そして、何事もなかったかのように、その場を後にする。

だが、その顔には、はっきりとした感情が移し込まれていた。



それは――――――――――――争いを好む、狂喜に満ちた顔だった…。







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