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異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫  作者: GORO
第三章 [交差する思い] memories is cross – 運命を覆せし者達
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ブレイズ・オグマ

最後の部分に挿絵を入れてみました。


 



 それは―――悲痛の叫び、だった。

 覆ることのない運命によって残された『失った者』と『生きた者』

 誰もが弄ることのできない、その決められた道によって起きた事象に対して…。

 そして、どれだけ心情や事情が入り交じろうとも。どれだけ、それが純粋な願いであったとしても。


その現実は――――――彼女の思いを受け入れてはくれなかった。



 静寂が漂う空間の中、胸ぐらを掴まれた少年は為す術もなく校舎の壁に叩きつけられた。

 大きな音に続き、打ち付けられた際に広がる痛みが息を詰まらせる。

 だが、そんな些細な事など―――――


「おかしい…じゃない……何でなのよッ」

「……………」

「ッ!! 同じように死んだアンタが助かったのにッ! 何でルトワだけが助からないのよッ!!」


 ―――――激情と共に吐き出された彼女の言葉に比べれば、そんなものは…ちっぽけなものに過ぎなかった。


「……………」


 溢れ出る一方的な言葉をぶつけられる。

 だが少年は、決して激昂しようとはしなかった。何故なら、彼自らが責められるべき人間だとそう思っていたからだ。


『たった一つの特別によって、自分だけが生き返った。決められた運命で生きたやつが何を言おうと、そこに正当性はない』


 だから、少年は覚悟していた―――――


「………った!」


 どれだけ暴言を吐かれようとも、仮に恨まれ殺されたとしても……それは仕方がないことだと、そう思っていた―――――


「……っければ、よかった…」


 だけど―――――

 少年が見開いた瞳の先で、彼女は……言ったのだ。




「私が……ルトワにっ出会いさえしなければッ! ルトワはっ、死ななかったッ!!!」




 少年から手は離した彼女は力なく床に座り込んだ。

 そして、押し殺せない感情を爆発させながら――――――雪先沙織は大粒の涙を流し続けた。


 積み上げた想い出を、全てを不定して――――――彼女は自らを責め続けた…。





 第八十八話 ブレイズ・オグマ



 周囲へと四散した炎の中心で、新たな力と共に姿を現わした焔月火鷹。

 炎によって構成されていた羽衣を深紅のコートへと進化を遂げ、腕輪をするかのように両腕には魔法陣を突き通されている。


「ヴァルスⅡ………」


 自身の失態で招いた現状に歯を噛み締めるアチャル。

 だが、その鋭い眼光は未だ衰えず、目の前に立つ敵に対して観察をし続けていた。


 ヴァルスⅠからヴァルスⅡへの進化。

 それに伴う魔力量の増加と、容姿の変化に応じて両腕に現われた見たことのない未知の魔法陣。


 そのどれもが、言葉の通りの焔月火鷹の未知数となった戦力に繋がる。

 アチャルは警戒を続けながら、いつでも反撃できる体勢で視線を外すことはしなかった。

 小さな動きも見落とさない。

 彼女は、そのつもりだった。


 数秒という、時間の中―――――


「………」


 至近距離で。

 ――――――焔月火鷹が目前に迫るまでは、



「ッ!?」



 それはまるで転移魔法を使ったかのように、火鷹は数歩のステップを踏み越え自身の攻撃が通る間合いに距離を瞬時に近づけたのだ。

 そして、十分な警戒を続けていたにも関わらず、その速さに視界が追いつけなかったアチャルの構えが一瞬緩んだ。


 その隙を突くように、火鷹は大きなモーションと共にその右拳を振り下ろす。

 腕に魔法陣が通る以外、何の変哲もないただの拳を、


(っ、そんなものッ!!)


 アチャルは動揺によって隙を作ってしまった。

 だが、幾多の経験を積み上げた魔法使いである彼女は直ぐさま体勢を整えると同時に、背後にいるイフリートを使い、その大腕を防御へとまわす。


 高濃度に燃え上がる、触れた者を一瞬で焼き尽くす灼熱の炎を持つ肉体。


 その生命体たる大精霊イフリートは、その存在自体が強靱な防壁だった。

 だからこそ、何の保護もしていないただの素手で攻撃するなど、自殺行為であると――――――そう彼女は確信していた。


 だが、次の瞬間。


 それは、水面を叩きつけたような音と共に――――炎で形成されたイフリートの大腕が無慈悲にも簡単に吹き飛ばされたのだ。


「なっ!?」


 その腕は、細身の腕だった。

 魔法陣が通っただけの、素手だった。

 それなのに、激突と同時にイフリートの大腕はまるで水のように四散してしまった。


 理解、出来ない――――――。


 今度こそ、驚愕の表情を浮かべるアチャル。

 しかし、火鷹の攻撃は未だ終わってはいなかった。何故なら彼の拳は以前と前へと突き進み、彼女の顔面を確実に捉えていたからだ。


「ッ!!」


 一瞬の判断が遅れれば、直撃していた。

 咄嗟の判断で後ろに仰け反ったアチャルは、迫る拳の攻撃を回避する。だが、その見開いた視線の先で、


「フラル!」


 火鷹の掛け声と同時に、肩に飛び乗っていたフラルがアチャル目掛け炎のブレスを放つ。

 それも彼の進化に応じて使い魔自身も強化された、巨大な炎。その攻撃はまさに零距離発射に近いものだった。

 ――――――避けられない。

 そんな言葉がアチャルの頭に浮かぶ。

 息つく間など、あるはずがない。


「ッツ、イフリート――――――ッ!!!」


 アチャルの絶叫を放つ。

 同時に、背後にいた腕を失ったイフリートが一瞬にして消えた直後、彼女の全身から揺らぎ出た炎が再びイフリートの肉体を形成させる。そして、フラルのブレスを寸前の差で防いだのだ。


「くっ、ぅ!!」


 だが、それでもその一撃を完全に防ぐことは出来なかった。

 大きな力の衝突によって巻き起こった爆風はアチャルの体を吹き飛ばし、地面を擦る形で転がり落ちる。

 

火鷹は隙をついた攻撃は通ると踏んでいたが、まさか避けられるとは思っていなかった。

 だが、確実的な大ダメージとまではいかずとも、敵に対して微かでもダメージを与える事は出来た。


「ッ……」


 切れた口の端から出る血を腕で拭い取りながら、アチャルは崩れた体制を起き上がらせる。

 対して火鷹は、そんな彼女を澄んだ瞳で見据え続けていた。

 ヴァルスⅡへと進化した事によって、形勢が逆転したと言わんばかりに彼女を見下ろしていた。

 ギリィと音を立て、奥歯を噛み締めるアチャル。

 それは悔しさよりも先に、全身から吹き出る冷や汗を押し殺すためのものであった。


(っ……あの使い魔も、…強くなっているのか…っ)


 火鷹の変化に応じて強化されたフラルの体は、まるで消えることのない炎のように橙色の光を放ち続けている。

 フラルの強化は、主と同時に使い魔も進化したと考えれば、何も不自然なことはない。

 だがしかし、その今の戦闘でアチャルの頭に一つの核心が芽生えていた。


 それは焔月火鷹の力量に対するもの。

 いくら進化を遂げ強くなったとしても、今の戦闘やそのダダ漏れとなっている魔力の放出を見て、火鷹とアチャルとの差はほぼないと推測できた。

 そして、ヴァルスⅡへの進化に驚き、一瞬の隙や動揺をつかれ、一度は形勢を逆転された。

 だが、それでも、


「イフリートッツ!!!」


 勝機は以前と彼女にある。

 それは、イフリートと戦い続けてきた、これまで培ってきた経験の差だ。


「ッ!!」


 アチャルは全身に魔力を纏わせ身体強化を加えた直後、地面を蹴飛ばし走り出す。

 迫る敵に対し、フラルが連弾のブレスを放つ、だがそんな容易な攻撃を受けるわけもなく回避を続けるアチャルはさらに加速を上げ、イフリートの炎を両腕に纏わせていた。


 その姿勢は明らかに遠距離を踏まえたものではない。

 近接戦を踏まえた攻め、つまりは肉弾戦だ。


「っ、くそ…!」


 火鷹はアチャルが狙いをいち早く察知し、舌打ちをつく。

 拳を使った戦闘を先に始めたのは火鷹だが、彼にとって肉弾戦は本来、得意としたものではなかった。

 何故なら、使い魔を操ることこそがヴァルスシステムの本来あるべき姿なのだから、


「フラル、広範囲にブレスだ!」


 火鷹の声に従い、周囲にブレスを要した炎の壁を作る。

 だが、その直後。アチャルの鈎爪が振り下ろされた瞬間、まるで薄っぺらな紙のように、その炎は一瞬で四散してしまった。

 そして、再び振われた鈎爪を寸前の差で避ける火鷹は大きく跳びながら後退し、距離を離し、回避に徹底するしかできない。


(このままじゃ、まずい…かっ)


 アチャルの手から発せられる、その炎から感じる膨大な魔力。まともに喰らえば、ただでは澄まないことは明白だった。


「っ!」


 火鷹がいた世界において、ヴァルスシステムには様々な種類があり、またスタイルは何通りと分かれている。

 だが、成り行く形で拳のスタイルとなってしまった火鷹にとって、拳の戦いは未熟な面が大きく目立っていた。そして、手段として使える手も確実な戦力にはならず、拳の攻撃をフェイントとして使い、これまで戦い続けてきた。



 それは、弱点である近接戦闘を避けるためのもの。

 雪先沙織のようなスタイルを持った敵に対して、彼の魔法は劣勢に立たされてしまうからだ。



 そして、現状がまさにそうだった。

 このまま激突に持って行かれれば、形勢は簡単に振り出しに戻されてしまう。

 限られた手段は、狭められた。

 それなら、もう…、


(悪い……雪先)


 残された手段は、一つしかなかった。

 火鷹はフラルにもう一度炎を吐かせ、同時に大きく跳躍を見せその距離を十分に離す。

 そして、片方の腕を地面に向けながら下ろすと、呼吸を整え、


「お前の技、使わせてもらうぞ」


 次の瞬間。

 両腕に通っていた魔法陣が地面に移ったと同時に、陣は広範囲に拡大する。


「貴様ッ!!」


 アチャルは直ぐさま危険を察知し、早急に敵を沈めるためにその移動を加速させた。

 対しする火鷹は目の前に迫る彼女を見据えながら、もう片方の空いた腕を動かし、肘を後ろに引きながら構え、何かを溜めるかのような仕草でその手を鈎爪に構えた。

 そして、


「一陣」


 鈎爪の手、その指先に移動した魔法陣から小さな炎の球体が作り上げられていく。


「二陣」


 その炎は更に拡大し、更に膨れあがり、


「三陣」


 数秒という時間の中、憶することなく至近距離まで迫ったアチャルの鈎爪を見据えながら、火鷹は言葉をと共に、その技の名を告げた。




「波連・炎火えんか




 ――――――――――――先に語ったように、火鷹は肉弾戦を得意としない。

 だからこそ、敵を待ち構えながら拳を構える―――――――そんな方法をとるはずがなかった。


「      !!!!!」


 強烈な音が弾け、勝負は一瞬で決まった。

 静まりかえった闘技場の中心で立つ焔月火鷹。そんな彼の足下には、口から血を吐きながら意識を失うアチャルの姿がそこにはあった。




 至近距離まで近づいていたアチャルの攻撃は、後数秒もあれば直撃できる。それだけの距離を彼女は詰めていた。そして、同時に火鷹からの攻撃も十分に警戒し、回避できる構えも整えていた。

 だが、結果として彼女は火鷹の攻撃を回避できなかったのだ。

 何故なら、その攻撃自体が――――――――目に見えない波動の攻撃だったからだ。


『波連・炎火』


 炎火という言葉自体は火鷹がつけたオリジナルだ。

 だが、波連という技自体は違う。そもそもその技は彼のものではなく、それは『演劇魔法』を扱う雪先沙織が繰り出す技の一つだ。

 自身の足場一体に余波を受け付けない為の防壁の陣を張り、短距離というリーチの中で溜め込んだ目に見えない魔力の波動を放つ技。

 攻めの裏をかいた、カウンターブレイクの一つでもある。

 それが『波連』という技だった。


「……………」


 敵を完全に倒す為なら、更にもう一陣溜めることは可能だった。

 だが、火鷹はそれをしようとしなかった。何故なら、彼にとって彼女は必ず倒さなければならない敵ではないのだから…。


 火鷹は今も意識を失いながら倒れる彼女を見据え、その瞳はどこか複雑とした色を含ませる。


 大切な友の事を一に考える、その姿勢や心の持ち方。


 それらが、どことなく似ていると思ってしまったのだ。

 この世界に共に来た、もう一人の少女と…。






 ◆ ◆



 そこは、視界は暗闇に染まる空間だった。

 物も人も、何もない場所。

 ただ、その中では自分自身の声だけが静かに心に響き、届いていた。


 ……私は、何をしている?


 さっきまで、焔月火鷹という少年と戦い続けていた。

 そのはずだった。


 ……私は、何故…倒れている?


 両手に纏わせていた炎の攻撃が通る。そう核心した直後、強烈な一撃をまともに受けた。

 そして、声を吐く間もなく倒れてしまった。


 …………痛い…? 痛い? 何処が? 何処が?


 どうして? 意味がわからない。

 意味が分からない。

 意味が、分からない…。


 ……アイツが……アイツの…せいで…?


 自分を見下ろす、少年。

 炎を纏っていた、少年。


 アイツ…が……

 アイツ…が…

 アイツ…


 そして、アチルを。

 アチルを、あんな状態にさせた。その原因を作った…アイツ…。



 あ、あ、あ、アイツ…がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

 ああああああああああああああああああああ――――――



 その直後、何かが壊れた。

 次の瞬間。暗闇の壁がヒビ割れ、激しい地響きと共に砕け散った。

 そして、――――――その奥で燃え広がる青き炎が、彼女の心の全てを浸食した。





 ◆ ◆






 そこに、何の兆しもなかった。

 アチャルから顔を背け、その場から離れようとしていた火鷹。だが、それは音もなく、フラリと彼の背後で何かが立ち上がった、


「ッ         」


 その、刹那だった。

 火鷹は声一つ、発する事ができなかった。

 振り向いた時に既に顔面を炎の鈎爪で掴まれ、彼の体は強烈な音と共に地面に叩きつけられていた。

 激しい地割れが地盤を激しく砕き割り、同時に全身の骨から強烈な音が一瞬にして鳴り響く。


 意識が、数秒途切れた。

 だが、再び復帰する。


 それは拘束から解放されたのではない。何度も――――何度も―――――地面に叩きつけられるたびに意識が交差して復帰し、消失していったからだ。

 そして、破壊の音がそれからどれほど鳴ったか定かではない。

 ただ、その動きが止まった時には、


「…………」


 火鷹の全身に広がっていたはずの痛みが、止まっていた。

 それと同時に全ての感覚がなく、一つとしてあるとすれば、それは血の気が引いたような感覚と視覚だけだった。

 手に力を込めようとしても、力が入らない。

 以前と彼の顔は炎の鈎爪によって掴まれ、拘束されている。


「…………………」


 掠れる視界。その中で、鈎爪となる指の間から火鷹が見たもの。

 その手の主たる存在。

 そこにいたのものは――――――



『お前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだ―――――――』



 大精霊イフリートでもなく。

 また人間の形をした少女でもない。

 そこにいたのは、全身を青き炎で包み込んだ獣のような耳を生やした存在。バックリと見開かれた真っ赤な瞳を向ける、それは――――――正真正銘の化け物だった。


「…………ッ……」


 そして、視界の中でもう一つ見た物。

 化け物と化した存在の足下に、黒焦げにされた使い魔。

 死んでいるかのように倒れるフラルの姿だった。


『お前のせいだお前のせいだお前のせいだ』


 化け物は――――――アチャルは、以前同じ言葉を言い続けている。火鷹に敗北したことによって、心が激しく乱れ、それによって暴走に引き起こしたのだろう。

 だが、それはただの暴走ではない。


(イフリート…かっ…)


 彼女だけの暴走なら、これほどまでの力は生まれなかった。

 可能性があるとするなら、それは大精霊の力。主に交わるように、イフリートの力もまた暴走を引き起こしてしまったのだ。


 そして、その影響は彼らだけに留まらない。

 闘技場の周囲は再び炎に包まれつつあり、それは着実と広がっている。

いつ被害が外に漏れるか、時間の問題だった。


(このまま…じゃ…ッ)


 どうにかしないと、このままでは確実に炎は漏れ、街を焼き尽くしてしまう。

火鷹は歯を噛みしめながら、微弱な力を込め、全身に炎を纏わせる。

 対抗する力など、今の彼にあるわけがない。だが、それでも彼の心に諦めるといった感情は芽生えなかった。


「ッ!!」


 だが―――――その時だった。



『彼女はいつも皆のために、頑張ってきた』

「!?」



 突然と、その言葉が頭に流れた。

 視線を動かすも、青い炎の化け物と化したアチャルは一言も喋っていない。

 にも、関わらず火鷹の頭の中に彼女の言葉が聞こえてくる。



『―――――アチルは私のような、人間ではない者を見捨てず、友達だと言ってくれた。だから、私はそんなアチルの助けになりたい。恩返しがしたい。そう思いながら、日々力を身につけてきた…。そして、やっとアチルを助けられる、その力も、その地位も、足りないもの全てを手に入れたんだ。……それなのに。……やっと会えたアチルは、………無残にもあんな姿に変わり果ててしまった』



 それは、アチャルの炎と火鷹の炎。

 魔力を関した二つの炎が共鳴し合い起きた、偶然の産物だった。そして、意識のない今彼女だからこそ、何の障害もなくその心の声が火鷹に流れ込んでくる。



『それでも、大切な友であるアチルを助ける為に私たちは動いていたんだ。 皆、必死に考え、助けようとしていたんだ。 それなのにっ、時間が経つにつれて皆諦めていった。 どうにもできない、そう口を開く者さえ出てきてしまった。 そして、私もまた……時間が経つにつれて、そう思うようになってしまった。そんな事など思いたくなかった。それなのに、どうしてもこのざわつきを抑えることが出来なかった』



 彼女の本心はその言葉の通りだった。

 諦めたくない。それこそが彼女の真の思いだった。

 だが、周りの言葉に毒されるように、抱いていた思いが綻んでいったのだ。

 もう大切な友が帰ってくることがない、と。

 そう、心のどこかで、思うようになってしまったのだ。


『そして、いつからか、私の思いはある方向にむいてしまった。……許せなかった。アチルをあんな目にあっているにも関わらず、平然とした顔つきでいるアイツらが。許せなかった。 許せなかった…ッ!』


 彼女は、誰にも相談できない不安や苛立ちに苦しんでいた。

 そして、抑えきれない感情は火鷹たちにぶつける事でしか、彼女は自分自身の感情を制御することができなかった。


「…………」


 拘束から脱することを止め、静かに彼女の言葉を聞いていた火鷹は小さく口を紡ぐ。

 そして、目の前で我を忘れているアチャルを見据えながら、彼はーーーーー呟いた。




「……やっぱり、そうだったんだな」





その直後。

 奥歯を噛み締めると同時に、瞬時に炎を灯らせた渾身蹴りを彼女の顎に向けて放ち、その一瞬の衝撃によって鈎爪の力が弱まった。


「っ!!」


 両手を使い、爪の拘束から脱した火鷹は地面を転がる形で距離を取る。

 対して、怒りを現わすかのように咆吼を上げるアチャルに彼はゆっくりと立ち上がり、静かにそんな彼女を見据えながら言葉をぶつける。



「……わかってたさ。お前がどうして俺やアイツを毛嫌いにしているのかも…。お前自身が大切な友達を諦めたくないって思っていたことも…」



 そして、そう言葉を告げた彼はその時、思った。


 アチャルという彼女は、やはりどうしようもなく一人の少女に似ていた。

 それは、大切な友を失ったばかりの彼女。

 雪先沙織と。


(お前がそうだったように……アイツも今、そうなってるんだよな)


 再び驚異的な速度で迫りくるアチャル。だが、火鷹は構えるどころか一歩も動こうとしなかった。

 再び炎の鈎爪が襲い掛かるにも関わらず、その力を身で体感したにも関わらず―――――――

 だが、その次の瞬間、



『!?』



 突如、火鷹の全身を包み上げるかのように爆発的な炎のオーラが現われ、アチャルの鈎爪を弾き飛ばした。

 そして、そのオーラはまるで底の見えない純度ある業火のように燃え続け、また火鷹の感情に呼応するように、その激しさを上昇させていく。


「…………………」


そのオーラは使い魔を感して現れたものではない。それは彼が再び生を得た事で生まれたもう一つの魔力。集められた魔力によって創り出された心臓によって発動できる力であり、火鷹自身の強い感情に呼応して発動する、不確実な力だった。


「………………」


 目の前に驚異的な力を発揮するアチャルがいる。だが、そんな敵を前にしながら、退くこともせず、火鷹は自身の手のひらを見つめ、強く、その手を握り締める。

 そして――――――彼は、思い出す。



 元いた世界で起きた悲劇の結末。

 皆が勝ち取った限りない勝利に喜ぶ中で、誰にも見られないその場所で泣き続けていた、一人の少女の姿。

 一番に報われなくてはならないはずなのに、ただ泣くことしか出来なかった、彼女の涙を。


「……アイツは目の前で大切な友達を失った。そして、アイツはその事を自分のせいだと言った。自分と出会いさえしなければ、大切な友達が死ぬことはなかったって」



 あの悲劇以降、それからというもの彼女は何も手を付けられないほどに落ちぶれていった。

 その瞳は何も映さず、まるでそれは感情のない人形のように、ただそこにいるだけの存在となっていた。

 ―――――――だけど、


「死んだ人間は――――――生き返らない。だから、諦めるしかない。あの時のアイツにはそれしか選択肢はなかった。だけど、そんなアイツに…一つの希望を見いだしてくれた、それが…町早美野里だった。そして、それを叶える代わりにあの人は言ったんだ。……死んだアチルを助けてほしいって……」


 抱いて夢すら失いかけていた彼女の元に、奇跡に近い、一つの希望が舞い込んできた。

 そして、その希望は新たな思いを生みだし、その瞳は再び蘇った。

 その願望に叶える為に、彼女はもう一度立ち上がったのだ。


「全部が思い通りになるわけじゃない。……例えその願いが叶ったとしても、そこにアイツの望むものが全部帰ってくるわけじゃない。それでもアイツは希望を諦めずに、今も頑張り続けている」


 その夢は哀れな夢なのかも知れない。

 その実現は、新たな最悪の運命を作り出すかも知れない。

 だが、それでも…


「俺は、そんなアイツの助けになりたかった。その行為自体が世界の敵に回るとしても、それでも俺の心に迷いはなかった」


 火鷹は、彼女と共に歩くことを止めようとしなかった。

 何故なら、彼女の涙を見た時から、彼の心は既に決まっていたからだ。




 ◆ ◆



 その実現には、それ相応の代償が秘められていた。それも、この今生きる世界そのものを巻き込む巨大な代償だった。

 だが、そんな選択肢の前に立たされていた雪先沙織に対し、火鷹はこう尋ねていた。


『雪先。俺は、世界がどうとか、運命がどうとか、そんなのはどうだっていいんだ』

『……………』

『他の奴らの言葉なんて関係ない。例え、それが最悪の答えだったとしても俺は構わない』

『……………っ』


 火鷹が見つめる瞳の中で、震える彼女の姿が映った。

 だけど、ここでその問いを止めるつもりはなかった。何故なら、彼にはその答えを聞かなくてはならない、確固たる理由があったからだ。


『ただ、俺は知りたいんだ。お前が本当に見たかったものを……あんな最悪の結末じゃなく、お前達が笑っていられる最高の結末ってやつを。そして、―――――――――お前が本当に望んでいた言えなかった思いをっ!!』

『…っ!!』


 その言葉は鍵だった。

 現実という鎖によって閉ざされていた扉。それを開ける、唯一の無二の鍵だった。


『……っ、ぁ…私はっ…』

『……………………』


 そして、その鍵は固く閉ざされていた扉をこじ開けていく。

その内側に閉じ込められいた願望が、解き放たれていく。


『……私はっ、また…ルトワに会いたい…っ』

『…………………』


雪先の瞳から涙を流れる。

枯れたと思っていた、心の欠片が、漏れ始めていく。



『ちゃんと、話したかった。ちゃんと、喧嘩した事を、謝りたかった…っ! 仲直り…っ、したかった!!』

『…………………』

『あんなっお別れなんてっ嫌だった!! これから先もずっと一緒にっ、いたかった!! 喧嘩もして、笑ったり、泣いたりして!! ルトワのことをっ、もっと知りたかったッ!!!』


 溜め込んでいたものは吐き出されていく。

 積り続けていた重みが、次々と取れていく。

 火鷹はそれをただ静かに聞いていた。そして、泣き続けながら大声を上げる彼女の思いを決して忘れないように、心の奥底に強く刻み込んでいた。


『っ…はぁ…はぁ…っ…っ、火鷹…』

『………ああ』

『…私は』


 そして、やっと…彼女は本心でその望みを言葉にした。




『……ルトワに会いたい。例え、私のことを覚えていてくれなくても、私はまた、ルトワに会いたいッ!!!』




 その瞬間。

 もう一人の思いはーーーーー火鷹の覚悟は決まった。

 それは、彼女の願いを叶えることに対して…。

 それは、世界を敵にまわすことに対して…。


『そうか………わかった。なら、俺も力を貸す』

『!?』

『何も不思議なことじゃねえよ。お前がそう言った時点で、俺は元々お前に力を貸そうと思っていたんだ』

『っ、で』

『でも、じゃねえ。お前がやるんだ。なら、俺もやるのは当たり前だろ?』


挿絵(By みてみん)


 その返答は常識のない子供のセリフに思えるだろう。

 だが、それでもその言葉に偽りはない。

 未だ戸惑う雪先沙織に対して、口元を緩めながら笑う火鷹は言った。



『俺たちは二人揃って、双対の逸脱者ディヴィエイターなんだからな』



 ◆ ◆






 死闘の中で、あの時の事を思い出しながら火鷹は小さく笑った。

 そして、目の前にアチャルを見つめながら、


「俺は、アイツの願いを叶えるだけで手一杯かもしれない。だけど、もしお前がまだ、心の底で諦めたくないって言うなら…」


 雪先と似ている彼女に対しても、彼は言った。

 その言葉に、嘘偽りはない。



「俺は、いつだってお前の願いを叶える支えになってやる」




 その直後。

 火鷹を包む炎のオーラがより巨大に膨れ上がる。

 それと同時に、地面に力なく倒れていた使い魔フラルの体が突如、炎の形態へと姿を変化させた。


「……チャージは溜まったぞ、フラル!!」


 そして、火鷹の言葉が放たれた直後。

 その炎は飛び出し、火鷹が纏うオーラに吸収されていく。その瞬間、爆発的は風がその中心から発生し、舞い上がっていく。

 その爆風によって、アチャルの動きを抑制する中、


「一気に終わらせるぞ」


 その声と同時に、再び炎のオーラが四散する。

 ちりぢりに燃え落ちる火種、その中央で肩に乗せたフラルと、おとぎ話に出てくるような魔法使いの三角帽子を被る少年は不適な笑みを浮かべる。

 その姿は、進化の先の―――――頂点。



「ヴァルスⅢ」



 ヴァルスシステムの最終形態。

 龍人と化したダーバスを退けた、その姿こそが焔月火鷹が持つ真の姿だった。

 身体能力はヴァルスⅡより上昇した以外とく変化はない。だが、この形態になると同時に使い魔であるフラルは二つの力を獲得する事ができる。


『ガアアアアッツ!!!』


 唸り声を上げるアチャルは炎のブレスを放つ。

 巨大な砲撃のように作られた炎の一撃には莫大な魔力が秘められていた。


 だが、いくら強大であろうとその速さは遅く、火鷹にとっては回避することなど造作もないことだった。しかし、その一撃は間違いなく闘技場の壁など簡単に溶かしてしまう。

 そして、その炎が行く先にあるものはーーーーー魔法都市アルヴィアン・ウォーター。


 ――――――回避は出来ない、か。


 そう心の中で呟いた火鷹は、肩に乗る相棒に視線を向けながら、一言を告げる。




「フラル、喰え」




 許可が下りたと同時に目を見開くフラルは、目前に迫るであろう炎に飛び込んだ。

 そして、その小さな口を開いた。

その、次の瞬間だった。




 ガブリ、と音が鳴った。

 そして、目前まで迫っていた炎が幻想だったかのように、形全てが一瞬にして消失したのだ。



 だが、それは突然と消えたわけではない。

 火鷹の使い魔。フラルによって、その強大な一撃は一瞬にして、軽く喰われてしまっただけなのだ。




 ヴァルスⅠやⅡの形態では、フラルは自身の炎で魔力を燃焼させることでしか魔力を得ることが出来なかった。だが、このヴァルスⅢは違う。

 新たな進化によって、フラルは無条件で魔力を吸収することができるようになったのだ。

 そして、更に生まれた、もう一つの力。

 それは、



「フラル『ブレイズ・オグマ』ッ!!」



 火鷹の言葉と共に、フラルは宙に飛び跳ね回転した次の瞬間、その獣の体は一本の剣へと姿を変化させる。

 柄から刀身の背に毛を生やした異様な剣。

 フラルのもう一つの姿『ブレイズ・オグマ』魔力を喰う、魔法剣。

 これこそが、ヴァルスⅢとなった火鷹の真なる武器だった。



『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』



 ヴァルスⅢによって発せられる異様な魔力。

 それに動揺したかのように、獣の咆吼を上げるアチャルは再び炎を纏わせながら迫り来る。

 対して火鷹は、剣に大きく真横に振りかぶり、刀身に――――――――青い炎を纏わせた。

 それはフラルが喰った、アチャルの青き炎。


「ッ!!」


 火鷹が剣を振り下ろした直後、炎の斬撃波がアチャル目掛け放たれる。

 迫り来る攻撃にアチャルは八つの火の玉を生み出し連弾のように、迫る攻撃へと放つ。だが、一向にその攻撃は崩れようとしない。

 それどころか、以前と速い速度でその攻撃は迫り、ついには回避する間もなくアチャルに直撃する。


『ガヴァ!?!?』


 化け物の悲鳴を上げた。

 意識のない状態で防御する間もなかった。

 爆音のような音に続き、地面を連続して跳ね返りながら、吹き飛ばされていくアチャル。

 だが、


『ッッ!!!!』


 アチャルは地面に食い下がるように四足で地面に突き刺し、着地する。

 そして、目の前の敵を鋭く見据え、アチャルは再び全身の炎を拡大させはじめた。

攻撃の一種か、身構える火鷹。

 だが、それが攻撃でないことを、彼は瞬時に悟る。



 何故なら、全身から溢れ出した炎はまるで洪水のように荒々しい炎の波を生み、闘技場の地面を一瞬で覆い尽くしたのだ。

 寸前の差で、上空に飛んだ為、火鷹は直撃を免れた。

 しかし、


「……………」


 炎の勢いは以前と治まらない。

 それどころか着実とその炎は大きくなっていく。

 小さな容器に水を注いでいくように、闘技場内部を炎で埋め尽くそうとしているのだ。


「………………っ」


 下手をすれば街一つがなくなるほどの魔力が秘められていた。

 だが、それよりも問題なのは、その主たる彼女だ。

 この圧倒的な爆発的な力はもう人中を越えている。同時にアチャルの体は既に限界を迎えようとしているはずだ。



『ガアアアアアアアアアアアア!!! ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!』


 その叫びは、悲鳴のよう聞こえた。

 火鷹は険しい表情を浮かべつつ、アチャルの姿を見据え静かに呼吸を整える。

 そして、空いた手を剣の腹にかざしながら、彼は言う。




「フルドライブ」




 その直後。

モーター音のような音が、ブレイズ・オグマの内部から聞こえてくる。火鷹の手のひらから炎を発し、それを剣へと吸収させていく。


「チャージ」


 火鷹がそう言葉を言った直後、剣は更なる変化もうよって一本の長剣に姿を変化させる。

 機械的な外見もさることながら、その両サイドに噴出口のような部分が四つ取り付けられている。その剣は、ヴァルスⅢにおいて最大火力の一撃を発揮できる近距離型・攻撃武装だった。

 だが、火鷹は続けて、


「チャージ」


 更なる変化を見せる。

 それは銃身の長いスナイパーライフル。長距離戦においては最も確実な一撃を与えることができる、遠距離型・狙撃武装。

 現状おいて、この形態こそが選択として正解に近いものだった。

 しかし、火鷹は、




「チャージ!!」




 次の瞬間。

 その形態は異様なものへと変化した。

 物体化したものは、刀身の柄のみ。それ以外は機械化といった物体化はしていない。だが、その唾の先で、紅に燃える炎の球体が生み出されていた。

 まるで太陽のような熱をたぎらせる炎の球。武器として、あまりにも不出来な形態に思えてならないものだった。


 しかし、これこそがこの状況においての鍵となる。

 アルヴィアンという都市を救うために。

 そして。

アチャルを救うために。


『ッッッツ!!!!!』


 アチャルの全身が発光と同時に急激に魔力を拡大させ、高まる力を爆発させるような仕草を見せる。

 普段の彼女なら、こんな行為など絶対にするはずがない。だが、今の彼女にとってそんな感情は一欠片も存在することが許されなかった。


暴走によって引き起こされる、今まで守り続けてきたものが全て灰となってしまう、最悪の結末。

 だが、


(そんな事、させるかよッ!)


 そんな結末など誰も望まない。

 アチャル自身も、そして、彼女の大切な友であるアチルも。

 もちろん、火鷹もそうだ。

 だからこそ、ここで全てを終わらせる。

 歩く道を見失い、踏みとどまっている一人の魔法使いを助け、もう一度歩き出させるために。


「―――――――――――――――っけええッ!!!」


 火鷹は柄を振り上げると同時に炎の塊を振り回し、炎の海と化したその闘技場中心に向けて、その塊を投げつける。

 地面に広がる炎に比べれば、それは小さく、ひ弱な炎かもしれない。

 だが、その炎は、


「全てを、食い尽くせ」


 魔法使いにとって、最悪の攻撃となる。

 何故なら、その炎は火鷹の使い魔、フラルの特性そのものを具現化させた力。




「マジック・ブレイズイーター!!」




 魔力のみを食い殺す、近接型・暴食形態なのだから。



 急落下する塊の表面からキツネのような顔が作りあげられた。

 そして、その大口が開くと同時に、炎の海。その元となる魔力を炎の塊が食い尽くしていく。

 限度は初めからないかのように、その形態に制限はない。

 魔力あるものなら、何でも食い尽くす。

 そう、それが例え、


『ッ!!!?』


 全身に纏った炎であろうとも。

 炎の塊とアチャル。二つの炎が互いにぶつかり合う。激しい音と地面が砕ける音が、そのすさまじさを告げていく。

 自身を喰おうとする塊を何とか押さえつけようとする化け物。

 だが、その勝敗はどれだけ踏ん張ろうとも――――既に結果は決まっていた。



 マジック・ブレイズイーターにおいては、魔法という手段では、決してその暴食を止めることは出来ないのだから。



「――――――――――――――――っけええ!!! フラル!!」



 魔力を食い尽くす炎の塊。

 その力を受け、アチャルの鈎爪を形成していた魔力は喰われ続けていく。

 悲鳴を上げようとも。

 攻撃しようとも。

 フラルの暴食において―――――――――魔法は、逃げられないのだ。



『ガッアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああ…ぁ…ぁ…ぁ』 




 邪なものを浄化するように。

 荒ぶる炎は、やがて一欠片も残ることもなく消えるように…食い殺されていった。








 日差しが落ち始めた、夕暮れが訪れる中。

 闘技場の中心で、


「…………………」


 溢れ続けていた炎を全てフラルに喰われ、全身に多大な火傷を負いながらも命を残したアチャルが静かに眠っている。

 そんな彼女の隣で火鷹は座り込みながら、そっと息をつくが、その一方で腹を満たしてフラルが仰向けで寝転がっていた。

 火鷹はそんなフラルに口元緩ませながら、もう一度アチャルに視線を落とす。



 そして、今の彼女おいて、その言葉は届かないかもしれない。

 だが、それでも火鷹は言った。


「……俺たちだって、ただ無闇に未来の道を変えわけじゃない」


 視線を外し、火鷹は闘技場の入り口。そこに立つ一人の女性を見つめる。

 後ろに一括りした髪に加え、砂避けの布を全身に巻いている女性。だが、そんな外見でなお、目につく武器があった。

 長い刀身を持った、緑色のライフル銃。


(やっと…か)


 そう呟いた火鷹は、再びアチャルに振り返る。

 そして、その口を開きながら、



「……心配するな。お前は一人なんかじゃない。……生きている限り、可能性は十分に残っているんだからな」



 目の端で涙を流すアチャルに、そう告げるのだった。

再び前へと歩みだす、その希望になることを祈りながら…。






 そうして、一つの世界の物語が幕を閉じる。


 そして、入れ替わるように、火鷹たちのいる世界とは違う。

 それは美野里やルーサーがいる世界。




 夏の校舎、その廊下を全速力で走り抜けながら、空き教室のドアを全力で開ける町早美咲は大声で叫んだ。



「ルーサーいますかっ! ってか、もう助けてください――――――ッツ!!!!」



 涙目満載の彼女の叫び。

対して、教室で部活をサボっていた剣道部主将、結納香月は椅子もろとも後ろに倒れ、引きつった表情を浮かべるのだった。


挿絵(By みてみん)



次回から少し、日常が続く……予定です。

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