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異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫  作者: GORO
第三章 [交差する思い] memories is cross – 運命を覆せし者達
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望まぬ答え



第八十五話 望まぬ答え



その降臨は世界を揺るがせた。

人間が感じられたか分からない、コンマ単位の振動が発生し、少女の中心で風が揺れる。

そして、周囲にいた者たちの視線が集まる中で神秘的な光を灯した瞳をゆっくりと開き、白髪に近い成長を遂げた髪を揺らがせる少女。

シンクロアーツ・町早美野里は悲しげな瞳で目の前に経つ敵を見据えた。


『オォォ……カミヨ、カミヨ、ヨクモッ』


まるで恨みの執念を現わしたように、ローブ姿の男は両腕を伸ばし、呻き声を吐き出す。そして、同時にその怨念に呼応されるかのように再び男の周囲には骸骨の兵隊たちが生み出されていった。

それら全てが神と呼ばれていた彼女を恨み、憎悪の言葉を吐く。


だが、そんな狂気に包まれた空間の中で町早美野里はその唇を開く。




「勝手な事ばかり言わないで」




一言。

その言葉が出た瞬間、周囲に沸き上がっていた雑音ら全てを一瞬で沈黙に追いやった。

何気ない言葉にも関わらず、近くにいた羽嶋でさえまるで金縛りにあったかのように一瞬息を止めてしまっていた。

周囲に動きが止まり、一時の静寂が落ちる。

その中で美野里は呼吸を整わせ、自身の感情を押し殺しながら口を動かす。


「確かに、あの時の私は貴方たちを助けることができなかった。一人だけあの世界から逃げて、何も出来なかった。神であるにも関わらず、助けを求めていた貴方たちに、手を差しのべることすらできなかった」

「ソ…ソウダァ」

「だけど」

「!?」

「‥‥それじゃあ、ラトを見捨てた貴方たちはどうなの? あの時、貴方たちはラトを止めてくれなかった。……あの状況の中で、私を助けに行けば無傷じゃ済まないことぐらい、貴方たちにもわかっていたはずよ? それなのに、誰一人としてラトを助けようとしてくれなかった」


力を取り戻した上で脳裏に蘇った、失われていたはずの記憶。

自身の命を省みず称号の力を酷使し、神を逃がしたラトという名を持つ少女の存在は美野里にとってかけがえのない大切なモノだった。

だからこそ、許せない感情があった。

彼女を殺したダーバスを含めた魔法使いたち。

そんな彼女を見捨てて逃げた村の者達。

そして、大切な彼女を死なせてしまった自身に対しても、怒りが収まることはなかった。


「…ッ」


いつ暴走してしまうかわからない、そんな入り乱れる心を美野里は落ち着かせるように拳を握り締めた。

その上で、美野里は感情を抑えながらも言葉を言い続けた。

ただ一つ、


「ラトを殺した、あの魔法使いたちが許せない。ラトを見殺しにした、そんな貴方を私は許せない。そして、何よりラトを助けられなかった私自身が許せない」

「…………」

「…だから、あの場で何もできなかった私に貴方たちを一方的に責める資格はない。だけど、これだけはしてほしいの。………言葉だけでもいい。一言だけでもいいから、ラトにちゃんと謝って! 村の皆のことを一番に考えていた彼女に対して、ちゃんと謝ってっ!!」


美野里に対する侮辱だとしても、かまわない。

恨まれ、憎まれ、殺意を向けられたとしても、かまわない。

ただ、彼女が望むのはラトに対しての謝罪の言葉。

ただ、それだけだった。

それ以外、美野里には…………何もいらなかった。


「………………」


美野里の言葉の後に、その場に再びとして沈黙が落ちる。

今にも泣き出しそうになる瞳を浮かべ、美野里はローブの男を静かに見据える。言ってほしい言葉を待つ。


「………………」


ローブ姿の男はゆらゆらを体を動かし、まるで意欲をなくしたように、体をうなだらせて頭を下げた。

そして、ローブの奥で男はその口を動かし――――――



『フザケルナ』



次の瞬間。

男だけではない。

地面から生み出されていた骸骨全てが赤い瞳を爛々と光らせながら、願いに対する答えを吐き出す。



『『『フザケルナ‥フザケルナフザケルナッフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナッ!!!!!!!!!! アノ、オンナ、ガ、ワルインダ、アノオンナガ! アノオンナガアノオンナガアノオンナガアノオンナガアノオンナガアノオンナガアノオンナガーーーッ!!!』』』



彼らにあるものは、もう恨みしかなかった。

何一つとして、一人戦い命を落としたラトに対する謝罪の言葉は出てくることはなかった。


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」


顔を俯かせる美野里は、心のどこかでまだ微かに希望を抱いていた。

彼らはあの時。小さくとも、自身に対する過ちを悔いてくれていたと、そう思って、そう願っていた。


「……………」


だが、そんなものは夢だった。

今、目の前に映るそれが、まさしく答えだった。


「そう、それが‥‥‥‥‥貴方たちの、答えなのね」


美野里は俯いたまま、唇を強く噤む。

あって欲しくなかった答えに、押し殺していた感情を大きく高ぶらせる。

対するローブ姿の男は指令を飛ばし、無数の骸骨たちは群がりながら、波のように茫然と立ち尽くす美野里に襲い掛かろうとする。

羽嶋はすぐ様に刀を持って構え、反撃に打って出ようとした。

だが、その瞬間。


「!?!!」


羽嶋の、人間としての本能が叫んだ。

それは体に走る危険信号というレベルを優に超えたものだった。

そう――――――今、この瞬間において。


自身はその場を一歩たりとも動いてはいけない、と。




衝光しょうこうルーツオーバー」



迫る敵を前にして、美野里はそう言葉を発した。

そして、それは次の瞬間。




「            」




美野里の前方に広がる景色は――――――、一瞬にして光の剣によって無秩序にも埋め尽くされる。


「………ぇ」


そう乾いた言葉を出す羽嶋でさえ、一瞬の出来事として見せつけられた現実を信じられなかった。

何故なら視界の先には、一人では追いきれない数の骸骨たちがいた。大きな力を持っていたとしても、少なからずは倒すために時間が掛かる。

そう、ならなければおかしい、そのはずだった。


それがたった一言と、一つの現象によって一瞬で消失したのだ。


ヒュンという音と共に光の剣は粉々に砕け散る。そして、それと同時に剣に埋め尽くされた骸骨たちの姿は一片の欠片も残さずに消滅していた。



「ァ…ァァ…ッ」


攻撃範囲外にギリギリといたローブ姿の男は、今まさに目の前で起きた光景に恐怖を感じていた。腰が抜けたかのように地面に座り込み、震えた瞳で美野里の姿を見ていた。


「……衝光しょうこう


再び、美野里は言葉を呟く。

その瞬間、空に突如と現われた無数の星々、その中の一つが光の短剣となり、彼女の手の内で構築された。

そして、一歩。

……また一歩、とローブ姿の男に歩みよっていく美野里。

その小さな唇を動かし、言葉を添えながら、


「…私が恨まれることに、何も異論はなかった。恨まれても仕方がないって、私自身がそう思っていた。だから貴方たちの憎悪に対して、何もいうつもりはなかった」

「…ク、クル…ナ」

「だけど、私だけじゃなく貴方たちはラトにまで侮辱の言葉を吐いた。……見逃せない。例え何であろうとも、それだけは…絶対に許さないっ」


自身ために命をかけた少女がいた。

ただ護られていた者たちが見せて現実に染まることなく、振り切り、走り出し、そして、神を救った彼女がいた。

そんな彼女が――――――いや、親友ともいえるラトが、


挿絵(By みてみん)


『神さま』




何故、助けもしなかったもの達に、ここまで言われなければならないーーッ。




『タ、タス、ケ』

「アンタたちなんかにッ! ラトを悪く言う権利なんてあるわけがないでしょッ!!」




固く握り締めると同時に稲妻のようにその形状を変化させる光剣を手に、男の眼前で足を止めた美野里に躊躇いなどなかった。

美野里は怯え一歩も動けない男に対し、片腕上げ、その剣を振り下ろした。

その一撃は男だけには止まらず、その場一帯すらをも消し炭にするかもしれない。

それほどの威力を、確実なまでに秘めた一振りをーーーーー




「それは違うよ、シクア」




次の瞬間。

その声と同時に、光の短剣は美野里の意志を問わずして粉々に砕け散った。

そして、同時に目の前にいたはずのローブ姿の男は侍のような姿をした男によって担がれ、その距離を離されてしまった。


「…………」


手の内から消えてしまった光剣。

だが、そんな事に関し、全く疑問を抱かなかった美野里は体の向きを変え、視線を向ける。

それは突然と現われた敵である存在。

いや、同じ神に等しい力を持っている、もう一人の友だった…


「それは人間戦い方であって、私たちのような神の戦い方じゃないよね、シクア」

「……ラトゥル」


異世界からこの地に舞い降りた、もう一人の神ラトゥル。

長い年月を経て、真の意味での再会を果たした彼女は美野里の姿に嬉しげな表情を浮かべる。


「完全とまではいかなくても、無事元の姿には戻れたみたいだね」

「………………」

「どうしたの、シクア? 急に黙っちゃったりして」


そう言って、無邪気な笑みで首を傾げるラトゥル。

対する美野里は顔を俯かせた状態のまま、その口を開く。


「ねぇ……ラトゥル」

「何、シク」

「どうやって……私を戻したの?」


一瞬。

その空間、全てに息詰まるような重圧がのし掛かる。


美野里にとって、その覚醒は予期せぬものだった。

本来、この姿になることはないと、そう思っていたからだ。

しかし、現状がその事実を証明している。

だからこそ、…………………一つの可能性を、美野里は信じたくなかった。


「…………うーん、やっぱりあれだけじゃダメだったね。でも仕方がないか…この世界じゃ」

「……答えて、ラトゥル」

「でも、シクアが今の状態であの世界に帰れば、きっと元の力を」

「答えてっ!!」


全く話を耳を貸さない彼女に対し、美野里は張り詰めた声を吐き出す。

その声によって、周囲の空間が微かに揺れる中、歯を噛みしめながら問いに対する言葉を待つ。


「何って、そんなの簡単なことだよ?」


その一方でラトゥルはキョトンとした表情を浮かばせた。その瞳には罪悪はない。

自身のすること、それら全てが正しいことだと言っているかのような無垢な瞳だった。

そして、ラトゥルは口元を緩ませながら、言った。




「あのドラゴンに、全部返してもらったんだよ?」

「……っ、ラトゥルッ!!!!!」





それは刹那。

地面を蹴飛ばし、ラトゥルの眼前へと迫った美野里は手に再び作り上げた光剣を振り下ろす。

だが、その攻撃に対し、一瞬にして現われた侍姿の男は自身の刀を構え、強力な一撃をいとも簡単に防いでしまう。


「ッツ!!」


キィン!! という音と共に、後方に突き飛ばされる美野里。

そんな彼女に対し、男は感心したように刀の表面を見つめながら言葉を呟く。


『ほぉ、やるな』

「……そこを通して」

『それは無理な話だ。貴様もおさを差し出せと言われて、そう簡単に』

「そこをどけッ!!」


地面を蹴飛ばし、走り出した美野里はもう一方の空いた片手に瞬時に光剣を作り出し、勢い任せに侍姿の男に剣を振り下ろす。

だが、そんな安直な攻撃を受けるわけないと告げるかのように、ひらりと体を動かしその一撃を躱した。そして、男は強者のようにその口元を緩ませ、何かを言おうとする。

だが、その時。


衝光しょうこうッ!!」


侍姿の男は彼女を舐めていた。

数分前に戦ったルーサーと同様に、ただ力を振り回すだけの半端物だと思っていた―――美野里という存在を。




「ッああああああああッツ!!!」

『ぐぅッ!?』


急激な光を全身に纏わせた美野里はまるで稲妻のように光を帯電させ、その速度を急上昇させる。

バチッバチッツ!!!! と音と共に、超至近距離からの攻撃の乱舞を走らせ、的確とまでに男の死角をつき、瞬時に回り込みつつ剣を振う。


刀と剣、両者の武器が音を響かせ合い、二つの力は激しさを増して衝動を繰り返す。


男とは対照的に、美野里の動きはまさにかつての連撃と呼ばれていた彼女自身を復帰させるようなような動きだった。

だが、連続で打ち込まれる攻撃に対しても侍姿の男は冷静を取り留めつつ、的確に対応しては攻撃を防いでいく。

刀に長けたものと、短剣に長けたもの。

どちらも決め手となる一撃を与えられずにいた。

そして、刀身と刀身が鬩ぎ合う状態にもつれ込む中で、男は再びその口を開いた。


『その戦いぶり、長と同じ存在とは思えないな』

「ッ、だまっ」

『そして、何より。あの小僧よりは、剣の使い手のようだ』

「ッ!?」


その瞬間、美野里に一瞬の隙が生まれた。

対する男はその隙を見抜き、刀を突き上げ美野里の短剣を強引にその手から吹き飛ばす。

そして、構えを居合いの姿勢に変え、そこからなる強力な一撃を放とうとした。

だか、その直後で美野里はその口を動かし


「ダング」

『!?』

「オーバーアーツッ!!」


次の瞬間。

上空に飛ばされていたはずの光剣の刀身が突如として巨大化すると同時に、美野里たちの境。地面へと深々く突き刺さる。

そして、その中心で強大な爆発を発生した。






その光景はまるでアクション映画を間近で見ているような気分だった。

自身とは次元の違う、別世界ともいえる戦い。

羽嶋刀火は全身から吹き上がる汗を感じつつ、あの大爆発にも関わらず、それを予期して回避した侍姿の男に対し、再び剣を手に立ち向かっていく美野里の姿に目を奪われていた。


(凄い……)


戦うたびに、その手その手の手段を模索し、攻撃にへと繋げる。

力に溺れることなく、技術を生かし、戦う姿はまさに羽嶋が思い描く、理想の戦い方に酷似したものだった。

その、直後。


「哀れだよ、シクア」


気配もなく、いつの間にか直ぐ側まで近づいていたラトゥルの存在に、羽嶋は気づけなかった。


「!?」


身の危険を感じ、後方に飛び退く彼女。

だが、対するラトゥルはそんな彼女に視線すら向けず、


「昔はそんな戦い方すら必要はなかった。それだけの力を持っていたはずなのに……人間なんかになるから。そんな戦い方しかできないんだよ」

「……」


人間なんかになる?

その言葉に一瞬と疑問を抱く羽嶋は警戒をしつつ、口を開く。


「貴方は…」

「……それはこっちのセリフかな」


羽嶋の声にやっと反応を示したラトゥルは顔を振りかせて笑う。

そして、その唇を開きながら。



「お姉さんは――――――その頭に乗ってる、それは何?」



その直後。

目に見えない圧倒的な力が羽嶋へと襲い掛かろうとしていた。

頭上からくる攻撃に、彼女自身は気づけていなかった。

そうーーーその攻撃に気づけたのは一つの存在のみ。

その存在は主人を守るため、隠していたその姿を顕現させる。



『ガァアアアアァァッ!!!』




バンンッツ!! という音と共に、羽嶋の頭上で咆哮を上げながら浮かぶ存在。

長い体を持ちながらその表面には一色の黒、それ以外何も存在しない。だが、それでも尚その存在は形をなし、人間の背丈ぐらいの大きさを維持しつつとぐろを巻く。

ペケ印、それがかけ離れ、まるでそれが目でもあるかのように顔に位置する。

その存在ーーーー黒い龍はその姿をラトゥルの目の前に曝け出したのだ。


「ぺ…ペケ…っ」

「………黒い龍?」


自身の攻撃を跳ね返した、未知の存在。

ラトゥルは幼げな顔立ちの間々、冷たい瞳でその外敵を見据える。





美野里と侍姿の男。二人の死闘は未だ膠着状態となっていた。

隙を見てラトゥルに向かおうとするも、阻止される。苛立ちを募らせる美野里は大きく剣を振り落とすが、再び攻撃は防がれ、後方に突き飛ばされてしまった。

だが、その男との距離が離れた、それこそが美野里の真の狙いだった。


(ルーツオーバー、チェイン打現)


気づかれないように、美野里は光剣の刀身に技を練り込ませる。

そして、短く息を吐くと同時に走り出して男に対し、大ぶりな攻撃を振り放つ。

防御しようと刀で防いだ瞬間に、振動技を喰らわせようと、思考しながらーー

だか、




『……あの小僧と同じ技か』




その時。美野里は一瞬、何を言われたか分からなかった。

男は美野里の短剣を見据えつつ、手に持つ刀ではない、腰に納めた鞘を放り投げた。

そして、それは今まさに振り下ろされようとする光剣へと接触し刀身に鞘が触れた、その瞬間。

バキンッツ!! という音と共に鞘は木っ端微塵に粉砕した。

また、直前で狙いを外されたことによって、美野里に大きな隙が生まれる。


(ッ、まず…)


体勢を整えようとするも、時間が足りない。

既に男は美野里の直ぐ側に迫り、刀身は懐に当たる、その手前まで近づいていたのだ。

斬られる―――――そう、確信した。

その、次の瞬間だった。




『…(あの小僧なら、ここから南、四、五キロ行った場所にいる)』

「!?」




耳元で囁かれた言葉。

その直後。美野里の体は男の横蹴りと同時に羽嶋刀火のいる直ぐ側へと吹き飛ばされる。

地面に倒れながら激痛に顔を歪ませる彼女に対し、男は刀を中段へと構え直し、


『我が剣技、受けてみよ』


刀身に赤く、異様な気配を纏わせる。

空気を振動させる男の刀からなる攻撃の構え。

美野里の瞳に映るそれは、まさしく、異様な力だった。

力の正体は分からない。だが、あれは真面に受けるわけにはいかないと、理解してしまうほどのものだった。


「っ!」


美野里は後方で立つ羽嶋を見つつ、そして、美野里の姿を見据えつつ笑ってその姿を消したラトゥルを睨みながら、空いた手を前へと突き出す。

間に合うかどうか分からない。だが、このままでは、自分だけでなく、背後に立つ羽嶋さえも斬られてしまう。

男の技が放たれると同時に美野里の叫ぶ

共に二つの声が放たれながら、


「来て! シンファモ」

『吹き飛ばせ、力の限りにッ!!』


赤い光の力を秘めた刀は、直後に振り下ろされた。

その瞬間。縦一閃に放たれた光の斬撃は地面を切り裂きながらーーーー


ふわりと、微かな羽と接触しつつ、その向こう側まで突き抜けていったのだった。








砂煙が立ち上がる中、侍姿の男は腰に携えたもう一本の空いた鞘に刀を納める。

視線を向けるそこには、縦一線と地面が斬られた痕があったが、そこに美野里たちの姿はなかった。

そして、男の直ぐ側にふわりと姿を現わしたラトゥルは、呆れたような表情でその口を開く。


「逃げられちゃったみたいだね」

『…そのようだな』

「……………………」

『何か言いたいようだな?』

「…………うんん、別に。まぁ、いいかな…今日はこれぐらいにしようっと」


全てを見据えたような瞳をチラつかせつつ、ラトゥルはそう言葉を添えた。


『…………………』

「あ、そうだ。そこで倒れてる出来損ないなんだけど、私の代わりに運んでくれる?」

『ああ、別にい』

「後、もう一つ言っておいて」


そして、男に無邪気な笑みを浮かばせるラトゥルは、言った。




「次はないよ、って」




ルンルン! と鼻歌をつきながら歩き、また姿を消すラトゥル。

侍姿の男はそんな彼女の裏の一面を見据えつつ、大きく息を吐いた。そして、脳裏に二人の存在を思い浮かばせる。


神に等しい力を持つ存在、ラトゥル。

神から人へと変質した存在、シンクロアーツ。


二人の少女。

その存在が、この別世界で大きな波乱を巻き起こす事になるだろう。男はそんな見え透いて現実に対し、疲れた様子で空を見上げる。



夕暮れが流れ落ち、空は着実と夜空へと変色しつつあった。




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