≪断編≫ 大切な想い出―cherished memory
それは、力の復活と共に思い出した、町早美野里の過去。
いや――――――それは、神に等しい存在だった彼女の大切な記憶、その断編の物語――――――
第八十四話 ≪断編≫ 大切な想い出―cherished memory
アース・プリアス。
その名がつく、それよりも数百年前の世界。
そこには人々が生き、モンスターたちと共存をしながらその時の中で日々、暮らしていた。
だが、その世界には一つ、他とは違う特別が存在していた。
それは、本来なら見ることや触ることさえできない存在。
―――――――神様が地上に降り立ち、人々と共に生活をしていたのだ。
鼻につく、甘い匂いは花の蜜の匂いだ。
前髪を揺らす風は爽やかで、遠く離れた場所にある海の匂いを届けてくれる。
小鳥の声や、人々の声。
豊かな世界を実感させてくれる、そんな声が聞こえてくる。
だが、そんな平穏の音の中に、
「神様―そろそろ起きませんかー?」
ふと、少女の声が聞こえた。
草原が広がる中、数本と並ぶ大樹の一つ。その根元で横になっていた女性はその声に反応するように、のそりと体を起こした。
四つの羽を纏わせた聖なる衣装に身を包み、白に近い髪、ヒラヒラと揺れる長い跳ねっ毛を泳がせながら、
「あ、やっと起きた」
女性が瞼を開いたそこには、溜め息をつきながら口元を綻ばせる長髪の少女がいた。その腰には茶色の皮で作られたホルダーがあり、数枚のカードが納められている。
そして、少女と対面する形で向かいに座る女性は眉間をしかめつつも、未だ眠気が取れていない仕草を見せた。
小さな唇を開き、ゲンナリとした様子で、
「もう、ラトはうるさいなー」
「うるさくて結構です。それよりも、いつまで寝ているつもりなんですか、神様?」
長髪の少女。名前は、ラト。
今いる場所から少し行った場所にある平凡な村、そこに住む何の変哲もない女の子だ。
ただ少し、他とは違う力を受け渡された存在でもある。
対して、ラトと対話する女性は一件普通の人間にも思える容姿を持つ。
だが、モンスターや人間たちとは比べものにならない特別な存在でもある。
彼女は、村に住む者達から―――――神様と呼ばれ、崇められる存在。嘘偽りもない、正真正銘の神に等しい存在なのだ。
そして、その世界からも彼女は、幽玄の守り人とも呼ばれている存在でもあった。
「神様、どうか! どうか私の娘を!!」
神様の力を頼ろうとする者は後を絶たないでいる。
中には神の力を利用し、悪事を働こうとするものもいたが、そこは神なだけあって協力するわけもなく、一睨みで早々に退散する者達が大勢いたという。
だが、神が選んだ者だけは、特別として神の力を間近で授けられることが出来るのだ。
そして、今もそうであり、
「大丈夫、もう痛くないから」
「っはぁ…はぁ…っ」
母親に連れられた幼い子供は不治の病に倒れ、呼吸を荒くさせ、高熱にうなされ続けていた。
だが、神である彼女が優しくその頭を撫でた瞬間。
まるで憑き物が取れたかのように、子供はゆっくりと呼吸を落ち着かせ、その顔色も数秒後には健康的な色を示していた。
「あっ、ありがとうございます!! ありがとうございます!!」
母親は涙を流し、神へ何度となく頭を下げ続け、周囲にいた者達も皆同じようにその光景対し、拝むように頭を下げ続ける。
神は健やかに眠る子供を見つめ、優しげな表情を浮かべていた。
その場一帯は歓喜の声で包まれ、皆が笑顔を浮かべていた。
ただ、その中で一人。
「………………………」
神である彼女を見つめるラトだけが違っていた。
目の前で広がる幸せな光景。それを目の当たりにしながらも、どこか複雑とした表情を浮かべていた。
村が歓喜に包まれ、お祭りムードのように盛り上がっている。
だが、そんな楽しい時間の中で、草原の先、月光の当たる崖の上で、ラトは一人座り込んでいた。
すると、その時。
「どうしたの、ラト」
そんな彼女の背後に一人の女性、神はゆっくりと歩み寄ってきた。
本来なら、神である存在に話し掛けられた時点で、その者は感謝し、頭を下げる。それが当たり前とされていたはずだった。
だが、神が声を掛けたにも関わらずラトは一度も返事を返そうとはしなかった。
神は小さく息をつきながら、それ以上、何も言わなかった。ただ、そんなラトの隣に同じように腰を落とし、空に浮かぶ月を見上げ続けた。
そして、会話もなく静寂だけがその場にゆっくりと落ちていく。
揺れる風が虫たちの声を運んでくれ、気持ちの良い冷たさを与えてくれる。
平穏を噛み締める時間を与えてくれるような、そんな時間だった。
だが、そんな状況の中で、不意にラトは口を開かせる。
「ねぇ、神様」
「ん、何?」
「……神様は、何で地上に下りてきたの?」
「え? なんでって、どうし」
神はそう言って、口元を笑みに変えようとした。
しかし、視線をラトに向けた時、神は彼女が真剣にその問いの答えを聞こうとしていることに気づいた。
「……何で、かぁ」
「……………」
「…何でもなにも、そう難しい理由はないの。ただ、皆が幸せであってほしい。本当にその気持ちだけで、私は下りてきたの」
「幸せを…願って」
「ええ、幸せを。皆が笑顔でいられる。そのことだけを思って私は下りてきたの」
神は元々この地上にはいなかった。
空の上、誰の目にも映らない神聖な地に住んでいたという。
そして、いつも空の上から地上を観察し、人々が戦争を起こし、傷つけ合い、涙を流す。その光景をずっと見続けていた。
だが、ある時、彼女は思ってしまったのだ。
何故、私は傍観をし続けなければならない?
私が動くことで、それを止めることが出来るのではないか?
涙や悲しみ、大切な者達が傷つけあう、その現状を変えたい…、いや、変えてみせる。
本来望んではいけない、願望という心を神は持ってしまった。
そして、神はその現状たる世界を変えるべく、地上に下りてきてしまった。
「一緒にいた友達とは離れちゃったけど……、それでもなんの変哲もないこの今が、私にとって、何よりも望んだ幸せなことでもあるの。だから、大層な理由とかは、本当にないの」
「……………今が幸せ」
「うん」
神はそういって、満足した笑みを浮かべていた。
だがしかし、
「……神様の気持ちは…なんとなく、分かりました。…………でも」
どうしても、ラトにとって納得できないことが一つあった。
それは、神によって、幸せになった村の者達に対して、
「村に住む皆が皆、本当に幸せなんですか。戦争もなく、死ぬ人もいない。傷ついた子供を治してもらって、全てを神様に助けて貰って、そして、神様を拝む。そんな、決まったようにしか動かない、それが本当に幸せなことなんですか?」
「…………」
「神様が言いたいことはわかります。幸せじゃないから、さっきの子供も死ななければならない。そんな事は私も思っていないんです。でも」
人々にとっての、幸せとは何なのか?
神が言う幸せが、本当に正解なのか?
ラトには、その答えがどうしてもわからなかった。判断がつかなかった。ただ、それでも彼女には、一つ断言出来ることがあった。
それは、今ある現状において、
「私には、今の村が本当に幸せな場所だとは…到底思えないんです」
その言葉だけが、その周囲に酷く響き渡った。
神である彼女もまた、その言葉に対して、心の奥で引っかかる何かを感じずにいられなかった。
そして、数年という時間を待たずして、隠されていた現実が彼女たちに降り注がれることになろうとは……思いもしていなかった。
今まで平穏だった世界。
だが、その世界に住む人間たちの中に、突然と魔法使いという者達が現われ始めた。
そして、その存在によって、幸せと思われていた流れが激変する。
それはまさに残虐に等しい、魔法使いたちの暴走による一方的な虐殺が始まってしまったのだ。
悲鳴。
狂喜。
殺戮。
悲しみ。
苦しみ。
恨み。
絶望。
魔法を駆使する魔法使いたち。その戦いにおいて、力を持たない者達は、何も為す術を持ってはいなかった。
戦いは徐々に広がっていく。死にゆくものたちが着実と増えていく。そして、ついには神のいるとされた村にまで、その手が及び始めた。
「戦車っ!!」
神に力を授けられていたラトは、村の者達を守るべく、戦いに介入した。タロットという力を駆使して、魔法使いたちを追い返す。
神もまた自身の力を振い、魔法使いたちを追い返す。
そんな永遠に終わることのない、日々が長い間と続いていた。
だが、ある時。
悲劇は――――――起こってしまった。
ラトと神、二人が戦いによって引き離されたその瞬間を狙うように、村の者達が数十人と人質にされ、その脅しによって神である彼女は魔法使いたちに捕まってしまったのだ。
村の中央、巨大な魔法陣の中心に十字架に貼り付けられたように、拘束された神。
両四肢を魔法によって作り込まれた紐で縛られる。
眉間に皺を寄せながら、苦い表情を浮かべる彼女。
だが、その時だった。
「ついに…この時が来たか」
ゆっくりとした足取りでやってくる者。
神に話し掛ける者が姿を現わした。
魔法陣の手前に立つ、一人の魔法使い。皺のいった肌や、背の曲がった様子から、年老いた老人と思える。
だが、その瞳は未だ衰えず、飢えた獣のように神を見据えていた。
「ぉお、神よ。やっとそのお姿を拝見することができ、我は感激しておるぞ」
「っ! 貴方は、一体」
「ああ……そうですな、申し遅れた。我は後ろにつく魔法使いたちの長たる存在。そして、この世界に魔法を広めた存在」
その名は――――――
「我の名は『ダーバス』」
巨悪な笑みを浮かべ、男は笑った。
「ダーバス…っ…」
「あぁ、そうだ」
「……ッ、わ、私を捕まえて、どうするつもり? 神の私に勝てると、本当に思っているの?」
「いやいや、神に対し、我ら魔法使いとは言ってもたかが人間。勝てる見込みなどないに等しい」
そう、とダーバスは言葉を続けながら。
「今は」
次の瞬間。
彼女の足下に描かれていた魔法陣が赤黒い光を発光させる。
線から線へと繋がる光から、雷が漏れ出し、中心に立つ十字架へと集まり始める。
「この魔法陣は何も、神であるお前を倒すために書かせたものではない」
「な、にっ」
「これは、神の力。それをお前から分離させるものだ」
そして、その直後に、魔法が発動した。
中心から空へ登り詰めるように、雷が、彼女を貫き続け、激痛が襲い掛かる。
「っああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
雷に包まれる中、彼女の悲鳴だけが聞こえる。
だが、その雷の中に、別種の光が混ざり込んでいた。
それは、空に登り詰め、一定の距離に達したと同時に路線を切り換えるように外れ落ち、まるで流星のように跳んでいく。
いくつも数え切れないほどの光、いや…神の力が分離させられていく。
そして、それが起きたその一方で、
「何、あれっ……。ッ! 急いで、戦車!!」
魔法使いたちの残党を倒し終えた中、二つの顔を持つ獣に乗るラトが、遅れて少し離れた現場に辿りついた。
そして、その雷の中心にいる存在が誰であるのかを悟った。
「神様っ!!」
ラトは急いで神の元に向かおうとする。
だが、その道中で村の住人たちに遭遇した。皆魔法使いに襲われたにも関わらず、怪我は一つとしてない。荒い息を吐くラトは、大きな声で応援を頼もうとした。
「皆っ、神様が危ないの!! だから、一緒にっ」
「…………」
「たすけ…」
「…………」
違和感があった。
怪我もなく、誰一人として欠けていない。
それなのに、何故――――――逃げるようにして、村から背を向けている?
「ね、…ねぇ…なんで、皆、ここにいるの? なんで、神様を、助けようとしないの…?」
ラトがそう疑問を投げ掛ける。
だが、誰も答えようとせず、顔を背けるばかりだった。
「……な、なんで…」
重い沈黙が落ちる。
その中で、雷の音と神の悲鳴だけが聞こえる。
だが、そんな状況に陥っても尚、誰一人として動こうとしない。
そう―――――そこには、誰も神を助けようとする者はいなかったのだ。
ラトは、歯を噛みしめると同時に叫ぶ!
「今まで! ずっと守ってきてくれたじゃない! 助けてくれたじゃない!! それなのに、なんで誰一人として動こうしないの!! ねぇ、何でよ!!」
「…………………」
「ッ…もういいッ!!」
目の端に涙を溢しながら、ラトは獣に乗った状態で雷の中心、神の元へと走り出す。
背後に立つ住人たちに、苛立ちを覚えながらも、その思いを振り切り前へと進む。
オーバーヒートを起こしたように、雷が止んだ。
十字架に縛られていた彼女は体を脱力させながら、掠れた瞳をゆっくりと開かせる。
すると、その瞳に一つの存在。
獣に乗った、少女の姿が映った。
「神様ッ!!」
「ら……とっ…っき、きちゃ…だめっ」
小さく、その言葉を呟く神。
だが、それよりも早く、――――――侵入者に対する攻撃が開始される。
戦車と名付けられた獣の上に乗るラト、その彼女目掛けて火や水、雷の魔法が連射のようにして放た続ける。
「戦車!!」
ラトは戦車に叫び、回避を命ずる。
地面を蹴飛ばし、軽やかな動きで攻撃を回避していくが、それでも攻撃は一向に止もうとしない。
このままではやられる。そう感じたラトは腰のホルダーから二枚のカードを取り出し、その名を叫ぶ。
「魔術師!! 審判!!!」
その直後。左右に二体の存在が召還された。
一体目は左右白黒の仮面をした道化師、そして、もう一体は大きなラッパのような楽器を持つ鳥のような白い翼を生やした天使。
二体は同時に顔を上げたと同時に力を発揮し、魔術師が空に打ち上げた緋色の閃光弾に対し、審判は的確に物陰に隠れる魔法使いたちを補足して弾を誘導する。
強力な威力を持つ閃光が着実に魔法使いたちを倒していった。
だが、その中で。
自身の周囲に魔法防壁を張り、閃光の攻撃を防ぐダーバスが手を前へとかざす。
そして、
「こざかしい」
その次の瞬間だった。
地面から突き上がった光の槍が戦車を貫き、さらにはラトの脇腹を貫いた。
「っ、かッは!?」
「ッ!! ら……と…っ!!」
戦車や魔術師、審判と召還したそれぞれが実体を保ってず四散する中、地面に転がり落ちるラト。そして、そんな彼女に追撃しようと、魔法の攻撃がやってくる。
しかし、腰に入れられたカードがそれぞれ宙を浮いたと同時に、神とラトを含んだ周囲に円形のバリアを創り出し、攻撃を防いでいく。
「ラ…と! ラトッ!! しっかりして!!」
「………ぁ…っ」
脇腹から漏れる血が衣服を染めていき、地面をも染めていく。
神は涙を溜めながら、歯噛みし、力を込め拘束を破ろうとした。だが、さっきまでの雷によって力の大半が失われ思うように動けず、拘束を解く力を発揮することができない。
どうすれば?
どうすれば、ラトを助けることができる?
戸惑い切羽詰まった表情を見せる神。
だが、その時。その瞳を向けた先にいた、村から少し離れた場所で集まる住人たちを彼女は見つけることが出来た。
ここから言葉を叫んでも届かない。
なら、と考えた神は、そこにいた住人全員に向けて、思念を飛ばす。
『お願い!! 私はどうなってもいいからッ、ラトを助けて!! 皆!!』
それは必死な叫びだった。
自身を助けず、彼女だけを助けて欲しい。
ただ、それだけでいいと、彼女はそう思っていた。
そう――――――
住人たちが顔を背け、背を向けて、去って行くまでは。
「なっ…んで…。何でっ……何でッ!!!」
神は大きな声で叫び、何度も助けを請おうとした。腕に力を込め、縛られている箇所から血が滲み出そうとしていながら、叫び続けた。
だが、誰一人として、振り返る者はいなかった。
力だが抜け落ち、その現実に打ちのめされていく。だが、その時。地面に倒れるラトが、血を吐きながらも起き上がろうとしていた。
「ッ! 動いちゃだめ……やめて、ラ」
「動いちゃいますよ」
「!?」
強烈な痛みが全身を襲っているはずだった。
それなのに、ラトは顔を上げ、神を見つめながら笑い、口を開く。
「だって…っ…、私は…神様の事が、大好きなんですからッ………!」
「…………ラト…っ」
ラトは歯を噛みしめ、地面に描かれた魔法陣を、指でなぞろうとする。
だが、それに触れようとした直後。
雷が弾け、その侵入を拒絶する。
「…この魔法を…はぁ…はぁ…っ壊すことは、今の私には無理です…っね…」
「ぉ、お願い…ラト。私のことはいいから、逃げっ」
「でも、そんな私でも…出来ることが…ある」
「…ぇ」
そう言って、ラトが苦し紛れに懐から取り出したのは一枚のカード。
血で半分が染まったそのカードには帽子を被った少年が描き込まれている。
神は、そのカードの名を知っている。
「愚者のタロット…、」
はい…、と答えるラト。
だが、その直後、再び彼女は血を吐き出す。
「ラトッ!!」
「っぁ……この子には、まだ……意志はない。でも、他のタロットたちの力を…これに集中させれば、でき」
「ラト……何を、言ってる、の…?」
「聞いて……くださぃ、神様…」
ラトが見つけ出した、神を助ける方法。
この危機的状況を抜け出す、たった一つの道。
それは、
「今から、神様をこの世界から追い出します」
――――――ラトに残された、最後の手段だった。
「ッ…追い出す、って…」
「そして、こことは違う世界に、送りますっ…」
こことは違う世界。
それをするためには、莫大な力がいる。
一枚のカードで、それが出来るとは、到底思えない。それが当たり前だった。
だが、
「今の私の…全ての力と、タロット皆を使えば、…できます。だから、かみさまは」
「ぃゃ…いや…、嫌っ!!! そんな事をすれば、今守ってくれているカードの力が、ッ! ラトを置いて、そんなことできるわけが」
「でもッ!! このままだと、二人とも死んでしまいます!!」
「!?」
「神様が嫌なように………私だって、嫌なんですっ…」
ラトが思っていた事。
本当なら、そんなことを思ってはいけないことなのかもしれない。
ただ、それでも思ってしまう。
平穏な毎日の中、絶えず、話し合い、笑い合い、時には喧嘩もした。でもその毎日が欠けがえのないものだった。
その関係が、まるで……、
「神様が……うんん、お姉ちゃんみたいな、貴方がいなくなってしまうことが、私は嫌なんです」
ラトは使う。
最後の手段を。
この状況の中、彼女だけを助け出す、その手段を。
「愚者……おねがい」
次の瞬間。
神の体が光によって包み込まれる。
そして、その体が薄く、まるで初めから存在していなかったかのように、消えようとしていく。
「かみさま…人間を、嫌いにならないでください」
「ラト! ラトッ!!!」
「皆が同じじゃないんです。皆が冷たいわけじゃないんです。きっと、貴方を思ってくれる人が現われてくれる。だから、諦めないで、ください」
泣きながら、必死に自分の名前を叫ぶ彼女に…。
ラトは、
「そして、できるなら……私という人間がいたことを、覚えていて下さい」
笑顔を浮かばせながら、
「嫌…いや!! やめて!! お願いだから!!! ラトを、ラトを守ってよ!!! 」
「………大好きです、神様」
「らっ」
全てを、言い終えた。
それと同時に愚者のカードに力を全てが移された。
そして、その直後。バリアは消え、今まで防いでいた魔法の攻撃が、少女を襲った。
彼女の瞳に映る。
砂煙が舞う中、宙へと吹き飛ばされる一つの体。
それはボロボロになり、そして、容赦なく、削り取られ、焼き付くされ、貫きつくされ、…………そして、残ったものは、地面に散らばる力を失ったタロットカードだけだった。
「 ぁぁっ……ぁぁぁっ……ぅぅぅ…うぅああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」
神の、いや彼女の心はその瞬間……粉々に砕け散った。そうして、それと同時に神の力は行き場をなくしたようにして、その世界に解き放たれていった。
彼女から失った神の力。
強引に奪い取られた力は、称号へと姿を変えた。
彼女の涙によって、散りばめられた力は、セルバーストへと姿を変えた。
そして、神である彼女は―――――――アース・プリアスから姿を消し、違う世界へと送られていった。
それから何千年という時間が流れた。
全てに近い力を失った彼女は、見たことのない世界の中で、一言も喋ることをせず、ただ涙を流しながら、ボロクズのように大樹を背に預け、そこに居続けていた。
季節が何度と変わり、人々の容姿も時代に応じて変わっていった。しかし、その誰もが彼女の姿を目視することができなかった。
――――――彼女は、そこにいる。
――――――それなのに、その彼女の姿は誰の目にも映ることはなかった。
虚ろげな瞳を宿した彼女に、話し掛けてきた少女が現われるまでは。
「大丈夫ですか?」
神と呼ばれていた彼女は出会った……。
その少女は、短髪の髪をした中学生ぐらいの女の子……。
のちに『町早』という名字を持つことになる少女、由美留美織に……。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
今回、美野里のイラストだけを最初に載せてみましたが、また出来次第、ラトや他キャラのイラストなども挿絵としてのしていきたいと思ってます。
何千年経っていながらも存在していた、ダーバスという存在…
そして、神である彼女がどうやって町早美野里になったのか…
ご期待していただければ、幸いです。




