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異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫  作者: GORO
第三章 [交差する思い] memories is cross – 運命を覆せし者達
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幽玄の守り人・前




第八十一話 幽玄の守り人・前



ルーサーたちがいる美野里がいた世界と異なる世界、アース・プリアス。

そこに存在する四つの都市の一つ、魔法都市アルヴィアン・ウォーターには今もなお平穏な時間が流れていた。

そして、そんな都市の中央に建てられた女王の住むルーシュ宮殿の中で、雪先沙織は今もまだ体を思うように動かせない状態で、ベッドの上に横たわっていた。


「……………」


彼女の体に包帯といった処置が行われているわけでもなく、またダーバスとの戦いで重傷等といった外傷を受けたわけでもない。

原因は、彼女自身が使用する魔法。

人間では出し得ることのできない強大な魔力を発揮させた演劇魔法リミットクロスオーバーによるものだった。



強大な力は、諸刃の剣となるという言葉がある。

だが、そういう例は何も特別少ないわけでもない。彼女が使用していた魔法もまた、同じ一面を持っていたのだ。


(……代償は……やっぱり大きい…か………)


雪先は自分の状態を確かめ、溜め息を吐く。

そして、彼女は再度と思い出す。


演劇魔法、二つの演劇を同時に使用させるリミットクロスオーバー。

その力には本来、リミットは存在していなかった―――――


「……………」


リミットを越える事によって発揮される力は壮絶なものだ。

龍人と化したダーバスに最後の一撃を叩きつけた、あの一撃は雪先にとって最強とも言える一撃だった。

だが、その結果。

自身に戻ってきた代償もまた、強大なものになってしまった。


「っ…」


あの技自体は本来、予期せぬ状況で生まれたものだった。

そして、雪先が最大限にその力をコントロールするために後から備え付けられた特別な力。

それが演劇魔法、リミットクロスオーバーであり、また三分という時間で発動を終えなくてはならなかった。

だが、数秒という時間越えをしてしまっただけで彼女の体は自由に動かず、魔力を練ることも、まして力を込めることもできなくなってしまった。


「…………」


意識は何とか回復できた。

だが、あれから数日が経つというのに未だ体を一つも起き上がらせることができない。

予測では、完全回復にかなりの長い時間が要すると思われる。

ただ、正確な時間までは雪先としても分からない。

………自業自得だよね、と呟く雪先は大きな息を漏らし、雪先は視線を前へと動かす。

そして、そこにあった――――


「…………」


―――――茜色の紐。

今まで彼女の髪を結んでいたはずだった、その髪留めは外され、丁寧に纏められながら、彼女の顔のすぐ横に置かれている。

それは、共にこの世界にやってきた焔月火鷹の頼みもあって、宮殿の世話係の者達が側に置いてくれた物だった。


「……っ」


そして、雪先は…。

その髪止めの紐を見つめ……寂しげな表情を浮かべる。

それは彼女にとってはなくてはならない大切なものであり、決して離すことのない大切な贈り物だった。

そして……今でも、思い出す。

あの時、あの場で、あの状況で―――――――――笑顔と共に渡された、大切な物。


「……ルトワ…っ」


目尻に熱が込み上げ、視界が水滴で揺らぐ。

どうしても、あの時のことを思い出すだけで雪先は………泣いてしまう。

だけど、それも後少しで終わる………、そう――――



「…待ってて、ルトワ。ぅっ……ぁと…もうちょっと、だから………もぅ…すぐだから…ぅ」



子供のように涙を溢しながら、雪先はそう口にして…泣き続けた。

嗚咽の声が止まらず部屋の外にまで聞こえ続ける。

誰にも止められない、悲しみの涙が流れ続ける。


「………………」


締められた部屋の扉。

その直ぐ近くで壁に背をつける火鷹は、そんな彼女の声を静かに耳にしていた。

そして、肩に乗るフラルの頭をそっと撫でながら、彼は無言でその場を後にする。


共に来た二人の双対。

彼らの願いはまだ―――――――――――――――――――全てが、叶えられたわけではない。








家から逃げ出すように出て行った美野里はこの世界で働いていた店に足を踏み入れ、仕事に取りかかった。

そして、その早朝から時間が過ぎた、昼頃。

この時間になると飲食を営む店などは大抵、やたらと忙しい時間帯となる。


「町早、次これ二番まで頼んだ」

「はい!」

「町早さん、三番のお客さんから呼び出し」

「行きます!」

「町早、注文の品は!」

「五番のお客さん、Aランチ1とBランチ3です」


各県に何店舗とある飲食のチェーン店。

そこでフリーターとして働く美野里は、久々の仕事もあって最初は戸惑ったりもしたが次第に落ち着きを取り戻し、普段通りの仕事が出来るようにまで感覚を取り戻していた。

向こうの世界で一人、店を切り盛りしていた経験もあって、テキパキとした動きで着々と働いている。

――――のだが、その周囲にいるスタッフの間では、


「な……なぁ、町早ってあんなに動けたっけ?」

「いやいや……。いつもどっか抜けてる所とかあったから……ってか、何か今日凄く仕事がやりやすいんだけど…」

「あ、それわかる。というよりも、町早がさっきから人一倍に動いてるからだと思うんだけど」

「ああ、なるほど」


普段の仕事風景を知っていることもあって、美野里の働く姿に驚きつつも感心した様子のスタッフたち。

確かに、言われている者にしては、嬉しいといえば嬉しいのだが……、


(あの……仕事中なんだけど…)


美野里は頬をひきつらせながらも、黙々と仕事を続けている。

ほんのり頬が赤くなってたりもするが、それでも動きを遅らせることはせず決められた仕事をこなしていく。

そして、美野里は働く中で、昔なら見えていなかった仕事の流れ、ロスとなっている部分などが色々と見え始めてきた。

ここをこうすれば…とか。

あれは、…二度手間では? など。

そうして、一息つく美野里は思う。


(まぁ、久々の仕事もしんどいけど…………うん…楽しいかも)


端から言うと、それは仕事病なのでは? といわれるかもしれないが。……美野里は平常運転で仕事を頑張っていた。








日差しが隠れる校舎裏で向かい合う、ルーサーと結納。

周囲にはただならぬ険悪した空気が漂う一方、無情にも蝉の鳴き声が続く。

ルーサーは瞳を動かし、瞬殺で地面に転がせた三人組の男子たちを見下ろしながら、もう一度視線を結納へと戻す。


「こんな素人をぶつけて、お前…何が目的だ?」

「何、ちょっと試させてもらったんだ。君の力をね」


そう言って笑う結納にルーサーは瞳を細める。

本来なら、この場面で殺気の一つでも飛ばせばそれで相手は怖じ気つき戦いは終わる、そんな簡単な現状だった。

だが、ルーサーは、この世界の住人が生死を分けた戦いに身を投じている者達ではないことを既に図書館に眠っていた資料(本の山)によって知っていた。

そして、結納という人間を見てもなお、ルーサーの瞳には彼の姿が戦うに値しない素人にしか見えていなかった。

だが、そんな敵とすら認識されていない視線に対し、彼は―――


「それにしても…………僕もまた随分と、甘く見られているようだね」


結納は瞬時にその意中を見抜いていた。

彼が言ったその言葉に怪訝な表情を見せるルーサー。

だが、そんなルーサーを気にするまでもなく、結納は手に持つ二本の内の一本、同サイズの竹刀を持ち上げ、高く宙へと放り投げる。

くるくる、と回る竹刀は上空で円を描き、目の前に立つもう剣士の頭上へと落ちていき、ルーサーは頭上に来る竹刀を難なくと掴み取った。


「汚い手を使ったことに関しては悪かった。だけど、ここからは小細工なしの一本勝負だ。どうだい、受けてくれるかな?」

「…………」


ルーサーは手に取った竹刀を見つめ、その形状を確かめる。

鉄と違い、竹で出来たそれは軽い武器だった。皮で覆われた柄部分の汚れを見る限り、汗水によって出来た黒い染みは二つの箇所だけにつき、何度もその武器が練習として使われていたことを察することが出来る。

ルーサーは、基本ハンマーを主体とした武器を使用してはいるが、本場の職は刀を作る鍛冶師だ。

例え、鉄でない竹で作られた武器であろうと、その各部位の状態を見ることで、使い手の力量は計ることが出来る。


「……俺と剣でやり合うつもりか?」

「……ああ」


この剣の持ち主が、結納なのかはわからない。

だが、その散臭い笑みを浮かべる結納に対し、ルーサーは大きく息を吐き、逃げることなく目の前に竹刀を構える。

そして、ルーサーは言った。



「だったら最初からまどろっこしいことしないで、正面から来いよ」



その言葉に、再び笑みを浮かべる結納。

その笑みに、眉間を皺寄せするルーサー。

二人の間に重い沈黙が漂い、その中で唯一足を擦る音だけが聞こえ、その手にもつ武器の柄を両者力強く握り締めた。

そして、一呼吸をおいた。

その、次の瞬間。


「「ッツ!!」」


両者飛び出すと同時に、刀と刀がぶつかり合う。

竹と竹が共に音を鳴らし、しなりながら退きは離れては、再びせめぎ合う。

ルーサーは真横から振り放つに対し、結納は軽やかに体勢を移動させ、唾上で刀を受け止め、受け流しながら反撃に出る。

構えを中段から上段へと瞬時に入れ替え、真上からの連続の切り返しを放つ。


「ッツ!?」


素早い剣捌きだ。

ルーサーは構えのなっていない体勢から剣を受け止め続け、勢いに負け後ろに下がる一方となる。軽い攻撃なら、受け止めからの突き返しという手もある。

だが、目の前からくる剣戟は一つ一つが重く、さらに強い。

並みの剣士ではない、と自身の予測の間違いを理解するルーサー。だが、例えそうだとしても、このまま負けるつもりは毛頭もない。

歯を噛みしめ力を籠める。そして、体がしゃがみ込みそうになりながらも切り返しを突き放し、鍔迫り合いへと強引に引き戻した。

唾同士のかち合う音が鳴る中、真剣な表情のルーサーに対し、結納は不敵な笑みを浮かべながらその口を開く。


「どうやらこういうぶつかり合いは不得意なようだねッ!」

「ッツ!! …それが何だってんだッ!!」

「いや、何! こちらとしてはちょっと対等じゃないかなって思ってねッ!」


パシンっと音が鳴り響き、共に距離を取り合うルーサーと結納。

ルーサーは竹刀を横に構え、走り出す構えを作る。対する結納は中段に竹刀を構え直し、呼吸を意識させながら前を見据える。

短い静寂の中、夏の風が両者の間を通り抜ける。

蝉の鳴く声。熱い日差し。

額に汗が滲み出る中で、微かに竹刀を握りしめる音が聞こえた。

そして、その直後で彼らは動く。


「「ッ!!!」」


共に地面を蹴飛ばし突き進み、その手にある竹刀がどちらも振り上げられようとした。

その次の瞬間、




「はい、ストップッツ!!!!」




ジャァ~~~~~~~ン!!!!!!! という強烈なインパクト音が校舎裏に大きく、響き渡る。

あまりに音に二人が動きを止め、顔をしかめる中、そんな彼らの中心へと歩いてくる者がいた。

それは、今ついさっき、演奏学部からシンバルを借りてきた町早美咲の姿だった。

そして、返答の有無もなく彼女は告げる。


「二人とも、正座!!」


こうして、姉譲りの説教が始まった。





校舎裏で両者正座をさせられ、早三十分。

何故かルーサーも巻き込まれている中、美咲は先輩である剣道部主将の結納を睨みつけていた。

そして、事の発端を聞き、溜め息を漏らす美咲は疲れたような表情で口を開く。


「結納先輩、またですか?」

「あはは……」

「何度同じをすれば気が済むんですか! この前だって他校の学生に喧嘩ふっかけて、色々と問題になったじゃないですか!!」

「いやー、あれはもう解決したし」

「ええ、ええ、そうですね。…………金の力で無理矢理、解決させてましたもんね?」


どうやら、この結納という少年の奇行は今に始まったものではないらしい。

剣道部主将であり、また金持ちもお子さん。しかもタチが悪いことにそのイケメン面からは想像できないほどに、何度も問題を起こす問題児なのだ。

叱られてなお笑顔を崩さない結納に対し、美咲はもう何度になるか分からない溜め息を漏らす。

そして、視線をルーサーへと移し、美咲は頭を下げた。


「ごめんなさい、ルーサー。この人、見た目が強そうな人を見ると毎回のように喧嘩ふっかけては勝負を挑む変な趣味があるって……しかも、タチの悪いことに部員がやられた仕返しとか何とか色々難癖付けてやるから、本当にタチが悪いのよ」

「あはははっ…いやぁ、わるいねぇー。でも、君とのやり合いは楽しかったし」

「先輩っ!!」


分からず屋の結納にマジギレで怒る美咲。

一見険悪にも見える二人だが、その光景はどこか仲良さげな雰囲気があり、今まで漂っていた不穏な空気はいつの間にか一蹴されていた。

平穏な世界であるからこそ、成り立つ穏やかな光景なのかも知れないが…。

だが、その光景にはルーサーの瞳の中で、あるものと被るものがあった。

それはかつて存在していた、二人の関係。

喫茶店という場所の中で、笑ったり喧嘩したりを繰り返す、美野里とルーサー。そして、そんな二人の騒ぎ合いを見て笑う客たち。

平穏があった、あの頃を見ているような……、そんな気持ちに…、


「…どうしたの、ルーサー?」

「あ、……いや…なんでもない」

「?」


どこかおかしげな様子のルーサーに首を傾げる美咲。

とはいえ、何とかここでの騒動は止めることが出来た。美咲は楽器を吹奏楽に返すべく、茫然とするルーサーの手を引きながら、この場を後にしようとする。


「あ、先輩。…とりあえず、今日の件に関してはまた後日、説教しますから」

「えー嫌だなー」

「嫌でもやります! まったく、ほら行こうルーサー」


そういって離れていく美咲とルーサー。

一瞬、引っ張られるルーサーと目が合うも直ぐに反らされ、二人はその場から去ってしまう。

結納は笑顔を浮かべつつ溜め息をつき、校舎壁に掛けていた二つの竹刀を手に取り、数分前にここでやり合った戦いを思い出す。


「うーん、それにしても変わった戦い方をする奴だったな」


そう言って、笑う結納。

だが、その次に出てきた言葉は同時に―――――



「まぁ、…アイツと同じような戦い方だったから、そう驚きはしなかったかな…」



新たな謎を生んだ。

結納は雲一つない青空を見上げ、不適な笑みを浮かべる。

そして、こう呟くのだった。



「そろそろ来るかな、アイツ」







電車内。

都会から離れていることもあって車内にはあまり乗客がいない。

そんな中で一人の少女は席に座り、携帯を弄っていた。

真横にゴルフで使われているようなクラブケースを置き、茶色のマリンキャップに刺繍して取り付けたようなペケ印の入った黒丸をつけ、まるで垂れた兎耳のような左右に伸びた黒髪が特徴的な少女は、


「へ………へくちゅん!?」


可愛らしい声でクシャミをして、首を傾げていた。





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