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異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫  作者: GORO
第三章 [交差する思い] memories is cross – 運命を覆せし者達
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予兆の平穏



第八十話 予兆の平穏



現在とは違う、過去の異世界へと飛ばされたルーサー。

だが、その介入は彼一人だけではなかった。異世界へと足を踏み入れたのは美野里だけではない。他にもう一人いたのだ。

夜の街、人の行き交いのない住宅街の通りを歩くローブ姿の男。周囲の目を欺かせるような暗闇に紛れる黒色の衣服を纏い、静かな足取りで歩を進めていく。

その男はこの世界の住人ではない。ルーサーたちのいる世界の住人であり、また禁忌の魔法使いダーバスが仕向けた刺客の一人だった。

彼の目的は、ルーサーの動向を探ること。

魔法都市アルヴィアン・ウォーターの女王であるレルティアが彼をその世界へと飛ばした、その真意を確かめることが彼に課せられた命令だった。

そして、男は姿を隠し、今まで見たことのない世界を目の当たりにしていた。その中で、彼は見つけてしまった。

ダーバスが最重要人物として探し続けていた、シンクロアーツ。町早美野里という存在がこの世界にあるということに。


(直ぐに帰って、あの方に伝えなくては…)


本来の目的とは別に、有益な情報が手に入った。

男は今すぐにでも元の世界に帰るべく、向こうの世界へと繋がる出口。ダーバスの元へと戻ろうとしていた。

人のいない、真夜中に支配された道を進みながら…。

だが、そんな男の視界に突如として…



「もう帰っちゃうの、お兄さん?」



それは突然だった。

何もない道の中央で、白い光と共に一人の白髪の少女が姿を現わした。

その出現に前置きはなく、武装もしていないその少女の周囲からは一切の魔力といった力は感知出来ない。だが、そこにいるだけで恐怖を感じずにはいられなかった。

震える体を堪えながら、男は声を上げて反撃の魔法を使おうとした。

だが、その一連の動きすら、


「沈め」


白髪の少女、ラトゥルは許さなかった。

鈍器で殴られた音と共に、地面に全身を叩きつけられた男の口から短い悲鳴が上がる。口内から血を吐き、メキメキと全身の骨もまた悲鳴を上げた。

真上からのし掛かる未知の重圧に息苦しい声を漏らす男。

対するラトゥルはそんな男の目の前でしゃがみ込むと、無邪気な笑顔を浮かばせる。

たったそれだけのことだった。

だが、その瞬間。

更に追い打ちを掛けるように、重圧は積み重なり男の全てが悲鳴を轟かす。

荒い息を吐き、涙を溢す、男の精神は既に恐怖に汚染され全身は脂汗で包まれていた。

そして、そんな男を平然と見つめるラトゥルは顔をゆっくりと近づかせながら、その耳元で囁く。


「大丈夫だよ、直ぐに殺したりはしないから」

「ッ…!!」

「ただ、お兄さんが私のお願いを聞いてくれるんだったら、特別見逃してあげる」


そう言って顔を離し、もう一度笑うラトゥル。

それは決定事項であり、男の有無を聞くまでもなかった。ラトゥルがその言葉をいうのは、全ては友のため…。


「シクアのために、協力してね。そして、……あの龍を殺すためにも」





時間が経ち、季節に応じた早い時間に朝日が昇る。

そんな中、町早家にて。


「…………」


暑苦しさで早起きをしてしまった美咲は大きな欠伸を出しながら、布団から体を起こし、ウトウトとしながら手洗いに行こうかと階段を下りてリビングにまで来た。

と、……そこまでは覚えていた。


「…………」


町早美咲は今、間抜けな表情を浮かべながら口をあんぐりと開けている。

そして、顔を引きつらせるそんな彼女の視線の先には、


「あ、おはよう。美咲」


朝食とは思えないほどに、リビングのテーブル上にずらりと並べられた朝食の数々。その量は下手をすれば朝昼夕を賄えるほどの品々が並べられたお皿にギッシリと載せられている。

さらに言えば、それほどの量を作っているにも関わらずキッチン前に立つエプロン姿の少女、町早美野里は今もまた新しい料理を作ろうか悩んでいる最中だ。

おかしい…いつもの姉と、何かが違う!?

不安感MAXの美咲をよそに、美野里は背後から来る視線に気づき、首を傾げる。


「ん、どうしたの?」

「いや…それはこっちのセリフだし…………っていうか、この量は何なの?」

「え、何なのって、…………………朝食だけど」

「朝食の量じゃないし!! こんなの朝だけで食べれるわけがないでしょう!?」


その種類は定番の目玉焼きやらサンドイッチ、サラダに野菜の炒め物と、言わばエクセトラ。

妹の強い批判の声に対し、美野里は小さく唸り声を漏らしながら、


「…………ちょっと、配分間違えちゃったかな?」

「どう考えても間違えすぎだし……ってか作りすぎなのよ! 後、今何時だと思ってるの!?」


そう言って、美咲が指さした先には丸い時計台が置かれ、その時刻は朝の五時。

しかも、美野里が飲食店への仕事に行くとしても、家を出るまでにはまだ二時間ほど余裕がある。

いつもなら時間一杯まで寝ているか、先に起きてテレビを見ているかのどちらか、なのだが何故か今日に限って、朝にも関わらず姉は面倒な料理をしまくっている。


(おかしい……)


苦笑いを浮かべながら謝る美野里を見つめる美咲は眉間に皺を寄せ、じっとその顔を見続ける。そして同時に、何故姉がこんな事をし始めたのかと考える中、ふと一人の少年の顔が浮かんだ。


「お姉ちゃん」

「な、なに」

「…ルーサーと、何かあった?」

「!?」


明らかに反応はあった。

美咲の口から出た言葉に対し、美野里の顔が一瞬曇りの影を見せる。

お…お姉ちゃん? と美咲はもう一度そう聞き返そうとするが、


「う…ううん……何にもないわよ」

「…本当に?」

「うん……あ! それより、なんだけど。もし、ルーサーが何か聞いてくることがあったら色々と教えてあげて。多分気になることとか聞いてくると思うから」

「え、う、うん……それは別にいいけど…」

「ありがとう。……そ、それじゃあ私、先に出るから!」

「えっ、出るってちょっと早すぎじゃ」

「後はお願いね、美咲!」


そう言って美野里はエプロンを椅子に掛け、逃げるように家を出て行った。

数秒もかからずして、玄関の鍵締めをテキパキとこなしてからの逃走。それはまさに、見事な逃げっぷりだった。

そして、リビングに残された美咲はというと、


「お姉ちゃん……これ、どうしたらいいわけ…」


ずらりと並んだ数々の品々。

テーブルの上に残された料理の山に美咲は、ただただ引きつった笑みを浮かべるしか出来なかった。





早朝の外は少し肌寒い。

荒い息を吐きながら、逃げるように家を飛び出してしまった美野里はゆっくりと速度を落としながら、その足を止めた。

そして、両膝に手を着かせながら、


「……何やってるんだろう…私…」


どうにもならない感情に揺れ動かされながら…。

美野里は誰にも聞かれない、その言葉を静かに呟いていた。





時間は経ち、夏休み突入の十時頃。

美咲は自身が通う学校の図書館に立ち寄り、指をさしながら忠告をする。


「いい、こっちの用事が終わるまで、ここで待っててよね」

「ああ、何回も言わなくてもわかったって」


図書室の椅子に腰掛けるルーサーはゲンナリとした様子を浮かばせているが、図書内には夏休みだというのに勉学に勤しむ者や、はたまた課題をこなすための資料探しをするために来た生徒たちが数人といる。

だが、そんな中でもお構いなしに美咲はもう一度、大きな声で忠告する。


「冗談じゃなくて、本当にだから。もしいなかったら、そのまま帰るからね」

「……もうわかったから。ここから動かないって」


その後に何度かと口論は続き、やっとのことで美咲は図書室を出て行った。

確かに朝食の後、彼女に捜し物をしたいから色々な資料が置いてあるところに案内してくれないかと頼んだルーサーなのだが、正直捜し物をする前にドッと疲れてしまう。

溜め息を吐くルーサーはしばらく天井を見つめつつも、もう一呼吸を入れて気を取り直す。

そして、視線の先に広がる、この世界の情報が多く詰まった本棚たちを見据えて、


「よし…いくか」


ルーサーは席を立ち、情報収集に足を動かしていく。

この世界の事をもっと知りたい。色々な事を……彼女がいた、その世界の事を……





「それで? あれ、彼氏?」

「ち、違う!!」


現在、イラスト部の教室へ行った美咲は琴花にからかわれている。

しかも、しつこいのだ。

琴花に言われた放題の中、周囲にいた女子生徒達もまたルーサーの存在に気になっているようだ。

不細工でもなく、顔立ちは良い。そのためか。

格好いい…だの、イケメンだったよね…だの、と色々だ。


(まぁ、確かに格好いいといえば格好いいんだけど…何でこうなるかなぁ―…)


内心でぼやく美咲。

だが、そんな彼女をよそに、部室ないにいる者達の中ではルーサーは、美咲の彼氏だと認識が進みつつあった。

というのも夏休みという期間の中で、学校の生徒でない年上の男と一緒に登校してきたのだ。

端から見て、誤解されても仕方がないシチュエーションだ。

それと。

吐け吐け、と言い寄る琴鼻にいい加減キレそうになってきた。

眉間に皺を寄せ、美咲は大きな声を上げそうになった。

だが、その時だった。


「町早」


背後から突然、美咲に声が掛けられる。

美咲が振り向くとそこには剣道着に身を包んだ一人の男子生徒が教室の入り口に立っていた。

だが、彼女にとってそんな彼は見ず知らずの男子ではなかった。


「結納先輩?」


その男子生徒の名前は、結納香月(ゆのうかつき)

美咲よりも一年上先輩であり、その容姿から分かるに彼は剣道部の部長でもある。だが、まだこの時間だと部活の練習をしているはずなのだが、それが何故今この場にいるのかと美咲は疑問に思い、小走りで結納に駆け寄った。


「先輩、どうしたんですか?」

「ああ、いや……ちょっと、気になることを聞いてね」

「気になること?」

「えー……と」


結納は気まずそうに頬をかきながら、


「町早が…、彼氏を連れてきたって」

「ブッ!? 違いますっ!!」


またかー!! と頭を悩ます美咲。

だが、対する結納はというと、彼女の言葉を聞いた後で顎に手をあてながら、


「(そうか…なら、別に構わないか…)」

「え?」

「あ、いや、なんでもないよ」


小声で何かを呟き、何もないように笑顔を見せる結納。

美咲はその時、一瞬妙な不安感を抱いてしまった。何故、そんな事を思ってしまったのかは分からずに…。

そして、美咲と結納が話し合っていた同時刻。

図書室のテーブルに山積みにされた本たち。その手前で読書に没頭するルーサーの背後に、剣道着を着た三人組の男子達が近寄ってくる。


「おい、お前」

「…………あ?」

「ちょっと、面貸せ」


図書室に漂う険悪な空気。

そんな中で、ルーサーはその瞳を細め、静かに椅子から立ち上がり、彼らの後に続くように図書室を出て行った。




「はぁっはぁっ、はぁっ!」


結納と少し話した後、美咲は部活も早めに終わらせ急いで図書室に向かっていた。

琴花から再度、からかわれもしたが、それよりも気になることがあった。

それは結納と話していた時に感じた、嫌な予感について……。

肩を上下に動かしながら息を吐く美咲はやっとの思いで図書室の前まで来た。

そして、そのドアに手を置き、それを開いた。

その先には、


「……えっ…」


ルーサーの姿はなかった。

ただテーブルの上には山積みにされた本だけが残されていた。




人が来ない校舎裏で、ルーサーは三人組の男子達を前に立っていた。蝉の鳴き声が聞こえ、夏の日差しを遮るその場所にはどこか涼しげな空気が流れていた。

そんな中でルーサーは大きな溜め息を漏らし、


「で、ここでどうするつもりなんだ?」


そう言って振り返った先で、竹刀を構える男子達の姿があった。

その誰もが好戦的な視線を向けている。武器も持っていない者に対して、数に加えて武器を向けられるというのは、余りにも劣勢な状況である。

ただし…………それが普通の人であればだ。




「……まったく」


ホコリを払うように両手をはたき、溜め息を吐くルーサー。

そんな彼の直ぐ側には目を回して倒れる三人の男子たちの姿がある。アゴ、首筋、溝の急所を一殴りして瞬殺で気絶させたのだ。

素人のくせに…、と呟くルーサーはもう一度、溜め息を吐く。

そして、


「いつまでそこで隠れてるんだ、出てこいよ」


校舎の角、その裏で隠れていた者に対しそう言葉を吐くルーサー。一瞬沈黙がその場に落ちる中、小さな笑い声と共にゆっくりとした足音が聞こえてきた。

そして、その校舎裏から出てきたのは、



「いやぁ…、本当にお見事だね」



数分前まで美咲と会話をしていた結納香月。

その手には二本の竹刀が握られ、その目は挑戦的な色を含んでいた。





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