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異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫  作者: GORO
第三章 [交差する思い] memories is cross – 運命を覆せし者達
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再会




第七十八話 再会



そこは、世界全てが暗闇だった。

人や建物といったものがない。そこは、しっかりとした足場すらあるのか分からない道の空間だった。

そして、そんな現状の中で町早美野里は一人歩く。

道しるべがあるわけでもなく、ただ真っ直ぐと前を見据え歩き続けていた。

戸惑った様子も見せず、まるで何かを探しているかのように美野里は視線を巡らせていた。



すると、その時。

彼女の目の前に、突然と光が現われる。

まるで暗闇の中から姿を見せる蛍のように――――美野里の視界に、暗闇と反転したような光を纏った一人の少女が立っていた。


白いワンピース姿に加え、純白の煌めいた長い髪を持ち、前髪の隙間から見える二つの瞳には神秘的な色が秘めている。

白い髪を揺らさせる少女は、瞳を細めながら視線の先に立つ美野里の姿をじっと見つめた。

その黒く変色した長髪に加え、黒色の左目と相反するように光を灯す右目。

そして、なによりその中で圧倒的な存在感があったのが、蛍火のような粒子を漏らす右腕だった。

じっくりと美野里の姿を確かめた少女は乾いた息を吐きながら、その閉ざしていた口を開き、言葉を投げ掛ける。

それは、記憶の中にある姿とは違う……別人のような醜い姿に成り果てた彼女に対して、



「随分と様変わりしちゃったんだね。……シクア」



少女が口にした言葉、シクア。

またの名を――――シンクロアーツ。

その言葉は、衝光、力の原初と呼ばれた町早美野里の真名であり、また対する彼女も目の前に立つ少女を向けて、囁くように言葉を発した。



「久しぶりね、………ラトゥル」



時間と世界を越えた精神だけの世界。

そんな場所の中で今、彼女たちはこうして出会い、再会を果たした―――






逃げた。

それも全速力でだ。

あの後、信号前での騒ぎもあって注目の的になってしまった美咲とルーサーは今、近くの公園広場に逃げ込む形でやって来ている。

とはいえ実際は美咲が手を引っ張る形でルーサーを連れてきたのだが、当の本人にいたっては特段気にしてもいない様子だ。

だが、美咲にとっては違うわけであり、手を取り合って見つめ合っていたという事実だけで恥ずかしさMAXなほどに頭の中がパンクしそうになるぐらいだった。



そういう事もあって、現在。

また見知らぬ場所にまた来てしまったルーサーは青いベンチに腰を下ろし、呆然と目の前に広がる公園を眺めている。

空は夕暮れに差し掛かっていることもあって、この時間帯にもなると人の集まりはほぼゼロに近く、誰にも使われていない遊具の周囲には、どこか寂しげな空気が漂っていた。

と、そんなルーサーの目の前に一つの人影がゆっくりとした足取りでやってくる。それは今し方、近くに設置されていた自動販売機から二人分の飲み物を買ってきた美咲だ。


「はい、どうぞ」


美咲はルーサーにその内の一本を手渡し、自身の飲み物を片手にベンチ片方。その空いているスペースにゆっくりと腰を下ろす。


「よっと」


パカッ! と缶ジュースのフタを開けた美咲は、ゴクリとその缶の中身をひと飲みする。

缶の表面にはオレンジジュースという名がカタカナで書かれており、甘い+僅かに酸っぱさといった味が口の中にじんわりと広がっていく感覚があった。

くぅ~、と美咲は声を唸らせ、乾いていた喉を潤わせていく。

その一方で、その隣に座るルーサーもまた視線を手元に移し、まじまじと缶ジョースに外見を見つめていた。

そして、手をこまねきながらも何とかして飲み口のフタを開けようと努力するのだが……。

スカッスカッ、と。


「…………」


一向に、思うようにフタが開かない。

聞こえてくるのは、指とフタとの間から聞こえる、掠れた音のみだ。

徐々にルーサーの眉間に顰がより始める。その時、そんな隣の様子に気づいた美咲が、苦笑いを浮かべながらふと声を掛けてきた。


「ね、ねぇ? ……もしかして、開けられないとか…」

「…………」


こちらに視線を返さない彼に思わず、吹き出しそうになる美咲。たが、対するルーサーはというと、むっ…、と顔を顰めている。


「ごめんごめんって。……っふふ」

「……………」

「っ…ほ、ほら、いいからそれ貸して。代わりに開けてあげるから」


ルーサーから缶ジュースを受け取った美咲はしごく簡単に、パカッと缶の飲み口を開ける。

というか開けられた。

……あれだけ手をこまねいていたのが馬鹿らしくなってくる。

自身の不器用さにルーサーは眉間に皺を溜めながらも、渋々返されたジュースを受け取った。


「…悪い、助かった」


そう言い終わったルーサーはもう一度、手に持った缶ジュースを睨みつける。

ここまで苦労させて、美味しくないってことはないだろうな…、と思いながら…。

ルーサーは、いぶかしげな表情を浮かべつつ、さっきまで美咲がやっていた動作を真似るように一気にその中身を喉奥へと流し込んだ。

そして、その瞬間。

じんわりとした甘酸っぱい味が口の中一杯に広がっていき、


(初めての味だ…)


驚いた表情で手元にある缶を見つめるルーサー。

対する美咲は、そんな彼の表情に内心ほっとしながら、その後に続くようにその口から小さな唸り声を漏らし、


「…でも、缶ジュースの開け方もわからないって変じゃない? いつの時代の人よって話だし……。ねぇ、貴方ってやっぱり外国の人なの?」


美咲は純粋な疑問を投げ掛ける。

外国? とルーサーが怪訝そうな声を出しているが、


「うん。だって目の色とか…」


そう呟きながら、美咲はじ~っとルーサーの深紅の瞳を見つめる。

対するルーサーもまた同じように、前髪の奥から見える美咲の瞳を見つめていた。


「「…………」」


共に視線が重なり合う形でその場に沈黙が落ちる。

だが先に音を上げたのは美咲だった。次第に頬に熱が溜り、バッと顔を反らして頬の赤みを隠そうとする。


「それにしてもっ、ほ、本当に熱いわねっ!?」


そして、バレないように火照った顔を手で仰ぎながら声を早める美咲に、首を傾げるルーサーは、もう一度周囲を見渡しながら、ぼそりと言葉を溢した。


「外国って言葉はわからねぇけど……。ここはどう見ても、インデールやアルヴィアンとは違う場所みたいだな」

「インデール? アルヴィアン?」


聞いたことのない言葉に首を傾げる美咲。

その一方で、ルーサーはあることを思い出したように、その場から立ち上がり、


「そういえば、まだ俺の名前を言ってなかったな」


ベンチに座る美咲に振り返りながら、彼は言った。


「俺の名前はルーサーだ。…それで、お前の名前はなんて言うんだ?」


不躾な言い方だったかもしれない。

だが、風にそよぐ前髪の奥から見えるルーサーの瞳を真上から受ける美咲にとっては気にも止まらず、その頬に再び熱が込み上げていく感覚があった。

しばらく、と惚けていた美咲だったが、数秒して自身の名前を尋ねられていたことに気づき、慌てて言葉が続ける。


「み、みみ、美咲ですっ!? って、え、ルーサー? それって名前なの? それとも名字?」

「ん?」


一人アタフタする美咲にルーサーは眉を潜ませ、美咲はというと自身に向けられる視線に戸惑い、急ぎ話題を変えようとしていた。

だが、その時だった。

公園内に一際強い風が入り込み、ルーサーたちの隣を、音を上げて通り過ぎていった。

ただそこで美咲の鼻が、ある異臭に気づく。


「ッぅ!? なにコレっ、って貴方っ…ちょっと臭くなっ」

「ああ、これか。…さっき、そこの池に落ちて」

「はぁッ!? お、落ちた!? ってそれってまさかッ!」


その驚きの発言に美咲は思わず、視線をルーサーが落ちたと思われる池のある方角へと向けてしまう。

そして、ルーサーもまた同意するように、


「ああ、多分お前が思ってる所で、合ってると」

「合ってるじゃないのよっ! あ、貴方っ、あそこは立ち入り禁止の古墳だって分かってるのッ!?」

「?」


空から落ちた先にあった池は、ただの池ではなかった。

その場所は古代の有力者たちが眠ると言われる地であり、また中への侵入を防ぐためにその地の周辺に人工的な池が作られた、言わば墓――古墳なのだ。

しかし、そうは言っても、


「仕方がねぇだろ……空から落とされたんだから」

「いや、空からって…嘘つくにしても笑えない冗談なんだけど…」


外国でいうアメリカンジョークだったとしても、全然笑えない。

思わず頭を抱えたくなる気持ちを抑えながら、美咲はもう一度鼻をひくつかせ、ルーサーの体から漂う臭いに眉をピクピクさせる。

このままこの臭いを纏った彼を放置しておくのは、何とも気の毒過ぎる。

とはいえ、ここまで常識不足な部分を考えると、


「あ、あのさぁ…………せ、銭湯って…知ってる?」

「戦闘? 誰かと戦うのか?」


ああ、……やぱっり駄目だコレ。

さらに頭痛が激しくなり、しまいに目が眩みそうになった。

重たい溜め息を漏らす美咲は、これからどうしようかと目の前に立つルーサーを見つめ、考えに考える。

そして、その数分後に、


「…………よしっ」


美咲はある決断をした。








場所は変わり、そこは数ある住宅地が並ぶ中の一宅。

そして、どこにでもある二階建て住居の玄関前にて、美咲は後ろに振り返り、キツく釘つけをする。


「いい! へ、変なこと少しでもしたら即警察呼ぶからね!」

「……あ、ああ」


何でこうなった?

ルーサーはゲンナリした様子で顔を引きつらせる。

あの後、美咲に連れられるまま何故か見知らぬ家の前に連れてこられたのだが、何もここまでいうぐらいなら別に連れて来なければよかったのではと正直思うところもあった。

だが、対する美咲はというと、


『貴方をほったらかしておくと、凄~っく嫌な予感がするからよ!!』


もの凄く失礼なことを言われてしまったのだ。

そんな事もあって時間経った状況の中、ルーサーはというと玄関を上がり、即座に体を洗うための浴室に押し込まれた形となっている。

服は言われた通りに脱いでから白い箱上のものの中に放り込んだ。

ガラスのドアを一枚抜けた先には、浴槽と椅子があり壁にはよく分からない突起物が備え付けられ、どうやら左右に捻れる仕様になっているようだ。

ルーサーはその持ち手となる部分に手をかけ、どうしたものかと頭を悩ませていると、その背後にあるドアの向こう側から、突然と美咲の声が聞こえてきた。


「ここにタオルとか置いておくから。後、服も用意してるから!」

「あっ、おい! これって」


何かを言おうと振り返るも、既に彼女の姿はない。

後、突き加えるなら、後ろに向いた際に手に持っていた突起物を偶然にも強くひねってしまった。

そして、その結果。


「ブッゥ!?」


頭上に取り付けられていたシャワー口から噴出された冷水が、ルーサーの顔面を問答無用で打ち抜く。

それは物の見事な、クリンヒットだった…。





浴場での一件の後、脱衣所から出てきたルーサーは今、上はパーカーで下は半ズボンといったラフな格好で客間のリビングに立っている。

そして、目の前には先にテーブル前の椅子に腰を下ろした私服姿の美咲の姿があった。


「なぁ、これでいいのか?」

「うーん、お父さんの服だけど……中々…似合ってるじゃない」


ルーサーの私服姿を初見し、一瞬頬を染める美咲だったが直ぐに視線を反らし、テーブルの上にあるステンレス製のやかんからコップへとお茶を注ぐ。

そして、もう一つの空いたコップにもお茶を入れ、ルーサーの目の前に置いたのだが、


「…………」


当のルーサーはというと、興味はリビングの奥に置かれた四角い箱―――――液晶テレビにいっているらしい。

画面の中で動く映像に心底驚いた表情を浮かべるルーサーに美咲は小さく溜め息をつきながら、ふとそこで頭に浮かんだもう一つの疑問に頭を悩ませる。


このルーサーという少年は何故だか、見る物全てに何度も驚いた表情を浮かべている。だが、果たしてこのご時世にそんな人間が本当にいるのだろうか? 

記憶喪失と言われれば、納得はできないわけでもないのだが、話す限りそういった印象もない。

それに、例え日本人じゃなく、外国の人間だったとしてもだ。

テレビや飲み物などといった日常品を知らないというのはどうにもおかしすぎる。


「…………」


考えれば、考えるほどにルーサーという少年の素性がわからなくなってしまう。

いや、元々ある一つの接点を除けば、見知らぬ他人というのが事実なのだが、


「ね、ねぇ…」

「ん?」


美咲は、まずその一つの接点に対する確証がほしかった。

テレビからこちらに視線を戻すルーサーを見つめる美咲は、緊張した面持ちで口内の唾を飲み込む。

いつもは何ともないリビング。だが、この時だけは一際重い緊張感がその空間全体に漂っていた。だが、そんな空気に臆することなく、美咲は意を決してルーサーに問う。






「貴方は、お姉ちゃんとどういう知り合いなの?」







その瞬間。

ルーサーの表情を固まり、同時に見開いた両眼で美咲を凝視していた。

そして、今耳にした言葉を、もう一度聞き返す。


「お、お姉ちゃん……って?」

「……だって、貴方は私のことを見て美野里って言ったでしょ? 確かによく、お姉ちゃんと見間違われる事が多いから、今更そのことに対して腹を立てるつもりはないんだけど…」


ここに来る前、確かにルーサーは美咲の事をその名前で呼んでしまった覚えがある。

しかし、それはどこか面影があるからという至極思い込みによって口にしてしまった言葉だった。

だが、それが今、彼女が口にした『お姉ちゃん』という言葉によって状況が一変してしまう。


「………………」

「あれ? ………あ、そういえば、まだ私は貴方に名前しか教えてなかったわね」


あの時、美咲がルーサーに語った名前に偽りはなかった。

だが、彼のいた世界とは違い、この世界には名字というもう一つの名前が、真名があった。

美咲は胸の前に手をやりながら、自身の名前をもう一度言う。




「私の名前は、町早美咲。……町早美野里の妹です」




町早美咲と町早美野里。

どちら同じ名字であり、またどちらも面影の似た姉妹―――


「み、…美野里の……妹…」


時計の針が刻々と動き続ける中、ルーサーは思うように言葉を出すことができなかった。

余りの現実に驚きを隠せずにいた。

だが、そんなルーサーを追い詰めるように――――


「ただいまー」


ガチャ、と玄関のドアに付けられている鍵が開く音が鳴り。

そして、ルーサーの耳に―――――――――忘れることのない、一人の少女の声が聞こえてきた。


「あ、噂をすれば」


美咲は椅子から立ち上がり、バタバタと足音をたて、早足で玄関へと足を運んでいく中、その一方で、ドサッと買い物をした袋を床に置く、もう一人の少女は疲れたように溜め息を吐く。


「美咲~、頼んでたの買ってきた? また忘れたりしてないでしょうね?」

「買ってきたよ。後、お姉ちゃんが私の自転車勝手に乗っていたせいで色々と大変だったんだから」

「ごめんごめん。ちょっと今日は何だか調子が悪くて、寝坊しちゃって遅刻しそうだったのよ」


姉妹同士の会話が玄関の方角から賑わって聞こえてくる。

そして、そんな中で、リビングにいたルーサーはゆっくりと立ち上がると、そのまま玄関が見える通路へと足を動かしていく。



『あの声を、あの姿を、……彼女という存在そのものを忘れるわけがなかった』



重い足を動かし、ゆっくりと進んで行く。

早まる鼓動を意識しながら、息詰まる苦しさを堪えながら、



『短髪にハネ毛のある髪。小柄な体つき。気の強い印象を持ちながら、本当な誰よりも優しく、そして寂しがりだった』



そうして、玄関に差し掛かる通路まで辿り着いた。

そこでルーサーは足を止め、彼の瞳はそこにいる一人の少女。もう会うことがないと思っていた、



「…………美野里」

「……え、だれ?」



心の底から、愛していた少女―――――――――――町早美野里と再会する。


シンクロアーツとして力を覚醒させているわけでもなく。

インデール・フレイムという都市に訪れた事もない。


本来な、こうして交わることはないはずだった美野里とルーサーは、こうして互いに今を知らない関係のまま、出会ってしまった。

過去と未来、二つの交差が新たな物語を生み出そうとしていた…。






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