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異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫  作者: GORO
第二章 [劫略されし真名] be isolated - 災厄の剣姫
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絶望を誘う蹂躙――




第七十四話 絶望を誘う蹂躙



最大級の一撃が無秩序に放たれた。

轟音を付き添えながら突き進んだ二つの力は互いを混ぜ合わせるようにせめぎ合い、この世の音と思えない擦れ合う音を放つ。

だが、次第に両者が協力し合うように、強大な力は莫大な光へと姿を変え、さらにその規模を膨らませていく。



「ちょっと、…これって…不味いんじゃッ!?」


威力を増大させる破壊の塊は巨大な光の円状へと形を変え、さらに周囲の地面を抉り去る。

ジリジリと余波が電磁波のようにその場一帯に飛び交い、その力は強者を象徴している。

対して、目の前から迫り来る破壊の光に、ブロは即座に危険を感知した。そして、同時に脳裏にある一つの言葉が浮かび上がる。

あれがどういった力が組み合わされ、形成されているかはわからない。だが、例えそれが理解出来なかったとしても……これだけは分かる。


このまま此処にいれば、確実に私たちは死ぬ。


全身に緊張と冷や汗が吹き出す。

ブロは急ぎ、地面に横たわる龍脈の酷使によって更に急激な衰退を見せるアチルと、後ろに寝かせていた盲目の少女を抱え、その場所から退避する動きに移った。

向こう側には未だ、力の消耗で疲労を隠せないルーサーの姿があった。

だが、そんな彼を拾って一緒に逃げれるほど今の彼女に余裕はない。

あっちはあっちで何としてもらう!! と心の中で吐き捨て、ブロは視線を戻し、未だ立ち上がる気力すら見えないアチルの体を抱え起こそうとした。

だが、そんな彼女たちの反応を嘲笑うように、



――――――――――ッツツツツツツツン!!!! という反響したような奇怪音と共にーーーー事態は更なる急変を発症させる。



甲高い音が光の中心で鳴り響いた。

ブロたちがその音に表情を歪める中、突如と異変は破壊の光にも起こる。

今まで制御も効かず暴走するかのように拡大を続けていたはずの光が、まるで道を遮る壁に激突したように急停止を見せ、さらには拡大とは反対の行動を見せたのだ。

それはビデオテープの映像が逆再生されるように、破壊の衝動を継続させたまま、光はその大きさを縮小させ、音の発生源でもあるその中心へと巻き戻っていく。


(……っ…おかしい)


意識が朦朧とする中で、アチルはその疑問を抱く。

自身の状態は数分前よりも症状を含めて悪化していることは理解していた。だが、それでも体を起こす為の腕力だけは何とか込めることが出来た。

ゆっくりと上体を起こしたアチルは、霞む視界の中……目の前で起きる状況を静かに見据える。



ダーバスの挑発に乗せられてしまった、あの時。

ルーサーとアチルによって放たったあの一撃は、まさに暴走という言葉を現実に表現したような力だった。

その動きは強大かつ制御を無視した暴れ馬のように方向性を見失い、標的を殺しただけには飽き足らず、被害を拡大させる最悪の事態に引き起こしていた。

――そのはずだった。

その暴れ馬が突然と動きを止め、さらにはその発生地点である中心へと引き戻されるまでは…。


理解が出来なかった。

その場で、都市全体を巻き込んだ大爆発を引き起こすならまだしも、縮小という別ルートの動き。本来の魔法であったとしても、そうだ。

例え、どういった経緯があったとしても、あれほどの莫大な力が引き戻ることは、どう説明しようとも在り得ない現象だった。

動揺を隠せないアチルは、小さく声を漏らそうとする。

だが、その直後。


「うッ!?」


地面に液体がこぼれ落ちる音が鳴る。

それは、血液。アチルの口から再び、大量の血が強引に吐き出されたのだ。

これまでの吐血量を考えても、その量は限度を超えていた。

失われた血が様々な問題を引き起こし、視界だけに限らず、意識すら揺さぶられ平衡感覚すらも無茶苦茶となっていく。


「………ぅ…」


そして、等々(とうとう)。

体を支える力を失った彼女の体は再び地面に重く圧し掛かるように崩れ落ちてしまった。

切り傷といった外傷はない。

だが、そんな彼女の体の中は既にボロボロだった。

毒によるダメージもある。だが、それよりもここまでの重大なダメージを負った原因は、怒りの暴走によって引き起こしてしまった龍脈の限界突破にあった。


限界とは力全てにある物だ。

そして、制御を有する為の必要とされた一定のライン。それをアチルは未熟でありながら、手を差し伸ばし、掴んでしまった。

その越えた先にある、脅威的なる破壊の力を。



「ッ、しっかりしなさいよッ! ちょっと!!」


吐血に加え、焦点の合わない瞳と同時に異様な呼吸を見せるアチル。

容態が急激に悪化した彼女を前にしたブロは、この状態のまま放置しておくのは確実に不味い、と即座に判断し、急ぎその重くなったアチルの体を抱き抱えようする。

その一方で、アチルたちとは反対側の位置に立つルーサーは、目の前で起きる事態に歯噛みし、再び骨刀に力を灯そうとした。

だが、どれだけ衝光やセルバーストの力を込めようとしても、依然として刀は反応を示さない。


「ッ…!」


怒りの暴走が引き起こした問題は、アチルだけではなかった。

ルーサーもまた、強大な一撃を放った代償…その反動が、今になって遅れて影響を及ぼしていたのだ。




そうして、余談は許されない状況が続く。

ルーサーたちを考慮せず、光はその大きさを縮小させ、その大きさが遂には―――――――人間の背丈ほどにまで近づいた、その瞬間だった。

その場一帯を直後。強引に、その場にあった光景が消し飛ばされたように、アチルたちを覆いつくす形で眩い光が支配する。

視界の全てが純白に染められる。

そして、その後に続くはずの爆発という現象が――――――――――――――――――――起きなかった。

その、刹那。




「——————————ッ!?!!?!?!??!?!?!?!?!?!」




ドォン――――ッツン!!! と。

僅かに入り交じった複雑な音を引き連れ、轟音が鳴り響き。

崩壊した闘技場と観客席とを境にする壁の中心で、双剣使いの称号を持つブロは、その地へと崩れ落ちた。




壁の素材である岩が強烈な衝撃によって粉々に砕け散り、音を立て地面に散らばっていく。

そして、その壁を打ち抜いた形となったブロの体は、その一瞬で内部全体を破壊され、彼女の口や外傷からは大量の血が溢れ出し、地面を紅に染めていた。



「…ぇ」


ただ、乾いた音をたて地面に崩れ落ちた…。

その事しか、理解ができなかった…。

視界の中、直ぐ側にいたはずのブロが地面に倒れている。

意識が朦朧としていたとしても、アチルの頭がその光景を認識した瞬間、発熱を起こす。

どういった言葉を口から出そうとしたのかはわからない。

それでも、アチルは喉奥から叫び声を上げようとしていた。

だが、その反応をすることすら………突然と現れた敵は、許されなかった。


「ッがぁ!?」


アチルの首という部位に、突如と衝撃が襲う。

そして、瞬きする間もなく第三者となる一つの手が、アチルの首を掴み握り締める。

ギギギィ…と首の骨から不気味な音が聞こえてくるほどに締め上げられ、更に強靱な筋力を発揮したその腕は、アチルの体を悠々と持ち上げる。


「……ぁっ…ぁぁ!!!!!?」


首の内に通る気道が圧迫されることによって、空気をうまく肺に送り込めない。

チカチカと視界にフラッシュが起こり、アチルの体が危険信号を出すように小刻みに震えを見せる。

口の端から血を垂らすアチルは、苦しみに顔を歪ませながらもその瞳を動かし、―――そして、その瞳は捉えた。

目の前に立つ、その手の主……無邪気な笑みを浮かべる、頭に被っていたローブを外した一人の少年を。




十四、五ぐらいの年頃だろう、全く初対面となる子供。

その容姿となる服装は数分前までダーバスが身に着けていたローブとほぼ同じ服装をしていた。

しかし、例え服装が同じ物であったとしても、その外見から見ても、姿形があまりにも違い過ぎる。

だが、それなら。


………この子供は一体どこからやってきた?


徐々に力が強まり、もがき苦しむアチル。

バタバタと足を動かし、必死に抵抗の素振りを見せる。

そんな中で、苦しむ彼女のアチルを前にする少年は、ゆっくりと顔の筋肉を緩め、やがてその小さな口を開き、



『……ハハッ…』



笑った。

それは数分前、ダーバスという男が見せたそれと同じ。

いや、それ以上に黒色の泥沼に浸かっていたような、暗く不気味な笑顔で…。

そして、少年は……言葉を話し始める。



『クッ、ハッハハハハッ!!! まさか、龍の力を取り込むと、こういう事になるとは! この私でも思いもしなかったぞ!』



無邪気な反応のように表情をコロコロと変える、少年…いや、――――ダーバス。

数分前、強大な光によって消滅したと思われていた、禁忌の魔法使いは声色自体、若返っているが、その喋り方は以前と変わっていなかった。

そして、姿形はまるで別人のように、大人から少年へと生まれ変わっていた。

信じられない。

驚愕の表情を浮かべるアチル。

だが、それに続くように、心中に再び、治まり掛けていた憎悪が呼び戻されていく。

そして、


何故、生きている。

何故、そん姿をしている。

何故、私の目の前にいるッ!!


アチルは口内に溜まった血を、殺気を込めた言葉と共に吐き出しながら、怒りを露わにする。



「だぁ…バ、スッッッ!!!!」

『……何をそう怒っている? 龍脈の力はいずれ使う者を人と違う存在にする、そうお前に言ったはずだが?』


眼前から怒声が放たれる。

だが、アチルの怒りなど気にも止めず、ダーバスはその変色した紅の瞳を向け、まるで人と思えない妖気に似た威圧感を漂わせながら、言い聞かすように語りを始める。


『とはいえ、成功したから言えたことだが。……違う存在になると語る私自身でも龍の力を手に入れるのには色々と苦労をしたんだ。何度、貴重な称号使いたちを実験に使って失敗したか分からない。……長い時間が掛かった。色々と策を練って、手段も考えた。だが、それだけでは足りなかった。私一人では成功などするはずもなかった』


ダーバスはそこまで言うと、その手で掴むアチルに目をやった。

そして、満足げな表情を浮かべ、感謝の念を込めるように…ダーバスは言う。



『成功の鍵……私の願いを叶えるには、絶対に必要になる物があった。……それがお前たち、二人の存在だ』

「!?」



一体何を言っているのか、分からなかった。

事実を受け止められず、困惑した表情を浮かべるアチルに、ダーバスは笑みを浮かべながら、言葉を続ける。


『一人は本物の龍。そして、もう一人は龍脈を扱う魔法使い。……当初は、あのルーサーさえどうにかすれば、龍脈を使える私の力を組合わせて計画は上手く行くと思っていたんだ。だが、龍脈と接続した状態のままだと、私自身が組んだ魔法陣が万全に機能しなくてな。だから、態々お前たちと重なる場所を選び、さらにお前たちを怒らせる事で不足していた質量を埋めることにした』

「ッ…そ、…そん…なッ」

『そして、結果は思い通りになった。私は人間という体を大半壊すことで龍の力を吸収することに成功したんだ。……だから、本当の意味で感謝しているんだ。お前たち、哀れな者達にはな』


もし、今の言葉が本当なら、ダーバスはその身に龍の力を手に入れた。

それがどういう意味を成すのか、龍脈を使用するアチルにだって容易に理解ができた。

だが、例えそれが手に入ったとしても、人という存在に龍の力が交われば、必ず人間という肉体が耐えられなくなるはずだ。

しかし、今目の前に立つダーバスは、その人としての原型を止め、さらにはその力を維持している。

龍の身で在りながら、人の身を形作る。

アチルは、そんな存在と酷使した人物を……一人、知っている。


龍人である、鍛治師ルーサーだ。


驚異的な力を人の身に取り込み、龍と人、まさしく龍人という存在。

ダーバスをその頂きに立たせてしまった。…行き渡るための経緯を作ってしまったのは、間違いなくルーサーとアチルだ。

後悔以外、なにものでもない。

アチルは歯を剥き出しにさせ、必死に自身の首に伸びたその手を外そうとする。

だが、その動きを見せる寸前で首を絞める手の握力が、さらに強まり、急激な締め付けが呼吸のできない苦痛となり、アチルを襲う。


「ぁっ…ぁぁぁッ!!!」

『……そうだ。確かお前は以前、私の手下にこんな魔法を使っていたな』


話を変え、ダーバスはそう言いながら、もう片方の手に五つの光を浮かび上がらせる。

数秒して、それぞれの光から小さな魔法陣が掌に展開された。

普段ならその魔法陣を見ることでそれがどういった魔法なのか分析出来るはずだった。

しかし、今のアチルに、それを特定する気力すらない。

気道が一瞬と塞がり、次第に脳へと酸素が行き渡らなくなっていく。酸欠状態に陥り、薄れる視界。

振りほどこう込められていた力が、徐々に抜け落ちていく。

その中で、ただダーバスの声だけが聞こえてくる。


『散れ、五つの力。記憶の奥底まで刻み、全てを終わらせろ』

「……ぁ…」

『これは俺からのご褒美だ。…さぁ、………一度、お前自身で味わえ』


アチルの返答など聞くまでもなかった。

次の瞬間。目の前で苦しむ彼女の腹部に、ダーバスの掌が置かれ、




『終れ『フォーエンド・アクガ』』




ズザザザザザザザザザッ!!!!!! と残酷なまでの光景が、今あるこの世界の中で再び刻み込まれる。

掌に展開された光から飛び出るように突き出た光の枝が、急激な成長と同時に枝分かれするように広がり、アチルの肉体を次々と貫いていく。



「         」



何かが突き破られた、その音だけが何度も続いた。

アチルの、思考や痛み、その他全ての感覚がその瞬間に根こそぎ奪われた。

既に意識はない。

完全に体から力が抜け、枝に貫かれた状態のままブラ下がった形となる。

返事を返さないアチルを見上げるようにして眺めるダーバスは、笑いながら掌の魔法を解除した。

そして、枝はまるでガラスのように砕け散り、消滅していく。


「          」


枝の支えを失い、アチルの肉体はそのまま地面に落ちた。

音をたて崩れ落ちるアチル。だが、その体には枝に貫かれたはずの虚空は存在しない。

それは当たり前の現象だった。

何故なら、ダーバスが発動させた魔法は、物理攻撃でなく、精神…その他だけを攻撃する為だけの特殊魔法なのだから。


『…さて』


ダーバスは地面に横たわったアチルを見下ろし、その髪に手を伸ばそうとする。

だが、その時、



「大打現!!!」



ダンッ!!!! と衝撃が放たれ、同時に余波によって爆風と砂煙がその地点から一斉に吹き上がる。

その攻撃はダーバスの頭部目掛けて、振り下ろされたのは骨刀の一振りによるものであり、今まさに炎の翼を羽ばたかせ、急接近したルーサーによって繰り出された衝光の一撃だった。


(時間が…掛かりすぎたッ!)


ルーサーは自身の衝光の力を恨む。

ダーバスの存在が再び現れた時、即座にルーサーはその場所から走り出した。だが、その間にも炎の力は戻らず、ブロやアチルが目の前で倒される光景を目の当たりにした後でやっと力が蘇ったのだ。

そして、――――安々とやられていく様を、見ていたのに何もできなかった。

その事にルーサーは歯を噛締め、その事態に陥ってしまったことを後悔する。

だが、その眼前で、



『何だ、これは?』

「!?」



振り下ろされたはずの骨刀が小刻みに震え、押し戻されていく。

次第に砂煙が晴れ、そこには強烈な威力を秘めていた一撃をいとも簡単を指一つで防ぐ、ダーバスの姿があった。

その体や衣服に、一つも傷を作らずに。


『まるで小さな虫が止まったのかと思ったが、それで本当に竜人なのか?』

「ッ!!」


ルーサーは刀を戻しながら即座に距離を取り、さらにもう一撃、刀を振り下ろそうとする。

炎をさらに積み重ね、力を増幅させながら。


『まぁ、いい機会だ』


対して、そんな視界に入る刀を前にダーバスはのんびりとした口調で言葉を話す。

余裕めいた発言に加え、態度もそうだ。

眼前で必死に攻撃を与えようとする竜人を見据え、楽しいそうに無邪気な笑みを浮かべながら―――



『龍の力がどれほどのものか、お前で試させてもらおう』



その直後。

激しく鳴り響く音と共に、圧倒的な蹂躙が開始される。










喉奥に痛みがあった。

痛覚や、その他の感覚が次第に復帰を見せ、徐々に意識が戻ってきたアチルは、その重い瞼をゆっくりと開かせた。

視界の中には、思うように動かない手と地面が見える。


「……ぅ…っ」


一体どれだけの時間、気を失っていたのか分からない。

アチルは、ゆっくりと開いて瞳を動かしつつ、次第に動くようになった手を意識しながら、やっと顔を上に向けることができた。

だが、そこには…もう、




「…………ぇ」




荒廃の地、しか……なかった。

全ての建物が瓦礫と化し、人が住めないような環境へと様変わりしてしまった場所。


(ここは一体………どこ、なの……ッ)


見慣れないその光景を前に、アチルは困惑した表情を浮かべる。

だが、その時。彼女は不意に数時間前、ブロと食事をする際に寄った飲食店、その残骸らしき物が瓦礫の中に含まれていることに気付いた。

そして、その瞬間にアチルは悟った。

ここが転移魔法によって移された別の場所ではなく、四つある大都市の一つ。



銃都市ウェーイクト・ハリケーンであることを、認識したのだった。




「……な、何で……っ、これ…ぁ」


漠然と広がる荒廃した都市を前に、アチルはそう呟きしか出来なかった。

だが、――――背後から、




『やっと目がさめたのか?』




平坦な音のように、ダーバスの声が放たれる。

背筋を舐められるような異様な感覚が直に脳を揺るがす。反射的にアチルはその体を動かし、後ろに振り返った。

次の瞬間。


「ッ―――――――――――――――――――――!?」


何の前触れもなくして、アチルの思考が一瞬で凍り付いた。

視線を見上げたその上空には、赤黒い魔法陣を宙に展開させながら、それを足場に立つダーバスの姿があった。

だが、そんな事すら記憶に残らないほどに、ある光景が……アチルの瞳の内に焼き付けられるように映ったのだ。


ダーバスの突き出された両腕、その先にある手がまるで手錠のように二つのモノを掴み取っている。

捕まったまま、一切の反応を見せない二つの影。

それは、力なく意識を失った全身ボロボロとなった見知った二人………双剣使いのブロと鍛治師ルーサーの、


「ッツ!!!!!」


開始の合図はない。

ダーバスの言葉を待たずして、アチルは咄嗟の反応で手を前に突き出し魔法を使う。

体の中に存在する魔力が動き、魔法を発動させるプロセスを組む。

その感覚は、確実にあった。






「………………………………………………ぇ」






――――はずだった。

何度も魔力が体の内で動く。だが、以前として魔法という現象が起こらない。

アチルは何度も手を突き出し、あまつさえ魔法を唱えようとも一向に魔法が発動しない。

魔力が失われたわけでもない。自身の意識が朦朧としているわけでもない。

そのはず、なのに…

何故…? とそんな言葉が頭の中でふと浮かび上がる。

目を見開き、戸惑いや動揺を隠せないアチル。

そんな中で、ダーバスは声だけがシンプルにアチルの耳から脳へ直接侵入するように聞こえてきた。


『そういえば、お前はフォーエンド・アクガを平然と使っていたようだが………あれもまた、禁断魔法の一つだってことをお前は知っていたのか?』


禁断魔法。

それは、魔法使いたちになる者なら必ず教えられる、絶対に忘れてはならない言葉であり、多大なリスクや絶大的な破壊力を持つ魔法に、その名が付けられる。


「……な…なに…を」

『あれは、かつて別名、魔法殺しと言われていたんだ。…お前はただの特殊魔法だと思って使っていたみたいだが、実際はそうじゃない。……精神攻撃だけに限らず、魔法使いにとってなくてはならない魔力が通るルートも攻撃する禁断中の禁断、魔法使いの存続に関わる…あれはそういう魔法なんだ』

「………そ」

『だから、あの魔法は長い間、魔法都市の地下深く封印されていた……そのはずだったんだが。お前、あれをどこで知ったんだ? いや、そもそも、あのレルティアがそんな魔法を娘に教えているはずがないとは思っていたんだが。…そうか……お前は、本当の意味でレルティアに見限られたんだな』


そう言いながら、ダーバスは貶したように見下した瞳を向ける。

だが、そんな視線にすら気づかないほどに、アチルの激しく動揺を露わにしていた。


――地下深く封印されていた。

ダーバスが口にした言葉に、嘘はなかった。

何故なら、その言葉を聞いているアチル自身が一番にそのことを理解していたからだ。

フォーエンド・アクガ。その魔法は魔法都市の地下奥で厳重に封印されていた一冊の本、そこに書き記されていた魔法だった。

龍脈を利用した特殊魔法、それらの呪文が書き記された、鎖に縛り付けられた禁断の魔法書。

正常な判断ができる者なら、その本の危険性は重々に理解出来るはずだった。


だが、力のない自分を強くさせる為にも、アチルにとってはどうしても必要な物だった。

だから、アチルはその本を手に入れたのだ。


しかし、その本を手にした事を、母であるレルティアは許さなかった。

龍脈を利用した魔法を初めに教えたにも関わらず、レルティアは龍脈の魔法をこれ以上は使用するなと、そう娘に告げた。

だが、アチルはそれに耳を貸さなかった。

この力があれば美野里を見つけることができる。そして、もう、あの時のような後悔をしたくない。

そうレルティアに宣言してまでアチルはその魔法を手に入れたのだ。

例え、アルヴィアン・ウォーターに帰れなくなろうとも構わない。

そう、……その時。

アチルの心に、後悔はなかった。




「そ、…そんな……っ…」

『まぁ、お前にはもう興味もない。……魔法を使えなくなった小娘に、私も時間を割きたくないからな』


嘘だ……、とそう思い込むしかなかった。

そうしなければ、アチルという存在が崩壊しそうだった。

しかし、そんな彼女をさらに追い詰めるように、ダーバスの言葉はアチルの心を抉る。


『だが、この二人は違う』

「ッ―!?」

『一人は龍、もう一人は未知の称号を持っている。…嬉しいことだ。此奴らの力をさらに取り込めば、私はさらに高み、強さを手に入れることができる』

「…ゃ、やめてッ!!」


自身のことで精一杯になる時間などない。

アチルは必死に叫び、その場所から立ち上がろうとする。

だが、手は動くも……足が動かない。まるで鉛のように重い。

魔法も使えなければ、立つこともできず地面を這いずることしか出来ない。

顔を歪め、激しい後悔がアチルを更に苦しめる。

対して、ダーバスはそんな惨めな姿になり果てた彼女を見据え、一言……不意と言葉を投げ掛けた。

それは、



『やめてほしいか?』




屈辱以外、何物でもない言葉だった。

その瞬間。

アチルの顔が複雑な心中によって複雑に歪む。

まるで返答を、その顔で表現したように…。

そうか…、とダーバスは呟く。

そして、視線をアチルから、その手に持たれた二人に移し…、





『なら、その手で止めてみたらどうだ?』





バンンンッ――――!!!! と。

ルーサーとブロ、二人の体内で爆発の衝撃が炸裂する。


「ッッツ!!?!?」


強烈な威力だということは、その轟音が証明していた。

肉体の内で起きた爆発が彼らの体を激しく揺れ動かし、その口から血を吐き出される。

皮膚からは薄白い煙が立ち昇り、その口からも煙が漏れ出る。

勝敗はもう既についていた。

これ以上の攻撃をする必要なんて、どこにもなかった。

なのに、


「…ぁ…ぁぁ…!!!」


目の前で起きる残虐な光景。

愕然と、その現実に打ちのめされていくアチルに対し、ダーバスは高らかに声を出しながら、言葉を叫ぶ。



『さぁ!! この窮地に誰が来る? レルティアか? それとも町早美野里か? はて、勇者の称号使いか? ハハッ!!! 誰が来たとしても同じことだ! この龍の力を手にした私に勝てる者など、この世界にはもう誰もいない!!』


アチルやルーサー、ブロを貶すように、ダーバスは歓喜に溺れたように笑い続ける。

だが、その言葉は確かに事実だった。


今、この地んい彼を倒せる者はいない。

ルーサーも…。ブロも…。そして、アチルも…彼を倒すことはできない。

何もできない。


その言葉がアチルの脳裏を支配する。

荒くなる息遣い、瞳を見開き、歯を噛締めるアチルの瞳に涙が溜まり、頬を使って落ちていく。


「ゃ…て」


もう何が正しいのかわからなかった。

ただ、必死だった。

アチルは噛みつくように、上空に立つダーバスに向けて、…………叫ぶ行動しか、頭に思い浮かばなかった。

そして、


「ゃ、めて……っ!」

『……何か言ったか?』

「もう…、やめて…っ!! もぅ……これ以上、彼らを…傷つけなぃ



その言葉が言い終わる、その必要はなかった。


バンンンンンンンンッ――――――――――――――――!!!!! と。

まるで返答を返したように、アチルの見開かれた瞳の中で、再び強烈な爆発がルーサーたちの内側を破壊する。

そして、続けて、




『まだ、わかっていないのか? お前の行動で、此奴らがさらに』



連続と打ち付けられるような轟音が、無情にもルーサーたちの体内で鳴り響く。

それは、朽ちぬ体への蹂躙だった。

内側だけに留まらず、高質量の熱が体中が焼き付くし、露出した肌は黒く焦げ、裂けた皮膚から血が噴出される。



『……こうなるわけだ』



生死など、聞くまでもなかった。

それほどに、その二つの肉体は………死体のように一ミリも動かなかった。

そして、その直後。


完膚なきまで、アチルの心は―――――崩壊した。









そう頭上から、冷酷な言葉が告げられた。

だが、もう今のアチルにそんな言葉は届かなかった。何も入らない、……頭の中が、もう真っ白に染まっていた。


全身の血が退いた。

唇は青紫へと変色した。

生気が次第になくなっていった。


瞳に映る、肉体を破壊しつくされ生死すら確認できない二人の姿。

その最悪の結末。




その…………引き金を入れてしまったのは、…私だった。







地面に倒れ、ボロボロと涙を流すアチル。

壊れた人形のように、絶望した彼女には、それしかできない体に成り下がってしまっていた。


『………………』


ダーバスはそんなただ泣くしかできない彼女を見据え、重い溜め息を吐いた。

そうして、ゆっくりとした動きで、


『もう、終わりか? 何か起こすのかと期待してはいたんだが』

「…………………」

『……わかった。なら、これで終わりにしよう』


ダーバスはまるでゴミを捨てるように、ルーサーとブロの体を上空から地面に投げ捨てる。

そして、その落下地点となる場所に魔法陣を展開させ、そこから二本の大剣が突き出るよう姿を現した。


『最後の褒美だ。…町早美野里と同じように、お前たちも私の手で黄泉に送ってやろう』

「………………」


アチルの視界がゆっくりと動く。

その瞳は、上空から落ちるルーサーたちの姿と、その真下にある二本の大剣をしっかりと捉えていた。


……ぁ。


――――思考がゆっくりと、錆びた歯車のように小刻みに震えながら、動く。


……たり、ない…。

…距離が……力が、圧倒的に足りない…。


――――次第に、再び、体が動く。


魔法を使わなくては………。

でも…出せない………。

なら……どうやって………。

このまま……何もできず…………彼らを……。



―――――そして、アチルの心にある一つの言葉が問われ、支配する。





じゃあ………このまま……見捨てるの?








アチルを始点に、その次の瞬間だった。

周囲に漂った空気を一掃する、眩い青い光がアチルを中心に発生する。

そして、崩壊した心でありながら、………アチルは絶叫を吐き出した。



『ぃゃ…ぃゃ…いいいやぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!』



暴走する感情が体の内で、既にせき止められていたはずの龍脈とのルートを再び復活させる。

だが、その行為は…まさに自滅へと繋がる最悪の一手だった。

本来なら、龍脈のルートは魔法を使うこと構築されるものだ。だが、今の彼女に魔法を使うことはできない。

なら、どういう方法でそのルートを獲得したのか。


魔法が無理なら、別のものを利用すればいい。

そう、……例えるなら、肉の体を利用すればいいのだ


暴走した感情が、彼女の思考を無視する。

肉体を糧にそのルートと接続させ、人間という体では、到底保てないはずの龍脈という力を強引に繋ぎ合わせた。


『ツ!!!!!!!!!!!』


地面が激しく揺れ動き、アチルの瞳がさらに青く染まる。

さらに、その頬には青い痣が浮かび上がる。その現象は、今まで龍脈を使用していた際には見られなかった症状だった。

しかし、アチル自身はそれすら気付いていない。

体に足りなかった力は……補充され蘇る。

足が再び力を取り戻し、アチルはその足で地面から立ち上がった。

そして、周囲に散らばる光の粒子がアチルの突き出した手の中に集まり、強烈な青い光が充電される。

その光は魔法ではない。

衝光という力でも、セルバーストという力でもない。

龍脈という力そのものであり、今ここでアチルはそれを放とうとしているのだ。


その光にどれほどの威力が込められているのかはわからない。それが放たれた時、どれほどの規模の破壊が起きるかも…。

それでも、アチルの瞳はもう動くことはなかった。

ルーサーたちを貫こうとする大剣、それしか捉えることができなくなっていた。

ダーバスという、恨むべき存在すら忘れるほどに……彼女の自我は完全に崩壊していた。



『うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッツ!!!!』



そして。――――掌に溜められた力が放出されようとする。

大切な友を奪われ、大切な仲間を殺された。

もう、そこに抱く思いはない。

ただ、残ったものは‥‥。


彼女の暴走は絶叫を引き連れ、この世界を破壊する―――――――その、瞬間だった。





「ごめんなさい」




次の瞬間。

ゴッ!!! と甲高い音と共に、アチルの体がくの字に折れる。

直撃した場所は、肉体の急所の一つである溝となる部位であり、またそこに突き刺さるように放たれたのはガントレットが嵌められた一つの拳だった。


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥っ」


視界は激しく揺れ動き、肺に溜められた空気は吐き出された。

言葉一つ発せず崩れ落ちるアチル。

だが、そんな彼女を目の前で抱き抱えた者はーーーーー一人の少女はこう告げた。


「ごめんなさい…アチルさん」


もう一度謝る少女。

でも、と少女はさらに言葉を付け足し、ブレザー制服の彼女はーーーーーー雪先沙織は言う。




「美野里先輩も……こんな形で貴方が死ぬことを、絶対に望んだりしないから」








光の流出が治まり、静寂が舞い戻り、その場を支配する。

上空に立つダーバスは地上に突如と現れた二人の存在に対し、その閉ざされていた口をゆっくりと開く。


『お前たちは、誰だ?』


ダーバスが深紅の瞳を細め、睨む二人の存在。

それは、暴走によって自滅しようとしていたアチルをその一つの拳で気絶させた、同シリーズの武装武器、ガントレットとブーツを装備するブレザー制服の少女――――――雪先沙織。


そして、もう一人は地面に展開していた大剣を奇妙な装飾が施された刀で叩き斬り、魔女を連想させる赤い尖がり帽子。

細々とした装飾が施された深紅のコートを身に纏わせ、上空から落ちるルーサーたちの体を地面で受け止める、一人の少年の姿だった。


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」


少年が見つめる中、まるで死体のように生気のないルーサーとブロ。

少年はそんな彼らを見据え、強く眉間を皺める。

対して雪咲は気を失ってグッタリとしたアチルを駆け寄ってくる少年に預け、ゆっくりと顔を上げた。

年相応の子供のような顔立ち。

強者のような威圧は依然と見られない中、その瞳で上空に立つダーバスを睨む。


「偉そうに、頭の上から喋っているみたいだけど。普通、人と話すときは真正面から話すもんでしょ?」

『……………』

「何? もしかして、今ので怒ったわけ? 見た目通りの短気な性格をしてるのね?」


挑発めいた言葉を言い続け、雪先は鼻で笑う。

目上に対する敬意すらない、子供のような発言だ。

ダーバスはそんな彼女を静かに見据え小さく息を吐く。

やがて、瞼を開きながら目障りなゴミ見るような冷たい瞳を向け、パチン、と…指先で小さな音を鳴らす。



それが魔法の発動条件だった。

音もなく、雪先の背後に赤黒の魔法陣が展開されようと――




「へぇ………『随分と、舐めた真似してくれるじゃない?』




その時、雪先の口調が―――変わる。

その直後に、バン!! という音がその場に鳴り響く。

背後に展開された魔法陣から爆発が発生した、その音ではない。

音の発生源…それは、雪咲が後ろに振り返る素振りすら見せず、ガントレットを嵌めた腕を振り払った直後に鳴った、魔法陣がその一撃によって一瞬で砕き壊された際に発せられた破壊音だったのだ。

そして、さらに雪先の言葉は―――変わる。



『全く………『困った敵に当たったものですね』



突如、ガントレットとブーツから何かが飛び出した。

それは、不規則な動きを見せながら、宙を高速で飛び交う四つの存在…それぞれが淡い発光を放つ、柄のない四本の短剣。

空気を切り裂きながら突き進む攻撃に対し、ダーバスは追撃の魔法を放つが、剣は的確にその攻撃を避けながら突き進み、その足場となる魔法陣を切り裂いた。


『ッ!』


足場を壊された事にダーバスは舌打ちを吐きながら、地面に着地する。その中で、四つの短剣は元の居場所に戻るように、ガントレットとブーツへと帰っていく。

微かな光を残し、それらに取り付けられた六角の中へ吸収される剣。腰に手を当てながら前を見据える雪先は小さく息をつき、その口を動かす。

その言葉、口調は――――最初に会話していた状態へと戻っていた。


「アンタが見せる茶番劇には、もうウンザリしてるの。……だから、ここでその劇は最終公演にさせてもらうわ」

『……………』

「そして、……ここからは、私の演劇よ」


そう言いながら、雪先は目の前に立つダーバスを睨む。

彼女は強者ではない。―――平凡な学生のような容姿、殺気も放てない。

だが、例えそうだとしても、彼女は弱者でもない。―――ガントレットをはめた拳を握り締め、禁忌の魔法使いダーバスよって手駒のように遊ばれ、使い捨てられた者達、そんな彼らの悲痛な思いを胸に。



「覚悟しなさい。先輩たちを傷つけた分も含めて、私の演劇魔法でアンタを粉々に叩きのめしてやるんだからッ!!」



今、この時――開演の時間はやって来た。

そして、今をもって演劇魔法―――雪先沙織の激突という演劇が開演される。



挿絵(By みてみん)



演劇魔法。

―― 双対魔導の逸脱者 ――





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