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異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫  作者: GORO
第二章 [劫略されし真名] be isolated - 災厄の剣姫
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偽称号<レプリカ>



第七十話 偽称号<レプリカ>



都市ウェーイクト・ハリケーンの地下には地上に住む人間には知られることのない、人工的に作られた場所が存在していた。

その空間の広さは大きく推測しても都市の三分の二ほど敷地があるとされている。

そして、その詳細不明な場所に一体何があるのか。

その場所に、人間やモンスターといった生物が存在しているのか、そこまで把握することアチルの偵察魔法を持ってしても知ることは出来なかった。

本来なら、より正確な詳細を知ることが出来るはずの偵察魔法。にも関わらず、それが不可能だった。まるでその先には行かせないとばかりに情報はそこで途絶えてしまっていたのだ。

アチル自身、その事に胸の内に嫌な靄が籠もるのを感じる。

だが、幸いにも偵察魔法に織り込んだ転移魔法のマーキングだけは、その地下に残すことには成功した。

よって、アチルたち一行は今その地点に近いとされる住宅奥地の路地へと向かっている最中だった。


「……本当に懐かしいわね」


人一人がやっと通れる細い通路。

そんな道を無言で進むアチルたちの後ろに続くジェルシカは一人、そう呟く。

というのも彼女にとって、この道はそれほど珍しい場所ではない。幼少の頃、よく遊び場として行き来したルートだったのだ。

最近では外で遊ぶ子供も減り、滅多なことがない限りでは使われることのない道となってはいるが、それのためか久々に訪れたことにジェルシカは若干の懐かしさを感じてしまう。

しかし、そんな懐かしさに浸る時間もなく、その道を抜けた先で目的となるマーキング地点と最も近い場所へ辿り着いてしまった。


「………大丈夫です、この位置から転移することはできます」


アチルはブロを背後につかせたまま地面に手を当て、その真下となる地下に転移のマーキングが残っているか、有無を確認し終えた。

了解の言葉を聞き、ブロも準備万端と口元を緩める。

だが、そんな二人の後ろに立つジェルシカは、未だ不満げな表情で浮かべていた。その顔からは、当初の流れについて未だ納得していないことが窺える。


「……ねぇ、本当にアンタたちだけで大丈夫なの?」

「はい、今回は内部の状況を詳しく知るための偵察目的として行くので、危険だと分かれば直ぐに撤退する予定です。ただ、この場所のマーキングを消されるのは不味いので貴方にはここで見張りをお願いしたいんです」


淡々と述べられたアチルの言葉にジェルシカは顔を顰める。

確かに、地下への情報を全く知らない彼女にとってこの場所での待機という流れは間違いではない。近接戦闘を得意としていない部分をとっても、アチルが立てた流れはしっかりと理にかなっていた。それに対しての反論はない。

しかし、ジェルシカにとって都市ウェーイクト・ハリケーンは自分の故郷だ。その地に住む者として、こうして何もせずただ待つということがどうしても彼女自身、納得ができなかった。

本心で言えば共に着いていきたい気持ちが強くあった。

だから、食い下がるようにジェルシカは歯切れの悪いような声で、もう一度、


「でも…」


一緒に連れて行って欲しい…と、そう口を動かそうとした。

例え邪魔になろうとも、盾としての役割ぐらいはできる、そんな気持ちで頼もうとした。

―――――だが、アチルはそんな彼女に対し顔を反らしながら言う。



「貴方の気持ちは分かります。………でも、だからこそ貴方には行かせたくないんです」

「!?」

「……とくに、ここでの思い出を大事にしている貴方には、…………知って欲しくないですから」


ウェーイクト・ハリケーンには人には見せられない裏の顔があるかもしれない。

そう密かに思う一方で、ジェルシカにはもう一つ、そうであってほしくないという願いがあった。

この都市で何年も暮らしてきた人間としてなら、誰だってそう思うのは当然だ。そして、その心の内を見透かしたようなアチルの言葉が彼女の動きを止めた。

動かそうとしていた口が、固まってしまった。


「……シアル」


アチルはそんな彼女を一瞥した後、返事を聞くまでもなく転移魔法を発動し、ブロと共にその場から一瞬でその姿を消してしまう。


「………………」


ただ一人、残ることになってしまったジェルシカは、目の前にいたアチルの言った言葉を頭に浮かばせ、小さく唇を紡ぐ。

インデール・フレイムに仲間と一緒に訪れた二年前、初めてあった頃の彼女はまだ幼い印象が強い感情に左右されるような未熟なハンターだった。

しかし、それから二年後の今日、再び出会う事となった彼女は何者も付け放すような、冷徹な印象を抱かせるハンターへと変わってしまっていた。

いや、そう…思っていた。


「……くそっ…」


自身の事にまだ何も決着をつけられていないにも関わらず、アチルはジェルシカの事を考え、今回の作戦を立てていたのだ。

どうしようもない胸の内に溜まるモヤモヤに対し、ジェルシカは強く歯を噛みしめる。

……何も理解していなかった。

……自分のことしか、考えていなかった。

そうして、彼女は。

どこにも打ち付けようのない苛立ちに握り締めた拳を震わせ、ただそこで待つことしか出来なかった。






太陽の陽が当たらない地下は、明かりもない、空間全体が暗闇に支配されている。

アチルとブロは転移魔法によって、無事マーキングを付けた目的の地点に辿り着き、暗闇でも視界をはっきり見えるようにさせる為の強化魔法を二人同時に瞳に掛け、その謎深き奥へと続く通路を進んで行く。

そうして数分後、共に無駄口を漏らさず道を進む中、その場所で初めてブロは口を開いた。


「優しいのね」

「……………何のことか知りませんが、そう思いたければ勝手に思っていてください」


ジェルシカとの一件について笑いながらそう口にしたブロに対し、アチルは知らぬフリで目の前に続く道を歩く。

問いに返事する一方で、しっかりと周囲に警戒を向けてはいるが、これっといって変化はない。

隠密という形で、この場に転移し潜り込む事は出来たが、アチルはこの場所に来た時から、密かにある疑問を抱いていた。

本来、地下とは凸凹した岩や土の道が続く、自然の産物によって作られた洞窟というのが常識だ。しかし、今歩く地面はしっかりと設備された平らな道であり、壁や天井もまた同じような構造で作られ、見るからに自然の産物とは思えない人工的に作られた地下空間がその場所に作り込まれていた。

だが、そこで本題となる疑問が浮かぶ。

何故、このような地下空間が作られなければならなくなったのか? ということだ。

一つは黒狼を生み出す為の研究場所という答えが浮かぶ。だが、それにしてはあまりにもその空間が広すぎる。

黒狼を作り出すためだけに、ここまでの広さが本当に必要だったのか?


「…………」


この都市に住んでいたジェルシカに、その疑問を聞けるわけがない。

アチル自身、これほどの場所を利用して行われている秘密ごとなど、想像するだけで恐ろしくて仕方がないのだから。


(これだけの大規模な場所を作ってまで……ウェーイクトは一体何を…)


募る疑問にアチルは眉間に皺を作る。

奥に進むにつれて、不安がより強くなっていく。

と、そんな時。

再び後ろを歩くブロが声を掛ける。


「ねぇ、結構奥まで続いてるけど本当にここであってるのよね?」

「はい、その為に偵察魔法を飛ばしたので…」


アチルは先程と同じように、問いをあしらおうと後ろに振り返る。だが、そこで不意にブロの変化に気がついた。

若干長々と続く道に呆れた表情を見せる彼女だが、その額にはひっそりと冷や汗が浮かび上がり、さらに歩き方からしても、どこか力みが籠もっているように見て取れた。

まるで、何かにずっと緊張し続け、口を動かしていないと落ち着かないといった様子で…………、


「大丈夫ですか? 先ほどから顔色が優れないようですが」

「え。何が? 私は別になんとも…」


そう平気な気丈を振る舞うブロ。

しかし、その表情は嘘つけず、疲労が蓄積された顔色が浮かび上がっていた。


「……………」

「……ははっ…………ってそんな嘘はバレバレか…」


そう言って、ブロは重々しく息を吐く。

どうやら無理をし続けていたらしく、見るからに辛そうな彼女にアチルは足を止め、その場で一時の休息を取ることを決めた。





どうぞ、と水の入った小さなコップに手渡すアチル。

隣に座るブロはそれを素直に受け取り、心を落ち着かせるように口から喉奥へ水を流し込み、ゆっくりと肩を下ろし、息をついた。


「悪いわね」

「いえ……、それにして、貴方の顔色は地上にいた時は正常だったと思うのですが、いつから」

「……多分、ここに来てから……かな」

「何故、貴方だけ」

「そうよね。アンタは何もなくて、こっちが参ってる状態って普通に考えたらおかしいことよね。………まぁ、大体の検討はついてるんだけど」


そう口にするブロの言葉はどこか疲れ切っていた。

一方でアチルは自身と彼女との接点を考える。体格や性別、仕草や状態、そして、自身たちが使用する攻撃手段…、そこまで考えが回り、アチルは一つの可能性に気づく。


「まさか…称号ですか?」

「ええ、正解」


未だ称号についての謎が多く残る中、魔法使いであるアチルには何もなく、対して称号使いのブロだけがこの場所に影響を受けていた。

称号とこの地下空間、全くの関わり合いがないと思われていたこの二つが関係している。

アチルは次の言葉を待つようにブロを見つめ、彼女も何かを諦めたように次の言葉を口に出し、話を続ける。


「多分、私が持ってる称号のオリジナルが原因なんだと思うわ」

「オリジナル?」

「ええ、正真正銘の純粋の称号って意味よ。まぁ、このことを知ってるのは関係者を上げるなら、私とチャト、後はいつも邪魔してくるファルトっていう六本剣使いぐらい何だけど」

「…………」

「元々、称号っていうのは広まっちゃいけない物だったのよ。全部が同じってわけじゃなくて、系統は色々あるんだけど、私の場合は受け継がれる系だったらしくてね。生まれた時からオリジナルとしての力を持ってたの。でも、それにしたって一握りの可能性って感じだから称号がそう多く広まることはない。そのはずだったんだけど……」


ブロの言葉が示すもの。

それは今ハンターたちに出回っている称号というアダ名に対しての事だった。


「ここ最近で広まった称号の件ですか?」

「……そう、何でか分からないけど、称号が出回るようになった。それも出来損ないのレプリカ…偽物ばかりがね。オリジナルの私たちから見ても一目でそれが偽物かどうかわかるほどの安ものだったわ」


オリジナルの称号を持つブロたちはレプリカを見分けることが出来る。

その言葉を聞いたアチルの脳裏に不意に一人の少女、勇者の称号を手にするセリアを顔が浮かび上がった。


「……なら、セリカの持つ称号は」

「ああ、あの子のは……多分、オリジナルよ」

「? 多分とは」

「うーん、何か違うって言うか、私たちのとは別種な感じがするのよね」

「別種…………」

「まぁ…そのことは今は後に置いとくとして、そんなわけでレプリカが出回り始めた頃、旅の途中で私はチャトと出会ったの。で、そこでチャトからどうやってその偽物を作り出されているのか、それを一緒に探し出して欲しいって頼まれて、そのまま流れるようにレプリカの詳細を掴む為に一緒に行動をしてたってわけ」


ブロはそこで話を止め、視線を一向に先が見えない暗闇の通路へ向ける。

そして、微かに震える手を握り締め、彼女は口を動かす。


「まぁ、でも……どう見ても、この場所にその真実っていうのがあるみたいだけど」

「……………」

「私のオリジナルがそう叫んでるのかしら。まるで何かを急かすように……。だとするなら、ここは黒狼とは関係ないのかもしれない。だから、アンタは」


ここから出た方がいい。ブロはそう言おうとした。

だが、アチルはその場から立ち上がると即座に口を開き、


「まだそうだとは決まったわけではないです」

「……ぇ」

「確証がない以上、私も一緒に行っても何も問題はないはずですから」

「いや、でも」

「それに、私はあのタロット使いの彼女から頼まれてもいるんです」

「へ?」


それはセリアたちと離れる前夜にアチルがチャトを呼び出し、話を終えた時の事だ。

彼女は一緒についていくこととなるブロを気遣うように、ある言葉を言い残していた。

そして、内緒ですよ、とアチルに伝えていたのだ。

これまで共に旅してきた者として、少しの別れに対しての心遣いだったのだろう…。

今まさに、目を見開かせるブロに対し、アチルはチャトから伝えられた言葉を口に出す。


「ブロが暴走しないよう、見張っておいてほしいと、彼女は言ってました」

「…………………」

「よほど、貴方のことが心配だったようですね」

「…ははっ……全く、アイツは」


旅の最中に偶然出会ったブロとチャト。

最初はただ目的を果たす、それだけの関係だった。だが、旅をしていく内に関係はゆっくりと交わるようにして重なり、知らぬ間に変化を起こしていた。

喧嘩もする。仲直りもする。談笑もする。いつしか、他人では言い表せない友人として、一緒に行動することが当たり前になっていたのだ。


「…今度、会ったらイチャモンつけてやろうかしら…」


ブロは小さく口元を緩ませ、そっと立ち上がる。

さっきまでの辛さが嘘だったかのように、今では前向きな気持ちが強くブロの心を動かしていた。

そして、ブロは思う。

ここに来たことで、やっとレプリカの謎が解ける。そして、その真実を彼女に伝えることが出来る。

一人何かを背負い、頑張る少女のために、してやれることがある…。


「行きますか?」

「ええ」


共に真実を求める為に。

アチルとブロは、再び不穏を漂わせる暗闇の通路を歩き出していく。

そこに、望まぬ真実があろうとも…。







































だが、時間を掛けずして。

真実は、彼女たちの直ぐ目の前にやってきてしまった。



「…っ…あ」


今まで静寂だった通廊の奥から、掠れた声が聞こえる。

声に続いて足音も…。

突然の事態に反応し、アチルとブロは共に姿勢を構え、暗闇の奥から出てくる正体不明の存在に警戒を強めた。

そうしている間にも、コツコツ、コツコツ、と足音が聞こえてくる。

それは遅く、どこか頼りない音に聞こえた。

喉唾を飲み込み、緊張を維持しながら敵を見据えようとするアチル。そして、魔法によって強化された彼女たちの視界にその姿が見えた時、そこにいたのは…、



「あ、ァ、たす…けッ…て…」



ボロボロの衣服に加え、憔悴しきった頬が目立つ十歳をみたないほどの少女の姿だった。

真っ直ぐ歩くことが難しく、壁に寄りかかるようにしてここまで歩いてきた風にも見える。

驚愕の表情を浮かべるアチルたちだが、対して少女はその次の言葉を返すまでもなく地面へと倒れてしまった。


「ちょっと、一体何があったのッ!!」


危険だと理解していても、体が動いてしまう。ブロは構えを解き、急ぎ少女の元に駆け寄ろうとした。

だが、その視界に突如、異様な物が映った。


「なっ…!?」

「た、あ、た、」


それは少女の背中に張り付いたような、肉の塊。

さらにそこから伸びた細い触手が少女の首筋を突き刺し、肉の塊は鼓動をするかのように胎動を続けている。

まるで何かを吸い取っているかのようなその動きをしていた。衝撃的な光景に共に言葉をなくすアチルとブロ。

だが、そんな二人に対し、少女は最後の力を振り絞り、顔を上げて…その両目から涙を流す。

そして、幼い子供にも関わらず、その小さな口で少女は力の限り、言葉を残した。


「お願いぃ、…妹を…た、す、け…ぅ…」


…そこで、小さな音が落ちた。

上げた顔を地面に横たわらせ、声はそこで途絶え……少女の瞳に光が消えた。力なくその場に横たわる体から生気は抜け、今この瞬間に小さな命が途絶えたのだ。

肉の塊は自身がとりつく体が死んだことを理解したのか、次の標的をブロに定め、触手を抜いたと同時に飛びはね襲い掛かってくる。

だが、その瞬間にブロは鞘から抜いた双剣を振り下ろし、その醜い塊は細切りに切り裂かれ、消滅する。


「……何よ、これ…」

「………」

「一体何なのよッ!! これッ!!!」


腹に収まりきらない怒りがブロの口から放たれる。

ブロにとって、この少女が一体誰なのかはわからない。しかし、ただ一つ分かることがあった。それは彼女もまた称号を持つ者、オリジナルだと言うことだ。

そして、自身と同じ力を持った者がこうして死んだ、目の前で。

双剣の柄を強く握り締める一方で、ブロは歯を噛みしめながら、ゆっくりと魂の抜けた少女の元に近寄り、若干と残る体温を確かめつつ涙が零れた状態で見開いたままとなる瞳を、そっと手を当て、閉ざした。



「…大地の理を理解し我、今、契約を実行せし理にあり。この身を天秤にかけ、さらに対価を求む契約を了解する。それは、魔法は我であり、我は魔法であるという定めを越え、幾戦にも動じず、手に余りし力の酷似を許可せし者であり…ッ」


アチルは目の前で無残にも死んでいった少女に悲痛な表情を向けつつ、竜脈の力を発揮する状態になるべく言葉を唱える。

その間にも感知魔法の範囲をここだけでなく、この地形全てに対しての広範囲へと広げ、サーチを掛けた。

本来なら、アチルは制限時間もあるこの力はあまり使いたくなかった。

余力を残すためにも、極力使用を控えていたのだ。しかし、今目の前で命を絶った少女の姿を見た直後、想像したくない最悪の予感が頭を過ぎり、行動に移したのだ。

こんなことが現実でなく、ただの想像であってほしいと願いながら……。

だが…、



『……………っ!?』



情報が一斉に収束されアチルの元へと集う。

その直後、彼女の顔色は真っ青となり、全身の熱が一瞬で冷めた。

さらに追い打ちを掛けるように感知によって次々と送られてくる情報にアチルは耐えかね、魔法を遮断し堪らず口に手を当て吐き気に翻弄されてしまう。。

少女を壁よりに寝かせるブロは突然と身を屈め込ませたアチルの様子に気づき、急ぎ駆け寄る。


「ちょっと、大丈夫なの!?」

『……は、はい。大丈夫です。……それより、急いで先に……真っ直ぐ進みましょう』

「ぇ…」

『もしかすれば、まだ間に合うかもしれませんからッ』

「ッ!?」


その言葉を聞いた直後、ブロは少女が最後に残した言葉を思い出す。

アチルは呼吸を落ち着かせ、直ぐさま状態を立ち治す一方でブロは先行して、真っ直ぐと続く通路を駆け出す。

慎重な行動をする暇なんてない。ブロは全速力で駆け出し、暗闇を進む。そして、その先で微かに光が差し込むのが見えてきた。

もしかすれば、敵がいるかもしれない。

と、そんな推測すら考えるまでもなく、ブロは滑り込むようにその場所へ足を踏み入れた。

そして、明かりの下に広がっていた、そこには…。



「…ッ!?」



赤黒い魔法陣の明かり下で、十字架に縛られる多くの人々。

その誰もが背中や足、胸などに肉の塊がしがみつき、触手を差し込まれ、永続的に何かを吸い取られている。誰も顔を上げず、頭を落としたまま悲鳴一つすら出さない。

半径一キロにも及ぶ広さの中で、縛られる人々の光景は、異様すぎた。

ブロは全身から冷や汗が吹き出し、思考が思うように働かない。

だが、そんな時だ。

彼女の耳に一つの声が聞こえた。


「お、おねぇ、……ちゃ……ん…」


その言葉に振り返ったそこには、先ほどの少女にどこかしら似た顔立ちの少女が十字架に縛られていた。

そして、その体には少女の下半身を飲み込まんとするばかりの肉の塊がしがみつき、二本の触手が太ももと二の腕に突き刺さっている。

ブロは堪らず、双剣を引き抜き、その少女の元に向かおうとした。しかし、そんな彼女の腕を後から追いついたアチルが掴み、動きを止める。


『待ってください!!』

「ッツ!? 放せッ、このままじゃ!!!」

『下手に外して、死んでしまったらどうするんです!!!』

「ッ!?」

『…私がやります』


アチルはそう言葉を告げブロを下がらせ、少女の前に立つ。

肉の塊は今も尚、胎動を繰り返し動いている。その異様な姿と苦しむ少女を見つめ、強く手を握り締めるアチルは腰に構える魔法剣ルヴィアスに対し、その名を言う。


『ルヴィアス』


その直後、剣が宙を浮いたと同時に柄が消え、刀身は四つの刃に分裂した。

さらにアチルは少女に向けて手のひらをかざし、


『水源は全てを清め、炎は個を更に清める……行けッ!!』


次の瞬間。

少女の体を淡い光が包み、触手が追い出されるようにして引き抜かれ、その刹那にルヴィアスが肉の塊を切り裂き、消滅させた。

十字架からの縛りが取れ、前へ倒れる少女の体をブロが受け止める。


「あ、かあ…あ」

「大丈夫、しっかりして!」

「…おね、ちゃ、ん、……」


少女は返事を返した。

ブロの表情が和らいだ。だが、少女は…。


「お、ねぇ…ちゃ、……ど、こ、ど…こ…?」


ブロでも、ましてアチルでもない。

誰もいない、その場所に手を伸ばし、姉を探す。

そう、……少女の目は、既に死んでいたのだ。

視力を失った状態で、何もない方向へと手を伸ばし必死に姉を呼んでいるのだ。


『……』

「……ねぇ、早く他の人も助けてよ」

『…………』

「ねぇ、ちょっとッ! アンタ聞いてるの!! 早く助けなさ、い…」


ブロは黙り込むアチルに怒りをぶつけようとする。

だが、彼女の顔を見た時、ブロは……悟ってしまった。


「…まさか」

『…………』

「う、うそよね、……そんなの……だってまだ、そこにったくさん………ねぇ、ちょっと! 答えなさいよ!!ねぇッ!!!」


認めたくない。

そう心の叫びを抱きながらブロは叫ぶ。

だが、たとえ龍脈という限りない力を持ったとしても、魔法には決してかなえられないものがある。



魔法は全てに生かせるものではない。

たとえ、どれほどの力があろうとも、既に死んだ者を生き返させることは…できないのだ。


「ッツ!!!!」


ガン!!! と拳を地面に殴りつけるブロ。

地面が砕け、そこから垂れ落ちた血が零れる。


「ゆるさない……、絶対にッ、ゆるさないッ!!」


ブロは震え上がった拳をさらに強く握り締め、その怒りを口から漏らす。

同じオリジナル、称号使いとして、こんなことをしでかした者を必ず殺す。ブロの瞳に殺気が籠もった。

そして、アチルもまた同じように怒りを込めた瞳で視線を動かし、


『いつまでそこに隠れているつもりですか?』

「!?」


アチルの言葉が放たれる中、それに応じるように何本もある十字架の一つ。その影から、一人の男が姿を見せる。

キッチリとしたタキシードのような衣服に加え、腰には数本の剣が鞘に収められながら帯刀され、さらに手には一丁の拳銃が握られていた。



新たに現れた敵を見据える、アチルとブロ。

そして、その男は沈黙が漂う空間の中で、不気味な笑みを浮かべるのだった。





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