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異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫  作者: GORO
第一章 異世界へやってきた少女
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鍛冶師のルーサー

六話に続き、七話も再編集しています。

 


 第七話 鍛冶師のルーサー



 雲一つない青空が広がる快天の天気。

そんな風景の下で、昼の一時が過ぎた頃。マチバヤ喫茶店で昼食を終えた客がちょうど帰る所だった。


「ありがとうございました!」


 最後の客が店を出て、そのドアが締ったのを確認したのちに、美野里は息を吐きながら両腕を上げ凝った肩をほぐした。


というのも、ここ最近。

マチバヤ喫茶店では忙しい毎日が日夜、続いているのだ。



その原因となったのは、先日完成したコロッケという新作料理をメニューに加えた件について。


(まさか、ここまで客がくるとは思わなかった…)



客出入りが以前にも増して、慌ただしい。

本来なら喜ぶてき所なのだが、店員一人でこの仕事量は本当きつかった。


んー…もういっそうのこと特定の曜日だけにしようか、と美野里は真剣にそんな事を考えていた。



 そんな時だった。


 チリリン、とドアの鈴が鳴り、美野里はすぐ様、営業スマイルで客を迎えた。

 が、その途中で、


「いらっしゃいまっ、ゲッ!!」


 直後に美野里の笑顔が崩れ、同時に嫌な表情へとスマイルが変化する。


 そして、そんなスマイルを向けられた客は、大きな溜め息を吐く。


「客に対して、ゲッってなんだ、ゲッって」


 その者は、美野里とそう変わらない年相応の外見を持つ一人の少年だった。


 目に掛かるほどの前髪を額に巻いたタオルで上げ、腰には様々な工具器具を収納したポーチが装備されている。

だが、一番に印象が強かったのは、背中に紐に掛けられた長い柄が特徴的なハンマーだった。



 そして、そんな少年はというと美野里の反応に対し眉間にシワを寄せながら、その口を開く。


「ほら、今から武器の点検するから、店閉めろ」


 少年の名は、ルーサー。

 インデール・フレイムにいくつも建つ鍛冶屋の中の一店舗を営む鍛冶師の一人だ。







 マチバヤ喫茶店はかなり時間が早いが、ドアにクローズと書かれた看板が吊され閉店した。



 そして、現在。

二人がいるのは喫茶店の地下、数部屋と分かれるうちの一つ。

美野里の私室であり、


「……………」


美野里は頬を膨らませながら、ふてくされた表情を浮かべていた。

 対して向かいに座るルーサーもまた眉間にシワを寄せたまま、手を前に出しながら、彼女にある物を要求する。


「ほら、さっさとダガーを見せろ」

「…………………」


 しぶしぶ。

本当にしぶしぶ、美野里は部屋に置かれた机の中から愛用の武器。

六本のダガーを取り出し、ルーサーにそれを手渡す。


「……刃こぼれはしてないな」


 手に取った武器を見つめ、そう呟くルーサー。

一方の美野里は、ムスっとした表情で愚痴を溢す。


「何で私の所にくるのが、いつもアンタなのよ」

「……それを言いたいのは俺の方だ」



いつも来る。

その言葉の意味は『点検』を指し示す。


 というのも、インデール・フレイムはでは、月に一度、点検をかね鍛冶師一人がハンターたちの元に尋ね、武器を見に来る決まりとなっており、その点検は同時に敵対都市のスパイがいないかなどを調べる二重検査となっているのだ。

だから拒否することも許されず、こうしてルーサーに武器を見せなくてはいけなくなっているのだが、


「………………」


 ルーサーに武器を渡してから数分が経つ。

 美野里はチラチラと視線向け、ほんのりと赤らんだ頰を隠しながら、ルーサーの検査が終わるのを待っていた。

そして、ようやく検査が終わった。

と、そこで、


「おい」

「っ!? なっ、何?」


 大きく息をつくルーサーは六本のダガーを床に並べるようにして置き、もう一度目の前に座る美野里に視線を向ける。

 そして、冷や汗を流す彼女にルーサーは言った。



「お前、また勝手にダガー強化しただろ?」

「ぅ!?」



 それは、見事に図星だった。

 肩をビクつかせ、下手な嘘をつくような仕草を見せる美野里に、ルーサーの呆れた様子で再び溜め息を吐いた。


「何でお前はいつもいつも、武器の調整とか諸々を自分でやるんだか。普通こういうのは鍛冶屋でやってもらうもんだろ?」

「っ、う…うるさいわね。それは、そのっ」

「後、お前」

「うっ!? ま、まだ何かあるっていうのっ!?」


 そう言って顔を引きつらせる美野里。

 だが、そんな反応に動じることなく、ルーサーは睨みを強くさせながら、ある言葉を口にした。




「お前、最近…………衝光、使っただろ?」

「!?」




 ギクッ、と今度こそ完全に美野里の表情を固まる。

 確かに、今見て持っている武器で巨大ショルチを倒す際に衝光を使用したのは事実だ。

 だが、まさかアレを使ったことがこんな見るだけの検査でバレるとは思いもしなかった。



 困惑した表情を浮かべる美野里。

 だが、ルーサーは真剣な表情を向けながら、彼女に言葉を続けていく。


「衝光は確かに強力な力だ。けど、あれは武器の耐久が一気に減るって、前に言ったはずだろ?」

「っ…………それは」

「それに、この都市で売ってるダガーは基本初心者用の武器だ。どれだけ強化しても耐久値はそう増えないんだよ」

「…………………」


 彼は別に美野里を嫌って、そんな厳しい言葉を言っている訳ではない。


 確かにダガーによっては強力な物もある。

 だが、美野里の持つダガーはその外見から見ても、何の変哲のない初心者用のダガーなのだ。


 ただ、そこいらにあるダガーに比べれば少しは頑丈なだけ。

それしかない。

 だから、低レベルの武器をどれだけ強化したところで、その伸びしろは限られている。


「……………」


 当然、その事は美野里も十分に理解していた。


「外でもし武器が壊れたらどうする? もし、それで窮地に陥ったら一環の終わりだろ」

「……………」

「お前そんな初歩的なことを、この街で一年も住んでいてまだわからないのか?」

「っ!?」


『一年』も。

 その言葉がその時、美野里は顔を酷く歪ませた。



 彼女は好きでこの世界に初めからいたわけではない。


 突然と、この途方もなく知らない世界へと来てしまったのだ。

だから、この世界で生きてきたわけでもないし、ましてこの街に好き好んで住んでいたわけでもない。



 だから、何も知らないくせに、住んでいて知らないのか? など言われたくもなかった。

 ルーサーの視線が向ける中、顔を伏せる美野里は、ボソリと口を開く。


「……うるさいのよ」

「…あ?」

「――っ!! ルーサーには関係ないでしょ! 私の武器何だから一回衝光使ったぐらいで、ぐちゃぐちゃ、言わないでよっ!!」


 叱られた子供が反発するように美野里はルーサーの顔を睨み、声を荒げた。

 苛立った口調でヤケになって勢いに任せてそう言ってしまったのだ。


 だが、その言葉が不味かった。



 ドンッ!! とルーサーは怒りをぶつけるかのように床を殴りつけ、その音と彼の表情に美野里は体を震わせ怯んだ表情を見せる。


「だからッ、その一回が命取りになるって言ってんだろッ!!」


 完全に頭に血が上ってしまっでいた。

 ルーサーは目を見開き、怒りに任せ言葉を放つ。


「そんなガキみたい言い訳で、もしヤバい奴に立ち会った時、武器が使い物にならなかったらどうするつもりなんだ!!」

「っ……そ、それはっ」

「一本潰れても残り五本あるから大丈夫か? ふざけんなッ! そんな甘い考えで生きていけるほど、この世界は甘くないのがまだわからないのか!? そんないい加減な覚悟ならハンターなんかやってんじゃねえよ!!」

「…ぅっ、ぅぐ、うるさい!! だからっ、それもこれも、ぁアンタには関係ないことでしょっ!! もう、ほっといてよっ!!!」

「―――ッ!?! お前ッ、いい加減にッ」


 我慢の限界を越え、ルーサーは美野里に詰め寄ろうとした。


 だが、そこで彼は不意に気づく。



「っ、ぅっ……っ」



体を震わせながら、両目に涙が溜める美野里の姿に。


「……っ」




 初めから、ここまでするつもりはなかった。

 まさか泣かせてしまうまで追い詰めてしまうとは、思いもしなかった。


 興が冷めたように、ルーサーは元いた場所に座り直し、次第に頭に昇った血が退き始める。


「………悪い」


 ルーサーはそう言った小さく口を紡いだ。

 さっきは言い過ぎたいったが、その言葉に偽りはない。

鍛冶師として、この世界で何人ものハンターたちを見てきたからこそ言える言葉だ。



 そして今日は、それをもう一度美野里に深く理解して貰おうとここまで来たのだが……最終的にこうしてこじれてしまった。


 ルーサーは深い溜め息をつきながら顔を伏せ、その一方で美野里は彼の様子に戸惑った表情を浮かべる。



 どうにも居心地の悪い静寂が漂う中、刻々と時間が経っていき、どうしたら良いのかと言葉を発せずにいる美野里。

 だが、そんな中でルーサーはゆっくりと口を動かし、


「……悪かった」

「…え?」

「その、言い過ぎた」


 先にルーサーが頭を下げた。

 その言葉に、驚いた表情を浮かべる美野里。


「そ、そんな事……その…私こそ……」

「………ただ」

「?」

「確かに、お前にとって、俺は関係ないのかもしれねぇ………けど」

「……ルーサー?」


目を見開き、彼の顔を見つめる美野里。

そんな彼女に対し、ルーサーは意を決したように、



「…それでも俺は、お前が」


 言葉を、言おうとした。

その時、だった。




「美野里、こんにちわーっ!」




 バン! と直後。

 私室のドアが勢いよく開けられ、魔法使いのアチルが乱入してきた。



 またいつものように喫茶店の戸締まりをしたドアは魔法でこじ開け、侵入したと見えるが。

今、この現状において、


「って、えっ!?」

「…ぁ」


 アチルはその瞬間、美野里の瞳に溜まった涙に気づいた。

 そして、その近くには見知らぬ少年もいたが、それよりも先に、今目の前で泣き出しそうな表情を浮かべた美野里の姿に対し、アチルの脳内で、


「…………………………っ!」


 ブチン、と。

頭の中で何かが切れた。

そして、無意識に彼女の口は魔法を唱えていた。

 



「……み、美野里にっ」

「ちょっ、アチルっ!? ま、待ってっ」

「何やってるんですかああああああああああああ――――っ!!!!!!!」




 密室でそんなことをすればどうなるか、口で言わなくても分かるでしょ!! と心中の言葉も空しく…。




 バシャアアアアアアン!! と魔法によって放たれる大量の水が部屋一面を覆い尽くし、少年を含めた計三人は水に呑み込まれていった。


 そして…その後で、



「アチルーーーーっ!!!」


 魔法使いの少女に制裁が落ちた事は、言うまでもない。




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