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異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫  作者: GORO
第二章 [劫略されし真名] be isolated - 災厄の剣姫
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本当の存在、踏み出す新しい一歩

本当だったら昨日一気に出したかったんですが、どうにも文が固まらなかったので今日になりました。

出来たらまた感想貰えると嬉しいです。あと、ブックマーク登録など本当にありがとうございます!!



第六十八話 本当の存在、踏み出す新しい一歩




暗闇の縁で少女は見た。

見たことのない世界に落とされた一人の少女が心から願った思い、それが流れゆく時間の中で二つになっていたことを。

一つは、元の世界に帰りたい。

もう一つは、彼とこれからも一緒にいたい。

複雑な気持ちが混ざり合う中で、どの道に進むか分からず立ち止まっていた少女はいた。

だが、それは昔の話だ。

今は違う、少女は大人の女性となり、その願いは失った。

ただ、密かに抱く、恋心だけを残して…。





警報が今も鳴り続ける。

だが、その音よりも先に天井からくる赤い光を未だ灯す魔法陣がセリアの視界に入った。


「こ、ここは…」

「気がついたかい」


セリアはおぼろげな意識の中で、声が聞こえた場所へ視線を向ける。すると、そこには優しげな表情を浮かべる魔法使いレムボートの姿があった。体に残る気だるさを気にしながら上体を起こす彼女は、そんな目の前に立つ老婆に名前を尋ねる。


「貴方は…」

「私の名前はレムボート、美野里ちゃんをあそこから助けた……しがない魔法使いさ」


あそこから助けた。その言葉を聞いた直後、セリアの脳裏に瞬間とあの時の記憶がこみ上げようとする。しかし、浮き出ようとしたその手前で何かに遮られたように記憶の風景が真っ白になった、そんな感覚がセリアの脳内を染める。


「?」

「もう大丈夫じゃよ、ちょっとばかし強い封印は施した。そう簡単に壊れることはないじゃろ」


レムボートが指さしたのはセリアの髪を一束にする役割を持つ、五つの花びらを模したような髪留め。

以前まで勇者の称号としての力を防ぐ役割を持っていたが、一度目の暴走によって封印する力が弱まっていたのだ。そして、それが二度目の暴走を起こす切っ掛けとなった。

セリアは指さされた髪留めに手を当て、普段と何も変わっていないことを確かめると、安心したように小さく息を吐いた。

一度は精神崩壊に陥りそうになったセリアだったが、今では落ち着いた表情を浮かべている。これなら大丈夫じゃな、と口元を緩めるレムボート。

対して、自身の状態を確かめ終わったセリアは不意にこの場いたもう一人の女性、美野里の姿が見えないことに気づく。


「あ、あの……美野里さんは…」


そう言って、レムボートにセリアは美野里の所在を確かめようとした。

だが、その時。目の前に立つ彼女が密かに手に持っていた小さな水晶が微かに光を放っていたことにセリアは気づく。

そして、その水晶の中で、


「えっ………」


今も傷つきながら地面に倒れる町早美野里の姿をセリアは目視してしまった。

災厄の剣姫とまで呼ばれ、どんな致命傷な傷でも治してしまう、そんな不死身な肉体を持つはずの彼女が今まさに劣勢に立たされている。

信じられない、といった表情を浮かべるセリアは掠れた声でいつしか思ったことを呟いていた。


「なんで、だって美野里さんの体はどんな傷でも治るんじゃ、そ、それなのにっ」

「それは誤解じゃよ」

「えっ?」

「…………最強と皆は口にするが、実際には美野里ちゃん自身でもその力を完全に制御することはできていないのじゃ。そして、今回はその弱点を突かれたみたいじゃが」

「そんなっ…」

「………どうやら、敵もおおよその準備をして来たみたいじゃが」


水晶から向こうの戦況を確かめていたレムボートは未だ険しい表情を浮かべている。

セルバーストという力を持つファルトは新しい力を手に迫り来る敵を今もなぎ払っているが、しかしそれが敵を倒す決定打とはなっていないのも事実。

このままでは美野里だけではなく、ファルトやタロット使いのチャトも含め全員がやられてしまう。

眉間を歪ませ、レムボートは深刻な表情を浮かべながら、目の前に立つセリアを、じっと見つめる。

これは一か八かの賭けだ、とレムボートは思う

失敗すれば、皆を巻き込む大惨事へと繋がる。

だが、それでも今、この状況で唯一の希望を持っているのは彼女だけなのだ。


「セリアちゃん」

「は、はい」


レムボートの言葉に姿勢をこちらへと向けるセリア。

対して、彼女は心を落ち着かせながら、力強い思いを乗せつつ、落ち着いた口調でセリアに問う。



「おぬしに問う、おぬしは勇者かい?」

「!?」



その瞬間、セリアの心に強烈な衝撃が走った。

明らかな動揺が見え、全身を震わせる彼女。まるでその言葉に恐怖したような、そんな弱々しい表情さえ見せる。

だが、レムボートもそこで退くわけにはいかなかった。何故なら、この短い時間全てに自身たち全員の運命を賭けているのだから。


「な、なにを」

「今のおぬしは、勇者を名乗れるか、と聞いているのじゃ」



あ、当たり前……、と一瞬叫びそうになるセリア。

だが、そこで言葉が止まってしまう。あの時と同じ、美野里に自身の称号を名乗ろうとして出来なかったように、勇者という言葉を口にできない。

何故出来ない。そうセリアは自身にも問いただすほどに、歯を噛みしめ顔を歪ませることしかできなかった。


「……」

「やはり、おぬしは今勇者を名乗ることが出来ないみたいじゃな」

「…………っ」


セリアは魔王との死闘の中で、勇者としての誇りや自信をなくしてしまっていた。

美野里との会話の中で、称号の名を口に出来なかったのも、それが原因だ。

しかし、レムボートは実際そのことに薄々と気づいていた。そして、そういった揺らいだ精神状態が一番の称号が暴走する切っ掛けを生むということも。

だから、早期にでも彼女の髪に付けられた封印を強化しようと美野里たちの元にやって来たのだが、結果そこで彼女の暴走に立ち会うこととなったのだ。

セリア自身もなくしてしまったものを自身でも気づいている。

だが、例え気づいていたとしてもそれをどう取り戻せば良いのか、分からずにいるのだ。

二人の間に、無言の沈黙が落ちる。

そんな中、レムボートは思い出を話すような素振りで目の前に座り込むセリアにそっと話し掛ける。


「おぬしは、アチルを知っているんじゃろ?」

「ぇ、…なんでアチルさんの」

「なんでも何も、アチルは私の孫じゃ」

「えっ……」


これは美野里ちゃんにもまだ言っていないことじゃよ、と口元を緩めるレムボートは続けて話を続ける。


「おぬしにはアチルは言っていないじゃろうが、実は彼女もまた魔法使いという名を捨てた存在になろうとしておる」

「…………」

「それはおぬしと同じで、魔法使いと名乗れなくなってしまったからじゃ。同じように悔やみ、力があれば、何者にも負けない存在になれば、と力に固執してしまっているのじゃ。そして、美野里ちゃんを助けたくて、魔法とは違った力を手にしてしまおうとしている」


確かに、セリアは一度アチルが黒狼との戦いの中で驚異的な力を使っていた所を見たことがある。

そして、その力を見た時、彼女は思ってしまった。

『強い』と、勇者である自身とは比べものにならない。大勢の人々を守るだけの力を持つ彼女が羨ましい。

セリアは密かに、一種の憧れをアチルに抱いてしまっていたのだ。

だから、アチルが力に固執してしまっている。その言葉に引っかかりを覚えてしまったセリアは声を震わせながら言い訳をするかのように口を動かし、


「……で、でも…アチルさんは強い」

「強さの話では無い、気持ちの問題じゃよ。おぬしもまた同じように力に固執してしまっているのじゃな」

「…………………」

「確かに勇者にとって力は絶対必要なのかもしれない。じゃが、魔法使いは違う。魔法使いは人々を救うためにある。誰かを救う、それを一番に考えなくてはいけないのじゃ」

「……その言い方だど、アチルさんは違うって言いたいんですか」

「そうじゃ」

「美野里さんを救いたい、そう思って今も頑張っている。それなのにっ!」

「あれは、救おうとしているんじゃない。悔いているのじゃ。そして、止めようのない心を無理やり誤魔化そうと我武者羅に動いているにしかすぎん」

「ッ! でもッ」

「ならおぬしに問う。もし仮に魔法を捨てしまったアチルは一体何をするために、ある存在じゃ思う?」

「えっ」

「魔法使いは誰かを救うための存在じゃ。ならそうでないアチルは何じゃ」

「そ、それは、…一緒じゃ」

「一緒じゃと思うか? アチルが皆を救う者だとして、周りにいた者達は彼女をそんな目で見ていたかい?」

「………………」

「往き道をなくしたものは、それ以上の先を行くことはできない」

「…………」

「勇者も同じじゃ、いや、それ以外にも力を持つものたちは皆それらに関わってくる」


力を持つ者には、それ相応の何かを持たなくてはならない。

魔法使いなら誰かを救うという意思を、なら勇者は……………、


「…………………っ」


無言で考えるしかできないセリアは、直ぐに答えを出すことは出来なかった。

だが、戦況はそんな彼女に考える時間を与えてはくれない。

何故なら、


「今のファルトたちじゃ、おそらくアヤツには勝てない」

「!?」

「時間の問題じゃ。………さて、そう聞いて、おぬしはどうする?」


答えを示せ。

早急なまでの問いにセリアは困惑の表情を浮かべる。未だ勇者が何をするものなのか、それすら見えていないにも関わらず、


「私は……」


どうすればいい。

どう答えを出せば良い。

早まる鼓動を意識しながら、どこまでも続く海のような疑問に思考が溺れてしまいそうになる。

そのまま下手をすれば意識すら、持って行かれてしまう。

力む体を震わせ、セリアは戸惑うしか表に出せない。

だが、その時だった。


「美野里ちゃんは、あんなことがあっても自分の信念を曲げわせんかった」

「……………!?」

「それこそが、おぬしやアチルとは違う、彼女の強さなんじゃ」

「強さ……」

「そうじゃ、おぬしは確かにアチルに憧れを抱いたじゃろう。しかし、それは力に対してじゃないはずじゃ、それはおぬしが心の底で抱いていたものに響いたから、そう思った。そうじゃろ」

「…………」

「なら、後は簡単なことじゃ。答えを見つけ出したいなら、心の中にあるもの全てを吐き出すのじゃ。そうすれば、自ずと見えてくる」


それは今まで誰も教えてくれなかった答えを引き出す式のようなものだった。

何かを導き出すには、それに繋がるレールが必要になる。

レムボートはそのレールをこの短い時間の中で引いてくれた。だとすれば、セリアがすることはそのレールをたどり、答えを弾き出すこと。


「わ、私は……」

「…………」

「…………私は、弱い」

「…………」

「あの場で何もできなくて、それから勇者を一度も名乗れない……そんな私は、弱い…ッ!」

「うむ」

「だけど!!」


アチルの姿をみて、チャトの姿を見て、そして、セリア自身をも救ってくれた美野里を見て、彼女は思った。叫んだ。


「もう、あんな思いはもうしたくない! 強くなりたい!! もう、目の前で誰かが倒れて、それで情けなく自分が助けられるなんて嫌だ!!」


それは彼女の今思う、心の叫び。

そして、それらが繋がり、見えてくる本当の願いと勇者に必要な答え。

それは、



「私は、自分に負けない、皆を救える勇者になりたいッ!!!」








「がっ!?」

「ファルト! ッきゃ!?」


分裂し続ける男たちの猛烈な攻撃がついにファルトの体勢を崩し、チャトにまで被害が及ぶ。

途切れかけるファルトのセルバーストに加えて、チャトが召喚した二体の猛獣もグッタリと地面に倒れ動けずにいた。

そして、その隙をつくかのように男たちは美野里へと近づいていく。


「それじゃあ、そろそろいいかな?」

「っ!」


再び無防備となった倒れる彼女へ投げられる無数の球体。

美野里は腕で顔を伏せ、きつく目をつぶる。

だが、その次の瞬間だった。



「流し尽くせ、アルグート!!!」



突如、大洪水のような大量の水が向かってくる球体を押し返しながら後方へ流し尽くした。

それは第三者の声によって引き起こされたものであり、その声の主は今美野里の目の前に立つ。

勇者の称号を持つセリアは腰にヴァファート、片手にアルグートを持ちその場に立つ。


「せ、セリアちゃん…」

「お、お前…なんで」


セリアの登場に美野里たちは驚いた表情を浮かべる。

一方で群がる男たちの内の一人が小さな笑いを吐きながら、ぬれた手で前髪を上に押し上げ、口を開く。


「ほう、お前が勇者か、…でも勇者って顔には見えねえが、今さらの登場とは、勇者にしては良い身分だな」

「……はい。…………確かに…そうですね」

「あ?」


男の言葉に対し、セリアはすんなりとその言い分を認める。

そして、続けて彼女は顔を伏せながら口を動かし、言葉を続ける。


「今の私は勇者という言葉を名乗れずにいます。魔王との戦いで何一つ守ることが出来ず、ましてやその力に振り回されてしまう、本当に今まで何も知らず勇者という名を名乗っていた自分が馬鹿みたいです」

「…セリアちゃん」

「あ? なんだ、やる気がねえのか? ならそこをどけよ」


グチグチと自分を責めた言葉を言う。

そんな彼女に苛立ちを覚えた男は眉間に皺を寄せ、今にでも襲い掛かりそうな体勢へと構えを変える。

だが、そんな中でも、


「でも、それでも私は勇者になりたいんです!!」

「!?」


セリアは決意を秘めた瞳で男を見据え、言葉を続ける。


「たとえ、この先他人の思いに押しつぶされそうになろうとも。皆に疎まれ、避けられようとしても。……その力で、自分の身がボロボロになろうとしてもッ」


片手を髪へ、一括りにする五つの花びらを持つ髪留めへとやり、その留め金―――――封印に手を掛けながら、



「それでも、私は勇者になりたい。お母さんのような、皆の希望をかなえる存在になれるように! そして、美野里さんやアチルさんのように、私も皆を救える、そんな憧れられるような人になれるようにッ!!」



その瞬間。

セリアは封印を開放した。

髪止めが全て外された直後、白を彩っていた衣服は深紅へと染まり、スカートは炎へと変化し、さらに一束に止められていた髪の間から炎が漏れる。

そして、男の視線と、セリアの真っ赤な瞳が交差した時、


「うッ!?」

「ッ!? な、なんだ…こりゃッ」


男の記憶が、セリアに流れていく。

それは酷い記憶だった。美野里の辛い記憶ではない。男が今まで行ってきた悪行の数々、それがスクリーンのように流れ込んでくる。

吐き気がする。こんな記憶など見たくも知りたくもない。


「こんな所で、負けられないッ…」

「ッあが」


こんな記憶がなんだ。

あの人がその身に味わった地獄に比べれば、ゴミに等しいものだ。

そして、そんな記憶に押しつぶされて、負けるわけにはいかない。

いや、負けたくない。

何故ならッ、



「…私が、絶対にッ、皆を守ってみせるんだああああああああああああああああああああ!!!!」



勇者を名乗るため。

皆を救うため。

そして、自分という存在を見失わないために、初めて勇者としての一歩を踏み出すのだからッ!!





爆炎がセリアを包み込みながら天井へと巻き上げる。

それは勇者の暴走とは比べものにならないほどの火力と、輝かしい彩りの炎。

だが、バッン!! と直後、炎は一瞬でその場で弾け飛び、散りゆく炎の火種が空からチラチラと落ちてくる。

そして、その下に立つ、その者は…、


「ゆ、勇者……」


ヒラリと揺れ動く赤いマント。それはネクタイだった部分の先が短くなった分、後ろに伸びたようにその布が伸びる。さらに長い炎のスカートはその原型を確かな者へと進化させ、スカートは膝より少し上へと短くなり、残った部分は長いロングソックスへと変貌を遂げた。

さらに手に持つアルグート、腰に収められたヴァファートはその姿を組み合わせような新たな姿へと進化した。

刀身の半分は刀、半分は剣。鍔には大きな宝玉は備えられ、その分を纏めるように装飾が施されている。

そして、最後にセリアの髪は再び一括りにまとめ上げられている。

それは左頭部ではなく後頭部、新しく変化した炎を漏らす髪止めに括られ、炎はユラユラと揺れ動く。しっかりとした乱れもない純粋な彩りを見せる炎。

閉じられた人目をゆっくりと開き、深紅の瞳を見開くセリアはその時、やっと称号の覚醒をその手にしたのだ。

称号の覚醒。

それは勇者への覚醒へと繋がる。


「ハハッ、…ただの見せかけだろうが!!」


目の前で変貌を遂げたセリアに怖じ気づく男は、叫び声を上げ再び分裂を始めようとする。

だが、そんな時間を彼女は与えない。


「ヴァファルグート、『キャンセル』」


新たに進化した武器、ヴァファルグート。

以前から持つ能力を打ち消す力を発動した瞬間、男の力は発動することなく相殺されたのだ。


「な、なんで…おい、どうなってんだ!?」


あまりの事態に戸惑う男、だが、そうしている間にもセリアは攻撃の姿勢を構え、口を開く。

ただ合体したわけではない。その能力もまた進化しているのだ。


「ヴァファルグート、『バーニングフレイム』」


刀身が深紅の炎に包まれ、その形状を刀の状態で維持し続ける。

そして、そのまま構えを深く、強く作り、居合いの状態へと持って行き、セリアは標的を絞った。それは男の周囲に未だ残る分裂した男たち。


「居合い抜刀」


セリアはそれら全てを斬る為、短く呼吸を加え、危険を感じた男が逃げの体勢に入った。

その、瞬間に居合い構えの技を放つ。

それは砲台のように、そこにあるもの全てを切り裂くカマイタイのような一撃。



「斬炎砲・鈎爪」



刹那。

本体たる男を除く、それらの分裂した男たちが炎の鈎爪によって切り裂かれ、その身を塵へと化した。

圧倒的な攻撃。瞬殺の一撃だ。

もし、あれが分裂した分ではなく自身へと当たっていたら、


「ッツ!?」


男の心に恐怖が芽生え、予想を越えた事態に慌ててその場から逃げ帰ろうとする。だが、その男の目の前には、既にセルバーストを纏うファルトは間近まで接近し、


「ッ、やっめ」

「やめるかよ、食らいやがれッ!!」


両手に被われ作られたセルバーストの爪を手に、ファルトは男の懐に向かって、技を放つ。

必死に止めろと叫ぶ男に。

師匠に対し、お前はそれに応じたのかと問い正すように。


「クライ・クロウガッ!!」


言葉によって更に強化された強靱な爪。

両斜めのクロスを描く切り裂きが、男の肉体を切り裂き血しぶきがその場で上がる。

強烈な攻撃を至近距離で食らった。

白目を向く男は上空へと体が吹き飛ばされた。そして、そのまま地面に落ちる、はずだった。


「!?」


ファルトたちが見つめる中で、男の周囲に赤黒の魔法陣が展開された直後、男の体はまるで陣に飲み込まれるように吸い込まれていき、そのまま姿を消してしまったのだった。

間近まで迫り、やっとの思いで倒した。

にも関わらず、逃げられてしまった。


「……クッソ!!」


身に纏ったセルバーストを解いたファルトは悔しげに地面を殴りつけ怒りをぶつける。

あの場で上空へ吹き飛ばしさせしなければ逃げられることはなかった。

自身の誤った選択に怒りが収まらなかった、が、その時だ。


「大丈夫ですよ」

「……あ?」


背後まで近づいていたセリアが小さく口元を緩めながら、自身の手に持つ進化した武器を指さし、


「あの男の人が使う称号の力なら、さっき封印しましたから」

「………封印?」

「はい」


ニッコリと笑うセリア。

称号の封印。あまりにも聞き慣れない言葉に思考を停止してしまいそうになったファルトだったが、一方で近くに寄ってきたチャトは、


「封印ってそんなことまで出来るの?」

「はい、なんか出来るようになったっていうか」

「それ後で詳しく教えてくれると嬉しいかも」

「いいですよ、それじゃあ行きましょうか」


そう言って女子同士でその場を後にしようとする二人。

茫然とその場で立ち尽くすファルトはしばらく固まったのちに、



「お、お前ら、勝手に話し終わらして行くなよッ!!」



一人叫びながら、頭を抱えながら唸るファルトは、さっきまでの緊迫感は何だったのだと思うほどにそこには平穏が戻っていたことに大きな溜め息を吐く。後、良いところを持って行かれた気もする分、消化不良気分だった。

そして、そんな子供たちが賑わう一方で、ゆっくりとした足取りでセリアは地面に倒れつつ茫然とする美野里の元へと向かい、


「帰りましょう、美野里さん」

「……セリアちゃん、その…大丈夫なの?」

「はい。…あっ、そうだ」


と、セリアは美野里の前で背筋を伸ばしながら立ち…。

突然の事に首を傾げる彼女に対して、セリアは口元緩めながら、あの時の紹介をやり直すように、




「初めまして、私は『勇者』の称号を持つセリアと言います。これからよろしくおねがいしますね、美野里さん」




彼女は勇者としての新しい一歩を踏み出したのだった。

セリアはもう迷いはしない。憧れも、希望も、そして、確固たる意思を決めた。だから後、決めた事を貫き生きていくだけだ。

何の曇りもないほどにスッキリとした表情を見せるセリアは笑顔を浮かべ、そうして前へと踏みだし歩いて行くのだった。







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