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異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫  作者: GORO
第二章 [劫略されし真名] be isolated - 災厄の剣姫
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二つの行先と心への決意




第六十話 二つの行先と心への決意



セリアの前に下り立つ黒色衣装に包まれた少年。

黒いオーラ―によって即死した黒狼たちを見渡し、ローブの男はゆっくりと視線を先に立つ少年へと向ける。


「オマエ、何者だ」

「黙れ、お前に名乗る名なんてねぇ。それよりも、…………お前、どこでコイツらを手に入れた?」


少年が問うは、その場一帯に倒れる黒狼について。

息の根を失った獣たちを知り、その上でそう疑問を問いただす。対して男は口元を緩ませながら興味深そうに瞳を少年へと向ける。


「ほぅ……………コイツらを知っているのか」


言い終えた、直後。

瞬時に展開させた魔法陣から再び黒狼の一体を召喚し、大砲のように少年に向かって獣を発射させた。奇襲にも近い先手。陣から飛び出る黒狼は大きく開いた咢で目前の対象を噛み殺そうと迫る。

だが、


「ダークネスセル」


少年は冷静に言葉を発する。

その瞬間、コートに納められた六本の短剣に再びセルバーストの力が宿り、剣に纏わる黒いオーラはその姿を強靭な爪のような容姿に形を変化させていく。

そして、間近まで迫る黒狼に対し、少年は片手でコートの端を掴むと前へと大きく翻し、黒い爪は鉤爪のごとく目前まで来た黒狼の頭蓋骨を切り裂く。

至近距離の一撃は黒狼の命を奪うに十分な威力を秘めていた。

鈍い音を立てながら崩れ落ちた獣。

だが、自身の手駒が殺られたというのに対し、ローブの男は表情一つ変えることなく少年の行動を注意深く観察していた。

黒いオーラを纏う短剣、手足のごとく扱う戦闘スタイル。手駒を捨てることでそれらの動きをより正確に計っていたのだ。


「ふっ、………セルバーストか」

「……何がおかしい」

「いや、何………魔法使いに称号使い、それにセルバーストと来た……」


男が語る、この世界において今述べた力は特殊な力として分類されている。

例え、使う者がそれらを普通のものだと言ったとしても、傍から見る者たちにとってはやはり特別なものに見えるのだ。

そして、男は敢えてそれらの名前口に出した。そのことに少年は警戒を強め、目の前に立つ存在に殺気を向ける。

だが、次の瞬間。

男は笑みを絶やさない口元で、言った。




「あの忌々しい災厄が揃えば、まさに傑作だな」




その言葉は瞬間、その場の空気を凍らせた。

遠まわしいのように語られた言葉に少なからず反応を見せたセリア。

元々この旅のきっかけとなった災厄という言葉に体が無意識に反応し、力を込めてしまったのだ。

それは、気にし過ぎ、と言われればそうかもしれない。

だが、そんな彼女と同様に、大きく反応を見せた者がもう一人いた。

それは目の前で立つ、六本の短剣を武器として扱う少年だった。彼は両目を見開き、歯噛みした直後。コートに纏わされていたオーラが荒々しい炎のようにその純粋な黒の力を上昇させていく。

まるで、少年の感情に呼応しているかのようにだ。

対して男はさらに笑みを強く浮かべ、言葉を続ける。


「そこで怒りを覚えるという事は、オマエはあの女と関わりを持っていると吐いている様なものだぞ」

「………黙れよ」


少年は男の言葉を一蹴した。

鋭く細めた瞳で目前の敵を見据え、今すぐにでも跳び出しそうな勢いをジッと押し殺し、口を開く。


「お前はここで潰す」

「ふっ、………………なら私はここで一度退くとするか」

「ッ、逃がすかッ!!」


男がゆっくりと手を動かそうとした瞬間、少年はコートからオーラを纏う短剣を抜き取り、男に向かって大きく腕を振り上げながら投剣のごとく武器を投げ放った。

真っ直ぐと一直線に放たれた短剣はオーラに包まれながらも乱れることなく目標に向かって突き進み、その姿は黒色につつまれた槍のように空気の圧などお構いなしに貫いていく。

銃弾には劣るもその速さは尋常ではない速さだ。

黒の槍と化す短剣は既に男の目前に迫り、後数秒で激突しようとしていた。

だが、短剣が目標を突き刺そうとした、その時。


「ふっ」


一瞬、男の姿がブレた。

まるで小石を投げ捨てられ揺れる水面のように、大きく―――


「!?」


黒の槍は男を貫いた。が、その姿が大きく歪んだだけで、攻撃はただの突き抜ける形となり、目標を越した武器はオーラをなくして元の短剣へと戻ってしまった。

少年はその瞬間、男を倒したという手応えが全く感じられなかったことに歯噛みする。

対して、自身の腹に大きな穴を開けるローブの男は顔の前に手をやり、



「また会おう、少年。双剣と…………そして、勇者」



それは別れの挨拶かのように、男は手を振りながら自身の歪みを激しくさせる。

そして、悪寒を感じさせる笑みを崩さないまま、その姿は霧のように薄く染め、セリアたちの前から姿を消した。

セリアは意識を集中させ、男の気配を探るも既にここから去ったのか、気の一つすら感じられない。

もし、この場に魔法使いがいたならば、今の現象について何かわかったかもしれない。もしかすれば、男が逃げた行先なども掴めたかもしれない。とはいえ、アチルのいないこの状況ではそれすら敵わない。

悔しさを顔に滲み出させるセリア。

その一方で、男を逃がしてしまった少年は舌打ちをうち、


「戻れ」


ぼそり、と少年はそう呟いた直後。離れた場所で転がり落ちていた短剣が再びオーラを纏い、ゆらりと宙を浮くと同時に飛び出して主人の元へと戻っていく。

コート端に取り付けられた鞘へと、カチンと音を立てながら納まった。その音と同時に切迫として空気は次第に四散していく。


「はぁー……」


セリアの傍にいたブロは、目の前での強敵と戦えなかった事に溜め息を吐きながら双剣を鞘に納め、腰に手をつけながら前に立つ少年に口を開く。


「それで、また私たちの邪魔をしに来たの?」

「………ああ、お前らが称号を使うかぎりな」


どうやら少年とブロは互いに知った仲らしい。

機嫌の悪い表情を浮かべるブロに対し、少年は素気ない表情で顔を背け、そのまま立ち去ろうとする。

と、そんな彼に慌ててセリアは声を掛ける。


「あ、あのっ!」

「?」


声に反応し振り返る少年。

セリアがこの時、少年に声を掛けようと思ったのには、ある切っ掛けが二つあった。

一つは黒狼について。黒狼の急所を知っていることやローブ男に黒狼の詳細を問いただしていたことから十中八九、何かを知っているだろうと思われる。だが、それよりも、もう一つのローブの男と彼が交わした会話について、セリアの心は向いていた。


『あの忌々しい災厄が揃えば、まさに傑作だな』

『そこで怒りを覚えるという事は、オマエはあの女と関わりを持っていると吐いている様なものだぞ』


忌々しい災厄。

あの女。

それぞれの単語となる言葉が、同時にセリアが探そうとしている一人の少女。災厄の剣姫に関わっていると考えられる。そもそも、少年と剣姫には何かしらの繋がりがあると踏んでいた。だからこそ、早くその答えを知りたかった。

セリアの声に反応して、彼女を見つめる少年。不意にローブの男が口にした双剣に続くもう一つの称号の名を思い出す。


「お前が、勇者か」

「あ、はい…」

「……………………お前、まだ」

「?」


少年はその時、何かを言おうとした。

だが、首を傾げるセリアに気づき、その続きとなる言葉を飲み込んだ。


「いや…………やっぱりいい。それで、要件はなんだ?」


真っ直ぐと前を見据える少年。

その堅物のような表情からは、情報を簡単に教えてくれない雰囲気を醸し出す。

しかし、そこで止まる訳にはいかない。セリアは固唾を呑み、呼吸を整えてから本題となる話を始める。


「あなたは、……………美野里という名に聞き覚えはありませんか?」

「ッ!?」


その瞬間、少年はローブの男が口にした時と同様に反応を見せた。

だが、その顔はさっきまでとは明らかに違い、驚きの動揺が走っている。


「……お前、何でその名前を」

「その反応は、やっぱり彼女のことを知っているんですね」


予想通りの反応を示した少年。セリアは目を細めながら、答えを知ろうとする欲求を抑えつつ言葉を慎重に選びながら、口を開く。


「私は……、いえ、私たちはその美野里という女性を探しています。もし、何か知っているなら」

「待て、………それよりも先にこっちから聞きたいことがある」

「?」

「お前、インデールのハンターか?」

「え?」


何故そこでインデールという都市の名前が出たのかは、わからない。

だが、少年がその名を口にした時、その顔はより険しく、いつ怒声を吐き出してもおかしくない程に殺気を醸し出していた。

セリアはその気に一瞬、怖気つきそうになる。

だが、そこで退くわけにはいかない。それは自身の為、そして、美野里という女性を探し続ける―――


「いえ、私はインデールのハンターじゃないです」

「………………」

「でも」


セリアともう一人の魔法使い。

ずっと、彼女を探し続けるアチルのため。

この状況で、彼女の名を口にして、少年がどういう反応を見せるかはわからない。だが、それでもこの場で彼にその名を知ってもらわないといけないと思った。

だからセリアは言う。

たとえ、それが間違いだとしても、



「もう一人の探している人はインデールのハンターです。名前は、アチル。彼女はずっと美野里さんという人を探しています」



インデールという名を口にした瞬間、少年の顔は水滴を吸い取った紙のように怒りの形相に染まった。

彼から発せられる殺気がその場一帯に溢れ出るかのように。

だが、


「………アチル」

「!?」


セリアがその後に続けた言葉に対し、少年はその名を口にした。

そして、その表情は一変して苦々しいものに変わっていく。それは怒りでもなく、素知らぬといったものでもない。

とはいえ、少年にとって彼女の名はあまり聞きたくない名前だったらしい。彼はセリアの視線から逃れるように離れた場所に立つブロに視線を変え、口を開く。


「……………おい、ブロ」

「何よ」

「今日の所はこっちで退いてやる。お前もそうだけど、チャトにも十分言っとけよ」

「………………」

「称号を使いすぎるな、ってな」


少年はそう言葉を残しセリアを再び見つめた。

そして、お互いに視線を交差させ、しばらくして――――何も喋らずそのまま背を抜け走り去っていく。


「………………え?」


去り際、目線を外した少年。

あれは完全に、逃げた。


「って、ちょっと待ってください!?」


セリアは手を伸ばし止めようとするも、既に少年は屋根から飛び降りてしまっていた。

直ぐにでも後を追いかけようと考えた。しかし、遠く離れた場所で戦っていたアチルのことも気にかかるに加えて、背後には昨日と敵対したブロの存在もある。


「何よ?」

「……いえ、別に」


後ろに振り返り、ブロを見つめる。

対してそう口にする彼女に対し、セリアは大きく溜め息を吐くのだった。












黒狼との戦いを終え、空の色は橙からダークブルーへと変わっていく。

建物や物の一式に掛けられていた魔法は時間が経つと同時にその効力を失い消えいく。そして、その夜は賑やかとなる。

村に住む人々にとって、今日起きたことは酒の摘まみに合わせた噂の糧となっていたのだ。

そうして、それと同時刻。


「ぅ……」

「大丈夫ですか、アチルさん」


瞼を動かし、ゆっくりとその瞳を開くアチル。

視界には心配そうな顔色で彼女を覗くセリアの姿があり、その背後には木材で出来た天井が視界に入っていた。どうやらあの場所から移動して別の場所に運ばれたらしい。


「ええ、……大丈夫です。心配を掛けましたね、セリア」

「え、いえ……そんなことは」


そう手を前に出し遠慮したような表情を見せるセリア。

対してアチルは自身の声がソプラノから元の地声に戻っているのを確認し、同時に自身の状態が完全回復にまだ近づいていないことを理解する。

アチルは重い上体を起こし上げ、何とか片手で体を支えることは出来た。


「ところでセリア、ここは?」

「えーっと………その」


頬を人差し指でかきつつ、どこか言い淀んだ表情を浮かべるセリア。

首を傾げるアチルだったが、その時――



「ここは私たちの宿だよ」



セリアとは違う、もう一つの声。

アチルは直ぐさま視線を変え、視界に二人の女性が映る。

一人は数時間前に遭遇したタロット使いの少女。そして、もう一人は昨日セリアと死闘を繰り広げた双剣使いの女だ。


「ちゃんとした自己紹介がまだだったね。私の名前はチャト。で、こっちが」

「ブロよ。私の場合は二回目何だけど」


二人の自己紹介を黙って聞き終え、一度目を閉じるアチル。次に、彼女は側で直立姿勢を取るセリアにその冷たい目線を向けた。

もちろん、何で敵か味方かもわからない彼女たちと共に行動しているのか? とか。今まで貴方は何をしていたのか? とか。

………色々と言いたいことは山ほどある。

だが、あの状況下の中で自身もチャトを前にして気を失ってしまったという負い目もある。人のことは言えないか、とアチルは溜め息をつきセリアから視線を外すのだった。


「………………」


色々なことが今日一日でたくさんあった。

そのため、一度今日起きたことをしっかりと話し合う必要があった。セリアから一通りの顛末を聞き、チャトやブロからの情報も詳しく取り入れていく。

そうして、数時間後、何とか事情を呑み込めたアチルは静かに目を伏せ、


「そう、ですか…」

「あの人は、確かに美野里さんの名前を知っていました。それに、アチルさんのことも」

「……私の、ことも?」

「…………はい」

「……………」


あの時、現れた少年は確実に何かを知っている。

だが、それを知るには明らかに情報が足りない。それも、街や都市を聞き込む程度では

取り込めない、シークレットな情報が。

セリアは振り返り、後ろにたつ二人の女性を見据える。


「ブロさん、それにチャトさん」

「へぇ、やり合った相手に礼儀正しいじゃない」

「ブロ、そこで態々もめるようなこと言わないの」

「……ここまでしてもらって申し訳ないことは重々わかってます。でも私たちは彼の、あの人の事を知らないといけないんです。だから、お願いします。あの人の事なら何でもいいので教えてくれませんか?」


おねがいします、と頭を下げるセリア。

アチルはそんな彼女の後姿を見つめ、もう一方ではブロとチャトは互いに顔を合わし、小さく溜め息をつく。

それは仕方がないといった態度でもあり、彼女たちはすんなりと口を開いてくれた。


「彼の名前はファルト。君も見たと思うけど彼はセルバーストを使う人で」

「いつも私たちの邪魔をするのよ」

「もう、横から邪魔しないでよ」


ブロの茶々をあしらい、チャトは話を続ける。


「彼がいつも現れる時は、大体決まって称号使いの暴走を止める時かな」

「暴走?」

「うん、称号の暴走は自我をなくして暴れ回る人もいるし、有り余る力で倒れちゃう人もいるんだけど。彼はそんな人たちを止める為に出てきてくれるの。でも私たちの場合は…」

「私たちは大丈夫だって言ってんのに、あの野郎はいつも茶々入れてくるのよ。はぁーイライラする」

「………まぁ、基本は私じゃなくて、この前みたいに勝手に暴走して襲い掛かろうとするブロを止めてくれているっていうのが事実何だけどね」

「………チャト、偉くアイツを庇うわね」

「だって、本当の事でしょ?」


しばし、互いを睨むブロとチャト。

と、そこで今まで黙って話を聞いていたアチルが口を開く。


「それで、そのファルトという彼はどこにいるんですか?」

「それがわかれば私から決闘しに行ってるわよ」

「私たちも彼を探してるんだよね、まぁ…いつも途中で撒かれるんだけど」


どうやら彼女たちも、そこまではわかっていないらしい。

六本剣使いの情報は少し入るも、そこから先までの進展はないらしい。再びその場に沈黙が落ちる。

だが、その時。

何かを思い出したように、ブロが口元を緩め、


「あ、でも今回はちょっと収穫はあったわよね!」

「え?」

「あの黒狼のことよ、黒狼。何でか知んないけどアイツ、あの狼の事知ってるみたいだったし」

「「…………………」」

「あの時、ローブの男が消えたと同時にそこらの黒狼も消えたけど、アンタたちが倒した黒狼は残ってるんでしょ? だったらそれをチョチョイと調べれば、あの野郎の居所なんてあっという間にわかる、って……………アンタたち、なに固まってんのよ? コラ、こっち見ろ」


ブロが話している中、アチルとチャトだけが顔を背け視線を合わせようとしない。

というか、両者ともに苦い表情を浮かべている。

怪訝な表情を浮かべるブロ。対してそんな中でセリアが小さく手を上げ、


「あの…」

「何よ」

「黒狼って確か、あの時………アチルさんが跡形もなく吹き飛ばしたんじゃないでしたっけ?」

「………………はあッ!!?」


アチルが黒狼を倒した時、セリアは上空で消し跳ぶ獣をその瞳で目視していたらしい。

彼女の動体視力がどれだけ良すぎるんだ、と聞きたい場面でもあるが、それよりも!


「………………」

「手がかり探してる奴が、手がかりなくすって笑い話にもならないわよ」

「………すみません」


頭を抱えるブロに素直に謝るアチル。

これでまた彼を知る手がかりが失った。さっきまでの沈黙よりもさらに重い沈黙がその場に漂った。

共に溜め息を吐き、次はどうしようと皆が思う。

そんな矢先、




『黒狼の事だったら、僕が知ってるけど?』




突然とその声が部屋の中央で発せられた。

皆が顔を上げ、驚いた表情を浮かべる。そこには―――


「ぐ、愚者!? なんで勝手に出てきてるの!?」


チャトのタロットカード。

愚者を名乗る、緑衣装に身を纏う少年が宙を浮きながらそこに召喚されていた。

―――主人の意思とは関係なく。


『だってカードのままって暇だし』

「暇って、だったら戦いとかに参加してよ!」

『そこは、ほら、……気分で』

「気分とかどうでもいいし!!」


再び、口喧嘩を広げるチャトと愚者。

このままでは話が進まない。セリアは慌てて二人の仲介に入り、話を戻す。


「あ、あの!! 黒狼について何を知ってるんですか!?」

『ん? ああ、……そうだったね。えっと、僕が知ってるのは黒狼の住処と黒狼に関わってる都市について』

「え、住処と都市? それってどういう」

『もしかして、あれが自然の生き物だと思ってた? そんなわけないじゃないか、全身の骨をへし折られても生きてるんだよ? まぁ、初対面だったら仕方がないかもしれないけど、あの黒狼はそもそも自然から生み出た物じゃないってことだよ。いうなら人の手によって作り出された人工生命体』


人工生命体。

よく理解できない言葉に皆が頭を捻る中、ブロは疑問をぶつける。


「ちょっと待ちなさいよ。人工なんちゃらとか、よくわからないけど、そもそも今の都市でそんなモノとか作ったりできるわけ?」

『ブロっちの言い分は分かるよ。でも…まぁ、できるというよりも出来ちゃったっていうのが正解だね。都市で作ったはいいけど手に負えないから離れた場所で勝手に捨てたら、そこで黒狼が勝手に繁殖したっていうのが真実だよ』


人によって作られた生物が、さらに増殖し増えていった。

つまり、あの個体は少なからずも多く今も生存しているということになる。

愚者の話を聞いていたチャト。不意に疑問を浮かべ、尋ねた。


「……なんでそんなに詳しいのよ、愚者」

『詳しいも何も、だって黒狼はそもそもこっちの世界のだし』

「え、こっちって?」

『主人である君なら分かるだろうと思ったけど、知識ならあるはずだよ。神々の世界に存在した巨大な黒狼のこと』


と、愚者が口にした。

その時だった。





「神々の……フェンリル」




彼が言うよりも早く、チャトでもなくブロでもない。

上体を何とか起こす、アチルはその名を告げ、愚者を静かに見据える。


『正解。まさか君がそっちの分野まで足を踏み出してるとは思わなかったよ。道理であの』

「……………………」

『……いや、口が過ぎたね』


何やら怪しげな会話を交わす二人。

愚者の秘密主義に対しては、前々から知っている。そんな今更のことに呆れるブロは脱線しようとしている話を再び戻すため、再び口を開く。


「それで? アンタはその二つの場所を知ってるでしょ? だったら、早く教えなさいよ」

『相変わらずせっかちだね、ブロッチは』

「後、そろそろその言い方直さないと斬るわよ」

『はいはい、わかったよ。……で、黒狼の住処は今も変わってなかったら多分ここから西に行った所にあるトコヨ洞窟だと思うよ。そして、もう一つの黒狼を生み出した都市は、まぁ昔から色々と曰くつきの』


愚者は皆の視線が集まる中、そっとその都市の名を口にした。

それは黒狼にとってもだが。

同時に、アチルにとっても少なからず関わりのある都市―――



『銃都市、ウェーイクト・ハリケーンだよ』

















休息を十分に取れた。

体の自由もよくなり、何とか動けるようになったアチルは今、宿から離れた小さな広場に来ている。時間も遅く、人っ子一人いないその場所。

不意に後ろから足音が聞こえてきた。

振り返る、そこには心配げな表情を浮かべるセリアの姿があった。


「ウェーイクト・ハリケーンですか……」

「アチルさんは、行ったことがあるんですか?」

「……はい、と言ってもあまりいい思い出もないですけどね」


ウェーイクトの名前を耳にするのは、二年ぶりになる。

あの時は、美野里を脅迫していた男たち一行をまとめて送還するためフミカと共にあの都市に転移しに向かったが、正直。

良い思い出もなく、ましてや思い出すだけで嫌気がする。

だが、今回はそんな小さな感情に左右されるわけにはいかない、状況でもある。


「ウェーイクト・ハリケーン。もし、そこに黒狼に対しての情報があるのならば、一緒に都市に行くという手もあります」

「……………………」

「でも、もし外れだとしたら」

「………はい。愚者さんは、私とチャトさんが黒狼の住処に行った方が良いって言ってました」

「…………そうですね」

「アチルさんは、本当にそれでいいんですか? もしそこに美野里さんが」

「確証がない以上、どちらを選んでも一緒ですよ」


そう、そこに確実な正解があるとはかぎらない。

一つに全部を掛けるか、両者となる二つに望みを掛けるか。

アチルにとって、それは重大であり、また決死の決断でもあった。あれから長い時間をかけてやっと手の届く距離まで来た。

ここで立ち止まる訳にはいかない。

ここで、…………どちらかを決断しなければ――


「…………アチ」

「セリア、もし貴方が美野里を見つけたのなら、お願いしたいことがあります」

「え、アチルさん?」


夜風が吹く中、横髪がなびく。

揺れ動く毛並の奥で、優しげで、そして、悲しげな表情を浮かべるアチルは目の前に立つセリアを見据える。

そして、そんな彼女にアチルは伝える。

それは、もしかしたらの望み。

昔の自身を思い出させる、その言葉を―――


「また、美野里のご飯が食べたい、と伝えてもらえませんか?」

「え……それだけで、……いいん」

「他にもたくさんあります。でも、………今の言葉さえ伝えれば、美野里なら私のことだって直ぐにわかってくれると思うので」



アチルはそう言って、口元を緩ませる。

だが、それは、より悲しさを滲み出させたようにその時、セリアは感じたのだった。

夜の風は冷たく、そして、静かだ。

そして、それはまるで心の高まりを沈めるかのように、流れていく。


目的の為、分かれる道。

明日は互いに正解を求め、離ればなれになる。

互いの思いを心に留め、彼女たちは明日の出発を心に決めるのだった――――






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