表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫  作者: GORO
第二章 [劫略されし真名] be isolated - 災厄の剣姫
58/96

旅立ちと遭遇


第五十七話 旅立ちと遭遇



出発は早い方が良い。

称号を持つ者との死闘から一夜が経った早朝、アーサーたち一行はアチルの住む宿の一室。居間に置かれた椅子やテーブル、それらを隅に退いたことで出来た広いスペースの床上で今まさに旅立ちの準備に移ろうとしていた。


「ルア、二人をレイスグラーンの出口まで頼めるかい?」

「はい」


騎士団長アーサーの言葉にそう返事を返す魔法使いのルア。

居間の中央に片膝をついたルアは、懐から杖を取り出すとそれをまるで水面に木の枝をつけるかのように床の上に杖をコツリと当てた。

すると、杖先から床一面に光を纏った細い線が一定の速さで広がり続け、そこに綺麗な円形の陣と細かい文様が記された魔法陣が形成された。

ルアが使用した魔法は転移魔法の中でも中級クラスの魔法、シアルオール。

陣を利用した多数のものを正確な場所まで転移させる魔法だが、初級の転移魔法に比べれば手間と魔力消費の大小が激しく大体の魔法使いは初級の転移魔法で移動するのが普通となっている。

しかし、この魔法には小級とは大きく違う点が一つある。

それは転移する際に設定された対象のものに対して回復効果を与えるといった追加魔法が備わっているのだ。


「…よし」


光の線が繋がり、完全なる魔法陣が形成された。

床一面に展開された魔法陣の完成。そこへ今回、転移の対象たる二人の人物が歩み寄る。魔法剣使いのアチルと勇者の称号を持つセリア。

薬や武器等の装備、それらを含めた旅の支度を十分にし終えた二人はルアの横を通り抜け、魔法陣の中央へと歩いて行く。

と、そこで目の前を通るアチルに対し、ルアは咄嗟に声を掛けた。


「あ、アチルっ」

「………………………」


しかし、アチルからは返事どころか視線すら向けてはくれない。

今までと変わらない接し方。ルアは声を詰まらせつつ顔を伏せ、それと同時に自身への嫌悪を強くする。

アチルの態度が変わってしまった。その原因を作ってしまったことは彼女自身もまた認識している。

また………、全てをそう簡単に許してもらえないということも。

弱々しく、肩を縮こませるルア。

アチルの後ろにつくセリアも、そんな彼女の姿を気に掛けるように静かに見つめる。

だが、その時、



「……貴方たちを恨んでいないといえば、嘘になります」

「!?」



突然の言葉がその場を静寂にさせた。

驚いた表情で顔を上げるルア。視線を向けたそこには真っ直ぐとルアともう一人、騎士団長のアーサーを見据えるアチルの姿があった。

アチルは二年前、彼らがあの場所で起きた都市崩壊の中にいたことを知っている。

そして、数少ない真実を知る者たちであることも。さらに大衆の中で一人の少女を見捨てたこと。


(……………………)


例え、そこにどういった感情があったとしても。――――あの時から、アチルにとって彼女を見捨てたインデールという都市を恨み、そこに住む者たちを憎まなかった日はない。

だが、そんな払拭されない状況の中で、アーサーたちはあの日の事を後悔し、そして協力してくれようとしている。

払拭できない分、心境は複雑だ。

しかし、それでも…。


「………っ」


小さく唇を紡ぐアチルは顔を背けながら、小さな声で呟く。



「それでも、…………貴方たちが美野里のことを考えていてくれたことに……感謝しています」



それは久々に見る彼女の素顔だったのかもしれない。

両目を見開き、茫然とするルア。アチルの隣にいるセリアでさえも、キョトンとした表情を浮かべている。

だが、そんな中でアーサーは小さく笑みを見せると、横顔を向ける彼女へと一歩前へ踏み出す。

そして、こちらに顔を向ける彼女に対し、


「頼んだよ、アチル」

「………はい」


これが和解に至ったというわけではない。

しかし、それでも今まで止まっていた彼らの時間がまるで油を通してやっと動き出した歯車のように動き、回り出す。

対話を終え、後ろに下がるアーサーたちが見守る中、ルアの魔力が魔法陣に注がれる。

そうして、


「シアルオール!!」


二人のハンター。

数々の目的が背負いながら、アチルとセリアはインデール・フレイムから、その姿を消すのだった。











ルアの転移魔法によってアチルとセリアは一瞬にして違う大地に足をつける。

足触りは木の板とはまた違った、ゴツゴツした岩と土が交じり合った地面だ。そして、次に彼女たちの前に広がった光景、そこは、


「っとと」

「出口につきましたね」


多くの迷路が続くレイスグラーン、その出口。

洞窟を抜けたその先に広がる光景は、青空の下に生えたつ草木に包まれた草原だった。風によって草木はなびき、それに乗ってどこか甘い匂いが鼻につく。

レイスグラーンの外から来たセリアにとって、その匂いは懐かしくもあり、また戻ってきたという安心感もあった。


「さて…」


一方、周囲の光景を一度眺め終えたアチルは、旅立つ前にアーサーから手渡されていた一枚の紙を取り出す。

彼女の手に持たれたそれは、レイスグラーンから銃の都市ウェーイクト・ハリケーンの周囲を事細かく書き記した地図であり大都市の他に小さな集落の村等も詳しく記され、いくつかに赤い印が書き込まれている。

印の場所は、アーサーの情報にあった称号を持つハンターによって被害に会った村々のことを示していた。


「まずは最初に情報があったこの村に向かいましょう」

「あっ、はい。わかりました」


アチルはセリアにそう告げ、懐に紙を直しながら前へと歩き出す。

同時にセリアも呼吸を整え、気持ちを整えると、


「…………………」


そのまま、その場で立ち止まるセリア。

後ろからついてこない彼女に気づいたアチルは、後ろに振り返り、首を傾げながら尋ねる。


「何をやってるんですか?」

「え? いや、また転移するのかな、と思って」


転移魔法という、見た事のない力を目の当たりにしたセリア。

その顔には少なからず期待と興奮が窺え、いつでも魔法を待つ態勢だったらしい。だが、対してアチルはというと、


「できませんよ?」

「え?」

「何か勘違いしているみたいですけど、そもそも転移の魔法は飛ぶに対してもマーキングが必要なんです」

「ま、マーキング?」

「ええ。正確に言うなら行った場所に印をつけて、それから飛ぶみたいなもので一度行った場所じゃないと転移できないんです」

「…………えーと、つまり?」

「地道に歩くしかありません」


行きますよ、と再び前を向き歩き出すアチル。

今の説明を十分に理解できていないセリアだったが、後にガックリと肩を落とし落胆しながらその跡を追うのだった。








アチルたちが初めに向かったのは最初の情報があったとされる場所。行く理由はもう一つあり、それは現在地からも一番に近い村でもあったがためだ。

そして、その村がとくに何に特化したというわけでもない、ほぼ平凡な村であり、またその名前は、


「ラビットオール、行ったことはありますか?」

「いえ、ないですけど」


ラビットオール村。

村の広さもそこそこで宿も二十軒ほどの小さい村だ。

しかし、ハンターたちにとってそこは休憩所でもあり、また道具の補充場としても密かに名の知れた場所となっていた。

実際は、レイスグラーンからも歩いて一時間ほどの近場であるのが大きな要因なのだが、転移魔法で移動し、レイスグラーンを通りぬけることがないアチルにとっては知る由もない情報だった。

そのため、道のりで遭遇する凶暴生物も見た事のない新種ばかり。

とはいえ、数回と凶暴生物に接触はしたが、今のアチルにとってそれは道端に落ちた小石程度の存在でしかない。歩きながら魔法を呟く、で瞬殺だった。

それはもう、武器を手に取り構えていたのが恥ずかしいぐらいのレベルだ。

―――後日談だが、顔を両手で覆うセリアがいたという。


「つきましたね」


そうして一時間ほど歩き、アチルとセリアはついに目的地となるラビットオール、村の入り口に辿りついた。

門前には大きな文字で村の名前が書かれゲートの看板が建てられるが、大都市のような門番の姿はない。

アチルたちは村の名を一度見上げつつ、そのゲートを通り抜ける。

だが、そんな中、


「!」


通り抜けた、その場で不意にセリアは立ち止まった。

そして、彼女は村に建つ宿の一つ。その屋根上に視線を向け、いつでも武器を抜ける体勢に入る。


「…セリア、どうしました?」

「……………いえ、気のせいです」


一瞬、何かに見られていたような視線を感じたセリアだったが、目の前ではそんな彼女の行動に首を傾げるアチルの姿があり、ハンター歴の長い彼女でさえ全く気にする素振りすら見せない。

構えを解き、自身の勘違いだと苦笑いを浮かべるセリア。首を傾げるアチルは肩をすかしながら、一先ず情報を得るため依頼所に当たる宿へと向かい歩き出し、セリアも同じようにその跡を追った。



『―――――!』



だが、セリアが視線を向けた屋根の上。

何もない、その場で次の瞬間。まるで布をめくるかのように透明の何かを脱ぎ取られ、そこに二つの影が現れる。


「あの子、やるわね」

「……そうだね」


不穏な言葉を呟く二つの影。

アチルたちの行く先を静かに見据え、その壁は再びその姿を消したのだった。









集落となる村の依頼所と言っても、大都市とは大きな違いが一つある。

村に配布される依頼の大体は討伐や捕獲といった高ランクの依頼ではなく、採取といった低ランクの依頼なのだ。

そのため外から来るハンターたちも滅多に立ち寄ることもせず通り過ぎ、普段から依頼受付人と数人という寂しい場所となっていた。

セリアに外で待っておくように伝えたアチルは、明かりのない薄暗い室内の依頼所へと入っていく。

中にはテーブルと机が少なからず置いてあるだけで、インデール・フレイムのように賑いという空気からはかけ離れている。

アチルは歩くたびに足元から鳴る痛みきった床の音を耳にしつつ、店内の奥へと進んで行き、そして、部屋の奥で椅子に腰かけ昼間から酒を飲む男。

完全に酔いのまわった表情を見せる依頼受付人に対し、アチルは声を掛けた。


「すみません」

「………何、オマエ?」


顔を真っ赤にさせた男は目を細め、フラフラな体を動かしアチルに振り返り、その容姿を確かめる。

男から見るに、胸元は防具によって隠されているが顔立ちは美形に近い彼女。

衣服だけではどこの出身かはわからず、眉を顰める男。だが、次に彼がアチルの腰に納めた武器。剣を見つめ、その出身である都市を見極める。

ハンターの大半は大都市からの出であり、都市によって武器は決まっている。ウェーイクトなら銃、アルヴィアンなら杖、そして……インデールなら剣だ。

インデールの噂は既に各都市に知れ渡り、それは集落の村も変わりない。

そのためか、アチルの出身を勘違いした男は見下したような瞳で肩を落とし、その口を開く。


「インデールのハンターか……で? 堕落した都市のハンターが何の用だ?」

「はい、あなたに少し聞きたいことがありまして」

「聞きたいもなにも、ほとんど道端に落ちてる石っころみたい都市のハンターだろ、オマエ? そのくせに一体何を聞こうってんだか」


男はそう言いながら手に持った酒を再び口にしようとした。

だが、その時だ。


「ん?」


酒を口内に流し込む為に上げた容器。

その中に入っているはずの酒が何故か落ちてこない。

男の眉間が潜めた、その直後。


「っ!?」


今まで持っていた容器が一瞬にして手に持てない程の感度を出し、男は思わず容器を手放してしまった。

重力によって下へと落ちていく容器。

そして、そのまま床に当たり、盛大な音と共に割れる―――


「?」


コン、と音をたて床の上を転がる容器。

割れる所か中の酒も零れていない。何故と疑問を抱く、だがそこで男はふと気づく。

あの時、手に突然と感じた感度。

あれは熱いとは違う、言うなら冷たいといった感触だった。

それも水に触れた時とは比べ物にならない、あまりの冷たさで痛みを感じる程の感度。


「…………………」


積もった疑問は、いつしか泥酔の酔いを冷ます。

驚いた顔が残る、そんな最中で男は前に立つアチルを見上げた。

さっきまで体格や服装、剣だけを見ていた。しかし、彼はそこで彼女の手に持たれた白い羽の装飾が取り付けられた杖を見つける。

その瞬間、脳内に都市に分かれた武器の種類が浮かんだ。


インデールは剣、ウェーイクトは銃、そして……アルヴィアンは杖。


その時、男は自身の間違え。

目の前にいる彼女の正体に気づく。


「オマエ、杖って…まさか、あの」

「その返答に対して、まず初めに私の質問に答えてからにしてもらえますか?」


アチルはそう言って一歩と足を踏み出す。

ピキィ、と音が鳴り、彼女の足元。床がまるで何かに当てられたかのように一部分の床が一瞬で凍りついた。

酔いは既に冷めている。

だが、それ以上に彼女が見せる魔法の力を目の当たりにした男の頬に冷や汗が落ちる。


(この状態なら、包み隠さず質問を答えてくれますね)


思惑は成功した。

その事に唇を小さく緩めるアチル。

そして、やっと話は本題へと入っていく。



「未知の力を使う称号について、貴方が知っている情報を全て教えてください」


この情報がインデールから姿を消した少女。

それを見つけるための、第一歩だ。









外は青空。

天候も見た限りでは悪くならないだろう。

小鳥も仲間連れで飛び回り、その鳴き声はどこか癒しを感じる。


「……うーん」


手を組み、両腕を空に向けて伸ばすセリア。

アチルの指示で待つこととなった彼女は今、依頼所となる店の前で立ちながら帰りを待つこととなっていた。

だが、店に入る前に魔法使いの彼女が見せた、凍りつくような笑み。

まだ会って間もないセリアでさえ、思い出すだけで今でも寒気が来る。そして、あの後に中の店主がどうなったのかも………考えないようにしよう。

もう、苦笑いしかできない。


「…それにしても」


セリアは視線を動かし、周囲を見渡す。

都市から離れた村は基本、人通りが少ない。今見た限りでも数人の大人が道を歩き、小さな少女が楽しげに走り回っているぐらい……………と、ちょうどその時見ていた少女が盛大にコケた。

思わず、セリアは彼女の元に駆け寄り声を掛ける。


「大丈夫ですか!?」

「う、ぅん…」


若干に涙目を浮かべる少女。

セリアは小さく笑みを向け、その小さな頭をなで、その手つきはどこか手慣れたような仕草にも見えた。

だが、一方で涙目の少女が視線を向けたのは、彼女よりも先に腰に携えた二つの武器だった。

そして、


「お姉ちゃん、ハンターなの?」

「え、あー…………はい、そうですよ」


そう返事を返したセリアに対し、少女は顔を満面の笑みに変え、ズボンのポケットに手を突っ込むと何かを探し始める。

そうして、少女はポケットから、


「これ、お姉ちゃんにって」

「?」


一枚のカードを取り出し、セリアに見せた。

ピエロのような男が描かれた不気味な絵柄のカード。見ただけでも、背筋に寒気が来る。だが、その次の瞬間だった。

グルリ、と表面に書かれたピエロの両目が動き、セリアに見据えた。


「ッ!?」


その直後、強烈な身の危険を感じたセリアはソレを少女から強引に奪い取り、その場から跳び退く。

それは少女の身を守ろうとする咄嗟の行動だった。

だが、その先でさらに事態は急変する。


「なっ」


まるで何かに歪められたように、セリアの視界が歪む。

正確には、彼女の視界がではない。

彼女を含めたその立ち位置そもそもの場所が歪んでいるのだ。そのため、離れた場所では無傷の少女の姿があり、咄嗟に離れた行動は間違いではなかった。

だが、そうこうしている間にも事態は進み、数秒にも掛からずして彼女の周囲が変化を遂げた。

そこは今まで見ていた人や建物、風景すら変わってしまった、崩壊した建物があちこち落ちた草木のない場所。

まさに、あの場所とは別の場所へと彼女だけが移されたような現象だった。

当然、突然のことに動揺するセリア。

しかし、不意に背後から感じた気配。

腰に携える鞘から剣を抜き取ったセリアは後ろに振り返り、戦闘態勢に入る。

そんな最中、


「あなた、おもしろいわね」


声と共に、セリアの視線の先。

壊れた建物の陰、そこから一人の女が姿を現す。

村の住民ではない、長髪の髪、全身に防具とローブを身に纏ったハンターらしき容姿の女。腰には細長い鞘に納められた二本の武器が帯刀されている。

セリアは力を抜くことはせず、慎重に口を開く。


「………貴方は誰ですか?」

「ふふっ、私の名前はブロ、双剣の称号を持つ者よ」

「…双剣?」


彼女が言ったように、腰に持つそれは確かに形状からして剣だろう。

しかし、何故かその武器を見た際に悪寒が走った。女からも少し感じるが、それよりもさらにドス黒いほどの不気味な気配。

それがよりセリアの警戒を強める。

だが、対して次にブロが緩めた口を動かし、質問を返す。


「あなたも剣や刀を持っているみたいだけど、称号は何?」

「…………勇者です」


勇者。

その言葉を聞いたブロの顔が一瞬固まった。だが、次に彼女は肩を小刻みに動かし突然と笑い始めたのだ。

セリアは眉間を寄せ、苛立ちを強める。


「……何がおかしいんですか」

「いえ、ふふっ……………本当におもしろいわ、あなた。ホント………………楽しみッ!」


それはまさに、次の瞬間。

突然と走り出したと同時に双剣を抜き取り、勢いと共にセリアに剣を振り下ろした。だが、咄嗟に防御の態勢に入ったおかげで彼女の攻撃が通ることはなかった。


「さぁ、…………楽しい遊びの始まり。……あなたの力、私に見せて頂戴!!」


狂喜のような笑みを向けるブロ。

歯を噛み締めるセリア。

火蓋は唐突、話し合いも終わり、今まさに二人の剣士が激突する。



「「ッ!!!」」



金属音に続き、せめぎ合う剣と双剣。

セリアは噛み締めた歯に力を込め、何とか双剣を振り払い距離を取る。

視界で捉えたブロが持つ何の変哲もないように見える二つの剣は色も普通で、セリアの持つアルグートのような力があるとも感じない。

だが、それでも、


(油断するなッ)


見た目で惑わされるわけにはいかない。

そう心に声掛け、セリアは足に力を込め、


「あら、少し遅いわね」

「!?」


目前、でブロの剣が振り下ろされる。

寸前で剣を盾にし、セリアは攻撃をギリギリで防いだ。しかし、最初の戦闘もそうだが、その動きがあまりにも速すぎる。

苦難の表情を見せるセリア。それでも力を込め双剣を剣で突き離し、一歩下がってからの前へ踏み出した勢いで自身の剣を振り下ろす。

だが、ブロがその速さを生かし、攻撃を斬り返し、その光景は何度も繰り返すように連続として続く。

そうして、セリアの持つ剣、アグルートだけでは防ぐことが困難になり始めた。

しかも、徐々に攻撃が通り始め、衣服の端を掠める状況に陥る。

一か八か、とセリアは腰からもう一振りの武器である刀を抜き取る。剣、アグルートと対となる刀、ヴァファート。

その力はキャンセル、能力を独占して使用不可にする能力だ。


「ヴァファート!!」


セリアは視線をブロではない、彼女の持つ双剣に移し、ヴァファートで斬りかかった。刀身からは青い粒子が漏れ、刀は双剣の腹を斬りつける。

だが、どれだけ有利な力があろうとも、その力には当然と有益とは反対のリスクがある。

それは、


「なに、それ?」

「!?」


何かをキャンセルした。

攻撃が入った、その感覚でそう確信するセリア。だが、ブロの双剣が離れるも直ぐに攻撃が続く。

もし、仮に何かしらの能力で戦っていたなら、動揺で一端距離を取るはず。だがブロは一向に退こうとはしない。


「っ!!!」


セリアはその場を勢いよく跳び退き、無理やりにでも距離を作る。

ブロもそれに応じたように攻撃を止め、一度刀と触れた自身の剣を見下ろした。

そして、


「その刀、どういう仕組みかは知らないけど……能力を打ち消すみたいね?」

「!?」

「でも、次に触れた時、力は戻っていた。……………もしかして、力を消せるのは一度だけなの?」


ブロの推測は半分正しかった。

セリアの刀。ヴァファートの打ち消す能力は一度だけ。それも鞘に納めるまでその力がチャージされないという欠点があったのだ。


「ッ………」


アグリートのエレメンタルを操る力。

ヴァファートの能力をキャンセルする力。

セリアの戦法は武器能力のいずれかを隠し、決めてとしてどちらかを使用するというもので、両方の能力を知られることは同時に戦況を大きく左右することに繋がる。

そのため、一か八かの賭けに負けたのは、大きな痛めだった。

動揺するセリアを見据え、ブロは不敵な笑みを浮かべると再び走り出し、まるで驚異的な速度と攻撃、それらをもう一段階上げたかのような攻撃を振り下ろす。

アグリートで第一撃を防ぎ、何とかヴァファートを鞘に納めるセリア。双剣に対し、二つの武器で戦うことの方が有利にも見える。

だが、戦法を潰された以上、ヴァファートへの警戒はないものと見ていい。そして、双剣になれた敵に不慣れな戦い方は戦況に大きく関わる。


(……落ち着け)


剣一本、アグリートでの攻防に精神を集中させるセリア。

こんな状況で、エレメンタルを纏わせた剣での戦い方に移ってもよかった。

だが、セリアにとって、ブロとの戦いに剣士として負けられない思い。その他にもう一つ、怒りがあった。


(負けられない!!)


自身より速い攻撃を繰り出す双剣。

セリアはそれらを剣で凌ぎ、体で避け、攻撃を加える。

短い死闘が続く中、対峙するブロは、不意に気づく。

さっきまで優勢となっていた攻撃が、徐々に押され始めていること。

相手の速度が上がったわけでもなく、まして自身が遅くなったわけではない。

双剣と剣がぶつかり、せめぎ合う中。

瞳と瞳、ブロがセリアの目を見た瞬間。


「っ!?」


背筋に突き刺さるような悪寒がブロを襲う。

身の危険に対し、初めて後方に跳び距離を取るブロ。そんな彼女にセリアは追撃をすることなく、構えたまま静かに呼吸を整える。


「……っ」


洗い呼吸を整え、ブロは今までの死闘を思い返す。

セリアは新たな力を使ったわけでもなく、攻撃や速さも上がったわけではない。それなのに、攻撃が徐々に通り始めた。

何故? と疑問は浮かぶ。だが、それも直ぐに解ける。

ブロが遅くなったのではない。ただ、速さという戦いの中でセリアはその速度に慣れたのだ。

初めに速い弾を受け止める時、その速さに目が追いつけないことがある。しかし、それも数回から数十と数をこなす内に慣れがくる。

同じ速さに追いつけなくとも、その来るタイミング、それさえ見極められれば追いつける。


(…‥遊びが、すぎたみたいね)


ブロは目の前に立つセリアを見つめ、小さく笑いを飛ばした。

だが、その笑みを見せれるのも彼女にまだ隠し玉、戦況を覆せる力があるからだ。

だから、このまま続けても戦況に影響しない。

足に力を込め、再び走り出そうするブロ。

しかし、その時だった。


「少し、聞きたいことがあります」


今まで黙っていたセリアが、そう口を開いたのだ。

ブロは勢いを止め、目を瞬かせる。


「何? まさか今さら参りましたとか」

「どうして、あんな小さな子を使ったんですか?」

「え?」


セリアが口にした人物。

それはこの場に連れて来られる前に接触した少女のことだ。

あの時、どういった意味で彼女がセリアにカードを渡したかわからない。しかし、もしあのカードを持ち続けていればどうなっていたか。

危険に追いやる、その事を何も考えずあのカードを渡した。

今までの死闘の中、負けられない剣士としての思い。

そして、小さな子供を巻き込んだことによる怒り、それは半信半疑だが、セリアにはあった。

だからこそ、聞きたかったのだ。

その行為が偶々だったのか、もしくは――


「………そんなの、簡単なことよ」


ブロはセリアの言葉に対し、溜め息をつく。

それは反省とは程遠い、まして気にもしていない素振り。彼女は呆れたような口調で、セリアに向かって言った。





「油断するでしょ? ああいう子供を使えば」

「   」





その瞬間。

ブロは気にせず走り出したと同時双剣を振り上げた。剣は構えたまま動かないセリアの両肩。

その二つを切り裂く為に、振り下ろされようと、



「アルグート!!」



だが、直後。

セリアの言葉に呼応し、剣から発せられた炎が彼女の周囲から巻き上がり、ブロの攻撃を防ぐ。

炎の発する余波は、迫る双剣を押し出し、ブロは舌打ちをうちながらその場を跳び退く。

ザン! と剣を地面に突き刺し、炎は吸い込まれるようにアルグートの内に消えていった。

そして、表情を見せない顔を伏せたセリアは、静かに口を開く。


「……よく、わかりました」

「……何を」


ブロが挑戦的な笑みを向ける。

対して、セリアの両目が鋭いものへと変化させ、目の前に立つ敵を見据える。

それはまるで、


「貴方は、ここで倒さないといけない相手だということがです」


今までの加減を捨て去った、怒気を秘めた瞳。

殺意とは、また別の怒りから来る威圧にブロは一瞬動揺の色を表情にして見せた。だが、それも直ぐに収まり、再び小さく笑みを向けると攻撃の構えを作る。

だが、その中で彼女は不意にセリアの行動に眉を顰めた。


「どういうつもり?」


地面に刺さった剣をそのまま放置し、空いた手を納めた刀の柄。その前へとやった。

そして、体を中腰に落としながらその場に滞在する構え。

それは、今まで見た事のない構え。

ふざけているのではない。そのことは対峙するブロでも見て取れた。

だから、警戒しつつ双剣を構え走り出し、構えたまま動かないセリアに向かって高速で剣を振り下した。

速攻で決めないとマズイ。

その感情を押し隠し―――


「……‥‥」


だが、それと同時にセリアは語る。

その構えから繰り出す、名を――――




「居合抜刀・叫斬」





その、直後。

ギィィィィン!!!! と高音の金属音が戦況の中心で弾け飛んだ。

音の発信源は剣。それもブロが操る二振りの双剣からだった。

今までとは違う強烈な攻撃によって吹き飛ばされた。後方に倒れそうになるブロは何とか体を回転させることで地面に着地する。だが、その表情は驚愕に染められていた。


「……」


カチン、と音をたてるセリア。

その音は鞘に納める刀から鳴った物だ。そして、強烈な攻撃を繰り出す彼女の持つ、もう一つの戦法。

対象を斬る。

甘えを消した、真の意味で本気になった時に出せる刀術。

セリアの前でブロは見た事のない技に未だ動揺を隠せない。

さらに言えば、彼女は強力な威力を出したのが刀によるものだと思っているらしい。


「…何よ、その刀」

「………ただの、武器ですよ」


そうあくまで能力を消す、その力しか持たない武器。

攻撃もだが、威力共にそれはセリアの力だ。


「ッ、なら…これならどう!!!」


一度は押し負けた。だが、次はないとブロは叫ぶと同時に再び走り出す。

それも今まで見てきたものよりもさらに速い動きだった。

手を抜いていたのはセリアだけでない。彼女もまた死闘という戦いを楽しみたいがために力を隠していたのだ。

風を押しのける音に加えて、地面を数度蹴飛ばし一瞬で間合いに迫るブロ。

しかし、その力があったとしても、



「居合抜刀」



ブロは、彼女を本気にさせてしまった。

武器に応じた構え。そこから繰り出される、動作。

最速の攻撃を、まるで風に揺れ動く葉っぱのような簡単な動きで上体を下げ避けるセリア。

そして、その回避に繋がる攻撃。

素早い抜きで刀を鞘から抜き去り、地面に刀先を付けたと同時に跳ねかえるようにして連続の斬撃を叩き込む。

その技の名は、



「清・反切蝶羽」



シュッ!! と振りぬいた刀は地面から跳ね返るようにして動き、ブロに向かって一撃を跳ばす。

斜め上から振りかぶり放たれた攻撃。だが、ブロも双剣でその攻撃を簡単に防御する。

しかし、その瞬間。またしても刀は剣に触れたと同時に跳ね返ったような離れ、斬り返しからの二撃がブロの左脇腹に向かって跳ぶ。

普通の斬り返しでない、見た事のない刀術。

思いもよらない攻撃と速さに数秒遅れで反応するブロは剣の一本を真下に向け下ろし、脇腹を狙った攻撃を何とか防いだ。


「ッ!?」


だが、そこで彼女は自身の過ちに気づく。

セリアの攻撃。まるで武器が跳ね返るようして攻撃が次々と来る。そうして、その攻撃の仕方に意識が囚われていた。


(ま、まさか…)


ブロが気づいたのは二撃目を防ぎ、その次に繰り出された攻撃を見た瞬間だった。

セリアの繰り出す攻撃。

振り斬る、その攻撃が問題なのではない。

注目しなくてはいけなかったのは、跳ね返るたびに上がる威力と速さ。


彼女の技、その正体は攻撃が受け止められるたびに威力と速さを増す刀術。


三度目の攻撃、まさにブロでも反応できない速度から放たれた一撃だった。

セリアが敵の右肩に向かって超速で振り下ろした斬撃は、その肩を打ち抜き地面へ叩き伏せた。

瞬時の判断で刀のない峰を切り替えた分、ブロの右腕が切り落とされることはなかったが、硬い何かをへし折る音と、その衝撃波は絶大だった。


「っがぁ!?」


ダン!! と音を立て地面に倒れるブロ。

未だダメージで真面に動けない彼女は、顔だけをセリアに向け声を滲み出すようにして吐き出す。


「何を……した、のよ」

「何も。ただ、貴方が対処できない攻撃をしたまでですよ」


そう言って、セリアは刀を腰の鞘へと納める。

ブロが動けないのは、攻撃の手ごたえからも理解できた。例え、敵意があろうとも、もう攻撃がくることはない。

息をつき、警戒を解くセリア。

怒りは後に置いておくとして、セリアはブロに近づくべく一歩と前に足を進めようとした。

―――その時だった。


「!?」


ブロの懐から、不意に一枚のカードが零れ落ちる。

それは異様な柄が描かれた一枚のカード。ピエロの絵柄とはまた違う柄だ。しかし、中に浮かぶようにして描かれた猛獣。その両目が赤く光った、その直後。

眩い閃光がセリアを襲う―――――




『水は拘束と保護を貸す』




次の瞬間。

セリアを囲うようにして現れた円形の水。その防壁は閃光を凌ぎ、攻撃を完全に防いだ。

光を発したカードはその力を出し尽くすとそのまま透明となり消えて行ったが、セリアにとって今はそれ所ではない。

コツコツ、と背後からくる足音に肩を震わせ、彼女はゆっくりと後ろに振り返る。


「あ…………アチル、さん?」

「………貴方は何をやっているのですか?」


眉間に皺が寄らずとも、その雰囲気だけで、ご立腹のアチル。

腰に手を当てながら立つ仕草。

もの凄く、冷めた視線が痛い。セリアは慌てた表情で何とか言い訳を、


「え、えーと、いやこれにはそのッ」

「言い訳は後で聞きます」


一言で、封じられました。

セリアは正座し、土下座をするはめとなった。

一方、当のアチル自身は何もそこまでは要求はしていないのだが、本人がそうしたいというなら何も言わないでおこうと思ったらしい。

溜め息をつくアチルはセリアから視線を外し、そこにいたであろう突然と消えた女、ブロのことを思い出す。

あの時、転移などといった魔法による魔力は一切感知できなかった。

つまりそれは、魔法とは別の手段による転移。



「…………称号、ですか」













セリアとの死闘が繰り広げられていた場所とはかけ離れた、森林の奥。

ローブを身に纏う少女は離れた茂みの奥で溜め息を尽きながら、目の前に倒れるブロを見つめる。


「無茶が過ぎたね、ブロ」

「っ、悪いわね…チャト」


一枚のカードを取り出し、ローブの少女。チャトはブロの背中にソレを触れさせた。

すると、カードが光を出したと同時に肩の傷が徐々に薄れていき回復していく。

外傷はあるも、言葉は交わせる。

チャトは申し訳ない表情をするブロに尋ねた。


「それで? あの子はどうだったの?」

「まぁ、結構強かった………。ちょっと油断しすぎたみたいだけど」

「そうみたいだね、ボロボロだし」

「ぼ、ボロボロ言うなっ」


そう言うが、ボロボロだもん、と付け足すチャト。

呆れた表情で、会話を続ける。


「でも、ブロから見てあの子は関係ありそうなの?」

「うーん、……………いや、………どうだろ? 何か違うのよ」

「違うって?」

「何ていうか、………何だろ?」


煮え切らない表情を浮かべるブロ。

チャトも首を傾げながら、そう話す彼女を見つめる。

そうこうしている間に回復が終わったかのように、カードの光が弱まってきた。


「あ。でも、あの魔法使いさんなら知ってるかも」

「え、そうなの?」

「うん」


そうはっきりというチャト。

というのも、彼女は密かに依頼所での会話を盗み聞いていた為であり、また同時にそれはアチルでさえ気づかないほどに、身を隠す術を持っていることを意味する。

今回、痛手を負ったブロ。

それに代わり、今度は自身の番だとチャトは口元を緩め、


「今度はあの魔法使いさんにしよう。私が出るから」

「………あんた、が?」

「そうだよ、……だって早く知りたいんだもん」


そして、彼女は言った。

それは彼女自身に対してもだが、同時にアチルに対して、最も重要となるワード。




「私たちを狙う、………六本剣使いの居所を」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ