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異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫  作者: GORO
第二章 [劫略されし真名] be isolated - 災厄の剣姫
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変わり果てた世界

第二章、開幕。



ライト・ライフ・ライフィニー

第二章.[劫略されし真名] be isolated - 災厄の剣姫


第五十四話 変わり果てた世界




別世界に存在する、魔法や奇跡、それらが今も存在する自然豊富な世界、アース・プリアス。

そこに住む生物たちは進化を遂げ凶暴性を醸し出し、人々は武器を手に取った。そんな世界には大都市として東西南北に塀に囲まれた都市がその方角にそって建てられている。

表に公表されている都市は三つ。

魔法都市アルヴィアン・ウォーター。

銃都市ウェーイクト・ハリケーン。

そして、剣都市インデール・フレイムだ。

だが、そのかつて剣最強と称されていたその都市は今や存在しない。何故なら、剣の都市は二年という短い時間の中で脱落し、内部崩壊を起こしたのだ。

その要因となった原因、一つは都市で起きた数々の損害だった。

上級ハンターの大半が死を遂げ、下級ハンターの成長を計画したプログラムも途中から逃げ出す者が多く現れ失敗に終わった。そして依頼の達成率は下がり結果的に他の都市からも信頼を失い、今では道中の依頼回覧都市と噂されるほどになってしまった。

そして、もっとも大きな要因となったもう一つ。

それは、剣の都市に住む者たちが口々にその落ちぶれた都になった原因をその者のせいだと言う。そして、その者の名はインデールだけでなく各都市でも知らない者はいない。

インデール・フレイムの災厄をもたらし、都市崩壊の元凶と呼ばれた少女。


その名を、災厄の剣姫を皆は呼ぶ。








インデール・フレイムから少し離れた所に存在する、鉱石や地底生物が豊富に生息する洞窟、レイスグラーン。

かつて、二年前まではインデールのハンター達の狩り場として人々の行きかう場となっていた。だが、その探索場も今では誰も寄り付かない無法地帯となっている。

洞窟の内部には迷路のような穴が続き、正解のルートと間違ったルートの二つが存在する。

地図に沿った道を行けば何も問題はないが、誤った道を進めばその先に生息する獰猛な生物と遭遇する危険性がある。

その為、ハンター達は都市で地図を受け取り、慎重かつ連携となるギルドを作り、洞窟に入っていた。

しかし、今ではそんな意気込みを抱くハンターすらインデールには存在しない。

誰も訪れず、人の目が届かない洞窟となった中、危険な生物が多く生息するその奥で、



「いやあああああああああああああああああああああああ!!!!」



誰にも届かない。

猛獣の叫びではない、女性の悲鳴がその奥底から響き渡った。




「いやっ、帰してえっ!!!」

「うるせえ!! このアマ、黙ってろ!!」



そう言って、泣き叫ぶ女性の顔を蹴飛ばすゴツゴツした鎧を身につけた大男。

腰には黒のホルダーとその体格には似合わない茶色の銃が納められている。銃を武器として持つことから、その男は銃都市ウェーイクト・ハリケーンのハンターと見受けられる。


「おい、あんまり手を出すな。商品として値が落ちる」

「ああ、そうだな」


対して、大男の隣では軽装の服装をした細身の男が立ち、同じように前開きとなった上衣の間から銀の銃が見え隠れしている。

細身の男は地面に崩れる女性の髪を掴み、顔を強引に上げた。

靴で蹴られたその頬には赤い痣が頬に出来き、両目からは絶えず大粒の涙が零れ落ちている。

強引な方法で連れて来られたのか、女性の衣服は地面の土で汚れ、所々に擦り切れた痕が残る。


「っひっく、うぐっ」

「おい、そろそろ諦めろよ。態々、落ちぶれたインデールから拾ってきてやったんだ、感謝しろよ。………………あの都市よりは良い所に紹介してやろうってんだからな」

「っ!」


ニヤリと笑う細身の男。

その言葉と表情に対し、女性の顔色は血の気が引いたように青白くなる。

視界の端では側にいた大男が左右に裂けた笑みを浮かべている。


何故、こんなことになってしまったのだろう。


女性の脳裏で、インデール・フレイム。今、いや…かつて前の都市の光景を思い浮かべる。

賑う大通り、皆が笑い、誰もが共に笑い合い、そして信頼関係を保っていた。

本来なら、ここまで連れて来られることなど昔はなかった。門前の手前、門番によって不審な行動をする者は必ずや止められていたはずだ。

そして、もしそれが今でもあれば、………今、こんなことにはならなかったはずだ。


何故、突然と話しかけられ、そのまま殴られ気絶した私を誰も助けてくれなかった。

何故、他の都市に住む者たちが平気でこんなことができる。



「おらっ、さっさと来い!」

「ッあ!?」


髪を掴まれたまま、女性は男に引きずられる。

地面に倒れた状態のまま、強引な力で引っ張られる。露出した肌が岩に接触し、小さな怪我が数個と出来る。

痛みは続く。だが、女性の頭の中はあることでいっぱいだった。

もし、このまま洞窟を抜ければ、どこかの都市で女性は売られるだろう。そして、そのまま一生、自分の意思を出せない、…………………地獄がその先ずっと待っている。

そんなの、


「い、や」


そんなの、………………そんなの、嫌だッ!!




「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」



思考がその先に至った直後、豹変したような悲鳴が女性の口から吐き出される。

誰も助けにこない。

もう手遅れだ。

そんなことを理解していても、女性は泣き続け、叫び続けた。

一方で、細見の男と打って変わり、大男はその奇声にも似た音に苛立ちを抱く。

そして、大きな手を硬く握り締め、商品がどうとかを気にする素振りすら見せず、その雑音の発生元となる地に引きずられる女の顔に拳を落とす。

迫る拳に目を見開かす女性。

視界の中………ドゴッ!!! と鈍い音が放たれようとした。












『地は栄え、絶対の防御を持つ』








だが、その瞬間。

大男の拳が女性の顔に届く、その手前で洞窟の壁から突如と突き出た岩によりその手は弾き飛ばされと同時に指の数本が真逆の方向にへし折れる。

強烈な激痛が神経を走り、猛獣のような男の悲鳴がその場を響き渡る。


「な、何だッ!?」


細見の男は負傷した仲間の光景に目を見開き、直ぐさま上衣から銀の銃を抜き取り周囲を警戒する。

細見の男が見せるそのハンターらしい慎重な姿勢に沿った表情。だが、その裏には何の正義もない欲望の塊が隠れている。

そして、そんな者がハンターを名乗っている、……その事がッ、





「本当に、胸糞悪いです」





次の瞬間。

地面から這い出た岩が先の丸まった槍となり、そのガラ空きとなった細見の男の腹部に強烈な突きを決める。衝撃によって肺の空気を強引に押し出され男は呼吸を一瞬停止させ、そのまま天井にバウンドしてから地面に崩れ落ちた。

武器を持っていなかったわけではない。

銃を使う所か、立ち上がり声を出すことさえできない。

まさに瞬殺に近い、気絶だった。

大男は仲間がやられた事に恐怖を抱き、痛みを歯噛みながら無事な片手で銃を抜き取る。

しかし、その動作を実行した。

その時間すら手遅れだった。

ダン! ゴン! と同時に音が放たれた直後。地面と壁、天井から岩槍が順番のように突き上がり、その巨体の体を壊しにかかる。

地面からの突きに対し大男の体は宙に突き飛ばされ、壁からの突きは巨体の右肩を打ち抜き不気味な音が放たれる。

そして、天井から突き出された岩槍は、その巨体を地面へとノーバウンドで叩き落とす。

何の防御もなく地面に叩き落とされた大男の口から血が吐き出され、激痛が神経から脳へとダイレクトに直進して伝達された。

さっきまでの女性とは逆になったように、男の悲鳴が木魂する。


「ガッあ、ナ、ナに………がッ」


悶え苦しむ大男。

対して突然の解放に困惑する女性。

目の前では今も大男が鬼のような瞳を見開き、血反吐を吐いている。

だが、その時。


「っ!?」


突然と、その身が震えを見せ、それが寒気だと遅れて気づく。

ここまでくる間、寒さなど感じなかったはず。それが何故、突然気象が変化したのか。

女性は両肩を抱え、その変化に怯え辺りを見渡す。



コツ、コツ、コツ、と不意にその足音が聞こえた。



音の元である背後。

女性は視線を後ろに振り向けた。…………その先には、





「インデール・フレイムの平民を確保。これから罪人たる二人をアルヴィアンに強制転移させます」




冷気を纏い、青いコートを揺るがせる一人の女。

腰には青い剣が納められ、後ろ髪はちょうど肩に掛かるほどに切り揃え、右耳に掛かる髪だけが首元まで伸び小さな揺らぎを見せる。

コツ、コツ、と淡々とした足音をたて向かってくる。


「っ!」


普通なら、男たちに捕まっていた女性の顔はその瞬間、助かったことに緩みを見せただろう。

声を上げ、喜びに立ち上がったはずだ。

だが、女性の顔は、


「っ、ぁ、ぁの」

「そのまま、じっとしていてください。………直ぐに終わるので」


女の冷酷な言葉と視線。

男たちへの恐怖の方がマシだったかのように、女性はその顔を強張らせ、体を激しく震わせながら壁沿いに逃げるように引くことしかできなかった。

それほどまでに、突然と現れた女の存在は恐怖を抱かせるに十分なほどの殺意を露わにしていたのだ。





「ナ、何でッ、アルヴィアンが……!」


大男は、今までの現象と女の容姿から直ぐにその女がアルヴィアン・ウォーターの魔法使いであることを理解した。

だが、そこに至り疑問が残る。

何故なら、現状のインデール・フレイムはどの都市からも孤立した都市となっている。たとえ救援を出されたとして他の都市が強力することなどないはずだった。

それが、何故……ッ。

信じられないものを見たような表情を見せる、大男。

対して、女はその問いに言葉で応える。


「何を勘違いされているか知りませんが、この件にアルヴィアンは介入していません」

「ッ、馬鹿な!! アルヴィアンである魔法使いのお前がいる時点でそんなのッ!」


大男がそう言い掛けた、その時。

視線の先、その女の腰に納められた一つの剣が視界に止まる。

それは唾と柄、剣先までが青一色で染められた普通の武器とは一味違う剣。剣という武器の形を知る者にとって、その容易を見ればそれが鍛冶師によるオーダーメイドであることなど嫌でも理解できる。

しかし、魔法使いが剣を持つ。

それは、アルヴィアンとインデール。二つの武器を扱うという……、


「ッ!?」


そこまで思考が進んだ、その瞬間……………………大男は思い出した。

かつて、今では見る影もないインデール・フレイムがまだ剣の都市と呼ばれていた頃、ある噂が一つあった。


「ま、まさかッ…………お前、インデールのッ!?」

「そこまでわかれば、もう満足でしょう」


そう言って、冷酷な瞳で口元を緩める女。

その直後、男たちの腰に突如現れた魔法陣から氷の鎖が解き放たれ、地面に横たわる二人の体を拘束する。そして、同時に大男は自身の身動きを封じた鎖に対して、あの噂は本当だったことを確信した。

噂の内容は、インデール・フレイムに突如と現れた魔法使い。

魔法を纏わす剣を操り、Aランクの依頼の片っ端から完遂する。その事から、他都市にもそのハンターの名前はランキングとして公表されていた。

そして、そのハンターの名前は、




「魔法剣使いの、アチルッ!?」

「………さようならです。そして、………………二度とハンターを名乗るな」




次の瞬間、男二人の体はその場から一瞬にして転移し、そのままアルヴィアンへと送られた。

転移固定された場所は、魔法都市の牢獄。

普通なら、都市の関係者が罪人を捕まえた際、そのまま都市の牢獄へと入れられる。だが、インデールの現状、人員不足では牢獄を完全に見張ることはできない。

それは、いつ逃げ出されるかもわからないほどに剣の都市は昔と見る影もないほどに落ちぶれていたからだ。

しかし、だからといって他都市の牢獄を借りる事などできない。たとえ申請したとしても、断られるのが関の山だ。

だが、魔法剣を持つ彼女は違う。

アルヴィアン・ウォーター。その都市を頂点たる存在である魔法使いの女王、レルティア。

そして、その彼女……………アチルはその女王の娘であり…。



唯一、インデール・フレイムへの介入を許可された魔法剣使いのハンターなのだ。











連れ去られていた女性を都市まで送り、アチルは今、インデール・フレイムの都市内部に建てられた依頼所でもあるハウン・ラピアスに訪れていた。

酒場と依頼所が一緒となるその場所は昔と変わることなく、店内には多くのハンターたちが陽が昇る時間にも関われず、酒の類を呑み馬鹿騒ぎを始めていた。

そして、そんな中でアチルは店内の端、空席のテーブル前に置かれた椅子に座り、その上に置かれたコップに入った水を喉の奥へと呑み込ませる。

すると、そんな彼女の前に一人の男がやってきた。

スキンヘッドに加え、顎に髭を生やす筋肉質的な肉体を持つ男。


「悪いね、アチルちゃん」

「いえ、………………レグさんには色々と世話になっているので」


ハウン・ラピアスの酒場で店長をしていたレグ。今は依頼受付人を請け負い、ハンターたちのランクを見分ける等して依頼を配布する職についている。

受付人である彼は溜め息を吐き、片手に持っていた紙をテーブルの上に置く。そこに記載されていた数人の顔写真を見え、十人中の九人の顔には赤いインクで罰印が書き込まれていた。


「これで九件………」

「最近多いですよね、連れ去りの件」


連れ去り。

それはインデールだけでない、他都市のハンターがその都市に住む平民を言葉巧みに騙して連れ去り、売人に受け渡すという悪質な行為が頻繁に発生していた。


「…………でも、この街の現状を見ても、……仕方がないですよね」

「………確かに、インデールの治安が悪くなったのもあるが、それ以上に都市に住む人々の信頼関係がもうこれじゃあね」


かつて都市には周りを気遣うという信頼関係が保たれていた。

店同士、共に商売の売り上げについて話をしていたり、通りを歩く知人に対しも声を掛けるなど、会話の絶えないまさに都市が真に望む、理想の空気がその場に漂っていた。

だが、それもあの一件があっていらい、………………都市に住む人々は共に嫌悪し、乱闘等の末離れて行った。そして、それは悪循環のように広がり、今では通りを歩く者たちの表情は暗く冷たいものとなっている。

アチルはそんな都市なってしまったのは、自身のせいだと今でも思っている。

それはあの時、一時の優越感に浸れた自身への甘さ。

それが、あんな………最悪の結果を生んだのだと……。



「………本当に、すみませ」

「だから何回も言ってるけど、あれに対してアチルちゃんが謝る事はないよ。……………第一、この結末に至ったのは……」



レグはそう言って、一度言葉を止めた。

そして、今でも思い返せば脳裏に浮かぶ、一人の少女。

自身の身などお構いなしに都市崩壊を救い、全ての殺意の一心に受けた…………、


「俺達が、………あの子を見捨てたからだ」

「……………………………」


アチルはそんな彼の表情を見つめ、同時にここにいるはずだったもう一人の彼女の事を思い出す。

かつて、依頼受付人だった三角巾を頭に巻いていた女性、フミカだ。


「そう言えば、フミカさんからは何か情報とか入っていませんか?」

「いいや…………フミカちゃんも色々な場所に旅してるみたいだけど、収穫はゼロだと手紙が届いたよ」

「…………そうですか」


この都市でいなくなったのは、何も平民だけではない。

知人でもあり、あの一件に深く関わっていた二人の人間もまたこの都市を離れて行った。共に、消息のつかない彼女を探すため。


「………………」


彼とはあれから一度として手紙所か会う事はなかった。

フミカとは都市を離れる際に会ったきりで、その後はレグとの手紙のやり取りをして情報を受け渡したりしている状況だ。

アチルは何も進展しない、その流れに歯噛みする。その苛立ちは傍から見ているレグでさえもわかるほどだった。

だが、そこで不意に後ろから大声で騒ぐ男たちの話が聞こえてくる。


「俺、盗賊の称号貰っちまってよ!」

「俺は兵士の称号だ」

「ダッセー! 俺様なんか」


称号。

あの一件以降、二年の間に新しくできたハンター達の新しい呼び名とも言う。

魔法使い・銃使い・鍛冶師・弓使い・勇者・盗賊・眷属等。

ハンターの特性に応じてつけられたそれらにはDCBASSSとランク付けがあり、その上位に応じて賞金の額も変化する。

今いる、新米のハンターたちの頭の中は、その称号のランクをどう上げるかでいっぱいだった。昔のように、狩りに力を入れる、そのことを忘れてしまったのだ。


「称号…称号って、ハンターの強さはそんなので決まるわけがないのにね」

「………そう、ですね」


レグの言葉にアチルは少し悲しげな表情でそう呟く。

昔のように朝から夕方まで依頼に没頭していた自身がどこか懐かしく、そして、もう戻らないことを実感してしまう。

この都市は、あの時…………一人の少女を見捨ててしまった。そこから全てが変わってしまった。

そして、それは……アチルも同じだ。

もう、知る人以外とは話もしない。

食に対しても、魔法使いに対しても、………もう、何もかもが変わってしまったのだ。












「レグさん、また何かあったら呼んでください」

「ああ、本当にありがとう」


ハウン・ラピアスの扉前でレグと別れを告げ、アチルは家路につくべく大通りを一人歩いていた。

昔はこの通りを歩くのでさえ混雑していた所、しかし今ではそれも嘘のように数人程しか通りを歩く者しかいない。

アチルはゆっくりとした足取りで道を歩き、それから数分して家路となるその場所に辿りついた。

そこは、かつてマチバヤ喫茶店が建てられていた場所。


「………………………」


喫茶店。

その原型は既になく、新しく一軒家が建てられていた。

町早美野里の居なくなった後、その都市に住む人々は殺意を表に現し、その店を焼き尽くした。彼女に係わる物、それら全てが有害なものだとそう判断したのだ。

アチルがそれを知ったのは、あの一件から数日して目を覚ました時だった。急いで店の前についたその時には、既に店の原型は焼き消えていた。

ただ、残ったのは地下につくられた数個の部屋。

人々は地下へと続く部屋があることを知らなかったらしく、焼け落ちた木片によって隠された階段をアチルは魔法でどうにかして隠し、その上に家を建て何とかその部屋を守ることはできた。


「…………………」


アチルは誰もいない、その家に入っていく。

そして、流れるように室内の奥に存在する地下へと続く階段を下り、いくつか別れた部屋に通じるドアがある通路に辿りつく。

アチルはその中の一つ、寝室呼ばれる部屋のドアを開けた。

室内は美野里が帰ってこなくなって以降、一つも動かされていない。ただ、埃が溜まらないよう週に一度掃除をするか寝床を借りるくらいだ。

アチルは小さく溜め息を吐き、上に着ていたコートを部屋の奥に置かれた収納棚の上に投げ置いた。

そして、棚の引き出しを開き、そこから四角画面のついた黒いソレを取り出したアチルはそのままベットに体を倒す。


「…………………」


手に持たれたソレは、掃除をしていた際に見つけたものだ。

初めてこれが何のか、この世界に住むアチルには到底理解できないものだった。しかし、ふと横についたボタンを長く押した時、画面は光を放ち同時にこれが何かのスイッチであることに気づいたのだ。

画面は一体強い明かりを出した後、そこからよくわからないアイコンが画面に表示された。

訳もわからず当初は戸惑いを隠せなかったアチルだが、最近ようやく使えるようになったそれを、おぼつかない指先で操作する。

そして、画像保存がされるアイコンを人差し指で押した。


「…………美野里」


そこには、今まで見た事のない未知の風景が画像として残されていた。

中には、友達らしき少女たちと共に笑顔をみせる少女………美野里の顔が鮮明に写っている。


「…美野里。……美野里ッ」


アチルはその顔を見つめ、何回もその名を呟く。

二年前。

絶望しかけたあの場でもう後悔しないと決めたはずだった。

諦めず、抗うことでインデールという都市を守もる事が出来た。その街に住む、人々も守れた。



でも、一番大切な、……彼女を守る事が出来なかった。



アチルは、そのことを今でも忘れる事ができない。

夢にも何度も出てくる。いや、忘れる事など初めからできるはずもなかった。………魔法使いと名乗ることも、人を守るということも、


「っ………うっ……えぐっ……」


今では冷酷なハンターと言われ、恐れられるアチル。

だが、そんなのはただの仮面だった。いつまでも泣くことしかできない自身を隠すための。



彼女にとっても、あの時から………全てが変わり果ててしまった。

もう、昔のような笑顔のたえない、人を守ることを使命とする魔法使いのアチルは存在しない………。

















夕暮れに近づく。

インデール・フレイム門前に立つ、一人の少女。

腰に短剣と長刀を携える、おさげの髪にラフな戦闘着を着こなす。

そんな彼女は開口で一人言う。



「ここに………災厄の剣姫に詳しい魔法使いがいるんですね」



その時は……やっと来た。

称号。

災厄の剣姫。

魔法使い。

足りなかったピースが今全て揃う。

そして、止まっていたはずの…………運命の歯車は再び動き出す……。



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