第五十二話 シンクロアーツ
第一章の最終話、二つ分投稿しました。
長めの文だった為、抜けてるとこがあったらすみません。
第五十二話 シンクロアーツ
ゴポッゴポ、と酸素の泡が水中に浮く。
静寂に近い、漆黒でない薄暗い誰もいない空間。
その中で一人。町早美野里の周囲には円を囲むように彼女の愛用する武器、六本のダガーを浮き留まっていた。
銀色をした鉄の質感に加え、手入れ一つ怠っていない刀身を保っていた彼女の武器。
だが、今そのどれもがその刀にヒビが入れ、明らかに目に見える損傷が激しかった。まるで幾戦にも及ぶ戦いを経て疲労を表に現しているようにも思えた。
ただ、ハンター業の後も必ず自身の鍛冶場で武器の手入れを欠かさなかった美野里にとって半壊状態になるまで武器を扱った覚えは一度もない。
なら、何故――
<モウ、ワタシタチハ………アナタト、イッショニ、タタカエナイ>
「……………………え?」
思考がそこまで考えた、その時。六本ある内の一本、最も損傷の激しいダガーがその弱々しい声でその言葉を投げかけた。
突然の言葉に一瞬反応できなかった。
だが、自身の頬が徐々に硬く強張ることを美野里は薄々感じていた。
今まで一番近くで彼女を守り、共に戦い続けてくれた武器たち。その彼らから一緒に戦えないと言われた事に衝撃を受けた事は隠しようのない事実だ。
しかし、それと同時に美野里はその言葉が導く疑問を解消させる一つの答えに気づく。
いや、気づいてしまったのだ。
一緒に――
それはどこまで?
戦う―――
戦うとは、どのような時?
一つ一つ、パズルのように。
足りないピースを組み込むため、足りない情報はこの世界に来てから今にいたるまでの戦いの記憶を照らし合わせながら補う。
(まさか………)
美野里がこの世界に来て長いようで短い時間が経過した。
生きて行く中、共に生き抜く道を突き進んできた相棒とも呼べる武器たち。戦いに向かう中で無茶な使い方をしていないと言えば嘘になる。
だが、無茶な戦いは日常的なもので時と場合にもよる。
しかし、それらの戦いの中………一つ。
武器に多大な負荷を与えた、その原因たる力があった。それはインデール・フレイムに住む少数人、その中に入る美野里だけが使える『ある力』だ。
(まさか……っ)
その力は、強大な強化をその身や武器に纏わせる。だが、それと同時にその力の代償は武器の耐久性を大幅に削ることだった。
以前に、何度も彼に注意されていたはずだった。
(…………わ)
『その力』は使い過ぎるな。
武器の耐久性を大幅に削る。
彼の言った言葉が今さらながら精細に込み上げる。
そして、武器の耐久を削り、損傷にまで追い込んだそのもっとな原因。その力は――――――――『衝光の力』だ。
「……………私の…せい…だ」
美野里の口から小さな声が零れる。
自身の力、衝光の力が原因で武器たちを傷つけてしまっていた。
その事実を知り、さらに美野里はある事に気づく。
普段から使う衝光の力。ルーツライトという第二段階の力が影響していないとは言わない。だが、それでも美野里はここまでの大きな損傷になった経緯に覚えがあった。
それは、遠い昔ではない。
数分前の、あの時だ。
魔法使いの男によってワバルは利用され、そして…殺された。
その激情に釣られ、自滅してしまう可能性のあった強大な力を発揮し、六本の武器に強大な衝光の力を集中させ都市を崩壊させていたかもしれない強力な一撃を美野里は放ったのだ。
しかし、それが最大の間違いだった。
衝光の力が武器の耐久を大きく減らす。以前、アルヴィアン・ウォーターで壁に展示されていた武器を使った際、その武器は一瞬にして刃が砕け散り崩壊した。
そのことを一度体験し、知っていた。
そのはずなのに、
「私が、貴方たちを…………私の、せいでッ!」
大切な相棒とも言える武器を半壊まで追い込んだのは自分だ。
取り返しのつかない失敗をしてしまったことに加え、どう言葉を発したらいいかわからない。後悔という名の感情が美野里の胸を大きく締め付ける。
言葉の代わりに、荒い吐息がその小さな口から漏れ出す。
二つある目尻が次第に熱くなり、今にも泣きだしそうな惨めな感情が現れようとしていた。
歯を噛み締める美野里。
だが、
「ッ…」
武器たちが、そこで再び言葉を伝え始める。
<アナタト、オナジ。コノマチヲ、マモリタカッタ>
「っ!?」
<アナタノキモチハ、ワカッテル。…………ダカラ、ジブンヲ、セメナイデ>
「で、でもっ!!」
<スクナイ、ジカンダッタ。………ダケド、ワタシタチハ、シアワセ、ダッタヨ>
少ない時間。
この世界に生まれてからではない。美野里がこの世界に来てから一年ちょっとの時間だ。
しかし、武器たちにとって、それは本当に短い時間だった。
そして、彼らはその唯一の時間は幸せだったと言う。
彼女を慰めている、そのつもりもあっただろう。
今にも泣き出しそうになる彼女を励ましている、そのつもりもあっただろう。
しかし、真の意味で…………本当の意味で幸せだったと彼らは言葉にして今言っているのだ。
ただ、美野里はそれを素直に受け取れなかった。
「………そ、それでもっ!」
<カナシマナイデ。タシカニ、サイゴダケド…………………ワタシタチニモ、マダ、デキルコトガ、アル>
「!?」
突然とそう言葉を返す武器たち。
美野里は目を見開き、必死な思いでその言葉に耳を傾けようとした。だが、そこで不意に視界が揺さぶられた。まるで睡魔に負け、眠りにつくような感覚だ。
「ッ!」
力強く奥歯を噛み締め、意識を保とうする美野里。
だが、意識は次第に遠のいていく。何をどうしようと、その現象を止めることができない。
<ワタチタチヲ、ツカッテ>
ただ、美野里の意識が消える。
そんな中で、彼らは…………最後の願いを伝えた。
<イッショニ、マモラセテ。アノ、トシヲ。ソシテ………………カレヲ>
ブツン!! と。
そこで電源を切るかのように美野里の意識はそこで途切れた。夢の中での眠り。
だが、それは同時に現実へと戻る道でもあった。
「………………………ぅん」
小さな声を漏らし、夢から現実へ帰ってくる。
全身の重りのような感覚が圧し掛かり、同時に疲労感が一気に圧し掛かってくる感覚も加わる。
思うように体を動かせない美野里はゆっくりとした動きでその二つある瞼を開いた。
そして、揺れる視界を細め顔を横に向けた。
そこで美野里は………………………………衝光使いたちが秘密にしていた、その真実を聞いてしまった。
「ルーサーが言ったんだよ? …………シンクロアーツ。…………あの女がこの世界に現れたら、それを私たち衝光使いで」
「黙れ、黙れッ!!?」
「――こ」
「黙れえええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!!」
「殺そう、って」
まるで、鈍器で頭部を殴りつけられたような衝撃。
まさに、喪失に近い脳内に籠る感情、それら全てが一瞬にして真っ白へと塗りつぶされた。
「………………………………………………………………ぇ」
初め、その言葉が誰に対して言っていたのか、わからなかった…………方が、よかった。
何故、理解出来たかわからない。
だが、何故かその言葉はまるで初めから知っていたかのように体がそう認識させた。
震える体。
揺らぐ瞳。
掠れたような小声。
現実を受け入れられない、その事に美野里は視線を動かす。
一瞬、彼の前に立つ大剣を背に納める女と視線が交わった。だが、美野里はそれが決めてだと思いたくなかった。
いや、……だからこそ、美野里は重い体を起こし彼の名を呼んだのだ。
それは本当に聞こえたかどうか、定かでない小さな声だったと思う。
しかし、その場にいる者たちの視線が彼女に集まる。
でも………そんなことはどうでもよかった。
本当に…………ただ一つのことさえわかれば…………。
彼女の声に一番に反応したのは、地面に抑え込まれる光の柱に押さえつけられた男、ルーサーだった。
そして、ルーサーと美野里。
二人の視線がその瞬間に交わった。
「―――――――――――――――――っ」
美野里は……………そこで、わかってしまった。
衝光使いの女が、一体誰に事を話しているのか。
そして、その言葉。
彼が、今ままで……誰の事を守ろうとしていたのか。
そして、彼が――――――――――――――――――――――――――――――――――――一誰を殺そうと言っていたのか。
「み、美野里……」
その時。
不意に、ルーサーの口から零れた……彼女の名前。
その直後、美野里の顔を見つめる彼の顔が感情に呼応して大きく歪んだ。
だが、それだけで美野里は胸の内は今にも張り裂けそうなほどに痛く、苦しかった。押しとどめようとする喪失感がさらに加速したように込み上げてくる。
武器たちの時も同じだった。いや…………それとは、また大きく違う。
さらに強く、より苦く、より孤独。
頭に言葉が浮かばず、ルーサーの顔を見つめるしかできなかった美野里。
目尻から熱さを感じ、同時に掠れた泣き声が今にも漏れ出しそうになる。
だが、そんな時だった。
いままで口を閉ざしていた衝光使いの男が前に足を踏み出し、その重々しい口を開く。
「起きたか、シンクロアーツ」
細剣使いのアルガ。
未だ立ちきれない美野里に対し、あえて彼女の名をそう呼んだ。
シンクロアーツ。
さっきも聞いたその名に、ルーサーから初めて視線を他へ動かそうとする美野里。瞳は、その言葉を口にした男へと誘導されるように向かおうとした。
だが、美野里はその瞬間に気づいてしまった。
辺りに広がる煙、破壊された街、そして………その場に広がる壮絶な光景を。
「………………なに…これっ…」
戸惑いで思考を練れなかった。
だが、そこで初めて冷静を取り戻し、目の前に広がるそれを認識する。
「どう……なって………」
その光景は、まさに…………地獄だった。
爆発魔法によってもたらされた悲劇。
余波の影響で住宅や建物が崩壊し、観光と来ていた人々やそこに住む住人、数多くの人間がその被害を受け倒れている。
瓦礫に下敷きになる者や頭や腕に血を流す者、命亡き死人を前に泣き叫ぶ者たちが数多くいた。
そして、中にはマチバヤ喫茶店によく足を運んでくれた知人。
六歳ほどの娘を連れ、常連のように店に顔を見せてくれた男が今………目の前で血を流し倒れる我が子を見つめ、泣き叫んでいた。
知る人がいて、知る街があり、その悲劇が、現実のものだと実感させられる。
様々な感情がこみ上げ、気絶している間にそこで何が起きたのか理解できない美野里。
だが、そこで衝光使いのアルガはそんな彼女を見つめ、
「よく聞け、シンクロアーツ」
「…!」
「この現状。……たくさんの者が傷つき、死んだ。……………それらの全てを作ったのは………全てお前だ」
「…………………………………………………………………ぇ」
吹き抜ける風と共に、その言葉は残酷なまでの事実だと美野里に告げる。
そして、悲劇の現場となる、その場にいる全ての者達へ聞かせるほどにその声は澄み切っていた。
例え、その言葉が彼女自身をどん底に落とす言葉だとしても。
例え、どれだけ心を傷つけ、心臓を強く締め付けたとしても。
―――――そんなものはこの都市が受けた被害に比べれば軽いものだ。まるでそう言っているかのように、アルガは目を細め冷徹な表情を向ける。
さらに、その言葉に吸い寄せられるように周囲の視線が次第に彼女へと集まり始める。
「……そ、そんなっ」
「今、お前が選べることは二つだ」
視線は近づいてくるにつれ、殺意へと変貌を遂げる。周りから発せられる殺気が美野里の道を徐々になくしていく。
だが、そんなことは関係ないとアルガは二つの提案を投げかける。
それはあまりにも過酷な、
「このまま都市や、そこに住む人々を見捨て逃げるか?」
そんなこと、出来るわけがないはずなのにアルガはあえてそれを言う。
そして、二つ目の、
「もしくは…………お前がこの都市を救い、ここを去るかだ」
「!?」
「安心しろ。お前が都市を救うなら、去る際の手助けはしてやる。……………さぁ、どうする?」
切羽詰まる空気が漂う中で提示された二つの選択肢。
逃げるか、救うか。
突然と突き出された、二つの道。
そのどちらにも、周りからの殺意が圧し掛かる。
「……………」
いつ泣き叫んでも、おかしくはなかった。
いつ逃げ出したとしても、おかしくなかった。
だが、どれだけ言い訳をしようと、もうそれしか美野里に残された道はなかった。
周りにいた怪我を負った者や大切な者を失った者たち。
聞かされたその言葉が、その怒りを殺意に変え、鬼のような瞳で多くの者が一点に彼女へとその感情を集中させる。
「ッ……………。わ、わたし……は、っ」
殺意。
怒り。
悲しみ。
目の前で大切な者を失ったことがどれほどのものか。
その問いが視線と共に彼女を投げかけられた。そして、…………追い詰められた。
一人孤立する美野里の表情が次第に青白いものへと変わっていた。
喉の渇きや、重い体、震える手足。
瞳孔を震わせ、美野里の心は既に弱々しいものへと変わっていた。
目覚めた直後だけでも精神的なものがあった。それなのに、それに付け加えるかのように衝光使いたちは彼女の逃げ場をなくす。
震える体を押さえつけるように、歯を噛み締め、美野里は目を強く瞑る。
『これは夢だ……』
『嘘だっ、嘘だぁ!!!』
心の中、美野里は現実を認められずにいた。
だが、その時だった。
「さっきから……勝手なことばっか言ってんじゃないわよ!」
今まで黙っていたフミカが、怒りを露わにして叫んだ。
場の集中は一瞬解け、数百の視線が彼女の方へと向く。だが、そんな数等お構いなしに、フミカは眉間に皺を寄せ、衝光使いのアルガを睨む。
一方で、アルガは素気ない声で、
「だが、事実そうだろ? シンクロアーツが原因でここに住む者たちを傷ついた。この大惨事の発端となる魔法使いの目的はこの女だ。それを知って、この都市に住む人々はどう思う?」
「それが勝手だって言ってんのよ! 美野里が傷つけた? 美野里が目的だった? それだけで何でその子が全部責任を背負わないといけないのよ!」
確かに、全てが彼女のせいだとはかぎらない。
偶然と偶然。
それらが重なり合い、このような結果になったのかもしれない。
だが、それはただの都合の良い言い訳だ。
アルガはフミカの言葉を聞き、小さな溜め息を吐きながら聞き流そうとした。
が、そこで一人。今まで口を開かなかったもう一人の男。
右腕に義手を持つ、ガルガはその口を開いた。
「確かに、そうだな」
「ガルガ」
「そう睨むな、アルガよ。別に、庇っているわけじゃない。………ただ、俺が言いたいのはここまでの被害が出た、その原因を作ったのはシンクロアーツでもない」
彼はそう言って視線を動かす。
それは美野里でも、フミカでもない。
視線を落とす、地面に縛り付けられた一人の男。
「……………ルーサー、お前の責任だということだ」
「!?」
ドクン!!
美野里の心臓がその瞬間、跳ねたような錯覚に襲われる。
だが、そんな彼女の変化を気にする素振りなく、義手の右手を持つガルガは悲愴感を表情に露わにしたルーサーを見下し、さらに言葉をぶつける。
「その女を殺すと言いながら、そのお前が動かなかった。それがそもそもの始まりだったんだ」
「ッ………違う。お、…俺は、美野里を」
「今はそうかもしれない。………だが、昔は違っただろう?」
「ッ!」
確かに、昔のルーサーならそうだったかもしれない。
だが、昔と今では状況が違う。
「小さな感情に左右されて、お前は一番に守らないといけない大切なものを見捨てたんだ」
「ッち、ちが」
「なら、お前は女と都市、どちらを守るつもりだ?」
「ッ!?」
ガルガは恐喝な視線を睨ませ、戸惑いを露わにするルーサーの返答を待つ。
守るものは、都市の危機か大切な者の危機。
正しい答え等、本当にあるか定かではない。だが、ルーサーにとって、そんな答え等………直ぐに出てくるはずだった。
「……………」
だが、何故かわからない。
直ぐに言葉がでない。
「……………」
フミカやアーサー、その場にいる人々の視線が集まる。
そして、美野里もまた彼を見つめる中、ルーサーは自身の甘い考えに歯噛する。
彼にとって、都市の危機が一大事というわけでない。
ましてや、どちらか選べないというわけでもない。
ただ、どちらも守りたいものなのだ。
見捨てる事などできない。
正解かといえば、不正解なのだろう。
しかし、彼の口から出た言葉は…………、
「俺は…………美野里も都市もっ」
その瞬間。
現実は小さな音と共に見せつけられた。
チュン! とルーサーの言葉を遮り、奇妙な音と共にその場に一陣の風が横切った、その直後。
「―――――っ?」
そこにいた美野里の二の腕。服の袖から露出した白い肌に一筋の切り傷がすらりと入った、その瞬間に大量の血が噴き出した。
鋭い切れ味からくる痛みは次第に神経を切り裂き、その痛みを強烈なものへと変換されていく。
そして、痛覚が一瞬して彼女の脳内へ大きく響いた。
「ァ!!!?」
声にならない、美野里の叫びが木魂した。
ルーサーの瞳は見開き、同時に傍にいたフミカはライフルの銃口を男へと向けそのトリガーを引こうとする。
だが、そこでさらに奇妙な現象が起きる。
「「「!?」」」
激痛に倒れ、悶え苦しむ美野里の二の腕。
血が流れ続ける、その部位が突如光を放ち、数秒にしてその光は止み、…………美野里の腕に残っていた損傷や出血。
それがまるで最初からなかったように消えていた。
それはフミカと同様、その場にいた者たち。
そして………、
「な、何…………これ…」
美野里自身も一体何が起きたかわからない。
今まで、このような現象は一度として見たことがなかった。以前にあったバルディアスの一件でも胸にかけて刻まれた傷が癒えなかったのだから、尚更だ。
しかし、ガルガやアルガといった衝光使いたちは違った。
ガルガはその光景に今だ絶句するルーサーを見下し、告げる。
「ルーサー。これでも、まだ守るというのか?」
「………………」
「守る必要のない、こんな『化け物』を守ってお前は都市を見捨てるのか?」
化け物。
その言葉が美野里の心をさらに締め付けた。
何故なら、自分でもそう思ってしまう、そんな感情が確かにあったからだ。
だが、対して友を傷つけられたことに怒りを露わにしたフミカはついに足を踏み出し、走り出そうとした。
「アンタ!!」
「動くな、フミカ」
だが、それをアルゴが前に立ち、道を遮る。
フミカは歯を向きだし、荒々しい怒りを言葉として吐き出す。
「黙りなさい!!! 今、アンタたちが一体何やったかわかって」
「だから焦るなと言っている。そもそも、シンクロアーツはどれだけ傷を負ったとしても死なない存在なのだ」
「ッ! 何が、シンクロアーツよ。さっきからアンタたちは何言ってんのかわからないのよ!!」
フミカの心境は複雑だった。
確かに、魔法とは違う未知の力でその傷を塞ぐその回復方法には驚きはした。一度として見た事がないのだ、………当たり前だ。
だが、そんな思いよりも先に彼女の中から生まれたのは怒りだった。
それは誰しもある感情。自身の大切なものを傷つけられて、怒らない者などいない。
だから、周囲の視線等に気を取られる素振りすら見せず、フミカはその感情に従うまま声を荒げたのだ。
しかし、アルガは違った。
まるで多忙な仕事に疲れたような溜め息を吐き、彼は教師のように冷静な口調で話しを始める。
「なら答えよう。…………あの女、いや…………シンクロアーツは言うなら衝光使いの親的存在だ」
「…………親?」
「ああ、衝光使いは本来、シンクロアーツを守るために生まれた存在だと言われている。それは人には属さず、全ての武器を操る存在。衝光使いたちのその使命に従うままただ守るだけのはずだった。だが、俺達はそんな話を素直に聞く気にはならなかった。何故かわかるか? そんな得体の知れないものを何故俺たちが守らないといけない? 人に属さないと聞いて、態々それに従う理由はないだろ?」
「…………………」
「だから俺達はそんな存在が現れた時、どうするかを話し合った。そして、結果。衝光使いの代表だったルーサーは俺達に向かって言ったんだ。………もし、そんな存在が現れたなら、ソイツを殺そう。脅威になるかもしれないから、と」
そう言って、アルガは地に伏せるルーサーを見つめる。
「だが、実際に見て本当に化け物だったな。傷を作って直ぐに治癒。いや…………あれは再生とはまた違うな。言うなら、新たに作り治す創生の力だ。………たとえ、空に浮く魔法で都市が滅びたとしても、あの化け物だけは生き残るだろう」
フミカ自身も、確かにあの治り方は異常だと思っていた。
魔法による回復や再生とは違う、その創生という力。
見たからこそ、それだけで男のいう言葉が正しいと思いそうになった。
だが、それでも…、
「竜人や獣人、生物とは次元が違う。だから私たちは化け物と呼ぶ。ルーサー、そのことはお前が一番理解していただろ」
視線を彼女からルーサーへ移し、アルガは言葉を棘々しいものへと変化させる。
「なら、答えろ。お前がこの女を殺しておけばこんなことにはならなかった。この都市が崩壊の境地に至ることも、そして、関係のない者たちが死ぬことも」
「黙れっ!!」
「………私たちと最も信頼関係にあった、ライザム。奴が死ぬことはなかった。全て、お前が動いていれば防げたことだろ!」
「っ!!?」
ライザム。
その言葉は、引き金だった。
もっとも彼と親しかったルーサー。あの時の出来事が、自身の判断から招いた結果だったことなど、とうの昔からわかっていた。
だからこそ、どうにもならない感情や、揺らいだ瞳でアルガを睨むしかできない自身に苛立ち。
「ルーサー、お前はいつまでそうしているつもりだ」
アルガは、そこで不意に何かを言おうとした。
それは決定的な何か。それを言ってしまえば、ルーサーの精神を完璧に砕いてしまう。
そこにいた、誰も思った。
だから、だった。
その時。
彼女は、その言葉を口から発する。
「もう、やめて」
「「!?」」
その弱々しい声は、その場の空気を一変するに十分なものだった。
数百の視線。その場にいる者たちの瞳が一人の少女。
片腕を片手で押さえながら立ちあがる、美野里へと集められる。
「……………」
痛みは今だ残っていただろう。
そのまま倒れていても、誰も、何も言わなかっただろう。
しかし、彼女は震える足を動かし立ち上がった。
そして、頼りない足取りでアルガへと歩み寄り、その距離は間近へとなる。
二人の視線。
衝光の親と子。
美野里は地面に倒れる彼の視線を感じつつ、小さな唇を動かし………言った。
「………私の答えは一つ。私はこの都市が好き。たった一年ちょっとだったけど、それでも見捨てるなんてできない。………だから、私はこの都市を救って、この都市から消えます」
あまりに、唐突な答え。
それは他者から見ても、立派に近いと思われる正解の言葉なのかもしれない。
だが、側で茫然と立ち尽くすフミカや地面で彼女の顔を見上げるルーサーにとって、その言葉は全くとして了承できない言葉だった。
何故なら、都市は救われ、人々は救われる。
ただ、……………彼女を除いて…っ。
「み、みの」
「フミカ、ルーサーも…………………………ごめんね」
来ることは分かっていたのだろう。
フミカの言葉を遮り、美野里はそう言って小さく笑い掛ける。
例え、偽物の笑顔を浮かべていたとしてもだ。
「ッ!」
だが、そんな顔を見て納得できるわけがない。
歯噛みを見せるフミカは、思いのまま言葉を叫ぼうとした。
それが、彼女を止める言葉にならないとわかっていても…………………。
だが、それ以上の時間を…………宙を浮くそれは、待ってはくれなかった。
『!!!!!!!!!!!!!!!?!!』
突如、雷鳴を響かせ、空に浮く球体が激しいスパークを上げた。
そして、その大きさを急激に小さくなる。
そのスピードか見ても、後数分として球体は完成の域へと入り、インデール・フレイムを一瞬で消し去る禁断魔法、デスレズカが発生してしまう。
地上にいる人々の顔に恐怖が走った。
対して、アルガは目の前に立つ美野里を見据え、再び問いを返す。
「逃げ出すつもりは、ないのだな?」
「…………ええ」
「……………………わかった。なら、もう時間は少ない。やることはわかっているな、シンクロアーツ?」
「ええ、……………………わかってる」
美野里はアルガに背を向け、一人歩き出す。
脅威へと立ち向かうように歩く彼女の手には、今まで愛用してきた武器がない。魔法使いの男から離された時、その場に散らばる瓦礫のどこかに落ちたのだろう。
しかし、そうだとわかっていた美野里には、何故か武器たちがどこにいるか正確に理解できた。
もしかすれば、これがシンクロアーツに備わった力なのかもしれない。
美野里は静かに呼吸を整え、その瞳を閉じ、唇を紡ぐ。
そして、
(ごめん、皆。あんなに傷つけておいて、勝手だと思う。だけど、………………これで最後だから……………お願いだから、………力を貸して!)
美野里は武器たちへ、願った。
大切な思い出、時間、居場所を守るため。
どれだけ恨まれ、どれだけ疎まれ、そして、殺意をむけられようと…。
『ご飯まだですか、美野里!』
『美野里、これ依頼の分だけど、どう?』
アチル、フミカ。
大切な友のため。
『よお、連撃。お前、また一人で外行ったみたいだな!』
ライザム。
師匠的存在の彼との思い出のため。
そして、
「美野里」
ルーサー。
大切な、彼のため。
「……………………」
願い、静かに目を見開く。
その次の瞬間。瓦礫の山から突き上がるように飛び出た六本のダガーが宙を浮き、持ち主たる彼女の元へ向かい飛び出す。
刀身は既にボロボロだった。爆発の衝撃で地面に砕け転がる武器と変わらない、見た目からしても勝ち目のない役立たずに見える武器だ。
だが、美野里は違う。
そんな彼らがもっとも頼もしく見えた。
例え、見た目がボロボロでも。
例え、鋭く研ぎ澄まされたものがあったとしても。
六本のダガーは、…………その刀身に籠った意思はどの武器よりも強い。
美野里は向かってくる武器たちに片手をかざし、小さく笑った。
そして、あの時とは違う。
その奇跡を起こす武器。
名前を知る美野里は、その武器を出すため……………その名を呼ぶ。
「きて、シンファモロ」
その瞬間。
地上は光に包まれた。
宙の球体から発せられる電流の光など、小さなものだといわんばかりの光。
やがて光は数秒して止む。
だが、その光の中心に立つ美野里の手には、輝かしい羽を持つ一本の刀が握られていた。
「………………ありがとう、皆」
柄の部位に輪が止まり、四つの羽がある一定間隔で停止している。
その刀は、善悪を無視してその力を振るう。
清浄刀、シンファモロ。
全てを浄化する、奇跡の武器。
「これで、最後だから……っ!」
これが、最後だ。
ボロボロの武器たちと共に絶望を打ち消す。
周囲の殺意を一身に受け、美野里は立ち向かう。
相棒たる、武器たちと共に、…………都市の生死をかけた戦いへ―――――――




