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異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫  作者: GORO
第一章 異世界へやってきた少女
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聖浄刀〈シンファモロ〉



第三十七話 聖浄刀<シンファモロ>



それは、主の意識がなくなった直後に起きた。

今まで撃たれたことによる痛みがまるで些細なものだったように外部からではなく内側から全身を貫く強烈な痛みが襲う。

それは体の一部一部が引き千切られるような痛みだった。

普通、そんな死ぬかもしれない痛みを大の大人が耐えられるはずもない。

ましてや、小さな一人の少女なら尚更……。



『イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』



体の節々を引き裂くような痛みに泣き震え叫ぶ、少女の悲鳴。

誰にも伝わらないはずのその声が、二人の衝光使いに届いた。





「「!?」」



いち早く、美野里とルーサーは脳内に響き渡った声の主である存在に向けて顔を上げる。


「今の……って…」

「……………」


二人の視線の先には主であるペシアが倒れるも未だ上空に浮かぶ鋼の少女、アルグの姿がある。

だが、その体が突如として変化した。

人の姿を維持していたはずの体がまるで風船のように膨れ上がったのだ。そして、その彼女を周りから囲むようにどこから現れたのか無数の赤黒い魔法陣が形成される。


「魔法……何で…」


今までの戦いの中、魔法といった攻撃を仕掛けた覚えはなかった。

それなのに、鋼の少女に突然と割り込んできた魔法の存在。美野里は眉を顰め、その光景に異様な違和感を抱いた、その時だった。



「!!」



ダンッ!! と、誰よりも早くルーサーが地面を蹴飛ばしアルグの元へと跳んだ。

鋼の少女がいる場所まで行くに数メートルと距離がある。とてもじゃないが普通の跳躍で近づけるわけがない。だが、衝光の力によって高い跳躍力を得たルーサーにとってそこまで跳ぶことは軽い動作にすぎなかった。

数秒で鋼の少女を囲う魔法陣にまで近づいた。

その直後だ。


「!?」


微かな火花を散らす音。

何の変哲もなかったはずの魔法陣から、赤い雷が発生と共にルーサーに向かって襲い掛かる。まるで、近づく者を排除せよと、最初から仕込まれていたように…。

ルーサーは歯噛みと同時に手に持つ骨刀で雷を叩き斬り、その分が継ぎ足したように上空に居られる時間が無くなった。

重力に従い彼の体が地面に落ちていく。

魔法陣から湧き出る雷もまたそんな彼を追いかけるように落ちていく。

ルーサーは迫りくる攻撃を睨み、その手に持つ骨刀を手放した。

幸い骨刀はコードによって繋がっているため地面に落ちることなく宙をゆらゆらと動いている。

だが、傍から見てそんな彼の動きは諦めた風に見えた。

そう……ルーサーは口から空気を取り込み、その口で………………………………呟くまでは。



(けき)



直後、ルーサーの着る羽織の背中から炎の翼が突き出す。

さらに加えて、コードから骨刀にかけて炎がそれらを包み込む。それは背中下から生えた、炎によって具現化された尾のように。


「ッ!!」


ルーサーは炎の翼を羽ばたかせ上昇する。

迫る雷、それらを避け続け魔法陣が展開されている鋼の少女よりさらにその上の空で上昇を止める。そして、ある一定の距離を取り尾となった骨刀を体をひねらせると同時に魔法陣に向けて叩きつけた。

至近距離ではない、打撃攻撃。

雷と炎の尾、二つの力がぶつかり合い激しい火花が巻き散る。

だが、そこで勝敗はつかなかった。


「っち!」


雷との接触による激しい衝撃が骨刀を吹き飛ばす。

ルーサーは自身に跳んでくる刀の柄を素早く掴みとり、一度態勢を整えるために美野里たちのいる地上へと着地した。


(……嫌な予感がしたから、早い所で片付けたかったんだが)

「ルーサー!」


上空に浮かぶ異様な魔法陣を仕留められなかったことに歯噛みするルーサー。対して美野里はそんな彼に近づき視線を鋼の少女へ向け、自身の持つ光刀を構えようとした。

だが、



「逃げてください」



突然と、その言葉が美野里たちに投げかけられる。

それは、二人の前に転移して現れたアチルの口から放たれたものであり、その顔には焦りが見え隠れする。


「どういうこと、アチ」

「今から防壁魔法を張ります。美野里も早くルーサーさんと一緒に外に逃げてください!」


美野里の問いにすら答える素振りすら見せないアチル。

だが、ルーサーはそんな中でも冷静に対処するように目を細め、ゆっくりと口を開いた。


「逃げろだけじゃわからねぇよ。………どういうことか説明しろ」

「っ………」


一睨みでの気迫。

アチルは一瞬、顔を強張らせるが直ぐに顔を伏せ重い口を動かす。


「……あれは破壊魔法の一つ、デスラジアという魔法なんです」

「…で、デスラジア?」

「……はい。…デスラジアはかつて昔に使われたとされる魔法で、……破壊魔法の中でも広範囲を狙うために作られた魔法なんです。そして、その破壊力というのが都市一つを破壊できるだけの力があり……」

「ちょっ、……都市って、そんな馬鹿げた魔法って…」


美野里はアチルの言葉に動揺を露わにする。

だが、そこで第三者であるルーサーが口を開いた。




「アチル、…それは禁断魔法だな?」




それは、ルーサーが冷静な口調で口にした名だ。

コクリ、と顔を伏せるアチルが頭を頷かせる。


今まで聞いたことのない魔法。

この中で、その名を知る二人だけの通じ合い、この世界の生まれではない美野里はその言葉の意味を全く理解できなかった。

とはいえ、知らないのも無理もない。

何故なら、それは魔法の中でも奥底に封印された魔法であり、禁断魔法と名をつけられたものなのだから……。


<禁断魔法は、絶対に使ってはならない>

それは魔法使いにとって破ることが絶対に許されない決まり。

禁断魔法に何故そのような決まりがつけられたのか、それにはある二つの理由があったからだ。


一つ目は、圧倒的な破壊力。

都市以前に、世界そのものを破壊しかねないという理由。

そして、もう一つ。

禁断魔法には強大な魔力や契約といった類が絶対に必要になるということだ。

それは一番のデメリットとも言える。

魔力は生命エネルギーと同一のものであり、大量の魔力を使いことは死に近づくといってもいい。契約もまた同じで、禁断魔法に限っては条件を達成することはすなわち術者の死がついてくる。


それは、まさに最悪の結果に近いものだ。

だからこそ、絶対としてその魔法を使ってはならないとされていた。

そのはずだった。



「…本当なら、……あれを完成させるにはある一定の条件をふまえないといけません。でも、今あるということはその条件が達成されたことになります」

「……どのタイミングで魔法は実行されるんだ?」

「そ、それは……あの魔法陣が鋼の少女を押しつぶし、……小石ように小さくなった瞬間にデスラジアは実行されます」


アチルの言った、小石。

上空に浮く、そこにいる風船のように膨れ上がった少女。

確かに、その体が周りを囲んでいた魔法陣によって徐々に押しつぶされている。

傍から見ていても緊迫的状況がさらに増していく。

止める手立てもなく、とはいえ考えている時間もない。

アチルの言葉は、ここにいる誰もが正しいと思った。

だが、美野里は、


「ちょっと、待って…」


アチルの言葉と皆の顔を見て、困惑した顔で声を絞り出す。


「そ、そんなことしたら、あの子はどうなるの?」

「………………」

「今も泣いてるのよ? 助けてって叫んでるのよ? ……それなのに!」

「あの破壊魔法を止めることはできません!」

「!?」


美野里の希望を押しつぶすアチル。

彼女の顔には、確かに悔しさがにじみ出ていた。


「…破壊できているなら、禁断魔法に入っていないんです」

「………そ、そんな…」


愕然とその言葉にたじろぐ美野里。

圧倒的な力を見せたルーサーや魔法使いであるアチルでさえ成すすべがない。目の前の事実に硬直する美野里。

絶望的結果だ、徐々にその場に近づく。

だが、そんな傍らルーサーは上空を見つめ歯を噛み締めた。

そして、その口でそっと呟く。


「………やるしかねぇか」

「…え、っちょ、ルーサー……まさか、アンタ!」


遅れて観客席から駆け寄ってきたフミカが彼の様子に何かを察したのか、止めにかかろうとする。

だが、フミカはその時。

それ以上の行動ができなかった。

何故なら、




「そんなの、ダメ……」

「み、美野里?」



ゆっくりとした動きで、美野里が前へと踏み出す。

その後ろ姿はどこか頼りなく同時に不安を感じさせ、皆が疑問を抱いた顔で見つめる。

しかし、その中でアチルは彼女の言葉に対し、怒りにまかせたように叫んだ。


「やめてください! どうやっても無理なんです!! 私たち魔法使いがどうあがいても回避できないのに、…お願いですからわかってください!!!」


今までに見せた事のない、アチルの訴え。

美野里たちを傍から今まで見てきたフミカにとって、彼女がこんなにも自分の気持ちをさらけ出した事など一度も見たことがなかった。

それほどに彼女の切羽詰まっているということだ。

だが、そんな中でも、美野里は言う。




「私、あの子に言ったの」



それは、自分が口にした言葉。

たとえ、どんな事があろうとも…。



「助けてあげるって、もう大丈夫だって…」



それは、彼女の本心であり、覚悟でもある。

その瞳は、諦めていない。



「美野里……………、でも!」

「…どれだけ間違っていたとしても、どんなに無理だとしても……………私は、一人がつらいのを一番知ってる!!」

「「「!?」」」


その瞬間。

今まで自分の詳細を深く隠していた美野里。その心の何かが今この時、小さく零れ落ちたと、その場にいた誰もが感じた。

だが、美野里は続けて言葉を放つ。


「だから、絶対に助けるの! 誰が何と言おうと、無茶だとしても、あの子を一人になんかさせない!!!」


美野里は顔を上げ、鋼の少女を見つめる。

そして、片手に持つ光刀に衝光の力を限界の限りに注ぎ込んだ。

眩い光。

天ではなく、地が空を照らす。

直後、一つの異変がその場に起きる。


「何、…光が」


不意に呟いたフミカの視線の先には美野里がいる。

だが、刀を構える彼女を中心に、腰から湧き出てきた五つの光が宙を浮き回り続ける。

そして、その次の瞬間。


「!!!!」


輝かしい、聖なる光が地上を埋め尽くした。

アチルにルーサー、そして、フミカはその眩しさに瞼を閉じ、やがてゆっくりと治まる光に目を開いた。



「え……」



そこで、彼らは見た。

光続ける長髪を揺らさせる少女。

その手に持つ、一つの武器。



「羽の刀……」



誰が言ったかわからない。

美野里の持つ光刀。

何の変哲もなかった刀がしっかりとした進化を露わにする。

しっかりとした原型をとどめる、鍔のない光刀。

だが、鍔の代わりにそこには不可思議なものが存在していた。

それは光の輪。

刀をその輪に通したように、鍔の部分で固定されたように止まる輪。

さらに、そこに継ぎ足したように光の小羽が四枚と一定の間隔で備わっている。

武器の変化は、まるでルーサーと同じ。

だが、その武器の形は誰もが見た事のないものだった。

当然と、その場にいた皆が困惑する。

しかし、美野里は違った。


(お願い、私に………あの子を助けるための、力を貸して)


手に現れた異様な武器に驚く素振りすら見せず、美野里は柄を硬く握り締め、その思いを込める。

直後。

脳内に、静かな声が聞こえてきた。

それは、鋼の少女と同じ。

一つでない、六つの声。



<<<<<<<……タスケヨウ……>>>>>>>



眩い光が再び刀を力強く輝かさせる。

美野里は刀を構え、一気に地面を蹴飛ばし跳躍した。それは一切の防御も見せず、ただ、鋼の少女を一直線に突き進む、光の矢のように。


「アチル!」


そこで後方にいたフミカが大きな声で叫んだ。

彼女の手には緑銃が構えられ、そのトリガーを美野里の先にある魔法陣から発生された赤い雷に向けて撃ち出される。

フミカが撃ち出したのは、数回の火花を散らし燃え上がる紅蓮の銃弾。

空気を貫く一閃の炎が雷と接触し、お互いがはじけ飛ぶ。

そして、美野里に向かっていた雷の軌道が外れた。

だが、魔法陣の攻撃はそこで止まらない。再び迫る標的を倒すべく、雷が生まれようとした。

次の瞬間。

赤の魔法陣に上乗せするように青の魔法陣が突然と現れた。

それによって、雷が両者の魔法陣によって板挟みにされ思うように動けない。

美野里は後ろに顔を振り向け、地上にいるフミカとアチルを見つめる。


(ありがとう、フミカ…アチル)


助けてくれたことに、口元を緩める美野里。

そして、もう一度目の前にいる鋼の少女を見つめ直し、手に持つ新たな武器を構える。その武器に、本当に彼女を助ける力があるのかどうかは、何も確証はない。

しかし、頭の中で聞こえてきた声が、その不安を解消してくれる。

だからこそ、美野里は迷わない。

防壁となる魔法陣。それを斬るため、真上から振り上げる光の刀。

四枚の羽がその瞬間、本体である刀と交わり刀身は羽のようになる。

上空で現れる一羽。

美野里は、その一撃を放つ。




「いっけえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」




衝光の一撃。

魔法陣と光の羽。激しい衝撃がそこに起こると思われた。

だが、その直後。

それは紙に書かれた文字を新たな色で打ち消すように、衝光の力は魔法陣やその奥にいた鋼の少女すら躊躇なく切り裂く。

切り口からは衝光の淡い光が漏れ出し、その光はまるで浸食するようにそこにある全てを埋め尽くし、上空に魔法陣でない大きな光の球ができあがった。

だが、その光は次第に小さくなり、光が透けるように消えた。

その中心。


「………………」


鋼の姿ではない。

人間の体をした、長髪の少女が重力に従い地上へ落ちていく。美野里は先に地上に降り立ち、落ちてくる少女をしっかりと抱き留めた。

そして、安らかに眠る少女に美野里は言う。


「待たせて、ごめんね」



その瞬間。

一つの事柄に決着が訪れた。









「そんな、たった一振りで……禁断魔法陣を壊したっていうんですか……」


一体何が起きたのか、フミカとアチルには理解できなかった。

確かに衝光には不明な点がいくつもある。今回もそのどれか一つが当てはまるものだと思う。

しかし、それでも今、起きた光景はどう見ても破壊とは違ったものだった。

その場に残る、解決されない疑問。

だが、その答えをルーサー言った。


「違う」

「え?」

「あれは壊したんじゃなく……浄化したんだ」


聞き慣れない言葉。

アチルは眉間を寄せ、尋ね返す。


「……じ、浄化? そ、それって穢れを祓うみたいな感じの」

「ああ、でもそんな小さいもんじゃねえよ」


ルーサーは目の前で、少女を抱き留め地面に座り込む美野里を見つめる。

その瞳はどこか悲しげで、複雑な色が込められていた。



「あの刀の名前は、聖浄刀<シンファモロ>。善悪関係なく、全て浄化する伝説の武器なんだ」




聖浄刀<シンファモロ>。

衝光を扱う美野里にとって、切り札とも言える新たな力だ。

だが、その力が発揮する浄化という現象がどういうものなのか。



本当の意味を、今の美野里が知るはずもなかった………。





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