赤い銃
第二十八話 赤い銃
朝日の昇る、マチバヤ喫茶店の玄関。
アチルは魔法で鍵を開け、店内で朝食の下準備をしていた美野里に対し、
「美野里! だだ大事件です!!」
「うるさい。後、勝手に入ってくるな」
くるくる、ゴン!! と。
宙を舞った料理道具であるオタマがアチルの額に激突した。
「で、何が大事件なの?」
開店時間にはまだ時間はある。
朝食がまだだった美野里は店の外で反省させていたアチルと共に軽い朝食を取っている。
皿には大きく伸ばしたパンが乗せられ、その傍にグツグツと煮込まれたカレーのような物が器に入れられており、アチルが絶賛爆食い中だ。
「むぐ、ぞべがでずが」
「食べてから喋れ」
口に手でちぎったパンを咥え、返事を返す彼女は美野里の指摘に口の中に入ったパンを呑み込む。
「えーっと、美野里は知ってます? インデール・フレイムの東門近くに出来るっていう闘技場のこと」
「ああ、あれね」
アチルの言う闘技場。
それはあのバルディアスの一件が起きる前から建設中だったハンター同士の決闘場の事を示す。一時期は人同士の死闘に反対する声もあったが、何でも他都市との交流目的でもあるとのことで、建設は進められ、それが後少しで完成するとのことだ。
しかし、そんなことはアチルより長く住んでいる美野里の方が十分に知っており、別に事件ということもない。
美野里は溜め息を吐きながら、手に持つコップをテーブルに置き、
「大事件っていうから何かと思えば」
「いえ、そっちじゃなくて。………その闘技場に来るっていうのが何でもウェーイクト・ハリケーンらしくて」
「ウェーイクト? それって」
「はい、別名で銃の都市。気候が最悪なことから来るのは無理だろうと言われていた都市です」
ウェーイクト・ハリケーン。
その都市は銃を基本とした遠距離戦を得意とするハンターたちが住む。しかし、その都市の周りには普段から大嵐が吹きあがり、他の都市との交流はほぼないと聞いていた。
そのため、今回の知らせは非常に驚きをそそる物らしく、アチルもこうして興奮しているのだ。
「ウェーイクト・ハリケーンの武器とはどういう物なのか、美野里は気になりませんか?」
「…うーん、別に」
「銃ですよ? 弾が出るんですよ? 気になりますよね!?」
一人興奮するアチル。
対して美野里はそう同調することはなかった。
何故なら、元の世界にいたころにテレビなどの映像でよく見たりしており、小さいころは珍しいと思っていた節があったらしいが大きくなるにつれて冷めてしまったのだ。
「あまり期待しない方がいいと思うわよ、アチル」
「うー、そうですか?」
「うん」
そうかー………、と若干気を落とすアチル。
とはいえ、事実は事実である。拗ねたように口にパンを咥える彼女を見かねた美野里は溜め息を吐きつつ、
「アチル、今日って暇?」
「え、はい」
「なら、材料調達とか手伝っ」
「行きましょう! ほらほら今すぐに!!」
何という思考転換か。
店内出口で急かす魔法使いの少女。
美野里は苦笑いを浮かべながら、密かに肩を落とすのだった。
インデール・フレイムを出て、東方の少し行った所に位置する森林、グラセーリ。
ウサギや鳥といった野生の小動物が生息し、穏やかな森と呼ばれている。
美野里とアチルは共にその森の奥へと足を進める。
森の茂みからはヒョコリとウサギが顔を出してたりして、アチルも和んだような幸せな表情を見せる。
「アチル、下手に触ると噛まれるわよ」
「え!?」
ばっ、と手を引き込めるアチル。
前を歩いていた美野里が振り返らずに言うからには、以前に経験済みなのだろう。急ぎ足で彼女の後を追うアチル。
そうして少し行った、そこに広がる光景。
それは、
「うん、よく育ってる」
小さな葉で埋め尽くされた草原。
ちらほらと綺麗な白い花が咲いており、風にそってゆらりと葉が揺れ動く。
美野里は口元を緩ませ、その光景に目を輝かせた。
「美野里、これは」
「ラミっていう葉っぱ。水に入れて煮るんだけど、それでも水の味が凄く変わるのよ。それにしても、これだけあったら一年はもちそうね」
美野里が言うそれは、元を正せばお茶の葉に似たような物だ。
ラミは一年周期に数回しかとれない。以前に一回取りに行った時は、ほぼ全部がウサギに食べられていたらしく今回は運が良いと美野里は言う。
しかし、食材と聞いて物凄く期待していたアチルは飲み物と聞いて少々ガックリとしていた。
彼女の場合、飲むより食べるの方がよかったらしい。
だが、そこは美野里にとって抜かりはない。
「ちなみに、卵もここで取ってるから今から取りに行ってくるわ」
「卵?」
「いうなら、サンドイッチに挟んでたやつよ」
「!?」
ピン! と背筋を伸ばし、犬のように目を光らせるアチル。
美野里は若干に後ずさりつつ、
「アチルはここのラミを取っててくれる? 私は卵取ってくるから」
「全部? ホントに全部でいいの?」
「いや、全部って言ってないし。……ほどほどにね。ウサギとか鳥のエサでもあるし、環境を壊さないよう」
「行ってきます!!」
ダダダダダッ!!! と走り去ってしまうアチル。
「…………ちゃんとわかってるのかな、あれ」
言葉がちゃんと通じたか。
美野里は心配しつつ、溜め息を吐きながらその場を後にした。
卵を取る。
そうは言ったが、それは生半可な物ではなかった。
美野里はラミの広場から少し離れた大樹が多く生える場所で足を止める。
卵はグラセーリに棲む鳥の巣に落とされた物であり、それを取るにも結構な注意が必要なのだ。
何故なら、
「タイピが帰ってくるのはあと数分か。急がないと」
タイピ。
このグラセーリに棲む、鳥の名だ。
警戒が強く、巣を狙う敵に全員で襲い掛かってくる鳥でもある。そして、美野里は以前に一回強襲に会い、痛い目を見たことがあるのだ。
そのため、静かに慎重に取りに行かないといけなかった。
「よっと」
大樹によじ登る美野里は、そのまま簡単に上へと突き進んでいく。
巣があるのは木の枝と枝の間であり、重なりあっている所に上手く作られている。
木の表面を手で掴み上ること数秒。
結構な高さまで上った美野里は、そこで巣を見つけた。
中を覗くとそこには四個の白い卵が置かれて、以前にいた世界とそう変わらない大きさをしている。
美野里はそうして、卵を回収しては次々と回って行き、気づけば数十個の卵を手に取る事ができた。
「よっと、これぐらい取れたらいいかな」
木から下り、額に溜まった汗を拭き取る美野里。
もう少しするとタイピが帰ってくる頃合いだ。そろそろ時間も経ったことからアチルの所に戻ろうかと考えてた。
その時だった。
ドォン! と大きな銃声がその場一帯に響き渡る。
美野里は今までこの世界で聞いたことのない音に目を見開き、同時にその音がした方向に警戒しつつ足を走らせた。
音の大きさからして、そう距離は遠くない。
美野里は手にダガーを構え、地面を蹴飛ばしスピードを上げる。
そして、音の発生場所だろうと思える場所に滑り込みように足を止めた。
そこで見た光景。
それは…、
「なっ!?」
地面に落ち葉のようにして横たわる、多数のタイピ。
そして、その中心に立つ黒の布で体を覆い隠した一人の女。
「ぎゃあぎゃあ、うるさいのよ。まったく……」
女は横たわるタイピを蹴飛ばし、唾を吐く。
手には、赤いフレームで守られた一丁の銃が握られており、タイピ全てにむけて銃弾を発砲したのだろう。
ゴミを見るように辺りを見渡す女は、そこで美野里の存在に気づく。
そして、その一方で、
「これはこれは、お初目いただきます、アルヴィアンのお嬢様」
「…………………」
ラミの草原に広がる中、アチルは黒布に身を纏った二人の存在と出会う。
赤い銃とダガーと魔法使い。
ウェーイクト・ハリケーンとインデール・フレイム。さらにはアルヴィアン・ウォーター。
会う事のないはずの三つがその時、交わる。




