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異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫  作者: GORO
第一章 異世界へやってきた少女
2/96

アストリー採取

二話三話と本文編集しました。

良かったら見てくださると幸いです。

 

 第二話 アストリー採取




町早美野里がこの世界にやって来たのは、今から一年前のことになる。





 その日、美野里はいつものように仕事を終わらせ家路につこうと帰り道を歩いていた。

 道路端の道を通り、水の流れる河川敷の横を通る。

 何ら変わらない、一日だった。


「…………今日は満月か…」


 空から見える満月を見上げる美野里は、そこでふと足を止めた。

そして、流れるよう視線を河川敷の途中、正確に言えば川の水面に映る月光に移した、その時だった。


「………ん?」


 水面に映し出された月が、ゆっくりと揺らぎを見せる。

ただの月と思っていたそれが、次第に奇妙な光を放ち始めたのだ。



その光は本来ある月の光とはまた一変した違いを持ち、まるで虹色に輝いているような、そんな光だった。

そして、美野里もまたその光に目を奪われるように目を離す事が出来なかった。



そうして、次第に意識と感覚が混ざり合うように、あやふやになっていった―――――









 思考は止まり、それからどれだけ時間が流れたかわからない。

 だが、美野里が意識が取り戻した。


そこに広がっていたのは、



「………ぇ」



建物一つとしてない、辺り一面に広がる草原という夢のような光景だった。


「……………な、何…ここ」


 ポツリ、と草原のど真ん中に落とされたような場所で目を覚ました美野里自身、自分の身に一体何が起きたのか分からない状態だった。


最初は夢だと思った。

だが、地面の質感や肌寒い風、草木独特の臭いがそんな幻想を壊してしまう。



 そして、次第に思考は回復していき、それと同時に答えの見つからない不安が胸を強く締め付けていく。

 

「だれか……誰か、いませんかっ…!!」


 周囲を見渡し声を張り上げながら、美野里は人を探し始めた。

家一つないその場において、人がいる可能性はゼロに近かった。

 だが、それでも美野里は探し続けた。そうしていないと平常心を保てなかったからだ。



「はぁ…はぁっ…っ」


草木が永遠のように続く道を歩き続け、時間がどれだけ経ったかすら分からない。

 だが、美野里がいくら探し回った所で、そこに誰一人と人間の姿が現われることはなかった。


「…なんで………なんで、誰もいないの…っ!」


 所構わず、美野里は必死に声を上げた。

しかし、そんな彼女を嘲笑うように、空に顕然していた太陽らしき光が落ち始め、次第に辺りは暗くなっていく。


そう、その世界に夜が近づこうとしていたのだ。


「っ!!」



このまま何処かわからない場所で夜を迎えるわけにはいかない。


 不安は更にかき立てられ、いつしか目には涙が溜まっていた。美野里は必死に足を動かしながら、賢明に人を探し続けた。


 永遠と続くような草原を何時間も彷徨いながら。

声が枯れ果てるまで。


「…はぁ…はぁっ」


 陽は既に半分が消えかけ、空色は橙から紺色へと変色を始める。


 それと同時に、ついに美野里の体にも疲労が強く現れ足腰に震えが見え始めた。



「っ!」


それから数回おきに、足を躓かせては前へと転倒し、体には擦り傷や土汚れが多く目立ち始めた。だが、それでも美野里は歩き続けた。


 時間の感覚すらわからない中、当てのない道を、ただ真っ直ぐに。


「………………」


 だが、次第に美野里は瞳は虚ろを灯し始める。

 この時、この世界に生息するモンスターと遭遇しなかっただけでも幸運だった。

しかし、この世界を知らない美野里にとってはそんなことは知るよしもない事だった。


 そして、何より今の彼女にとって考えられることは、誰かに会いたい――――ただ、それだけだった。

 



「……………………」




 それから、また時間がどれだけ経ったかわからない。

 しかし、空は完全に夜の色へと染まり、遠くからは動物らしき鳴き声が聞こえてくる。

 

 (もう、ダメかも知れない……)


 美野里は体中に傷をつくりながらも歩いていたが、ついに―――――その足を止めてしまった。

 


 どこかもわからない、世界。

 その中で、たった一人。

 ……………………


「っ……ひぐっ…ぅぅ」


 不安がピークを迎え、美野里はその場で崩れ落ち、嗚咽を漏らす。


 帰りたい…。


 元いた場所に……。


 妹が待つ、家に帰りたい…!!


 涙をボロボロと落とし、泣き続ける美野里。

その声によってモンスターを引きつけることになるとしても、美野里にはもうその涙を止める手立てが一つとして見つけられなかった。





 

 どれだけ、泣き続けたからわからない。

 もう目の前が真っ暗になり、拙い足取りで美野里は立ち上がった。

そんな、時だった。


「……ぁ、明かり…っ」


 今まで暗闇だった草原の向こう側、そこに微かだが明かりを照らす建物が見えた。

 幻覚が見えだしたのか、と思った。

 たが、それでもいい。


「ッ…!」


 もう一人は嫌だ。

 美野里はその光に近づくため、必死に足を動かした。荒い息を吐き続けながら祈った。


 幻想でもいい!

 側に誰かいてほしい!!


 ただ、その思いだけを胸に美野里は歩き続けた。

何度転んだかわからない。

それでも、美野里は必死に歩き続けた。





 そして、時間の感覚が麻痺している中で、彼女はついにその建物に辿り着き、そこで出会ったのだ。



 北大陸の領土を支配する剣の都市、インデール・フレイムに。



「っ、ぁ…」



 それは、どこかもわからない場所でやっとの思いで見つけた最後の希望だった。


 美野里は都市の門前に向かってゆっくりと歩き続け、門番として立っていた二人の兵士たちに近づいていく。


 彼らは突然と現れた彼女の姿に対し驚きながら何かを叫んでいたが、既に美野里の意識は朦朧としていた。

そして、兵士の言葉に返答を返せないまま彼女は地面に倒れ、そのまま気を失ってしまったのだった。






それが、この世界に来た美野里の出来事だった。







 店を閉店にした後、美野里は自室となる喫茶店の地下一階に下り、外へ出るための準備をやり始める。

 喫茶店の店主という顔を持つ彼女が、この世界で得たもう一つの顔。

それが、ハンターという顔だった。





 黒のロングシャツに茶色く厚い長ズボンへと着替え終えた美野里は両腕に小手を装備し、頑丈な厚革靴、それから胸部を守る中央が硬く尖ったアーマーを身に着ける。

そして、全身を隠す程の大きな布マント羽織り、端を留め具を止め、美野里は防具という名の装備は完了させた。


「よしっ」


 端から見ても、あまりにも身軽な装備に見える。

だが、筋力のない美野里にとっては軽い装備の方が俊敏な移動をするのに一番適しているのだ。

とはいえ、良く知り合いにも軽装過ぎると注意されているのもまた事実なのだが、


(だって仕方がないし……)


 と、内心で呟く美野里は防具の抜けがないかをもう一度確かめた。

抜かりはなし、と確認を終えた美野里は次に自身の武器でもある計6本のダガーを装備する。



 鞘から抜かれたそれは銀の輝きを見せる刃こぼれのない短剣。

しっかりと手入れが施されている事もあってか、その刃からは鋭い威圧感すらも感じられる。


美野里はそれらの武器を茶色の厚ズボンに備えつけられた左右後ろを合わせた計六個の武器収納ホルダーに差し込み、こうして、武器防具ともに装備を完了させた美野里は最後にベルトつきのポーチを腰に装備しつつ、全行程の準備を終えた。






 店のドアを閉め、店を後にした美野里は道行く人たちが賑わうその通りを歩き、インデール・フレイム門前にやって来た。



 門の前には二人の門番である兵士が立っているが、本来外に出るにはある決まりがあった。


それは、必要書類の提示と外出許可の印を押してもらうこと。


これらがどうしても必要になってくるのだ。

そして、美野里たちハンターにとってもそれらは例外ではない。

 とはいえ、ハンターの場合だと依頼内容が書かれた依頼書を見せることで必要書類は受理されるのだが、


「採取依頼の許可書ですね」


 美野里は門番二人に挨拶を交わした後、許可を取った上で門の外へと出る。

そこは、美野里が初めてその地にやって来た時に見た草原の世界。



そう、円形の外壁に囲まれたインデール・フレイムの外は辺り一面が草原に覆い尽くされているのだ。


 


「………………………」


 ふわり、と前髪が風に靡かされるように揺れ動く。

 その光景はこの世界に来たときから何も変わっていない。だが、同時に複雑な気持ちにもなる。


美野里は一息つきながら気を整え、今回の目的を思い出す。

 それは、冷蔵庫の代わりとなる収納箱、その箱の冷たさを保つための鉱石、アストリーを採取すること。

 


「それじゃあ、行きますか…」



 美野里は目的地へとなる採取場所へと足を動かし、歩き始めた。

 距離にして数キロ先、一時間もすればたどり着くそこは、インデールに住むハンターなら一度は足を踏み入れる洞窟。



 その名は、鍾乳洞のような迷路となる穴が多数確認された洞窟、レイスグラーンだ。

またの名を修練の洞窟。

一人前のハンターになるための、一種の修行場として有名な登竜門でもあるのだ。





 レイスグラーンに挑戦した新米などは、決まってボロボロで帰ってくる。

ちなみに、新米時代の美野里も経験した身でもあるのだが、正直あの時のことは今でも思い出したくないというのが美野里の本心だ。




「さてっと」

 

 レイスグラーンの入り口前に辿り着いた美野里は、腰に回したポーチから円筒状の筒棒のような物を取り出す。


 棒の先端には透明な筒ガラスのようなものが付けられ、その中には黄色の石が放り込まれており、その筒棒を軽く揺らすとグラス内に入れられた石が突然と輝きを放ち始め、まるでライトのように今まで暗かった洞窟内部を明るく照らし始めた。



 美野里が取り出した黄色の石は光を放つ鉱石、ライトリーという石だ。

 特に撤退のさいに使う閃光弾に似たような効果を持ち、ハンターたちもよく利用する代物だが、ライトリーは衝撃を加えると光を放つという特性を持っていた。


そして、毎回逃亡時に捨てていくというのは勿体ないと考えた美野里はそんな石を有効に使うべく、色々と考え思いついたのが、この疑似ライトだった。


「よしっと、行こうかな」


 普通のハンターなら光を出さないまま道を進み、時間と共に徐々に目を慣らしてからそのまま進んでいく所なのだが、正直に言ってそれでは時間のロスが大きくなる。

 だが、この疑似ライトさえ使えばそんな遅れもなくなり、内部探索の時間が有意義に使えるのだ。



 しかし、ライトリーは街ではかなり高価な代物でもあり、中々と手に入れられないというのが現状でもあるのだが…。





 しっかりと明かりが継続されているのを確認した上で、美野里は洞窟奥へと進んで行く。


 ポツ、ポツ、と水滴が落ちる音が聞こえる中、洞窟を歩き数分が経った頃、洞窟のあちこちに通り道とした穴が存在するのが見えた。



そう、レイスグラーンにはアリの巣のような道がいくつにも分かれて存在しているのだ。



美野里自身、この洞窟にはよく足を踏み入る為もあってか迷うことはない。

だが、まだ全部を探索し終えたわけではないく、正直な話で探索コンプを狙っているわけでもない。



 しかし、身近で一緒に行くぞとよく誘ってくる者もいるのが、本音を言えば遠慮したい気持ちで一杯でもあり、


(あの人、全然私の話し聞いてくれないしなぁ…)


 というのが、最近のちょっとした悩みの種でもある。

と、そんな時だった。



 バッ、と天井から音と共に突如何かが襲い掛かってきた。



 疑似ライトのおかげもあって、微かに確認できたそれは小柄なコウモリの変種、エリチュウーナ。


 体を小柄にした分、牙を鋭利にとがらせて噛みついた相手を数時間と麻痺させる毒持ち、身動きが取れなくなった対象の血を吸血するのが彼らのやり方だった。

 そして、今回はその格好の獲物とを美野里だと誤解し、エリチュウーナは勢いをつけながら牙を剥き出し迫り来る。



「よっと」


 だが、突然の奇襲攻撃にも関わらず美野里は動揺することなく一歩後ろに跳びのき、それと同時に腰から抜き取ったダガーの柄を使い、間近に迫ったエリチュウーナの頭部へ振り下ろし、コン! と小気味よく音が鳴り響いた。

 

 まさに瞬殺だった。


 キュゥ、と声を出しながら地面にへたり込むエリチュウーナ。

 美野里は気絶するエリチュウーナをポーチから出した青いワイヤーで編まれた網の中に入れ、地面に引きずらせながら再び足を動かす。



 飲食店を営む者達は基本、ハンターたちに依頼して材料を手に入れるのが普通なのだが、美野里はこうしたハントした動物たちを自分の街に持っていき、料理としての材料を調達しているのだ。


 とはいえ、エリチュウーナは確かに料理としては使えるには使えるのだが、美野里自身あまり使いたくないので今回は売る予定である。

 後、付け足すならエリチュウーナはこの後連続として襲い掛かってきており、結局7匹もハントしてしまった。




 お金になることはいいが、正直こうもウジャウジャと網の中で溜まるのはあまり見たくない。次来たら、捨てていこう。と考えながら美野里は洞窟奥へと進み続けた。

 そして、歩くこと一時間が過ぎ、ついに美野里は目的の場所に辿り着く。

 そこは、冷石、アストリーが集まる鍾乳洞。



 岩壁からずらりと並ぶように壁にへばり付いたそれらは、美野里にとってまさに宝石の倉庫のようだった。

 口元を緩める美野里は、太ももから抜き取ったダガーの柄を素早く振りおろし、ゴトッ、と壁についたアストリーを叩き落とし拾い上げていく。


 何個も取り溜めてもよかったが、アストリーの効果はこの場所であるからこそ、その効力を永続する事が出来る。

 たった一個の石だけでも、美野里が頭を捻り考えた冷凍タンスは十分な働きをしてくれる。既にアストリーの効果やそれがどれほど持つかも実証済みだ。



 一つでも十分だが…三つほど取っていこう、と美野里はアストリーを後二つ回収してポーチに収納し今回の採取はひとまず終わった。

 そして、後は軽く洞窟を探索して帰ろうか、と美野里は元来た道へ戻ろうと振り返った。

 そんな時だった。



「きゃああああああああああああああああああ!!」



 洞窟内奥から突然と女性の悲鳴が響き渡る。

 狭い壁に囲まれた洞窟内では音の響きが長く続く。だが、音の大きさによってその距離はある程度予測する事が出来た美野里は、


「はぁ、またか……」


 溜め息をつきつつ、帰ろうとした足取りを戻し、再び洞窟奥へと走り出す。



 普通なら悲鳴と聞いて、何かしらの警戒や同様を見せるのが普通だ。

 だがしかし、レイスグラーンはハンターたちにとっても一種の訓練場とされていることもあって、よく強敵と遭遇した新米ハンターたちの悲鳴が聞こえることがあるのだ。

そして、熟練のハンターたちがそういった場面に出くわした際、救出にいくのがインデールでの決まりとなっていた。

 

 日によって、救出場面に数回と出くわすハンターもいるというが…ちなみに、美野里はこれで十回目となる。



 

 とはいえ、美野里自身はそんな決まりがなくとも助けに行ってしまう性格な為、あまり決まりとかは関係がない気もするのだが、


「もうちょっと、ここも警備とかちゃんとして欲しいんだけど…」


 言葉と本心をバラバラに言いながら、美野里は颯爽と現場となる場所へと走り出すのだった。

 



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