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異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫  作者: GORO
第一章 異世界へやってきた少女
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氷の魔法使い

再編集しました。

 


 第十七話 氷の魔法使い



 洞窟、レイスグラーン。

 何班にも分かれたハンターたちがその洞窟の深奥にいるとされる凶暴モンスター、バルディアスを討伐するために潜入していた。

 だが、そんな状況の中で今、二人の少女は壁際に追い詰められている。

 一人はただ震えるしかできない短剣を持つ少女、サヤと、もう一人は手に初心者用の剣を持つ少女、ユミ。

 どちらもハンターとしての経験も浅い、新米のハンターだった。

 そして今、ユミは後ろで震えるサヤを守るように前に向けて剣先を構えている。だが、その顔には明白なまでに恐怖が染み渡っていた。

 何故なら、彼女たちの目の前に、



「そう怖い顔するなよ? なぁに、ちょっと遊んだら直ぐに帰してやるって言ってんだろ?」



 モンスターではない。

 自分たちと同じ言葉と喋る人間ーーーー同じ班だった三人のハンター男たちが剣を構え、敵対するように彼女たちを追い詰めていたのだ。

 彼女たちとは違いしっかりとしたハンター経験も持つ彼らは、逃げ場を数と武器で封じ、ジワジワとにじり寄ってくる。

 一人の男はそう軽口で言っていたが、その後ろに立つ二人の男たちは面白げに笑みを浮かべていた。

 そして、そんな彼らの表情を前にしたサヤとユミは同時に確信する。

 今、口にした言葉の全てが偽りであることに‥‥。


「ゃ、だ‥‥ゃだッ‥‥」

「大丈夫、大丈夫だから!」


 怯え切るもう一人の仲間を後ろに、剣を構え直すユミ。

 だがしかし、その剣先は酷く揺れ動き、今さっき言った言葉は、仲間だけでなく自身に言い聞かせているようなものだった。

 目の端に涙を溜め、膝をガクガクと震わせる彼女たちに、男たちはさらに凶悪な笑みを浮かべる。

 あの顔が悲惨になる。その姿を見てみたいという願望に笑いが堪えきれていない、そんな顔をしていた。

 そして、ついにその我慢が限界を越える。


「さぁ、俺たちと楽しく遊ぼうぜー!!」


 男たちは声を上げ、武器を構えながら走り出す。

 後ろに隠れるサヤは悲鳴を上げ、その前に立つユミは目を瞑りながら涙を零し、心の中で叫んだ。


 誰か、助けて! と。


 涙が頬から顎へ、そして地面へと落ちる。

 その、瞬間だった。



「‥‥(衝光)」



 キンーーーーーーッ!! という鉄が硬い何かに打ち付けたような、そんな音が鳴り響いた。

 さらに続けて目の前から男たちの短い呻き声が耳に入ってきた。

 突然の音と声に目を強く瞑っていたユミは、ゆっくりと瞼を開く。

 すると、そこには、


「‥‥‥‥‥‥‥え」


 剣を折られ、地面にうつ伏せに倒れる男たちの姿があった。

 その体には目立った外傷もなく、ただ気絶しているようで息はある。命に別状はないようだ。

 だが、彼らの手に握られていた武器たちの刀身は、綺麗な切断面をつけ、真横から一閃されたように切断されていた。


 あの数秒という時間の中で、一体何が起こったのかわからない。サヤを傍らにユミは、現状に対して戸惑った表情を浮かべていた。

 ただ、そんな時だった。


「‥‥‥‥‥なに、これ‥」


 ピチャッ‥、と足元が何か分からない液体のようなもの踏んでしまった。

 ユミはサヤに声を掛け、彼女が持っていたライトリーに衝撃を当て光を灯させた。

 そして、その直後に彼女たちはその液体の正体に気づき驚愕の表情を浮かべることとなる。


 足が触れた、それはーーー血の跡だった。

 真っ赤な紅蓮の色を持つ液体、人の体に流れるものだ。


 地面に垂れ落ちる形で落ちた血は足跡を残すように、点々と倒れる男たちの前からさらに洞窟の奥へと続いていた。

 それだけでその血が男たちの物ではなく、自分たちを助けてくれた謎の存在のものであるという直ぐに気づくことができた。


 だが、その血の跡から推測できるに、その量から見ても、いつ大量出血で死んでいてもおかしくないほどのレベルだったはずだ。

 それなのに、血は印をつけるように深奥へと続いている。


 まるで、怪我など御構い無しに、何かを探しているようだった。





「シールヴァ・セル」


 アチルは杖を構え詠唱を唱える。

 彼女の着る青いコートが小さく揺れ動くと共に、足元から白い霧のような冷たい冷気が湧き上がり、まるで円を描くように何度も彼女の周囲を回っていた。

 深奥で待ち伏せをしていた大勢の男たちが、その異様な現象に体を硬直させる中、プリーチャイルもまた動きを封じられていた。

 今まで見たことのない魔法の力に動揺し、それ以上に彼らの体が無意識に危険と察知しているのだろう。


 そしてまた、それは同時にある証明にもなった。

 アチルが今まで隠していた氷の魔法という力に、圧倒的な脅威を放つ、力がある事に。


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」


 周囲の警戒した状況の中、アチルは冷たい瞳を見据え、腕を真上に上げる。

 そして、手首を小さく回し杖を軽く動かした直後。

 透き通った発声と共に、アチルは魔法を唱えた。


「ヴァースト!」


 直後、何もないはずの洞窟の天井から突如と、無数の青白い魔法陣が展開され、そこから排出されるように大量の勢いをつけた水がハンター達に襲い掛かる。

 その勢いは激しく、今までアチルが使っていた水魔法を凌駕するほどの威力を秘めていた。


 頭上から襲いかかる水の脅威にハンター達は為す術もなく、逃げることすらできずに、悲鳴を入り交ぜながら男たちを水に飲み込まれ、身動きすら許さない状況に堕ちいた。

 そして、そんな状況の中で、一人水に影響を受けず、まるでシールドに守られたその場所に立つアチルが、杖を前に構え、水に捕まる男たちにさらなる魔法を唱えた。


「チェルス」


 ガキィン!! という甲高い音と共に地面に着水していた水が一瞬にして氷に変わる。それはまさに瞬間冷凍による物であり、またそれはアチルが得意とする水と氷の二つを組み合わせた連携魔法だった。

 全ての水が氷に変わり、それは頭上の魔法陣のまで行きわたり、そ一種のアートのような数本の氷タワーで埋め尽くされた光景が目の前に広がっている。


「ふぅ‥‥‥‥」


 大勢いたハンター達を一瞬のうちに捕えたアチルは大きく息を吐き、地面に落ちる魔法剣・ルヴィアスを拾おうと足を動かそうとした。

 だが、その時だった。


「おいおい、まだ何も終わっちゃいねーんだが?」

「!?」


 背後から放たれた暗く重い声。

 目を見開いたアチルは地面を蹴飛ばし前方に跳ぶ。だが、距離が近かった為もあって、振り下ろされた大剣が彼女の着る青いコートの片端を切り裂いた。

 傷口の大きさから、本来ならその奥にある肉も裂かれ、血が飛び散るはず。


 しかし、切れたのは青いコート部分だけだった。

 大剣の柄を持つ、硬い防具を身に着ける大男は眉を顰めながら、前方に立つアチルに声を掛ける。


「ほう、防具のないチンケな服だとは思っていたが、アルヴィアン・ウォーター産っていうのは色々と珍しい物が多いんだなぁ」 

「っ、な……なんで」

「何、魔法使いがいるって聞いてたから、こちとらも慎重に行こうと思ってな」


 そう、ニヤリと笑う大男。

 だが、対するアチルにはどうしても納得のできない問題があった。


「………陰に隠れてたとでもいうつもりですか? ここにいた全員は先の魔法で把握していたはずです」


 動揺を隠しきれないアチルの全身から、嫌な汗が流れだす。

 その一方で、大男は彼女の言った言葉に首を傾げながら、


「ん? 把握? ああ、さっきの霧みたいなやつか………成程、攻撃じゃないと思ってたがそういうことかっ‥ククっククク‥」


 がははははは!! と大男が高笑いを上げる。

 そして、その声がまるで呼び出しの合図でもあったかのように、氷から柱の陰から、次々と仲間の男たちが姿を現し始めた。


「そ‥‥‥そんな‥」


 アチルは、眼前に広がる光景に対し目を見開き、驚愕の表情が隠さずにいた。


 何故か男たちは健全と動いていられる?

 あれを防げるはずがない、そのはずなのに‥‥‥何故こんなにも無傷な者が多く存在する!!


 アチルは焦りを隠しきれず、苦い表情を浮かべる。だが、その時。

 注意深く男たちを睨んでいた彼女の瞳があるモノを捕えた


 それは男たちの手背。

 そこに不気味に光る、赤黒の円をしたもの。

 それは、れっきとしたーーーー魔法陣だった。


「…な、………なんで、あなたたちがっそれを!!」

「あん? ああ、これか? ……………そんなに気になるか?」


 大男は手に背にある魔法陣をアチルに見つけながら、口元を不気味に緩めた。

 直後、そのまま一気に地面を蹴飛ばし、


「そんなに知りたいなら俺を倒してからにしなッ!!!」

「っ!?」


 ライザムの剣と、咄嗟に拾えた魔法剣ルヴィアスとの刀身が交わり、共に鉄の打ち合う音が続く。

 だが、魔法に特化しているアチルにとって、その勝負には不利があり、その前にも力勝負での勝機は限りなくゼロに近かった。

 今のアチルには、斬り返しのごとく振り下ろされる大剣を何とか退けるので精いっぱいだ。


「ッ! ッ!!」

「はっ、なるほど! 魔法使いも力的には弱ってことだな!!」


 大声をあげたと同時に、大きく力を溜めていた一振りをアチルに向けて放つ。

 防御する為に、魔法剣を構えていたにも関わらず、アチルの体はその力に負け後方に剣ごと吹き飛ばされてしまった。

 さらに加えて大男は剣を振り上げ迫り来る。

 地面に転がるアチルは痛みに顔を歪ませながらも、片手に持った杖を突きあげ、叫ぶ。


「シ・バリストリート!」


 ガキガキィ!!! と轟音と共に極寒の冷気が彼女を中心に周囲へと広がり、広範囲の地が再び氷地へと塗り替えられていく。

 深追いをせず、魔法の影響を受けなかった大男は舌打ちをうちながら、後ろに距離を取った。

 そうして、攻撃が止んだのを確かめると周りにいる仲間に声を上げ、指示を飛ばす。


「お前ら! やれ!!」


 声援にも聞こえる男たちの叫びが深奥の地、その空間の中で大きく響き渡る。

 そして、男たちは一人の少女を殺すべく一斉に走り出す。

 洞窟内の壁に声が反共し、雑音にも似た音が広がり続ける。


 荒い息を吐き、冷静を取り戻すために目を伏せるアチルは杖を地面に構え、魔法を唱える。


「アー・メルト・フレイセス!!」


 静かな冷気の壁が再びアチルの周囲に漂い、男たちが自身の間合いに入って来る、そのタイミングを待った。

 だが、そんな危機的状況の中で、


「!?」


 突如として緊迫とした空気なアチルの背中に襲い掛かる。

 魔法に意識していたはずの彼女自身も、その突然の事に集中を解いてしまった。

 だが、そんな事を気にする余裕すらなかった。

 何故なら、アチル背後に忍び寄る、巨大かつ凶暴なモンスター。


「……ッ!?」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 凶暴モンスター、バルディアスが今、最悪のタイミングでアチルの前にも君臨したからだ。


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