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うろなの虹草  作者: 裏山おもて
うろな町のみんな
3/18

ハム太(はむすたー)

 うろな駅。

 ここうろな町の入り口であり、もっともひとの足並みが賑わう場所だ。繁華街がまわりを囲み、それほど大きな駅ではないながらも、活気のある街の中心だった。

 そこからすこし離れると、喧騒とは程遠い閑静な住宅地もある。

 そんな穏やかな街並みにあるアパートの一室のチャイムが鳴らされたのは、いまからすこし前のことだった。




 ひなたはアパートの一室で銀のゲージを眺めていた。

 長い髪を後ろでくくり、毛先のあたりを三つ網にしている。小柄な体格で童顔な少女は薄いワンピースを着ていた。そのうえからカーデガンを羽織り、銀色に光る大きなゲージを眺めていた。

 ゲージのなかには一匹のハムスターがいる。

 茶色と白が混じった、毛並みの綺麗なハムスターだ。

 ひなたは彼にハム太という名前を付けていた。そのネーミングセンスに幼馴染の草薙天兵から「そのまんまじゃん」とダメ出しされ続けているのだが、ひなたにはそれを変える気なんてこれっぽっちもなかった。じつは奥が深い名前だったりするし、しなかったりするし、それにそもそも。

 ……だって、かわいいんだもん。

 自分の感性に嘘はつけない。ひなたは頑固だった。 


 ピンポーン


 チャイムが鳴ったので、ひなたは頭の上に、ハム太を乗せて玄関に向かった。

 のぞき穴から外を見る。


 チャイムを押したのは、スーツ姿の青年だった。

 なかなか凛々しい顔立ちでありながらも、なぜか縄を携えている。カウボーイが悪者をつかまえるための捕り縄みたいな形状だ。

 ……へんなひとがいる。

 確信的に判断できてしまった。

 とはいえ無視するわけにもいかない。ひなたは扉を開けた。


「あ、こんにちは。隣に引っ越してきた川崎尚吾といいます」


 丁寧なあいさつに、菓子折を出してきた。

 意外にも礼儀正しいひとだった。

 ひなたも頭を下げる。

 それから頭のうえのハム太も頭を下げ、


『これからヨロシクだゼ、にーちゃン!』

「へ?」


 好青年の川崎が、きょとんとした顔つきになる。

 ハム太は指をビシッと立て、


『となり同士、困ったときは助け会おうゼ!』


 ぽかんとする川崎。

 ハム太は前歯をキランと光らせた。


「……え、ハムスターがしゃべった……?」

『はっはっは、面白いこと言うな兄ちゃン! ハムスターのオレが喋るわけねえだロ!』

「いや、でも、きみ喋ってる――」

『腹話術だゼ!』


 バチンッ、とウィンクしてみせるハム太。

 その下のひなたは、始終無表情だった。


「……そうか。うん。じゃあそういうことにしておこう」

『嘘じゃないんだゼ!』

「信じたよ。もうきみのことは疑わないと誓おう!」

『なかなかノリがいい兄ちゃんだナ! 気に入ったゼ!』

「きみもなかなかノリがいいな、ハムスターくん」

『だから喋ってるのはオレじゃないんだゼ! それとオレの名前はハム太だゼ!』

「おっとすまない。とはいえこれからよろしくハム太くん」

『おウ! ヨロシクだゼ!』


 川崎とハム太は握手を交わした。川崎の指先をちまっと握ったハム太だった。

 どうやら挨拶は済んだらしい。

 ひなたは無表情のまま、扉を閉めようとした。


「あ、そうそう。きみたちに聞いておきたいことがるんだけど」


 川崎は唐突に、瞳を炎のように燃え上がらせて、


「この近くでツチノコを見なかったかい?」


 妙なことを言い出した。

 やっぱり変なひとだった。

 ハム太が腕を組んで首をかしげる。


『ツチノコ? ツチノコってあのヘビみたいなやつカ?』

「そうそう、そのツチノコ」


 川崎は力強くうなずいた。

 ツチノコ。伝説のヘビ。

 そういえばこの街でツチノコの目撃があったという噂を聞いたことがあったような。

 残念ながらひなたが見たことはない。もちろん、ハム太も同じだ。


『さあ、知らねえナ』

「そうか……」

『役に立てなくてすまねえナ!』

「いやいいんだ。ああ、でも、そうだ。よかったらきみたちもツチノコ探し隊に――」


「おーーーーーーい、ヒナーーーーーーっ!」


 川崎の言葉をさえぎって、遠くから駆けてきたのは草薙天兵だった。

 遠くから自転車を漕いでくる。地味な顔立ちに地味な背丈。特徴があるとすればどことなく本能で動いているような動物っぽさだろう。

 ひなたの幼馴染である。

 天兵は自転車をアパートの前で急停車させると、目を爛々と輝かせて右手を突き上げた。

 その手には、小さな袋が握られていた。


「ほら! 超高級ひまわりの種をもらってきた! お昼に行った洋食屋さんの店長さんが間違えて余分に仕入れたって困ってたから、もらってきた!」

『なにィ!?』


 ハム太がおおげさに驚くと、ひなたはダッシュで天兵のところまで駆け寄った。


『はやくよこしやがレ!』

「おっと、今日も元気だなハム太。でも行儀が悪いやつにはあげないぞ。ちゃんとお礼を言ってからだよ」

『サンキューベリベリベリーマッチ!』

「よし、食え。手を合わせて?」

『いただきまス!』

 

 ハム太は、カリカリカリカリカリカリと種を食べ始めた。

 ひなたの髪にひまわりの種の食べカスが降りかかってくる。それも気にせずに一心不乱にかじりつくハム太はとても可愛い。頬のふくらみなんて最高だ。

 ただ、こうなると、もうひなたは喋れなくなる。

 無言で無表情を変えられないひなたに、天兵が微笑みかける。


「ヒナの話したら、店長さんがおいしいサンドイッチも作ってくれたんだ。食べるよね?」

 

 こくり、とうなずくひなただった。




 その様子を眺めていた川崎が、苦笑しながら小さくつぶやいていた。

「……この街は、面白くなりそうだな」




 すこし前の、出来事だった。

うろな町でツチノコ探し隊より、川崎さんをお借りしました。ここもとさん、こんな感じでよろしかったですかね?

あといくら動物まみれの草薙天兵でも、ツチノコは見たことないらしいです……

いつか一緒に探しにいきましょうねー^^

あとこっそりビストロ『流星』もお借りしています。高級ヒマワリの種なんてあるのかはわかりませんが笑


abakamuさん、ハム太はまだまだ元気です。ご協力ありがとうございました。

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