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うろなの虹草  作者: 裏山おもて
うろな町のみんな
2/18

ぎん(ねこ)

 うろな町の住宅外のはずれには、近所のひとたちから『動物園』と呼ばれる家が建っていた。

 知らないひとがそのまえを通れば、ときおり聞こえてくる動物たちの鳴き声に驚くだろう。


『草薙』


 表札は一見して平凡だが、外壁は横に長く、邸宅と言っても差し支えのない敷地の広さだった。

 とはいえ、中に入ってみるとまた驚くだろう。

 そのほとんどが庭なのだ。

 大きな池があり、小屋がいくつもあり、丘がつくられ、草が生い茂り、木々が植えられている。

 まるでひとつの箱庭だ。

 そこには犬やポニー、子豚やニワトリ、リスやモモンガやペンギンの姿があった。彼らの鳴き声は絶えず響いている。


「ちょっと、ぎん! まって!」


 ドタバタとした足音は、動物たちのものだけではない。


「ぎん! ぎんってば!」


 建物の二階の南側の窓から、慌てた声が聞こえてくる。

 草薙天兵の私室だ。

 うろな高校の制服に身をつつみ、手には小さなブラシを持っていた。

 天兵がベッドに向かってジャンプすると、すれ違いに小さな影が床に降り立った。


「ぎん! じっとしてって言ってるだろ!」

「にゃー」


 天兵の声に答えたのは、猫だった。小柄で大きな瞳が特徴的だ。

 ぎんは『天兵はのろまだニャ~』と言わんばかりに鳴いた。


「くそっ!」


 天兵はぎんに飛びかかる。

 ひらり、と身をかわされた。


「ふべっ!」


 天兵が床に激突すると、その背中にぴょんと乗っかったぎん。

 つまらなさそうに、前足で顔をゴシゴシとこすっていた。

 天兵が身を起こすと、ぎんはそのまま背中からベッドのうえに跳んだ。


「んにゃ」

『ほら、ブラッシングするなら早くしてニャ』


 と言わんばかりにゴロンと寝転がり、薄眼で天兵を見る。

 むかしはもっと大人しい猫だった。小学四年のとき、西の山で楓が拾った猫。身体はおおきくならなかったけど、態度はみるみる大きくなっていってしまった。


「まったくもう……」


 天兵はため息をつきながらも、ぎんの背中にブラシをあてがう。

 時計を見るともう八時を回っていた。


「やば、遅刻する」


 急いでブラッシングを終えた天兵は、部屋を飛び出した。

 そのまま玄関まで直進して、裏口へ回る。駐輪場から自転車を取り出すと通用門から外に出る。

 かばんをかごに投げ込んで、サドルにまたがっとき、


「にゃ~」


 ぎんがいつのまにか塀のうえに見送りに来ていた。


「ぎん、危ないから、あんまり外に出るなよ」

「……。」


 天兵の言葉を無視して、ぎんは天兵の背後をじっと見つめている。

 振り返ってみると、そこには色素の薄い美少年が歩いていた。中学生だろう。儚い雰囲気でありながらもどこか気だるそうに歩いていた。そのうしろには距離をあけて、漆のようにつややかな黒髪を流した、これまた綺麗な美少女が歩いていた。……めちゃくちゃ可愛い。

 しかし美少女にはまったく目を向けることなく、美少年を見続けるぎん。

 どうやらぎんはイケメン男子が好みらしい。

 ……オスなのに。


 天兵はなんともいえない気持ちになった。

 少年は切れ目の目元を静かにこちらに向け、


「……なに?」

「ああ、なんでもないよ。ごめんね」


 天兵の苦笑をいぶかしげに眺めつつも、そのまま歩いて行った。


「……ぎん、ほどほどにしとけよ」

「にゃ」


 天兵があきれて言うと、ぎんはうなずいた。





 こうして草薙天兵と、うろな町の一日が、始まった。


深夜さん、依さん、ご協力ありがとうございます(*´ω`*)

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