だからどうだったか
「この先100m、第一中継地点。 もうすぐだねシアン」
「うん」
「浮かない顔だね」
「うーん、なんか疲れた」
「もうすぐだから頑張ろう」
シアンは頷いて答えた。
(それだけじゃないよ・・・)
第一中継地点の深さは地上40m。入った頃よりも少し奥だから暑くはなってきたといったところだ。
気温はそう大して体に支障はきたさないものの酸素濃度が低く、悪路が多いから呼吸器系は負担が多くなる。
ただ単に足が疲れたのではなく、だるさを感じるのも仕方は無かった。
世界的に持久力の低下する一方でのこの作業だ、無理もない。
「よし、着いたね」
簡単な門をくぐると、都市とも呼べるくらい広い場所だった。
「とりあえず泊まれる場所を探そう」
サイはどうにかシアンを先導した。
歩けば歩くほど「おい、子どもだぜ」「ホントだ、なんだあいつら」「金稼ぎだろ」といった声が聞こえてくる。
それは自然なことだった。本来は政府軍しかここに来ないし、一般人で来るとしても物資運搬くらいだからだ。
「君たち、どこから来たんだい?」
振り向くと若い青年兵が立っていた。
「あの、僕たちは・・・」
「あぁ、いいよそんなに、追い出したりはしないから」
「二人だけで来たんです」
シアンが答えた。
「うん、そうみたいだけど、ここに来た理由が分からないというとある意味自殺行為だからね」
「すみません」
すると青年兵はシアンの顔を見た。
「・・・・・・」
緊張して顔を伏せた彼女を見た青年兵はこう言った。
「ずいぶん疲れているみたいだね。 私が宿を取ってあげるからそこで話をしようか」
二人は、何も言わないまま頭を下げた。
「じゃぁ、まずはここに来た理由を」
「はい。 僕たちはジランド地質・海洋学研究所の生徒で、国家があまりにも行動が遅いので、飛び出してきたんです」
「ハッハッハッハ」
二人は国家を目の前にして言ったようなものなのに、突然笑いが起きて動揺した。
「そうかそうか、優しいんだね君たちは。 確かに、第六中継地点が作られてから進展が無いよ。もう半年も経っている。
地質学を勉強している君には分かるかもしれないが、やはり奥へ行けば行くほど酸素濃度も、気温も物資の運搬効率も重要になってくる。
それに耐えられるだけの施設や防具、技術が必要になってくるからね、そう簡単には進めないんだよ」
「でも、もう二ヶ月前に開発されて商品化も正式になったものがあるじゃないですか」
「需要と供給のバランスがよくないんだよ」
「世界に呼びかけるのは・・・」
「反政府軍だって沢山いるんだ。ここら辺は平和かもしれないけど、大統領は難しいと言って先延ばしにされるばかりだ。 私も正直うんざりしている」
(もっと広い視点で物事を考えなくちゃいけなかったのか・・・)
「シアンはどう・・・」
横を見ると、机に突っ伏せたまま動かないシアンが居た。
「シアンっ!」
サイはシアンの肩を揺らして意識を確認したが、青年兵に止められた。
「君、むやみに体を動かすのはよくないよ。 一緒に連れてきたのなら、大切にしないと」
「す、すみません」
「多分、疲れているんだろう。このままベッドに運ぼう。 手伝ってくれ」
「あ、はい」
それから僕は付きっきりでシアンの面倒を見ることにした。
昔からそうだったが、鈍感なんだろうか、他人の気持ちを汲み取ったことなんてなかった。
(こういうのって面と向き合ってない証拠なのかな)
シアンの寝顔は幸せも苦しみも無い、でも、本当はどう思っているんだろうか、そういうことを
ただ考え続けた。