シアンの不都合
いよいよ二人はメトロの入り口に立った。
特に警備員がいるわけでもなく、出入りは自由だった。
「さて、行こうか」
「ちょっと待って」
「どうしたの?」
「地図っていうか見取り図みたいなのは無いの?」
「あぁ、これから行く先は、政府の軍が掘り進めているいわゆる公道みたいなところなんだ。
今のところ中継地点が6つ。そこを目指しつつ進む感じだけど、充分な広さがあるかどうかはわからない」
「へぇ~、じゃ、行こっ」
「ちょ、ちょっと」
飛びながら入っていくと、整備された道が続いている。
照明も少し点いていて先が全く見えないわけでもなかったが、足元は若干見えづらく、地下水のせいで所々ぬかるんでいる。
「シアン、あんまり離れないでよ」
「分かってるよ。サイこそ、恐くて逃げ出すなよ」
「そんなことしないよ!」
「うふふふふ」
冗談の混ざった会話でこの何もない未知なる道を少しでも楽に進んで行きたい。
シアンは気を遣ってほしくないからって少し考えていたが、そう考えれば考えるほど気楽ではいられなくなった。
入り口付近だから危険な奴もでないし、そして何よりも娯楽道具なんて持ってきてないからつまらない。そして少し寒い・・・。
「っ!」
何かに感づいたのか、足を止めるサイ。
「え、何?」
「何かいるよ、気をつけて」
と電導剣を取り出し、構えた。
「わ、分かった」
それを見て動揺しながらも剣を出した。
「ちょ、ちょっと」
そこに現れたのは「案の定」だった。
しかし、
「サイ、こんなに大きいの!?」
「いや、僕も、予想外だよ」
目の前に現れたスローターは、よく見るサソリの様な容姿でかなりでかい。
絵で見るよりも迫力があり、こんな狭い空間だったから足が震えてしまい今すぐにでも逃げ出したいと思った。
「や、やるしかない!」
サイは、剣の柄を強く握り電気を放電させた。
相手は高電圧の効果で、動けなくなっていたがまだ生きているようだった。
「シアン、燃やすんだ!」
「う、うん!」
シアンも剣の柄を強く握り、スローターを刺した。
1000℃にまで達する為、すぐに燃えて蒸発した。
「た、倒した・・・」
「ふぅ~」
二人はとりあえず、戦法を確認しあって先へ進んだ。
しばらく進んだが、何匹か出てきた。
恐怖に耐えながらなんとか進んで行く彼らだったが、動物の不都合には耐え兼ねないようだ。
「・・・・・・」
「シアン?」
「・・・・・・」
俯いて何も言わない。
「どうしたの、寒い?」
「え、あ、いや・・・」
少し顔も赤く、体が震えているのが分かった。
「あの・・・」
「何?」
「と、・・・・れ」
「無理しなくていいよ、シアン」
「トイレ、行きたくなっちゃったんだけど・・・」
「あ・・・」
サイは、あぁ確かに、と思ったが、もう遅かった。
「あ、あのさ」
「うん」
「な、何も持ってきてないんだ」
「へ?」
「だから、その、トイレの代用を」
「それって、そこらへんでしろって言うの!?」
「ご、ごめん・・・」
サイは自分のことしか考えていなかったため、そういった物は持ってきていなかったが、ある疑問に気づいた。
「シアン、自分で持ってきてないの?」
「う・・・」
「はぁ、楽がしたいからって何でも僕に頼らないでよ」
「う、うるさいわねっ」
シアンのいつもの癖が出たところで、さてどうしようかという本題に入った。
このほぼ一本道の狭い空間、トイレが無い、中継地点までの距離は・・・。
「最初の中継地点まであと4kmなんだけど・・・」
シアンは計算力がちょっと並外れているので、4km=何分歩くのかを今までのデータを元に計算した。
「到底、ムリ」
これが結果だった。
「後ろ向いてるから、その端っこで」
「ムリ!」
「だって、4kmの計算結果がムリなんでしょ」
「だって、ムリでしょ」
「果てるよりはいいでしょ」
「だって・・・」
「だって?」
「におい///」
予想外の答えだったが、ある意味どうでも良い答えだった。
ここには二人しかいなかったから、サイがよければ良いだろうという結論に達し、
結局端っこにすることになった。
時は16時。時計なんて働かないメトロだが、温度変化と歩いてきた距離で大体計算できる。
博士に貰った武器に慣れつつ着々と第一中継地点へと近づいていった。
今頃地上では、なんて光の差さない上が恋しくもなってくるが、ずっとそうでは居れない。
国が全然進まないからというのを理由に、有志で入ってきたわけだし、世界の未来が掛かっているわけだから妥協なんてできやしなかった。「まだ16歳なのに」。そういう変な心配も早く忘れた頃、前方に立て看板が見えた。