僕の決意
西暦2560年。 5月16日。
僕はいつも通り、学校へ向かった。
ネオンの光に導かれて僕は歩いた。
ずっと、夜―そう、太陽も月も僕らの居場所を示すことができないんだ。
あの日からずっと、はるか天空からの光はない。
そしてまた風も・・・。
そんな考え事をしていると後ろから誰かが駆けて来た。
「サイ、おはよっ」
「おはよう、シアン」
僕はいつも通り幼い挨拶をした。
彼女は、同級生のシアン。僕と同じ地学研究生だけど、彼女は深海について研究している。
因みに僕は、地底分野。陰湿なイメージがあるからよくイジられるけど。
「ねぇ、サイ。 最近、停電が多くない?」
「あぁ、そうだね。」
「もうすぐ死ぬのかな?」
彼女はとても不安そうだった。
太陽が完全に輝く星でなくなる日が近いのかもしれないのだ。
世界が真っ暗になってしまうことを考えると恐しい。
「大丈夫だよシアン。 たとえ、光が届かなくなってもこの町の明かりは消えないよ」
「うん」
彼は彼女に少しでも安心させたくてこうやって優しい言葉をかける。
しかし、それはそれだけの価値しかなく、近いうちにボロボロと崩れていくはずである。
この時代、発電技術が発達しているため、太陽光がなくてもあまり支障は無い。
制御室に人が一人でもいれば動いている。
「じゃぁまたね、サイ」
「うん、頑張ってね」
学校に着くと二人はそれぞれの研究室へ向かった。
「確か今日はウルオス博士と話があるんだっけ・・・」
彼に地学を教えているジランド・ウルオス博士の言葉を思い出した。
普段から博士とは仲がよく、放課になるとシアンと三人で毎日のように話をしている。
学校といっても職員室があって教室があってという感じではなく、彼の研究室を増築してできた
部屋を使って研究している。
決して広くは無く、生徒は20人もいない。
玄関へ入るとすぐに受付があって、すぐウルオス博士の研究室、その奥に生徒らの部屋がある。
「失礼します」
「待っていたよ」
扉を開けると、すでに待ち構えていた。
そして同時にコーヒーの匂いがしてきて、慣れてくると土の匂いがしてきた。
彼はあまり嫌な顔をしないように席に着いた。
「さて、話があるんだよね」
「はい」
「じゃぁ、話してくれ」
「唐突な話ですが僕を」
目を上にやると先生の手が「待て」と言っている。
この動きは今までもよくあったが、サイオンは自制した。
ココで話を続けたら、ということをフィードバックしてみればもう子供じゃない。大人でもないけど。
「まぁ、待ちなさいサイオン君。君の言いたいことは分かっている。だが、いくら頭が良くても、いくら熱心であっても、あの場所に連れて行くのはできない」
サイオンはここで反論すべきか迷った。
もう少し意見を聞いてから切り出そうか。
このタイミング次第で自分のアピールの効果がどれだけ反映してくるかは分かっていたが、どうだろうか、それ以上は無知だ。
「私が許可を出してもね、同行者が嫌がるよ。 邪魔だ、って言って結局置いていくことになってしまうかもしれない」
「シアンと、シアンと一緒じゃダメですか!」
彼は身を乗り出して強く言った。
だが、引き下がれない、緊張して動かない。
ウルオス博士は彼の目をじっと見つめてこう言った。
「はぁ・・・なら一つきわどい質問をする。 いつでも死ぬ覚悟はあるか」
「はい、たとえシアンを失うことになっても、先生を失っても、誰もいなくなっても、死ぬ覚悟はあります」
彼は真剣な眼差しで本当の思いを語った。
いや、語ってしまった。
「シアンを呼んできてくれ」
「はい」
博士は助手に、シアンを呼ぶように言った。
しばらくして、入ってきた。
「なんでしょうか」
「彼が君と手を組んで、メトロへ足を運びたいといっているのだが、どうする?」
彼女はアゴに手を当てて少し考えた。
サイオンは一か八かで言ったというのもあって、また、無責任なことを言ってしまって
申し訳ないと思っている。
果たして彼女の口からどんな言葉が飛び出すのか、あまり期待はしていなかったが、
期待をしていないわけではなかった。
「分かりました」
えっ、と思わず言い出しそうになったが口をあわててふさいだ。つもりだった。
「えっ!?」
「ふふっ」
シアンはおかしくて笑った。
「いいのか?」
「はい」
また驚くことにウルオス博士の質問にも笑顔で答えたのだ。
「よろしくね、サイ」
「え、あ、うん」
シアンは軽い握手をして、先生のほうを向いてこう言った。
「先生、私、頑張ります」
「それはいいんだが、手続きが通るか分からない」
「そうなんですよね…」
博士もサイオンもどうしようもなさそうに俯いた。
するとそれを見たシアンが、
「なら、二人だけで行きます」
「な、何を言っているんだ! ふざけてるのか」
「本気です! 本気です、先生」
「ダメだ、それだけは絶対に許さん」
子供だけで行かせるなんて、彼にとってはある意味犯罪行為だったから
その意思は何とかしてでもやめさせたいと強く怒った。
「先生」
「なんだサイオン、お前もか」
「いえ。 国家の人たちはいつになっても動いてくれません。しかも、専門家たちは早め早めがいいといって彼らは彼らで動きません。 だったら、誰がやるんですか! ほかの国の誰かがやってくれるんですか!でも、誰かに頼っていちゃ絶対に、本当の光は現れないと僕は、僕は思っています。 だから、お願いします! 先生も、協力してください!」
サイオンは総てをぶつけた。
もうどうにもなっていい。このまま「先生に反抗したので停学です」、そんな結末でも良かった。
でも、せめて、この思いは伝わってほしかった。
「わかった。 君たち二人をこの研究所から追い出す。 そうすれば一般市民だ。 自由に行き来できる」
二人はこれを使命だと受け止めて、その日から研究所から姿を消した