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MAGIN ―アゼルの魔導士達―  作者: カシミア
終幕 魔導士の帰還
48/51

11-01 魔導士の隠れ処

   ―アゼル地方 アゼル魔導学院の城砦―


 次の日。


 朝霧の立ち込める修練生宿泊棟にアイシャが姿を現した。待ち合わせをしていた修練生たちは既に集まっているようだ。いつもの五人が制服姿で元気よく走ってきた。


「お早うございます、アイシャさん」

「みんな揃ってるな。じゃあ行こうか」

「お! ということは、場所が決まったんですか?」

「ああ、なんとかな」

「さっすがぁ!」「ヒャッホーイ」「やったね!」


 うきうき気分の子どもたちとは対照的にアイシャはどことなく浮かない顔だ。昨日の調子をまだ引きずっているとみえる。


「案内する。みんなついてこい」

「はーい」

 一行はアイシャを先頭に歩き出した。

「なんだか元気ないですね、アイシャさん」

 普段と違うアイシャの微妙な変化に気付いてカイトがさりげなく口にした。

「そりゃそーだよ、いきなりとんでもない配置替えくらって給料下げられた上に、俺たち五人を抱えることになったんだぜ。師匠は大変だぜ……お前らもちっとは気をつかえよ」

 黒猫ティノがすかさずフォローする。やっぱり弟子は師匠に同情的だ。


「ティノ……、ありがとうな。とほほ、あたしの気持ちをわかってくれるのはやっぱお前だけだよ。すりすりしていい?」

「断固ことわる!」

「ちぇーっ、この薄情者!」

「…………」ソルフィスは黙って黒猫をアイシャの肩にそっと乗せてあげた。



     * * *



 昨日、学院長リノーとの秘密の会議で、ソルフィスとシャナトリアは砂漠の魔獣討伐での働きに対する見返りについて次のような説明をうけた。



『姉妹の要望は受け入れるが、まだ子どもである修練生が実戦に加わるというのは学院として容認することができない。そこで現行制度に極力手を加えずに異例的な手段をとる』



 その詳細はこうだ。


 まず魔導師長から、〈魔獣討伐専門の別働隊〉を試験的に組織するとの宣言があった。悪質な魔獣を捜索して退治するという任務を帯びた部隊だ。

 哨戒と撃退という防御一辺倒なこれまでの性質と比べると、ずいぶんと攻撃的で積極的な部隊には聞こえるが、配属される正規魔導士はなんとたったの一名。


 もうお分かりだろうが、アイシャである。

 アイシャは城衛(しろもり)の任から解かれ、この別働隊に異動となったのだ。このねらいはもちろん、彼女の下にソルフィスとシャナトリアを付かせるためである。今後チームとして円滑に働かせるために、普段から姉妹と親しんでいるアイシャが相応(ふさわ)しかろうという人選だった。


 正規魔導士がたった一人だけというのも理由がある。人が足りないからだ。実に明快。

 しかも給金が定額報酬から成果報酬に変わった。魔獣が倒せなければ減給である。これはアイシャにとって晴天の霹靂(へきれき)であった。

 上司の身勝手な決定にアイシャはいろいろと食い下がったが抵抗むなしく、

「まー、かわいいあいつらのために一肌ぬいでくれい、ガハハ」

 という魔導師長の豪放なコメントに頭痛まじりのため息しか出てこなかった。



「あたしが一番呆れたのは、人も金も出さねーってことだ」

 アイシャは鼻息まじりにこうもらす。

 驚いたことにこの新生部隊は〝非正規〟な位置づけとされていた。非正規なので、学院からは予算を出せない、出さない、ということで、アイシャはここに一番噛みついた。


 しかし、正規部隊の下にソルフィスたち修練生を所属させると、対外的に都合が悪い。

 そこで学院は、アイシャを筆頭とした非正規部隊を試験的に組織し、学院が〝雇う〟という体裁をとった。これがこの話の肝心なところだ。まるで傭兵である。


 アイシャは正規魔導士でありながら半分は雇われの魔導士という、なんとも(いびつ)な肩書きになった。だが傭兵という立場なら、アイシャは学院に気兼ねせず誰を雇ってもよいのだ。

 そこでアイシャは、ソルフィスとシャナトリアをメンバーとして雇う。さらにティノ、カイト、そしてヴィヴィアンも参加する。


 学院がアイシャを雇い、アイシャがさらにソルフィスたちを雇うという、奇妙な構図が完成した。この仕組み作りのために〈修練生の就業の禁止〉というルールが撤廃された。修練生たちは学院が認可するところなら余暇時間に働いてもよいことになったのである。規則の変更があったのはここだけだ。



「面白い、実に面白そうじゃないの!」

 昨日の会議で、真っ先にこの話に食いついたのはヴィヴィアンだった。

「雇われ部隊? 上等じゃないの。成果を出すほど報酬が出るのよ! やりましょうよ」

「だね。すごく面白そうだ。僕も参加させてよ、できることならなんでも協力する」

「ふふふ、言われなくてもお前たちはすでに頭数に入ってるのだよ。な、ソル?」

 ソルフィスは会心の笑みでうなずいた。


 学院長リノーが用意してくれた恩賞とは、この仕組みづくりだったのだ。言わば、開業の権利だけが与えられたようなもので、それ以外の援助については一切明示されなかった。

 資金援助無しとなると、自分たちで活動費用を捻出しなければならない。だが、それで何の問題もない。働く権利が与えられた以上、あとは自分たちで稼げばよいのだ。


 自分の頭で考え、自分の思うままに動き、仕事を遂行できる。なんと自由なことか。


 ソルフィス・シャナトリアにとってこの提案はこの上なく魅力的に思われた。

「どうかしら、ソルフィス、シャナトリア? それでもいいなら、やってみる?」


 リノーの問いに対する答えはもちろん決まっていた。



     * * *



「それで、どこに決まったの? あたしたちの要塞は!」

「事務室だろ、事務室」

 からんでくるヴィヴィアンに構わず、アイシャは歩き続ける。その足は学院の外に向いているようだ。子どもたちは、おや? と思った。


「お察しのとおり、学院内はどこもダメだったよ。お前らに使わせる部屋はねえんだとさ」

「錬金資材室もダメだった?」

「さすがに昨日の今日でそれはダメでしょ」


 発足したばかりのアイシャのチームだったが、その拠点となる場所を求めて昨日のうちにアイシャは学院内を走り回っていた。しかし、現時点では内部でも機密扱いで書類上存在しないことになっている部隊だし、なにより非正規組織なので事情の説明は困難を極めた。ただでさえこういった事務的なやり取りが苦手なアイシャの交渉がうまくいくはずも無く……


(ああもう、キレた! こんなとこ誰が使ってやるか!)


 早々に忍耐の限界にきたアイシャはさっさと方針転換することにしたのだった。


「大丈夫だ、今回はあたし独自のコネを使う」

「なんですと? 師匠コネなんか持ってんの?」

「むふふん、驚いたか。まぁ楽しみにしてなって」


 一行は城門を出て坂道を下り商業地区までやって来た。城下に並ぶ店舗はほとんどが学院関係者のためのものだ。

 歩きながらソルフィスが話しかけた。

「ねぇ、カイト、ビビ。わたしのせいで錬金術クラブ無くなっちゃったみたいで、ごめんね。まさかあんなことになるとは思わなかったんだ」

「ソルが謝ることないよ、あれは僕たちの身から出たサビなんだから」

「そうよ、そう! お姉さまが気にすることないわ。あれはあたしたちが悪かったの。

 あれはその、ちょっとお金に目が眩んじゃったのよね。骨身に沁みたわ……」

 とはいうものの、今でもヴィヴィアンの行動原理はお金のような気がしてならない。


「あの部屋が使えなくなったのはちょっと残念だけどな。でも、どうせ俺たち三人しか居なかったクラブなんざ、最初からあってもなくても同じもんよ」

「ティノ、あんたやっぱり薄情者ね。たった三人でも今までとっても楽しかったじゃない」

 ヴィヴィアンがちょっと泣きそうなふくれっ面で黒猫に抗議した。彼女にとって錬金術クラブは思い入れ深いところだったのだろう。

「たった三人だったのが今日からは師匠も入れて六人だぜ。倍だ、倍。よかったじゃん。図らずも願いが叶ったな、ビビ」

「う、うん」


 ヴィヴィアンは隣にソルフィスとシャナトリアが居ることが嬉しかった。

 前から姉妹を錬金術クラブに勧誘しては断られていたが、今度は逆に自分が勧誘を受けることになったのだ。これからも悪霊・魔獣退治のために力を貸してくれ、という憧れのソルフィスからの熱烈なお願いだった。ヴィヴィアンはのぼせて舞い上がってしまい、ろれつの回らない状態で快諾したのだった。


「これからは心入れ替えて頑張るわ。お仕事も修行も、お姉さまと一緒なら頑張れる!」

「あはは、一緒に頑張ろうね、ビビ」

 にこやかに応えるソルフィスに嬉しくなって抱きつくヴィヴィアンを、すぐうしろのシャナトリアが面白くなさそうなじっとりとした目で眺めていた。


 アゼル城門から目抜き通りに沿って街並を下って行き、商業地区のはずれで路地に入った。このあたりも宿屋、武具屋、仕立て屋など、いろんな商店が並んでいる。

 アイシャが足を止めた。


「着いた。ここだ」


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